NEW MUSIC TROLL - MAR '24

やります! 

Adrianne Lenker - Bright Future
Lenkerの歌を聴いていると救われたような気持ちになることがある。あるいは、この音楽には救われた(この先救われる)たくさんの人たちを思う。本作のオープニングに置かれた"Real House"はまさしくそのような歌だった。Nick Hakimの抑制的な美しいピアノの音に乗せてLenkerは子供時代を回想する。澄んだ空気、夜が流す涙のように輝く星、映画が見せる人類の最期、空を飛ぶ夢、愛犬の死と父の涙。ある日の午前中にこの曲を聴いていて、ふとそのような気持ちになったのだった。


Alena Spanger - Fire Escape
バンドTiny Hazardのリード・シンガーだったブルックリンのSSW。特徴的なボーカルが魅力だが、フォーク~シンセ・ポップ~チェンバー・ポップさらにはアンビエント/ニューエイジっぽいテクスチャーを混ぜ込んだアレンジも面白い。ケイト・ブッシュっぽいなと思ったら、10年前にケイト・ブッシュのトリビュート『Running Up That Hill: Kate Bush Covers for Reproductive Rights』に参加していて納得した。



Anysia Kym - Truest
Jadaseaとのジョイント・アルバム『Pressure Sensitive』を昨年紹介したブルックリンのプロデューサーAnysia Kymの新作。今作は初めて彼女自身のボーカルが全面フィーチャーされ、Liv.e的なオルタナティブR&Bシンガーとしての才能を発揮している。なんでもできちゃうんだな。


Arushi Jain - Delight
@modularprincessことインド生まれのシンセシスト。Leavingからのデビューとなった前作『Under the Lilac Sky』と同様に故郷の伝統音楽であるラーガとニューエイジ/ドローンを基本に、今作では生の管弦楽器やボーカル、さらにクラブ対応もできそうなビートも積極的に導入している。四つ打ちキックが恍惚を喚起する"You Are Irresistible"は完ぺきなエンディングだ。


AyGeeTee & The Actress Pets - About You
ロンドン在住アフリカ・ルーツ(?)のDIYミュージシャンAyGeeTeeことAndrew G ThomsonがKit Recordsからリリースした新作。「ほとんど方法論がない」と自説する掴みどころのない音楽性("hip-hop ambient tropical folk"とタグ付けされている)は、フォークトロニカ、ローファイなヒップホップ・ビート、シンセ・アンビエントなどを横断する。


Basque - Pain Without Hope of Healing
カナダの4人組スクリーモ・バンドの1st。ポスト・ロック~マス・ロック系激情POST HCですね。東京のSkramzレーベル3A RecordsがCD販売中。


Beachers - Off the hook
テープ・レーベルBezirk Tapesのオーナーであり、The QuietusやBandcamp Dailyでコラムを執筆するライターでもあるDaryl Worthingtonのプロジェクト。職場に置いてある電話が発するビープ音のみを用いて作曲された、いわば"オフィス・ミニマル音響"作品。同僚が帰宅した後の他に誰もいないオフィスで密かに鳴っていた電話の音に気付き、その不気味さからインスピレーションを得て制作されたのだという。


BEANS - ZWAARD
映画『アザー・ミュージック』でアザー・ミュージックの従業員として働きながら自分のアルバムを客に押し売りしていたという素敵なエピソードが語られていたベテラン・ラッパーBEANS(ex-Antipop Consortium)の最新ミックステープ。プロデュースは『Multila』がダブテクノ名盤として名高いVladislav DelayことSasu Ripattiが担当。50歳を過ぎた自身の老いをネタにしながら(「生え際が首と握手しようとしている」!)、それでもアグレッシブなフロウとリリック。かっこいい。Bandcampページに歌詞が載っているので軽くでもいいから読んでみてほしい。


bedbug - pack your bags the sun is growing
LAのベッドルーム・ローファイ・プロジェクトbedbugの新作。4月に奇跡の来日ツアーを果たしたYour Arms Are My Cocoon(もちろん観に行った(涙)!)がThe Brave Little Abacusとともにフェイバリットに挙げているように、あるタイプの人間の心には猛烈に食い込む音楽であり、僕はそういうタイプの人間だ。俺はこういう人間だ(©ビッグダディ)。そうだ俺たちみんな初期Modest Mouseが大好きなEMOキッズ (in the bed)だったことを思い出そう。


Bianca Scout - Pattern Damage
マンチェスターのアンビエント・レーベルsfericからダンサー振付師としても活動するBianca Scoutの新作。1分間にわたる音のコラージュ"Intro"を潜り抜けると、ロンドンのレーベルEcstatic(Not Waving, Romance)を連想させるモダン・クラシカル・アンビエントが聴こえてくる。昨年のソロ作品が素晴らしかったMun Sing(Giant Swan)のギターをフィーチャーした次トラック"Midnight"はGrouperや静香を思わせるメランコリーなアンビエント・ポップ。これは私が望んでいるものです。アートワークも◎。


Bill Orcutt Guitar Quartet - Four Guitars Live
2022年にBill Orcuttが発表したソロ・ギター作『Music For Four Guitars』を演奏するために結集した強力ギター・カルテットのライブ・アルバム。Ava Mendoza, Wendy Eisenberg, Shane Parish(昨年度9月編で彼の参加したアルバム『On and Off』を紹介)、これら全員フリージャズ界やエクスペリメンタル・ギター界では名の知れたスペシャリストである。2023年に公開されたTiny Desk Concertでこの4人の演奏を観て心底感動したわけなのだが、同年11月に行われたオランダのフェスLe Guess Who?での演奏が待望の音盤化。最高なので言うことなし。最高なので僕が働いているレコード・ショップの輸入仕入れ担当に仕入れるように要望して無事仕入れたのに、店では誰も買っていきません!東京の音楽オタク、どうした?でも、実験音楽マニアの外国人観光客とは「Orcuttのこれ最高!年ベス!」って盛り上がったので温かい気持ちになりました(実験音楽マニアの外国人観光客と話すのはとても楽しい)。


Carme Lopez - Quintela
全国のバグパイプ・ドローン・ファンの皆様、お待たせしました!Éliane RadigueやPauline Oliverosといった偉大な先人の影響や、現代奏法にもアプローチしたバグパイプ・ドローンの新たな傑作です。Carme Lópezはスペイン・ガリシアの伝統音楽の演奏家であり研究者。ガリシア地方がケルト文化圏であるということも本作をきっかけに初めて知る。


Chastity Belt - Live Laugh Love
昨年10月編で予告した我らがChazzyの5年ぶり新作。2010年に大学の同級生4人で結成したこのバンドは、シアトルで"Pussy, Weed, Beer"と騒いだり、"Cool Slut"(このMVが本当に大好き)を名乗ったりしてriot grrrl風味のスラッカー・ロックを(お遊びの延長で)鳴らしていた。それから10年経った今では4人は別々の街に住んでいる。real life doesn’t feel real anymore ("Hollow"), stare into to the mirror and meet my shame ("Kool-Aid"), why does everything normal feel so bad ("Blue") 作品を経るごとに内省的になっていくChastity Beltの音楽は、まるで成長痛のようだ。前作のツアーを終えてからは、全員で集まるのは年に1回か2回だった。本作は2020年からの3年間で行われた3度のセッションの最中にレコーディングされた。メンバー全員が作曲に参加し、ときには楽器を持ち替え、全員でボーカルを取る。"Laugh"でメイン・ボーカリストのJulia Shapiroはこう歌う。"when I lose myself again with the little thoughts in my head, remember that summer we spent living instead. I wanted it to last, but it’s all in my head." 友情が途切れるわけではないけれど、あの頃のことが懐かしい…。実際には2021年の夏のことを歌っているそうだけど、昨年リイシューされたデビュー作『No Regrets』の10周年記念盤を聴いたあとでは、このラインはバンドが経てきた10年間と重なってノスタルジックに響くだろう。アルバムのタイトルに据えられた"Live, Laugh, Love"という安易で陳腐なスローガン(Viceは嘲笑の対象としてこれを取り上げた)は、逆張り的アイロニーとマジなwanna doを見事に表現していると思う。まあとにもかくにもこの4人が集まったら最高なわけ!以上!


Cindy Lee - Diamond Jubilee
カナダのポストパンクバンドWomenのメイン・ボーカルだったPatrick Flegelは(ステージ上での喧嘩、メンバーの突然死を経た)バンドの解散後、Cindy Leeというドラァグ・クイーンのペルソナを生み出した(残りのメンバーはViet Congを結成、のちにPreoccupationsに改名)。Womenがカルト・バンドだったのと同様に、Cindy Leeも同様に妖しいカルト・アクトだったが、本作がYouTubeとGeoCitiesでリリースされるとRate Your Musicで2024年トップ・アルバムに押し上げられ、批評メディアPitchforkではここ数年の最高スコアを獲得した。予定されていたツアーのチケットはみるみるうちに完売。今回のトータル2時間にも及ぶ長大な新作はSpotifyをはじめとするストリーミング・プラットフォームでは提供されておらず(上記のGeoCities上でFlegelはSpotifyのCEOを"A THIEF AND A WAR PIG"と罵っている)、この反資本主義に基づいた成功は今年のアンダーグラウンド・シーン最大のトピックになっている。しかし、Flegelはツアーの日程を中途ですべてキャンセルした。R&BシンガーのYaya Beyは、Pitchforkによるインタビュー上で、Pitchforkが彼女のアルバムにBest New Musicを与えたあとで多くの白人インセル男性がショーに来るようになり、彼らは彼女がステージ上で表明する政治的意見に激怒し不満をぶつけてきた、と語っている。Flegelがツアーをキャンセルした理由は明かされていないが、本作の予想以上の広まりが困惑を引き起こしていることも想像には難くないだろう。そして、ここまで私が音楽そのものに関する話を全くしていないことにお気づきか?大層なことは思い付かないが、Flegelの古き良きヴィンテージ・ポップ(モータウン or フィル・スペクター)調のポップ・サイケデリア的アプローチは、たとえば去年のDamien Juradoのアルバムや(偶然だがJuradoには“Cindy Lee”というタイトルの楽曲がある)、先日リリースされたJessica Prattの新作にも通じるものがあり、こうした過去志向的な表現が目立つのは面白いと感じている(Lana Del Reyがヘッドライナーとして出演した今年のコーチェラでThe Caretakerの音楽を装置として使用したことも思い出そう)。 


DJ Anderson do Paraíso - Queridão
ブラジリアン・ファンク/バイレファンキの文脈から2015年頃に発生した"ファンク・ミネイロ"という新たなシーンにおいて頭角を現したブラジルのDJ/プロデューサー。Crack Magazineがこのファンク・ミネイロを紹介した「Deeper and Deeper: Funk Mineiro」という記事を公開しているので詳しくはそちらを参照していただきたいが、リオ・デ・ジャネイロから北に250マイル以上離れた場所にあるブラジル初の計画都市であるベロ・オリゾンテの「ファヴェーラ(ブラジルでスラム・貧民街を意味する)」が発祥の地とされている。「ドラッグとお祭り騒ぎを讃えるヴァース」と「よりミニマルでアンビエントなアレンジとリヴァーブ」が特徴の「リズムを削ぎ落した」、「よりスローで催眠的な」「伝統的ブラジリアン・ファンクの新たな解釈」。嚆矢となった楽曲はDJ SwatとDJ Vinicin do Concórdiaの"Sacanagem Toda Hora"やMC Denninの"Viciei Nessa Garota"。2012年ごろから作曲を始めたParaísoもこうしたシーンの形成に大きく影響を与えたうちの一人である。今年いちばん興奮したアルバムのうちのひとつです!


Drum Wife - Drum Wife
ポストパンク・バンドCowtownでも活動するリーズの実験ミュージシャンYakkida!ことHilary KnottとMenace BeachのボーカリストLiza Violetによる即興ノイズ・ロック・デュオの初作品。UKのカセット・レーベルLiquid Libraryとメキシコのカセット・レーベルSilencio EPIの共同リリース。関係ないけどDrum Wifeって聴くとマダムロスというバンドのDrum & Vo. Tamakiさんが頭をよぎる。井口奈巳監督の最新作『左手に気をつけろ』に出演しているそうです(そういえば去年高円寺ドムスタでマダムロスを観たときに井口監督が来ていた!)。


Duncan Blachford - Ill-Prepared Piano
"Ill-Prepared Piano"というタイトル通り、オーストラリアはソーンベリーにある工業地帯のとある倉庫の前の路上に捨てられていた朽ちかけのピアノを使って録音された作品。風雨にさらされてボロボロのピアノは演奏の最中にも壊れていき、外れた鍵盤がカタカタと音を立て始め、その不協和音は周囲の環境音(工場の作業音、従業員の話し声、鳥の鳴き声、etc...)と混ざり合う。5曲目の"After Hours"は、そのピアノが撤去されたあとに演奏が行われた場所で録音された11分のフィールド・レコーディングで、幻想から醒めたあとのような素晴らしいエピローグになっている。傑作!


Earth Flower - Earth Flower
昨年の8月編でアルバム『Alive People』を紹介したシンガーソングライターRuth Garbusと皆さんご存じSam Gendel、彼のコラボレーターであるパーカッショニストPhilippe Melansonの3人によるユニット。Gendelはサックスではなくシンセで参加。やはりGarbusの歌声が素晴らしいエクスペリメンタル・ポップ。


Feldman/Wolff/Eisenberg - The Possibility of a New Work for Electric Guitar
サンフランシスコの現代音楽レーベルOther Mindsがリリースした12インチEP。Side Aには、モートン・フェルドマンが作曲した"The Possibility of a New Work for Electric Guitar"のクリスチャン・ウォルフによる1966年の演奏と、Bill Orcutt Guitar Quartetの一員でもあるギタリストWendy Eisenbergによる2022年の演奏を収録。Side Bにはウォルフがフェルドマンへのトリビュートとして作曲した"Another Possibility"のEisenbergによる演奏が収録されている。


Folklore Tapes - Ceremonial County Series Vol​.​I - West Sussex | Cheshire/Ceremonial County Series Vol​.​II - Suffolk | Dorset
民俗学研究の視点からイギリスの伝説・神話・オカルトを再解釈するFolklore Tapesの新プロジェクト"Ceremonial County Series"が始動。イングランドに存在する48の郡それぞれに伝わる伝説をモチーフに、48組のアーティストが楽曲を制作、24ヶ月に渡ってカセットテープとしてリリースされていくものである。かつて「アメリカ50州それぞれのアルバムを作る」とぶち上げたスフィアン・スティーヴンスという珍奇な男がいたが(ミシガンとイリノイの2作でストップ)、こちらはしっかり48曲発表されるだろう!昨年末にアルバム『tollard』を紹介して年間ベストにも選んだmemotoneがVol​.​IIでドーセット州を担当しているが、もう片面のArianne Churchmanによるサフォークも素晴らしいです。現時点でVol. IVまでリリースされているので、気になる人はレーベルのBandcampページをフォローしよう。


Francisco Meirino - The Mute Fortress
おなじみスイスのサウンド・アーティストFrancisco Meirinoの最新作は左から右、上から下、近くから遠く、ステレオ空間を動き回るノイズ音響実験。もちろんヘッドフォン推奨ですが、1万円チョイで買ったBluetoothのモニタースピーカーで聴いても楽しいです。


Heavee - Unleash
シカゴのフットワークDJ/プロデューサー。Hyperdubからは初となる2作目のフルレングス。リズムの追求とサウンド・コラージュ的な遊びとメロディックなシンセの折衷が◎。中村卓也の渋いトランペットをフィーチャーしたエンディング"Smoke Break"とか至福。


Jasmine Wood - Piano Reverb
アイルランドのピアニストJasmine WoodがAD93からリリースしたデビュー作。ダブリンの廃教会を巡るうちにその空間に魅了され、そこへアンティークのグランド・ピアノを持ち込んで録音された。その際、Woodは鍵盤を弾いた時のアタック音をオミットして空間に漂う不安定な残響音だけをキャプチャした。そのリヴァーブは編集・再構成され、ときに別の楽器やフィールド・レコーディングも混ぜ込みながらドローン・アンビエントとして完成させられた。まずもってコンセプトの勝利だし、ジャケットに映るWoodの出で立ちも何とも言えず良いではないですか。


Kelby Clark / Hal Lambert & Mitchell Mobley - Kelby Clark / Hal Lambert & Mitchell Mobley
サウスジョージアのバンジョー弾きKelby Clarkとバトン・ルージュのギター&ドラム・デュオHal Lambert & Mitchell Mobleyのスプリット・カセット。27分半におよぶClarkのメディテーティヴなサイケデリック・アメリカーナも良いが、Lambert & Mobleyがしょっぱなニュージーランドのノイズ・ロック・レジェンドThe Dead Cのカバーから始めるのでオレ大喜び。よくよく考えればLambertが運営する自主レーベルのTentative Powerという名もThe Dead Cからのいただきであったのだ。ちなみにThe Dead Cの代表作『Harsh 70's Reality』(タイトルがかっこよすぎる)が近々ひさびさにヴァイナル・リプレスされるので買い逃していた方は確実に入手してくれ!


Kevin - Laundry
ブルックリンのアンビエント作家Ben BondyとWest MineralのレーベルメイトでもあるMister Water Wetによる新ユニット。Bondyが昨年来k2dj名義で発展させてきたボーカル志向が、従来のアンビエントなテクスチャーも用いながらclaire rousayの最新作とも通じるようなスロウなベッドルーム・ローファイ・フォークに結実した魅惑的なアルバムになっている。


Lamplight - Lamplight
ブルックリンのシンガーソングライターIan Hatcher-Williamsによるソロ・プロジェクトのセルフ・タイトル1st。ニューヨークのインディー・フォーク・バンドLightning Bugのメンバーがプロデュース、エンジニアリングでバックアップする。


Laughing Clowns - Law of Nature (2024 Remaster)
オーストラリアのパンク・レジェンドThe Saintsの初代ギタリストEd Kuepperが脱退後の1979年に結成したLaughing Clownsの1984年2ndが再発。サックスやエレピを導入したプログレッシヴなポストパンクでKuepperのロバート・スミスっぽいボーカルも含めてユニークだが、後に前衛ジャズ・グループThe Necksを結成することになるピアニストChris Abrahamsが参加しているのも見逃せない。


(Liv).e - PAST FUTUR​.​e
mejiwahnがプロデュースしたデビュー作『Couldn't Wait To Tell You​.​.​.』でネオソウル・シンガーとしてデビューし、昨年の『Girl In The Half Pearl』ではプロデューサーとしてもアヴァンギャルドな才能を印象付けたが、独力で作り上げた本作では80年代ニューウェーブ/シンセウェーブやってて驚愕。今年1月にキム・ゴードンへのトリビュートとして公開していたSonic Youth "Kissability"のカバーも素晴らしかったんだけど、ゴードンへのリスペクトは本作のボーカル・スタイルにも十分見てとれる。いや前々から好きなシンガーだったが、こんなヤバい奴だとは思ってなかった。最高。一方のキム・ゴードンは新作『The Collective』でヒップホップやってるのもめちゃクールい。


Lolina - Unrecognisable
もはや元Hype Williamsという注釈も必要ないだろう、Inga CopelandことAlina Astrovaによる現行プロジェクトLolinaの最新作が自身のレーベルRelaxinから。本作は二人のレジスタンスが主人公のディストピア物語『Unrecognisable』の第3章と銘打たれている。第1章はサウンド付きグラフィックノベルとして公開され、第2章はライブで即興演奏された。複雑化するDAW時代に逆らうように、Astrovaは本作のほぼ全てを1987年製のサンプリング・キーボードCASIO SK-200で作曲(1.62秒のサンプリング時間、20のプリセット・ビート、49の鍵盤)。彼女にとってこの制約はむしろクリエイティビティを加速させる。CASIOのサンプリング・キーボード欲しいかも!


Low Altitude - Boat
ウェールズ在住のミュージシャンBruce Magillによるアンビエント・プロジェクト。00年代にSuperqueensというユニットでの活動を終えて以来音楽制作からは離れていたというが、コロナ禍をきっかけにして作曲を再開。2022年のアルバム『Waves』と同様、本作もフィールド・レコーディングを用いた水生の穏やかなシンセ・アンビエントです。


mary sue - Voice Memos From A Winter In China
本ブログではおなじみ!シンガポールのラッパー/プロデューサー/フォトグラファーMary Sueの新作。タイトルが表すように中国で行ったツアーにインスピレーションを受けて制作された。"Expired Toffee 过期的奶糖"では北京語でのラップを披露。本編後にはiPhoneで録音した深圳でのライブ音源も収録されている。収録曲"Sortaaa"のMVには同じくシンガポール出身のプロデューサーfailtrylagiが出演しているのだが、そこで彼が着ているのがSlauson Malone 1のロンT。[sLUms]周辺を嚆矢とする米国アンダーグラウンドやバーミンガムのTony Bontanaとの交流などから常に影響を受けながら("Winters Love"ではKing Kruleのネームドロップも。)、最高を更新し続けている。



MIKE & Tony Seltzer - Pinball
そのMary Sueに大きな影響を与えたMIKEは新作でメインストリームのトラップ・ビートに挑戦している。プロデューサーのTony SeltzerはMIKEのブレイクスルー作『MAY GOD BLESS YOUR HUSTLE』でも2曲でビートを提供しているが、昨年の大作『Burning Desire』から今作へのシフトチェンジはたしかにちょっとしたサプライズだ。


Moor Mother - The Great Bailout
昨年フリージャズ・ポエトリー・グループIrreversible Entanglementsとして『Protect Your Light』という傑作をリリースしたが、この名義では2022年の『Jazz Code』以来のアルバム。ここで彼女は、1833年にイギリスにおいて奴隷制が廃止された際に元奴隷主に対して20000000ポンドという大金が"保証金"として支払われた歴史的事実に注目し、欧州の植民地主義のトラウマを検証している。今回もゲストの顔ぶれが非常に面白い。まず昨年アルバム『Oh Me Oh My』でコラボレートしたLonnie Hollyと再び共演。そしてオハイオのクィア・シンガーKyle Kiddをフックアップ。さらにInternational Anthemの前衛ジャズ・アーティストAngel Bat Dawid。こうしたゴスペルやジャズに近しいアフロ・フューチャリストのコミュニティと、元Wolf EyesのAaron Dillowayや元Burning Star CoreのC. Spencer Yeh、イラン出身の兄弟デュオSaint Abdullahといったノイズ/エクスペリメンタル・シーンを結びつける。結果的に本作は彼女のディスコグラフィ上でも最もダークでアブストラクトなアルバムになっている。


more eaze, pardo & glass - paris paris, texas texas
claire rousayのマブダチでOrange MilkやLeaving、Ecstaticといった実験レーベルを練り歩くMari Mauriceことmore eazeとイタリアの実験レーベルOOH-soundsのボスPardoことMichele Pauli、フランスのエレクトロニック・デュオGlassのコラボレーション作。まずGlassの片割れHugo Lamyの即興ギターとPardoのリアルタイム・エフェクトによるセッションが出発点となり、OOHが提唱するところの"soft noise"なギターアルバムとして本作の原型が制作される。そこへ追加ボーカルを打診されたMauriceは、トレードマークのオートチューン・ボーカルだけではなく買ったばかりのペダル・スティールの音色をぶっこんで二人を驚かせたという。結果的にヴェンダースの名作『パリ、テキサス』を参照した、メランコリックなアンビエント・アメリカーナの傑作が生まれたのだった。大変オススメです!


NAH - TOTALLY RECALLED
ラッパーWikiとの仕事が馴染み深いフィラデルフィアのプロデューサー兼ドラマーMike Kuun a.k.a. NAHの新作。切り刻んだボーカルサンプルとフットワーク風のプログラミング・ビート、そして生の人力ドラムを組み合わせた怒涛の実験エレクトロニック・アルバム。先行シングル"I Don't Think This Will Ever Be Over"の本人出演によるMVもビザールで素晴らしい。


Oisin Leech - Cold Sea
フォーク・デュオThe Lost Brothersとして活動してきたアイルランドのミュージシャンOisin Leechの初ソロ作。米SSW/ギタリストSteve Gunnが全面プロデュースし、長年ボブ・ディランのツアー・バンドの一員として活躍するベーシストTony Garnierも参加する。ときにシンセサイザーによるアンビエントなテクスチャーも用いながら、Nick Drakeも彷彿とさせる親密なアイリッシュ・フォークを聴かせてくれる。ちなみにLeechという男、Arctic Monkeysが2006年に発表したシングル『Leave Before the Lights Come On』のB面に収録されているバーバラ・ルイス"Baby I'm Yours"のカバーでアレックス・ターナーとデュエットしている。


Pan American & Kramer - Reverberations of Non-Stop Traffic on Redding Road
Shimmy-discのボスにしてGalaxie 500や初期Low, Half Japanese, Daniel Johnstonを手掛けた名プロデューサーKramer(もちろん彼自身Shockabilly、B.A.L.L., Bongwaterといったバンドで活動し、Buuthole Surfersのベーシストとしてツアーをし、素晴らしいソロ作品を残しているアーティストである)。2022年のソロ作品『Music For Films Edited By Moths』、それに続くLaraajiとのコラボレーション作『Baptismal』と、近年グッドなアンビエントを繰り出していた彼が、今回はMark Nelsonによるポスト・ロック~アンビエント・プロジェクトPan Americanとチームアップ。Nelsonの美しいギターとKramerのアンビエント・ドローンが融合した傑作です。


People Skills - Subalternity Interlude
昨年の7月編で前作『Hum of the Non​-​Engine』を紹介したフィラデルフィアの実験ミュージシャンPeople Skillsの新作。今作では得意の抑鬱的なボーカルは聴かれないが、やはりダウナーでローナー(loner)なアンビエント・ノイズ・ドローンが時間の経過を引き延ばすように1時間持続する。ミニマルなギターはスロウコア~ポスト・ロック的。個人的にはM4"Concrete Aegg"のチープなシンセのメロディーに心掴まれる。永遠にリピートしていたい。「サバルタンのインタールード」というタイトルは、もちろんガザ危機以降改めて注目されるスピヴァクやサイードといった思想家たちによるポスト・コロニアリズムへの言及であり、停戦の願いなのだろう。


Pissed Jeans - Half Divorced
Black Flag, Flipper, Jesus Lizardに連なるスラッジなノイズ・パンク・バンド結成20年目の6作目。2017年の前作『Why Love Now』では、いわゆる"有害な男らしさ"や男性特権とその不安について歌っていたが、今作では主に現代資本主義が呼び起こす怒りと憂鬱を、いつものように身近なモチーフでもってがなりたてている。終わりの見えない借金返済("Sixty-Two Thousand Dollars in Debt")、ジェントリフィケーションや気候危機その他による逃げ場のない世界("Everywhere Is Bad")、ナッジとテクノロジーの不安("Seatbelt Alarm Silencer")、etc...。そうした社会的・政治的な不満・不安をシニカルなユーモアに昇華する彼らの語りのセンスはいつも素晴らしい。特に私が感銘を受けたのは、画期的な反サピオセクシュアル・ソング"Anti-Sapio"です。


PTP - RESIST COLONIAL POWER BY ANY MEANS NECESSARY
GENG PTP a.k.a. KING VISION ULTRAが運営するPTP (Purple Tape Pedigree)のパレスチナ&ハイチ支援コンピレーション。95組のアーティストが参加しており、売上のすべてがgofundmeのUrgent support for medical professionals in GazaとCultural Capital Haitiに50%ずつ寄付される。ガザ危機以後こうした寄付型のコンピレーションはいくつもリリースされていて、もちろん直接寄付できる窓口もあってそういうやり方で黙々と支援している人もたくさんいると思いますが、消費行動が支援に繋がるっていうのはやっぱり気軽。あるいはその反対にイスラエル支援企業に対するBDS運動も消費者として実践できる活動です(→BDS JAPAN)。一方、ハイチでも治安の悪化による人道危機が起きている(ハイチ武装暴力激化 「人が作り出した栄養危機」ユニセフ警鐘 12.5万人の子どもが重度急性栄養不良に瀕す)。ハイチの歴史に関してはハイチの歴史研究の第一人者である浜忠雄さんが昨年出した新書『ハイチ革命の世界史』がすごく面白かったのでオススメだし、ハイチ系アメリカ人ラッパーMach-Hommyがめちゃかこいいので聴くのもよろし。慈善行為に関しては、近年賛否のわかれる"効果的利他主義"あるいは"長期主義"といった観点からの検討に最近興味があるのだが、現代思想の2024年8月号で長期主義特集が組まれているので読もうと思います。社会運動に興味はあるが基本ROM専の僕みたいな人間は黙って勉強するしかない。

その他ガザ支援コンピレーション
・Free Palestine: A Benefit Compilation For The Palestine Children's Relief Fund (Cindy Lee, Homeshake, A. Savage, Julie Doiron, Maria BC, etc)
・Musicians for a Free Palestine (Deerhoof, Downtown Boys, Frankie Cosmos, Shamir, Squirrel Flower, Ted Leo, etc)
・For Palestine (Eli Winter, Mutual Benefit, Told Slant, Wht Bonnie, etc)
・HATETOQUIT - Merciless Accelerating Rhythms - Artists United for a Free Palestine (Little Wings, Mount Eerie, John Andrews & The Yawns, etc)
・NO MORE DEATHS​:​THAWABET (Eyeteeth, JoeJas, Nailbreaker, etc)
・A HOMELAND DENIED: A Compilation for the Palestinian Liberation (Cloud Rat, Thou, Twitching Tongues, Coma Regalia, etc)
・Just Cause Vol. 1 (YATTA, This Is Lorelei, MIZU, Ben Seretan, Lia Kohl, Lucy Liyou, etc)


Pure Shit - Reality Check
No AgeのDean Spuntが運営するPost Present MediumからLAの2人組ジャズ・パンク・バンドPure Shitの新作EP。スラッジなベースのリフとNo Wave-yなフリー系サックスの絡みがたいへんドープである。神出鬼没のPatrick Shiroishiもゲスト参加。


Qontinue - Gathered, By Here
昨年の3月編でデビューミックステープを紹介したトロントのラッパーQontinueの2作目!セルフ・プロデュースによるアブストラクト・ラップ。ボーカル・チョップを多用するR&Bサンプリングはdj blackpowerっぽい。シンガポールのMary Sueもゲスト参加。


Richard Teitelbaum - Asparagus
Oren AmbarchiのBlack Truffleから画期的なリリースが!アメリカのアニメーション作家スーザン・ピットの代表作『アスパラガス』のサウンドトラックが初の作品化。このアニメ自体は2019年のイメージフォーラム・フェスで観たんだが、全然普通にYouTubeで観られます。公開当時はリンチの『イレイザーヘッド』と2本立てでミッドナイトシアターに2年間かかっていたという。悪夢!Richard Teitelbaumはアメリカ生まれの作曲家で、モーグ・シンセサイザーを初めてヨーロッパに持ち込んだとされている。本作では、実際に劇伴として使用されたオリジナル版(Steve Lacy, Steve Potts, George Lewis, 小杉武久が参加)と、その基となったソロでの"European Version"を収録。ビジュアルの印象が強烈すぎてサウンドトラックについては素通りしていたが、改めて聴いてみると音楽もヤバかった。


Roc Marciano - Marciology
昨年プロデューサーとしてJay Worthyとジョイントした『Nothing Bigger Than The Program』は紹介しましたが、NYCアンダーグラウンドのキングMarciのソロ最新作が堂々リリース。AlchemistとAnimossが2曲ずつビートを提供している以外はすべてセルフ・プロデュースで、Larry June,  Flee Lord, Jay WorthyといったMarciをリスペクトする面々がfeat.参加する。中でもCRIMEAPPLEは"Killin' Spree"において、『Marcberg』『Reloaded』の2作を挙げながら、Marciに受けた衝撃をラップしている。たしかにMarciは2010年以降のアンダーグラウンド・シーン(特にGriselda周辺)に大きな影響を与えてきたのであり、アルバム・カバーに示されている"A cult..."という形容は相応しい。ドープなサウンドを示唆するノワール風のアートワークも◎。現役最高のヒップホップ・アーティストの一人だと思います。


Sea Urchin - Destroy!
ニュージャージーのDIYパンク・バンドSea Urchinのデビュー作!ガレージ・パンクやポップ・パンク、ハードコア、ブルース・スプリングスティーン、ミートローフのロック・オペラ、ミスフィッツ&ダンジグ、あるいは50~60年代に隆盛を誇ったポップスのスタイル"デス・ディスク"等に影響を受けた、自称"Sad Punk"のレコードである。ほとんどの曲は悲劇的な別れをきっかけに書かれ、その演技的な悲しみを自分自身で面白がりながら、さらに悲しみとバカバカしさを深めていったという。つまり、心の底から悲しみに浸りきるには自意識が余剰なのだ。「コメディ性を損なうことなく、シリアスな事柄の矮小化を回避する術を発見すること」とはバンドのプロフィールに書かれている文言だが、これはコンセプトの勝利であり、本作はその達成であろう。ユーモラスで大げさだが、ジョークというには切実すぎる。アルバムの最後に置かれた約12分に及ぶ大作ロック・オペラ"I Beefed it (On My Motorbike)"におけるマジすぎる熱唱を聴いてくれ。本当に笑えるから。素晴らしい、素晴らしい。


Turn On The Sunlight - Ocean Garden
LAのスピリチュアル~アンビエント・ジャズ・シーンで長きにわたって活躍するJesse PetersonとCarlos Niñoが2009年に結成したTurn On The Sunlightの新作。Moon Glyphからリリースされた前作『You Belong』から2年ぶりだ。Niñoは本作では2曲のみの参加となっているが、今年はLeavingから『Subtle Movements』、International Anthemから『Placenta』と個人名義で傑作を連発している。さらにはPetersonと共にAndre 3000『New Blue Sun』に、Shabaka Hutchingsのソロ作『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』にも参加。こうした2人の活躍ぶりはシーンの盛り上がりを感じさせる。東京のレーベルRingsからリリースされた本作は、金延幸子やララージ、Phil Ranelin、Dwight Trible、Jeff Parkerバンドのサックス奏者Josh Johnson、Sam Gendelなど様々なミュージシャンが参加。3月にはMoon Glyphからさらにもう一作『Canoga to Ha​ʻ​ikū』もリリースしているのでそちらも合わせてどうぞ。


Various Artists - Pieces For Sixth​-​Tone Harmonium
今年の1月編でWarm Winters Ltd.からリリースされたIan Mikyska & Fredrik Rastenによる『Music for Sixth​-​tone Harmonium』を紹介しましたが、新たな6分音ハーモニウムものがSub Rosaから立て続けに登場。前述のIan Mikyskaや故Phill Niblockなどチェコやその他の国の現代音楽家が新たに作曲した6分音ハーモニウムのための独奏曲を、今回も世界で唯一の6分音ハーモニウム奏者Miroslav Beinhauerが大車輪の活躍で演奏している。1928年に作曲されて以降、約90年間にわたって唯一の6分音ハーモニウム曲であったアロイス・ハーバの"Six compositions for sixth-tone harmonium, op. 37"もバッチリ収録。いずれやってくるかもしれない6分音ハーモニウム・ブームに向けて、これは押さえておきましょう!(適当)


Viv Corringham - Soundwalkscapes
1970年代後半から活動するイギリスのサウンド・アーティストViv Corringhamの作品がロンドンの実験レーベルFlaming Pinesより。彼女が数十年にわたって実践している"Sound Walking"、散歩のフィールド・レコーディングの最新の成果である。ニューヨークとロンドンの町を歩きながら、Corringhamは目に入った事物に対して語りや即興の歌で反応していく。僕なんかは寧ろ一人で街歩きをしているときのほうがよく喋り歌うようなタイプの奇人なのでサウンド・ウォーキングにも向いているんじゃないかと思うんだが、基本的には目に入った通行人や鳩に対する悪口とか「野菜を食べよう~」みたいなしょうもないオリジナル・ソングなのでモノにはならなさそうである。


Waxahatchee - Tigers Blood
Katie Crutchfieldのソロ・プロジェクトWaxahatcheeの新作。個人的には全編にわたって僕にとっての新たなギターヒーローであるMJ Lenderman(9月にソロ新作が出ます!)がフックアップされているのが一大トピックなわけですが、先行シングルで"Right Back to It"で堂々デュエットして、TVデビューまでしていて「おまえ本当にすげえよ」と思いました。名曲だしね。


3月編は以上です!さよなら、さよなら、さよなら。


NEW MUSIC TROLL - FEB '24

2024年2月編です!

The American Analog Set - New Drifters
今月もNUMERO再発から始まってしまった!1995年にテキサス州オースティンで結成されたスロウコア・バンドThe American Analog Setが地元レーベルEmperor Jonesからリリースした初期3作に未発表曲を加えた5LPのボックス・セット。メインのソングライターであるAndrew Kennyの祖父母の家にお手製のスタジオを構え、当然のようにデビュー作から一貫してセルフ・プロデュースで制作されていて、アンダーグラウンドがオーバーグラウンド=音楽産業に引っ張りあげられていくこの時代にしてはあまりにもリラックスしすぎている。そして彼らがギャラクシー500やスペースメン3の熱心なリスナーだったろうことは想像に難くない。1st『The Fun of Watching Fireworks』は当時からステレオラブとも比較されて所謂"スペース・ロック"という括られ方をされたようだが、続く2nd『From Our Living Room to Yours』においてより一層スローにミニマルに邁進しているのが素晴らしい。ホントにいいバンドです。ちなみに去年18年ぶりの新作『For Forever』で復活しています。


Ariel Kalma, Jeremiah Chiu & Marta Sofia Honer - The Closest Thing to Silence
70年代から活動するニューエイジ巨匠Ariel Kalmaと、昨年の9月編でアルバム『In Electric Time』を取り上げたLAのモジュラーシンセ奏者Jeremiah Chiu、ヴィオラ奏者Marta Sofia Honerによるコラボ作。後者2名は2022年に『Recordings from the Åland Islands』でデュオとして作品を発表しており、それを聴いたKalmaがBBCのラジオ番組Late Junctionでのコラボレーション企画の相手に2人を指名したのが始まりなのだという。3名それぞれの即興演奏を基にしたスピリチュアル・ジャズ~アンビエント・コラージュ。その中には、1970年代に電子音楽/コンクレートの聖地INA-GRMで技師をしていた頃のKalmaが録音したアーカイブ素材も含まれている。


Armbruster - Can I Sit Here
ニューヨークのヴァイオリン奏者Connor ArmbrusterがペンシルベニアのDear Life Recordsからリリースした新作。歪ませた電子ヴァイオリンのループ・ドローンを基調にしながら、ノイズやヘヴィ・ロックさらにはメタル・ギターといった意外なテクスチャーを非常にエモーショナルに混ぜ込んでいる。"Night biking"での泣きの高音とかマジでルー・リードかよってかんじだ。


bod [包家巷] - elision
昨年もさんざん取り上げたベルリン在住bod [包家巷]の新作。1月の来日ツアー行きたかったな…。


Chris Pitsiokos - Irrational Rhythms and Shifting Poles
ニューヨークの前衛サックス奏者Chris Pitsiokosによるアルトサックスと4チャンネルのエレクトロニクスを用いた「無理数(irrational number)によって生成されるリズムと、相反する極性(polarity)のオーディオ信号を別々のスピーカーで再生する、という2つのアイデアからなるコンセプト」の電子音響フリージャズ作品。JazzTokyoに剛田武氏によるレビューが載っていたので是非そちらを参照していただきたい。なにやらアカデミックなかんじがしてしまうが、ノイズ・ミュージック、ミニマル・ミュージック、即興音楽として全然超刺激的なのでオススメです。


CS (Christian Schiefner) - Dezember/Oh Trouble
昨年のYear End Listに『Februar + Folgendes』を選出したChemiefasewerkことChristian Schiefnerが自身のカセット・レーベルFaltからリリースした新作テープ。シドニーにあるギャラリーSydney Non Objectiveのサイト上で2022年に公開されていた"Dezember"と昨年セルフ・リリースしていた"Oh Trouble"を収録。フィールド・レコーディングやオブジェクト、電子ノイズ、楽器による静謐なコラージュ/ドローン。


David Grubbs & Liam Keenan - Your Music Encountered in a Dream
ご存じDavid Grubbs先生(Bastro, Gastr del Sol)とMeteor Infant名義でSSW活動をするシドニーのミュージシャンLiam Keenanの2名によるギター・インプロビゼーション。Lawrence EnglishのRoom40から。エフェクトによってエレキ・ギターをシンセのパルスのように変換する"Gemini Cluster"の後半部が出色。


Ducks Ltd. - Harm's Way
80sジャングル・ポップの美しきリバイバリストDucks Ltd.の新作。古き良きFlying Nun~Sarahサウンドを2024年の今ここまで馬鹿正直に追求している、その一点だけでもこの上なく素晴らしく、かけがえがない。本当に大好きなバンドです。Brooklyn VeganとFlood Magazineで彼らが好きな曲を挙げているので確実にチェックお願いします。


ecm - if you smile, i smile
本ブログではすっかりおなじみエジンバラのカセット・レーベルMolt Fluidから、実験デュオOishiの一員でもあるZheng HaoとJoseph Khanからなる2人組ユニットecmのデビュー作。アブストラクトな即興モジュラー・セッション"if you smile, i smile"もいいが、ツマミとケーブルをエレキ・ギターに持ち替えてお届けするB面のローファイ・エクスペリメンタル・ロックもなんかいい。結局オレらは"Here Comes The Warm Jets"が好きなんだ。


Emahoy Tsege Mariam Gebru - Souvenirs
昨年3月に99歳で亡くなったエチオピアの修道女エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルーの新たな発掘音源集。この方の生涯についてはTurnに掲載された柴崎祐二さんによる追悼記事を読んでいただくとしまして、Mississippi Recordsがここ数年来行ってきた素晴らしいリイシュー・プロジェクトの中でも本作が際立っているのは何よりも初めてのボーカル・アルバムであるという点だ。1977~1985年にかけて自宅でカセット・テープに録音された極私的な歌の中で彼女が語るのは、彼女自身が"The Homeless Wanderer"であるという経験そのことに他ならない。同時に今"故郷"や"祖国"について考えるとき、パレスチナの人々のことを思わずにはいられないだろう。


Flowertown - Tourist Language
サンフランシスコのPaisley Shirt RecordsからCindyのメンバーでもあるKarina GillとMike Ramosのローファイ/ドリームポップ・デュオFlowertownの4枚目。RamosはApril Magazine, Tony Jayでも活動しており、これらのバンドの音には2人の強力な個性が刻印されている。どのバンドのどの曲から聴いたっていい。どれもそんなに違わない。僕にはこのことが大変好ましいのだ。本作にはシド・バレットの"No Good Trying"のカバーが収録されているが、これも完璧にFlowertown節にアレンジされている。この調子でカバーアルバムとか作ったら面白いだろうな。


The Follies - Permanent Present Tense
NYCのパンク・バンドThe Folliesのデビュー作がオハイオ州シンシナティの間違いないパンク・レーベルFeel Itから。歌心のあるパブ・ロック・スタイルで、個人的にはTed Leo and The Pharmacistsなんかを思い出す。ボーカル&ギターEvan Radiganとリード・ギターMichael LiebmanはVanityというバンドでも活動。ベース&ボーカルのJess Poplawskiは現L.O.T.I.O.N. Multinational CorporationのAlexander Heirとダークなゴス・バンドSurvivalを組んでいたようだ。新しいバンドのデビュー作とは言ってもメンバー各々様々なバンドで活動していて10年くらいのキャリアがある、というDIYパンクあるある。


Grimório de Abril - Castelo d'Água
ブラジルはサンパウロ出身のアーティストVeridiana Sanchezによるソロ・プロジェクト。2020年にヴェイパーウェーヴ・レーベルDream Catalogueからゴシックなダーク・アンビエント・ポップ作『A Lung Full Of Flowers』でデビュー。2022年にはウェスト・バージニアのCrash Symbolsから2nd『The Glass Labyrinth』をリリース(この作品もDream Catalogueの共同設立者t e l e p a t h テレパシー能力者がマスタリングを担当)。そして3作目となる本作は地元ブラジルの実験レーベルMunicipal K7から(このレーベルのリリースはどれも面白いので今すぐBandcampページでフォローすべし!)。ドリーム・ポップ、アンビエント・フォーク、ニューエイジ、グリッチ、あるいはブラジリアン・ファンク、さらにBandcampページのタグに含まれている"baroque"など多様な要素が乱反射する、掴みどころのないキメラ状のレフトフィールド・ポップ。これ不思議と何度もリピートしてしまう。同じブラジルのアーティストBabe, Terrorの作品に感銘を受けた方やスペインのMarina Herlopが好きな方におすすめです。


Harry Gorski-Brown - Durt Dronemaker After Dreamboats
バグパイプ・ファンのみなさまお待たせしました。本ブログでは昨年の4月編で取り上げたJacques Puech『Gravir / Canon』以来のバグパイプもの。グラスゴーのミュージシャンHarry Gorski-Brownが地元レーベルGLARCからリリースしたデビュー作。演奏されているのは全てスコットランドのトラディショナルな楽曲で、当然バグパイプのドローン音はアルバムの中心に鎮座しているが、そこには同時にGorski-Brown自身の歌声があり、さらにはドローンを強化するシンセやノイズも現れてくる。アイルランドのJohn Francis FlynnやニューカッスルのRichard Dawsonが行ってきた土着フォーク・ミュージックの脱構築・再解釈の新たな実践者だ。


Helado Negro - PHASOR
エクアドルにルーツを持つ米国のミュージシャンRoberto Carlos Langeの新作。ドラマーMatt CrumとのROMやScott Herren(Prefuse 73)の別プロジェクトSavath & Savalasへの参加等20年近いキャリアを持つ彼だが、Helado Negroとして注目を浴びたのはやはりRVNG Intl.移籍以降だろう。その後新たに契約した4ADからはこれが2作目。かつて"We are Young, Latin and Proud"と歌っていたようにラテン・アメリカのフォークやファンクに根ざしながら、大学で学んだという実験音楽・電子音楽からのリファレンスも多く、本作ではダンサブルなポップスと実験的エレクトロニクスの折衷的スタイルがさらに押し進められている。1曲目"LFO (Lupe Finds Oliveros)"はフェンダー社のアンプ配線技師Lupe Lopezとディープ・リスニングの提唱者Pauline Oliverosという2人の女性へのトリビュートだし、"Out There"や"Flores"といった楽曲では心地よいシンセ・アンビエントが展開されている。


Ian Wellman - The Night The Stars Fell
ロサンゼルス在住のサウンド・アーティスト。2020年に起こったカリフォルニア地域の大規模森林火災で被害を受けた森や砂漠でのフィールド・レコーディングとテープ・ループをコラージュした実験作品。本作の重要なモチーフとなっているのは風の音だ。焼け朽ちた木に吹き付ける風、砂漠に放置された脱線車両の中を吹き抜ける風、強風を受けた廃屋が激しく軋む音…。消耗していくテープがループするアンビエント/ドローンが崩壊のイメージを喚起する。


Jean-Luc Guionnet + Eric La Casa + Philip Samartzis + Dan Warburton - Parking
タイトル通り、駐車場録音作品。"Parking La Villette 1"は2007年パリのラ・ヴィレット公園の駐車場で行われたサックス奏者Jean-Luc Guionnetとヴィオラ奏者Dan Warburtonによる即興演奏。フランスのEric La CasaとメルボルンのPhilip Samartzisが録音者として立ち会っている。"Parking 2"は2021年パンデミックのピーク時にGuionnet & CasaとSamartizがそれぞれパリとメルボルンで別々に録音した素材のモンタージュ(?)なのだろうか。駐車場(あるいはロックダウン下の無人都市の駐車場)というイレギュラーな制御不能空間における音の運動をとらえたユニークなドキュメントとなっている。


JORTS - Carpe Denim
ギターとドラムからなるUKブリストルの"Post-math, not-not-jazz"デュオJORTSのライブ録音。Storm & StressやU.S. Mapleといったシカゴ周辺の90年代USマス・ロックorノイズ・ロックの香りがする。


Kitchen Cynics & Grey Malkin - We Are All Ghosts
スコットランドのミュージシャンAlan Davidsonによるソロ・プロジェクトKitchen Cynicsと"haunted folk"デュオThe Hare And The Moonで活動したGrey Malkinが2020年から不定期にリリースしていたジョイント・シングルのコンピレーション。歌のモチーフはもちろん幽霊や超自然現象についてである。ある土地に伝わる幽霊伝説やアルジャーノン・ブラックウッドの怪奇小説、ジャック・クレイトンが監督した古典的ホラー映画『回転』などからインスピレーションを受けたセピア色のダーク&ゴシックなフォーク・バラードが10曲。コンセプトからして素晴らしい。


Leo Okagawa - Send and Return
実験レーベルzappakを主宰する東京のサウンド・アーティストLeo Okagawaの新作が北京のAloe Recordsから。音源ではフィールド・レコーディングを用いた作品も多く、昨年Molf Fluidからリリースされた『Druhé M​ě​sto』はフィールド・レコーディングとエレクトロニクスのコラージュであり、Ftarriからリリースされた『just another day』はカットアップ手法で編集された純フィールド・レコーディングであったが、ライブでのソロ・パフォーマンス録音である本作は即興による純エレクトロニクス作品。さまざまにニュアンスを変化させながら持続するノイズは、ノイズでありながらむしろ場に対して調和的にすら感じられる。"Nanahari"の冒頭では劣化したCDが発する異音を取り入れているという。一度取り込んだだけで二度と開けることのないCDいっぱい持ってるけど、劣化してんだろうなー…。


Limbo District - Circle of Monkeys b​/​w 5 'til 12
昨年11月編でも紹介しました80年代アセンズのヘンテコ・バンドLimbo Districtのニュー7inchです!約2年の活動期間に20曲ほどを録音しているというので今後もリリースされていくでしょう。今月また3曲入り7inch『Have You Seen Margo? b​/​w Funhouse + New Ground』が出ています!


Maya Shenfeld - Under The Sun
2022年のデビュー作『In Free Fall』に続くThrill Jockeyからの2枚目。出生地であるエルサレムで幼いころからクラシックの専門教育を受けていたというShenfeldだが、ベルリン芸術大学に入学すると実験音楽や即興、機材に夢中になり、パンクバンドでギターも弾いていたのだという。本作も前作同様にドローン・シンセのハーモニーを中心とした美しいアルバムだ。ポルトガルのヴィジュアル・アーティストPedro Maiaとの共同制作プロセスの中で録音された大理石採掘場でのフィールド・レコーディングも使用されており、"Tehom"や"Sedek"といった楽曲ではインダストリアル風味の反響音が聴かれる。その採掘場で撮影しMaiaがディレクションしたMVも公開中。


Mike Cooper And Friends - Soprano - An Homage to Lol Coxhill
英国のギタリスト/実験音楽家Mike CooperがおなじみRoom40からリリースした新作は、2012年に亡くなったフリー・サックス奏者Lol Coxhillへのトリビュート。ソフト・マシーンのケヴィン・エアーズ、ザ・ダムド、フレッド・フリス、あるいは日本の突然段ボールと共演し、Derek BaileyのCompanyや英国アヴァンギャルド・スーパーグループ49 Americansに参加するなど、70年代から多岐に渡って活動しているCoxhillだが、Cooperとは1982年にドラマーRoger Turnerと共にThe Recedentsを結成し長く共に活動していた。本作にはCooperがCoxhillと関わりのあったソプラノ・サックス奏者11人とそれぞれ共演したサックス×エレクトロニクスのインプロ・セッション11曲が収録されている。


Mint Mile - Roughrider
90年代にSteve Albiniとタッグを組んでMatadorやTouch & Goから傑作を次々リリースしていたインディー・ロック・バンドSilkwormをご存じか?2005年にドラマーのMichael Dahlquistが自殺を企図した自動車事故に巻き込まれて亡くなってしまいバンドは解散。中心メンバーのAndy CohenとTim Midyettは新たなバンドBottomless Pitを結成し、2014年の活動休止までに3枚のアルバムをリリースした。その後Midyettが始めたプロジェクトがこのMint Mileなのだ。バンドは2015年から18年にかけてEP3枚を発表し、Midyettのドゥーム・メタル・バンドSun O)))への参加も挟みつつ、2020年に1stフル『Ambertron』をリリース。本作はそれ以来4年ぶりの2ndである。アタイはSilkwormのことが特別に好きだし、Midyettが2002年にひっそりThree Lobedからリリースしたソロの弾き語りEP『It Goes Like This』も大好きなので、Mint Mileもだーいすき。ちなみにドラムのJeff PanallはSongs: OhiaことJason Molinaの代表作『Magnolia Electric Co.』でも叩いている男である。Midyettの歌はもちろん最高だし、6分から7分の長尺曲でじっくり聴かせるバンドのジャムも◎。ラストのスローなアメリカーナ・バラード"I Hope It's Different"ではシンガーソングライターNina Nastasiaがボーカルを聴かせてくれる(SilkwormはかつてNastasiaの楽曲"That's All There Is"をカバーしている)。では最後に個人的Silkwormおすすめアルバム3選を発表します。
・『Firewater』(1996) Youtube Matadorデビュー作。Andy Cohenのギターを堪能するならこれ。
・『Lifestyle』(2000) Bandcamp おそらくこれがバンドの全キャリアを通しての代表作。Facesの名曲"Ooh La La"のカバーとかホント最高。
・『Italian Platinum』(2002) Bandcamp 本作における陰の主役はBedheadやThe New Yearでスロウコアの歴史にその名を刻むMatt Kadaneの鍵盤である。


Nate Scheible - or valleys and
米アンビエント作家Nate Scheibleが地元ワシントンD.C.に新たに立ち上がった新レーベルOutside Timeからリリースした新作テープ。エレクトロニクスやピアノによるアンビエント("small and horseless")、ビニールをくしゃくしゃする音("the silver shore")、小規模のホーン・アンサンブル("stray")、くだらない会話録音("missississippi")といった様々な要素をわずか17分間に詰め込んだ大変ユニークな実験作です。


Nick Schofield - Ambient Ensemble
カナダのアンビエント作家Nick Schofieldの新作。2021年作『Glass Gallery』は完全ソロで構築した素晴らしいシンセ・アンビエントだったが、今回は自身のピアノの即興演奏を基にヴァイオリン、クラリネット、ベース、ボーカルのアコースティック・アンサンブルとしてスケール・アップ。そこへさらにシンセがきらびやかなアクセントを加えている。


Ol' Burger Beats - 74: Out of Time
ノルウェーのビートメイカーOl' Burger Beatsの新作は全編74BPM縛りのスローなジャジー・ヒップホップ集。lojii, Lil B, Pink Siifu, billy woods, YUNGMORPHEUS, Quelle Chris, Gabe Nandez, Fly AnakinとゲストMCの顔ぶれも最高。


Persher - Sleep Well
PariahことArthur CayzerとBlawanことJamie Roberts、デュオでKarennとしても活動するUK出身DJ2名によるエクストリーム・エレクトロニック・スラッジ・プロジェクトの2nd。正直PariahもBlawanもKarennも趣味の範囲外なんだが、ヘヴィなシンセとデス系ボーカルでスラッジ・メタルごっこしているこのPersherは最高だと思う。なんでも二人は敬虔なパンク/メタルのヘッズなのだとか。ぜひこの調子で人を踊らせないくらいエクストリームで̪̪シットな音楽を作ってほしい。オレは踊りたくないんだ!


Phill Niblock - Looking for Daniel
今年1月に90際で亡くなったドローン・ミュージックの大家Phill Niblock御大のPosthumousリリース。"BILIANA"はブルガリア出身のヴァイオリン奏者Biliana Voutchkovaのために2023年に作曲されたヴァイオリンとヴォーカリゼーションによるドローン作品。"EXPLORATORY, RHINE VERSION, LOOKING FOR DANIEL"は20のパートからなる複雑なアンサンブル作品で、ここではオランダのフェスティバルで演奏された9名の弦楽アンサンブルによるパフォーマンスが収録されている。2021年には銀座メゾンエルメスで行われた展覧会の企画で東京の声楽アンサンブルVox humanaが24声ヴァージョンを録音していたらしいので、編成は自由なものと思われる。これからNiblock聴いてみたいよ~という方は、その名も『Young Person’s Guide to Phill Niblock』というアルバムがあるので素直にそちらから聴いてみてください。ジム・オルークのMoikaiからリリースされた『G2​,​44​+​/​x2』は、Rafael ToralやKevin Drumm, Alan Licht, Thurston Moore, Lee Renaldoといった錚々たる顔ぶれによるギター・ドローン作品。あるいはロンドンのレーベルTouchからリリースされた一連の長大なTouchシリーズも。基本的にはどれも大きな音量での再生が推奨されています。かつてNiblockはこう書き記した。"You should play the music very loud. If the neighbors don't complain, it's probably not loud enough."いつでも胸に留めておきたい格言です。


Rafael Toral - Spectral Evolution
そのジム・オルークさん主催レーベルMoikaiが20年以上ぶりに新たな作品を世に送り出した。ポルトガルの実験音楽家Rafael Toralの最新作『Spectral Evolution』である。Toralといえば1994年のデビュー作『Sound Mind Sound Body』と翌年の『Wave Field』がギター・ドローンの名作として語り継がれているわけだが、2000年代中盤からはギターを脇に置き、自身が"post-free jazz electronic music"と呼ぶ"Space Program"を開始。近年はSpace Quartetとしてフリー・ジャズとエレクトロニクスの融合を志向するグループ活動をしていた。2021年にSpace Quartetに終止符を打ち、本作でついにエレキ・ギターに回帰。しかも鳥ジャケ。昨年mappaがシンセサイザーによる鳥の鳴き真似コンピ『Synthetic Bird Music』を出したとき、私は「今、鳥が熱い」と適当なことを言ったのだが、実際熱いのかもしれない。楽曲中でもまさに"Synthetic Bird Music"が結構な頻度で繰り広げられている。この鳥の鳴き声の正体はテルミンのアンテナを用いたフィードバックで、"Space Program"でも使用していたらしいので、Toral的には結構前から鳥は熱かったということになる。12のパートからなる47分のシームレスな長尺トラックとしてまとめあげられた本作は、Toralによればジャズの典型的なコード進行である「リズム・チェンジ」やデューク・エリントンのスタンダード「A列車で行こう」など、1930年代のジャズのコード進行を極端に抽象化した形で参照しているのだという。というわけで、今後は「ドローン、鳥、ジャズ」この3つが来ます(断言)!言い忘れてたけど、このアルバムは傑作です!


The Reverend Kristin Michael Hayter - SAVED! The Index
ところで人類史上常にホットな存在といえばJesusだろう。昨年10月にリリースされたLINGUA IGNOTA改めThe Reverend Kristin Michael Hayterの『SAVED!』は暴力とミソジニーのサバイバーであるHayterが、改めて神との関係を探求した狂気の賛美歌集であった。本作『SAVED! The Index』は、その傑作『SAVED!』のために録音された未発表曲のコレクション。Diamanda GalásやJohnny Cashも歌った"WERE YOU THERE WHEN THEY CRUCIFIED MY LORD"や、Gavin Bryarsのヴァージョンも有名な"JESUS' BLOOD NEVER FAILED ME YET"など、ここでもHayterの迫真の歌唱は凄みを感じさせる。『SAVED!』のラスト曲"HOW CAN I KEEP FROM SINGING"で強烈なインパクトを残したグロッソラリアが"TONGUES (EXTENDED)"として拡張再収録されているのも嬉しい。


Romance - Endless Love
セリーヌ・ディオンをサンプリングした『Once Upon A Time』、ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーをトリビュートした『Fade Into You』などで俗なメロドラマを研究するヴェイパー/アンビエント作家Romanceがバレンタインデーに合わせて「キューピッドの矢で傷を負った全ての人へ」向けてリリースした𝓔𝓷𝓭𝓵𝓮𝓼𝓼 𝓛𝓸𝓿𝓮...。2024年エンドレス・ラブ部門優勝間違いなし。


Roslyn Steer - Thirteen Ways of Looking at a Blackbird
ほら、言ったそばから鳥!と言ってもアメリカの詩人ウォーレス・スティーヴンスの同名の詩からの頂きである。各トラック・タイトルも全部で13ある詩の節それぞれから取られている。Roslyn Steerはアイルランドのコーク在住のマルチ奏者。ハーモニウム、コントラバス、電子ドラム、ギター、シンセ、スピリチュアルなボーカルが織り成すアシッド&ゴシックな不定形のエクスペリメンタル・フォーク。


RRR Music Group - Diamond Collection
NYCアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンのラッパーYLとSTARKER、そしてビートメイカーZoomoの3人からなるユニットRRRの新作。とはいえZoomoのビートは4曲止まりなので、実質的にはYL&STARKERのユニットLo.Ceasarってことになるのかもしれない。Zoomoの他にJUNIE.やNo Face、最近Chester WatsonとジョイントEP『winter mirage』をリリースしていた日本のill sugiといった馴染み深いプロデューサーがクレジットされているが、今回印象に残ったのはLook Damien!とDrivebyの2人。覚えて帰ってください!


SALIMATA - Wooden Floors
2022年にMIKEが主催する10kから『Salimata Presents - OUCH』でアルバムデビューしていたブルックリンのラッパーSALIMATAがLAのFada Recordsからリリースした2nd。本作でも4曲をプロデュースしているフランスのVelvetian Skyが昨年Fadaから出したEP『Family』にもPink SiifuやAhwlee, lojiiと共にフィーチャーされ、更にはB. Cool-Aid(Pink Siifu & Ahwlee)のアルバムにも参加するなど、昨年来東から西へライムを飛ばしている。"Dishes"の澱みない三連フロウとかかっこいい。


Shit and Shine - JOY OF JOYS
テキサス男Craig Clouse率いる珍奇なアヴァンギャルド・プロジェクト。2004年の活動開始以来ハイペースで様々な種類のSHITを世に放ち続けている。本作は単に"Joy"と名付けられた1~3分程度のチープな電子ビートとノイズの無秩序な断片の博覧会である。そこには初期電子音楽やインダストリアル、IDM、00年代USノイズのエレメントがまぶされ、徹底的に無機質で、"JOY"というタイトルはまるでアイロニー。だが、この人を食ったようなアンチ・エモーションな態度がある種の人間にとってはJOYに反転してしまうのだ。


Takashi Masubuchi & Yosuke Morone - Particles and Waves
2023年1月に水道橋Ftarriで行われた増渕顕史と諸根陽介のデュオ演奏の録音がzappakからリリース。諸根氏がファンクションジェネレータで生成する高周波の音信号やホワイトノイズの上で増渕氏がアコースティック・ギターを爪弾く。相乗的というよりは相補的で、何か理想的なコミュニケーションのあり方のようなものが提示されているような、そんな感覚を受ける。


Tony Bontana - L'Humanité
UKバーミンガムのMC/プロデューサー、そしてハードコア・パンク・バンドSPEWのボーカル/ギターでもあるTony Bontanaが亡き母親に捧げた新作。Tonyが立ち上げたEverything is Perfect Recordsに所属するDan Oddyseeやoghost, Spruceといった盟友たちによるボーカル・サンプルを多用したソウルフルでサイケデリックなビートは抜群だし、UbiquiyがフィーチャーされたオルタナティブR&Bなトラック"Pools Of Wax"でのTony自身が手掛けたアンビエント系ビートにも瞠目させられる。彼のそうした複雑性・実験性は、アウトロ的に収録されているアトモスフェリックなギター・アンビエント"Reach Out"で更に強く印象付けられる。今年聴いたヒップホップ・アルバムの中でもトップクラスに好きです。Tony Bontanaの名前だけでも覚えて帰ってくれ!


Weston Olencki & Laura Cocks - Music for Two Flutes
タイトル通りフルートのために作曲されフルートによって演奏される音楽なのだが、1曲目"ceòl meadhonach"を再生して耳に飛び込んでくるのは、我々がフルートと聞いてイメージする音色とは全く異なる激しいドローン音と不協和音である。スコットランドのゲール語で「中間の音楽」を意味する"ceòl meadhonach"は、バグパイプ音楽で用いられるCeol Mor="big music"とCeol Beag="little music"というカテゴリーの間に位置づけられた「行進やダンスに適さない」類の音楽のことらしい。OlenckiとCocksはそれを転用し、フルートによる表現を拡張させる。一方"SLUB"は振動するメディアとしてフルートを捉え直したようなフィジカル性の強い楽曲。Olenckiは2020年の『SOLO WORKS』などで予てからトロンボーンやトランペットでこうした管楽ノイズを演奏しており、Cocksにも実験的なソロ・フルート作品『field anatomies』がある。ハイリー・レコメンド!


Yol & David Curington - A Typical Sunday
UKのノイズ・アーティスト2名によるコラボレーション作品。Yolの支離滅裂で耳障りなヴォーカル・パフォーマンスとCuringtonのサンプリング・ノイズが渾然一体となって迫り来る。素晴らしいです。


柴田聡子 - Your Favorite Things
僕がいつも心の中で正座しながら聴いている名曲"どうして" (『スロー・イン』(2020)収録)の中で「謎の雰囲気担当大臣 わたし いくらでもふざけてみせますよ」と歌っていた柴田聡子は、本作リリースにあたってのインタビューでそうした衒いや「面白くありたい」の強迫観念からの解放について度々語っている。
・「面白くいなければ……!みたいな状態で人と付き合っていると、自分の言いたいこととか思っていることが分からなくなっていって、自分がどこにいるのかすらわからないし、それがいろんな辛さを招いていた感じがするんですよね。」(『ユリイカ』インタビューより)
・「<おもしろい曲>を作ろうとすると、自分が本当にやりたいことから離れていき、詰めが甘くなるときがあったんです。いまは自分が作りたい曲を作って、書きたい歌詞を書いているので、メロディーに歌詞が乗らなくても歌詞を変えたりはしない。<絶対歌う!>っていう根性で歌ってます。」(Mikikiインタビューより)
それと同時に近年はビヨンセ、安室奈美恵、アリアナ・グランデといったメジャーど真ん中のDIVAへの愛とリスペクトを真っ直ぐ表明することも厭わない。自分の好きなものを好きなように表現し言いたいことをそのまま言った結果が、ネオソウル的なアプローチと自由なフロウだとするならば、本作で起こった変化は何の違和感もなく腑に落ちるのである。ちなみに2019年に7インチオンリーでリリースされたDUBFORCEプロデュースの安室奈美恵 ”Baby Don't Cry”のDUBカバーが昨年YouTubeにアップされていたので聴けるうちに聴いてくれ!(この7インチはだいぶプレミア化している)


わーい書き終わった!今月は以上です!最後は恒例の最近読んで良かった本を紹介するコーナー、通称「最近読んで良かった本コーナー」です。
【最近読んで良かった本コーナー】
・朱喜哲「100分de名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯」(NHK出版)
もはや100分de名著を後追いで観るくらいでしかU-NEXTを使っていないのだが、このローティー回は良かったです。朱さんの新刊『人類の会話のための哲学 ローティと21世紀のプラグマティズム』もよはく舎から発売中。
・吉岡実「夏の宴」(青土社)
横浜に行ったときに伊勢佐木町の古本屋で買った詩集。箱入りの変型縦長で表紙に描かれた西脇順三郎氏によるイラストも可愛らしい。冒頭に置かれた一篇「楽園」で「私はそれを引用する 他人の言葉でも引用されたものは すでに黄金化す」と宣言しているように、本書は吉岡が引用詩を実践していた時期のもの。普段ほとんど詩とか読まないし、むかーしに引用詩を作る以前の彼の詩集を買って読んだときには悲しいかなハマれなかったのだが、引用大好き!引用せずには生きられない!僕には、この詩集がよく馴染んだ気がした。
・世良田波波「恋とか夢とかてんてんてん (1)」(マガジンハウス)
マガジンハウスが運営するweb漫画サイトSHUROで連載されている作品。青林工藝舎の雑誌アックス出身の方です。ストーリーは20代後半女性(低所得)の痛い恋愛。話はともかくとして、僕は世良田さんの描く夜の街の風景がとても好きなんだ。ちなみに本作の舞台は東京の高円寺。もしかしたら知っている風景も出てくるかもね。僕はひとつもピンと来なかったが。
・アミア・スリニヴァサン「セックスする権利」(勁草書房)
「まえがき」でスリニヴァサンは「(一部の問題を除いては)入り組んでいて難しいことを単純化して簡単なものにしたくないので、どちらともつかない立場をとっている」「フェミニズムは、(中略)政治は居心地のいい場所である、といったファンタジーに甘んじていてはならない」と書いている。実際にエッセイの中では過去のさまざまなフェミニストの言説を参照しながら試行を繰り返していく。著者のこうした姿勢は主にインターセクショナリティ(交差性)の概念に根差しており、それは常にある種の居心地の悪さを呼び起こすものである。しかしこうした「不快と葛藤のなかにとどまろう」とする慎重な態度こそ、僕自身もそうありたいと願う態度なのだ。


ですってよ!それではまた次回があれば…