NEW MUSIC TROLL - JUNE

おすすめしたい新譜を並べ立てる極私的企画"NEW MUSIC TROLL"、6月編です!

Aaron Dilloway - Bhoot Ghar: Sounds Of The Kathmandu Horror House
ご存じAaron Dillowayの最新作は、ネパールの遊園地Kathmandu Fun Parkでのフィールド・レコーディング作品。オバケ屋敷のアトラクション内部をスマホで録音し、加工を施さず生のままの音でお届けしている。安っぽい屋外用スピーカーから流れるチャチいシンセ・サウンド、そして単純な機器故障による天然ハイセンスなノイズ、こけおどしの仕掛けとDillowayファミリー&地元客の話し声・叫び声、etc...。これがなかなか素晴らしい。雁の餌やり、バンパーカーのぶつかる音、観覧車のベルトの駆動音(録音の直後に壊れて停止したという)といったボーナストラックも寂れたムードたっぷり。なにはともあれ夏にぴったり!余談ではありますが、2月に行われたDilloway来日公演のライブ・レポートという体で書かれた、ele-king掲載の評論家・仲山ひふみ氏によるコラム『Aaron Dilloway Japan Tour 2023@落合Soup (2023/2/11) ライヴ(デッド)レポート』(3万7000字!)が面白かったので、是非お読みください。暴力温泉芸者『Otis』をきっかけにした前半部の"ノイズ原論"は非常に読み応えがあるし、仲山氏の本分であるレイ・ブラシエ(「思弁的実在論」の命名者)のテクストを援用しながらマイアミのノイズ・ユニットTo Live And Shave In L.A.およびその中心人物トム・スミス(2022年没)について日本語でかなり言及されているのもすごく貴重!


Ajolote - Ajolote
メキシコ生まれベルリン在住の前衛ジャズ・ギタリストTom Kesslerによる新プロジェクトAjoloteのデビュー作。パーカッシブなエレクトロニクスを大胆に導入しつつ、どことなくラテンのムード漂う独特のギターインプロ。


Amnesia Scanner & Freeka Tet - STROBE.RIP
とっくにこの世界を見限っているPANの実験デュオAmnesia Scannerの最新作はNYのデジタル・アーティストFreeka Tetとのコラボレーション。過去作と比較して、よりポップでメロディックな印象を受けるのは、Freekaが打ち出したという"laughter"=「笑い」というテーマ設定が関わっているのかもしれない。「よりキャッチーに、より"人間らしく"」というアプローチは意外にも思えるが、ウーバー配達員の主観カメラ動画をモチーフに、プラットフォーム資本主義に生きる人間を思いっきり皮肉ったリード・シングル"Ride"のビデオを観ると、その奥にある悲哀が浮かび上がってくるのだった。


Anysia Kym & Jadasea - Pressure Sensitive
2月にブルックリンのプロデューサーLaronとのジョイント作『The Corner: Vol​.​1』をリリースしたばかりの英ラッパーJadasea、今回組んだのはNYCのAnysia Kym。元々NYCのストリート・エモ・バンドBlairのドラマーとしてキャリアを始動させた彼女は、昨年ラッパーMIKEのレーベル10kからリリースしたEP『Soliloquy』でソロ・デビューを果たした新鋭プロデューサー。ちなみにBlairのフロントマンであったGenesis Evansは、元シュプリーム店員のスケーターで、genny.名義でヒップホップ曲を発表したり、Wiki & NAHのアルバムにFoghornleghornn名義で客演したり、過去にはアパレル・ブランド "humble."を手掛けたりもしており、Kym同様ジャンルに固執しない爆イケなヤングである。で、今回のKym & Jadaseaのアルバムは、単にラッパーにビートを提供しましたという類のものとは違い、ブルックリンのドラムン・ベースとサウス・ロンドンのアブストラクト・ヒップホップの無茶な折衷スプリットといった趣の非常にユニークなコラボレーション。なんかスゴい。


Arthur Russell - Picture of Bunny Rabbit
Audika Recordsが進めるアーサー・ラッセルの未発表アーカイブ・シリーズの新作。今回は満を持して唯一のスタジオ作『World of Echo』と同時期の録音を収録。Pitchforkが行ったAudikaのオーナーSteve Knutsonインタビューによれば、一連の発掘編集作業はこれで最後になるかもしれないといい、今はラッセルのアーカイブに関する新たな本を執筆中なのだとか。ラッセルのパートナーであったTom LeeとKnutsonによるこれらの丁寧で繊細な仕事は本当に偉大で、特に僕は『Love Is Overtaking Me』や『Iowa Dream』といったSSW的側面に焦点を当てた作品が大好きなのだが、"The"アーサー・ラッセルといったコンセプトの本作ももちろん素晴らしい。"The Boy With a Smile"でハーモニカが鳴らされる瞬間の謎の高揚、名曲"In The Light Of A Miracle"のチェロで弾き語られるWoEバージョンの美しさ。マジ感謝。



Ben Chasny & Rick Tomlinson - Waves
Six Organs Of AdmittanceことBen Chasnyとマンチェスター在住のギタリストRick Tomlinsonのコラボ・ワーク。フィンガースタイルによる静謐で美しいアコギ・インスト。反復する旋律が9分間にわたって絡み合う荘厳なアコースティック・トランス”Wait for Low Tide”、テープ・ループによる長尺ドローン”Paths of Ocean Currents and Wind Belts”が異彩を放つ。

Bendik Giske - Bendik Giske
ノルウェー出身のサックス奏者Bendik Giskeのセルフ・タイトル3rd。スタイルとしては近年は専ら映画音楽作家として活躍目覚ましいColin Stetsonを思わせるが、Beatrice Dillonのプロデュースによる今作は驚くほどストイック。オーバーダブなしのシングルテイクで録音されたキーのタップ音やGiskeの身体が生み出す禁欲的なリズム・パターンの反復持続に没入していく。"Rhizome"なんかを聴いていると、こちらの脈も速くなっていくような気さえしてくる。


Blue Lake - Sun Arcs
テキサス出身コペンハーゲン在住のミュージシャンJason Dunganによるプロジェクト。アコースティック・ギターと48弦ツィターが主体のアンビエント・アメリカーナ。雰囲気としてはWilliam Tylerであったり、全部の楽器をひとりで演奏している点ではRobert Stillmanの傑作『What Does It Mean to Be American?』であったりを想起させる。マイケル・スノウの代表的実験映画『波長』にインスパイアされたというエンディング ”Wavelength”では壁に貼られた海の写真が頭に浮かぶ。


The Body - I Shall Die Here / Earth Triumphant
2014年にRVNG Intl.からリリースされたThe Haxan Cloakプロデュースによる『I Shall Die Here』と、その習作ともいえる未発表アルバム『Earth Triumphant』が2in1で再リリース。The Bodyの凶悪なディスコグラフィーの中でも傑出した『I Shall Die Here』は個人的にも思い入れの深い一作なので、こうして顧みられること自体が喜ばしい。The Haxan Cloakが関与していない『Earth Triumphant』では、"A Cloud Broke Open"や"Wind on the Ocean, Wind on the Trees"のインダストリアルなアプローチを聴くと、なるほど16年のアルバム『No One Deserves Happiness』などに連なっていくプロセスが垣間見える。


Boldy James x ChanHays - Prisoner of Circumstance
デトロイトのラッパーBoldy Jamesの最新プロジェクトはカナダのプロデューサーChanHaysを全面フィーチャー。この人のトラックが哀愁ソウル系のブーン・バップでかなり良い。初めて知った人だったが、17年のソロ作品『Here』には、Roc Marciano, Conway, Skyzoo, Homeboy Sandman, Elcaminoなどが大挙して参加していた。


Busted Head Racket - JUNK FOOD
オーストラリアの3人組ベッドルーム・シンセ・パンクス。アルバム自体は4月に自主リリースされていたっぽいが、ポーランドのDIY/lo-fiカセット・レーベルSfyが目をつけて再リリース。例えるならTimes New VikingKleenexを高速カバーしたみたいな素晴らしさ。

The Cat & Bells Club - The Cat & Bells Club
当時18歳だったGraham LambkinがThe Shadow Ring結成前にバンドメイトのDarren Harrisと自主制作したカセット作品が、Lambkinの最新作『Aphorisms』と共にBlank Formsからリリース。初期衝動とアマチュアリズムの塊みたいな宅録実験アヴァン・フォークといったかんじ。鋭意制作中と話に聞くThe Shadow Ringのコンプリート・ボックス・セットへの布石としては無視できないだろう。今手軽に聴けるものとしては、とりあえず20年のコンピレーション『Life Review (1993​-​2003)』がある。Jandekファンのそこの君にはもちろんオススメ!


Chester Watson - fish don't climb trees
15歳のころからミックステープ作品を発表している天才ラッパー/プロデューサーChester Watson、20年の傑作デビュー盤『A Japanese Horror Film』に続く待望の2ndアルバム。前作と比べるとコンセプトは希薄だが、自身を"surrealist"と規定するWatsonのプロダクションは相変わらずドープ&クール。インタビューで知ったのだが、彼の父親はメンフィス・ラップのレジェンドThree 6 Mafiaのツアー・ミュージシャン兼プロデューサーだったのだという。メンフィス・ラップの"horror"がWatsonの作る音楽の霊性と(こじつけっぽいが)響き合っているのが面白い。


Chuck Johnson - Music From Burden Of Proof
ペダル・スティール・ギタリストChuck JohnsonがHBOのドキュメンタリー『Burden Of Proof』に書き下ろしたスコア。15歳の少女が行方不明になった未解決事件を巡る番組らしく面白そうだが、それはともかく21年のスタジオ作『The Cinder Grove』でも聴かれたシンセサイザー使いをより大胆に劇的に活用している。


Cole Pulice - If I Don’t See You in the Future, I’ll See You in the Pasture
おなじみLongform Editionsの6月号にカリフォルニアのテナーサックス奏者Cole Puliceが登場。昨年はLynn Averyとの『To Live & Die In Space & Time』、ソロ作『Scry』と傑作アンビエント・ジャズを連発しており、そちらも是非聴いてほしいのだが、今作も至極。驚いたのは、これがワンテイクのライブ録音で作られているという点。手と口でサックスを演奏しながら、足元のペダルで音の信号処理を施しているのだという。ライブで観たいなー。


Comet Gain - The Misfit Jukebox
以前軽く予告した英国インディー・ポップ・バンドComet Gainの未発表音源集。コロナ禍にフロントマンDavid Christian(現在は南仏在住)が自作のアーカイブをディグって再発見したデモ、アウトテイク等を収録。元々Bandcamp Friday向けにリリースされていたシリーズのダイジェスト版といったところだ。"library is my cemetery"と言い切り、ハリウッド大作よりも『天才マックスの世界』を愛する、ベルセバにはなれなかった文化系ワナビーのひねくれ者、それがComet Gain…。もしあなたが1st『Casino Classics』以外のアルバムも聴いてきたComet Gainファンならばもちろん本作も聴くべきで、そうでないならゴダール『男性・女性』とComet Gainの楽曲をマッシュアップしたファンメイドの素敵なMVを観るべきなのである。

cop funeral - Jake
Already Dead Tapesを主宰するエクスペリメンタル・アーティストJoshua TabbiaのプロジェクトCop Funeralの最新作。ハーシュ・ノイズを基調にしながら、ときにJefre Cantu-Ledesmaのような優しいメロディーや、耳に馴染むリズム・パターンが現れる、ダークな全11曲。


Dietrichs - Catch the Leaves
NYCの即興ノイズ/フリージャズ・グループBorbetomagusの創設メンバーDon Dietrich(Sax)が実娘のチェリストCamille Dietrichと結成した親子ユニットDietrichsのアルバム。20年にFeeding Tubeから出た『Options』もかなりグッドなノイズ作品だったが、本作も容赦ない轟音フリージャズで最高。どういう親子なん。


Divide And Dissolve - Systemic
メルボルンの女性二人組ドゥーム・バンド最新作。二人はそれぞれ黒人とチェロキー族、マオリ族の子孫であり、プレス・リリースによれば、このバンドの目的は「先祖と先住民族の土地に敬意を表し、白人至上主義に反対し、黒人および先住民族の解放の未来に向けて取り組むこと」なのだという。ギターリフとドラムを主体にしたSunn O)))調のエクストリーム・メタルは基本的に歌詞を持たないが、前作『Gas Lit』に引き続いてベネズエラ人アーティストMinori Sanchiz-Fungのスポークン・ワードをフィーチャー。政治スタンスと音のヘヴィネスをコンセプチュアルに統合した激クールなバンド。しかし今作でドラムのSylvie Nehillが脱退。以後はギターだけでなくサックスも奏でるTakiaya Reedのソロ・プロジェクトとなる模様である。

Elite Terrorism Modulus - Elite Terrorism Modulus
Orange Milkからデビューしたエクスペリメンタル・ノイズ・ジャム・バンド。レーベルおよびバンドの地元であるオハイオ州デイトンといえば、早すぎたシンセパンク・バンドBrainiacを生んだ土地である。例えば2曲目"The Glacier Bay Water Shrew"は、Brainiacの故Tim Taylorが歌っていたとしても何ら違和感がないだろう。"Working on the Building"はジャド・フェアが歌っていても不思議ではない。ギター、ベース、ドラム、サックスといった楽器だけではなくカットアップ・ノイズも駆使しながら、エネルギッシュでヘンテコな音楽を鳴らすエリート集団である。


Emin Gök - Silentio
アジア系作家に特化したロンドンのレーベルCHINABOTより、トルコの実験ミュージシャンEmin Gokのデビュー作。電子アンビエントにフィールド・レコーディングやトライバルなビートを織り交ぜながら、サックスやジャズ・ボーカルもフィーチャー。セルフ・ライナーノーツによれば、「沈黙」と名付けられた本作は「ラブソングで構成された愛についてのアルバム」。制作過程で見た夢ー森の中でトルコ・中東の伝統楽器バグラマが燃えているビジョンに強くインスパイアされ、録音に使用した自分のバグラマを実際に森で燃やす儀式まで行ったのだという。


Friends Meeting - God Respects Us When We Work, but Loves Us When We Dance
以前紹介したSSW/アンビエント作家Ben Seretanと、Hausu MountainやUmor Rexから作品をリリースするモジュラー奏者M. Geddes GengrasによるユニットFriends Meetingの1曲52分長尺作品。含蓄のあるタイトルは、アメリカの映画作家レス・ブランクが監督したヒッピー・カルチャーを捉えた同名ドキュメンタリー映画から取られているらしい。西海岸の暖かい陽光が目に浮かぶような(僕の中でのそれは何故かアニエス・ヴァルダ『ライオンズ・ラブ』のイメージなのだが)、優しいアンビエント。


Godflesh - Purge
Jesu, JK Fleshを筆頭に数えきれないほどのプロジェクトをこなすJustin Broadrickの原点であり、インダストリアル・メタルのレジェンドGodfleshの6年ぶり9th。自閉症およびPTSDとの診断を受けたBroadrickは、一時的なセルフケアとしてGodfleshの音楽に取り組んだのだという。ヒップホップ~ドラムン・ベースから借用したブレイクビーツに、ヘヴィなディストーション・ギターと轟くベース、Broadrickの陰鬱なボーカル、これ以上なにが要るのか?


Hand Habits - Sugar The Bruise
全6曲20分ちょっとの小品だけれど、Hand Habits/Meg Duffyの変化のプロセスであり現在形。トランス・パーソンとしてのアイデンティティに折り合いがついた時期だったとDuffyが語る21年の傑作『Fun House』の翌年にはPerfume Geniusのツアーバンドを務め、音楽的にもますます実験性が高まっている。Duffyが異質な低音ボーカルを聴かせる”Gift of the Human Curse”は、遊び心もありながらこれまでのHand Habitsの中でも最も美しい曲の一つだと思う。


Hayden Pedigo - The Happiest Times I Ever Ignored
テキサス州アマリロが生んだソロ・ギタリスト界のトリック・スターHayden Pedigoの最新作。ティーンエイジャーにしてフィンガースタイルの早熟なギタリストとしてデビュー。その5年後、ジョークで撮った市議会議員立候補ビデオが話題を呼び、本気で支援する人々が現れると本人もいつの間にかマジになってアマリロ市議会議員に立候補、選挙を戦ってあえなく敗北(この様子はドキュメンタリー映画『Kid Candidate』に記録されている)。21年には突如ゴスメイクで現れてインディ・フォーク・ファンを驚かせ、同年にはGucciのファッション・モデルとしてランウェイを歩き、エディ・スリマンにポートレートを撮影される。おもしろすぎる人生だが、それでも相変わらずプリミティブ・フォークをしっとり演奏しているのが更におもしろい。その佇まいは、なんだかYo La Tengo "Sugarcube"の素晴らしいMVを思わせる。


Home Is Where - the whaler
トランスウーマンBrandon MacDonald率いるフロリダのエモ・バンドHome Is Whereの2作目。エモ・マナーに倣いつつもNeutral Milk HotelやBob Dylanからの影響を隠さないハーモニカやシンギング・ソーを用いたフォーキーなアレンジが特色。21年のデビュー作『i became birds』でその界隈ではカリスマ的な人気を得、翌年には同じくトランス女性が率いるエモ・バンドRecord Setterとのスプリットを発表している。本作は「状況の悪化に慣れていくことについてのコンセプト・レコード」。反LGBTQ・トランス差別が加速するフロリダ州(知事のデサンティスはトランプと次期大統領候補の座を争う)や米国の絶望的な状況を9.11になぞらえた"everyday feels like 9/11"、"9/12"の連作にそれが直接表現されている。実際、MacDonaldもギタリストのTilley Komorny(彼女もまたMtFのトランスである)も、止むを得ず大好きなフロリダから引っ越したらしい。「状況の悪化に慣れていくこと」、うーん耳が痛いなあ。


HULUBALANG - BUNYI BUNYI TUMBAL
インドネシアのアンダーグラウンド・ユニットGabber Modus Operandiの片割れで、ビョークの最新作にも参加しているDJ Kasimynによるソロ・プロジェクト。オランダ植民地時代のインドネシアにおける紛争の歴史アーカイブにインスパイアされたという、ハードなインダストリアル・クラブ・ミュージック。「ある夜、外部からの暴力によって儀式的ダンスが乱され、音楽は途切れ、イノセンスと痛みの間で捕らえられたままになってしまった村へのトリビュート」。


Immi Larusso - More Than That
Morriarchiとのジョイント作『Shalimar Gardens』以来フォローしているUKシェフィールドのラッパーImmi Larussoの最新プロジェクト。Nilwanの手によるジャジーな催眠系ビートとLarussoのアンニュイなフロウがマッチしていて良い。8曲15分足らずという欲のないボリュームに反してBandcampの最低価格が結構高いの、アングラ・ヒップホップあるある。


Klara Lewis & Nik Colk Void - Full-On
スウェーデンの実験電子音楽家Klara Lewis(WireのGraham Lewisの実娘!)と、Factory FloorのメンバーでもあるNik Colk Void、共にEditions Megoから作品をリリースしている2名によるコラボレーション。Helm主宰のAlterより。サンプリング、コラージュ、ノイズ、ギター等を用いたワンアイデアの比較的短いループが矢継ぎ早に展開するヴァラエティに富んだポップなエクスペリメンタル全17曲。


Leda - Neuter
Enhet För Fri Musik, Neutralの一員として活動するスウェーデン・アンダーグラウンドの重要人物Sofie HernerのソロプロジェクトLedaの最新作がDiscreet Musicより。No Wave-yなギターのフレーズによるハーモニー/不協和音がクールに反復するシンプルかつ厳格なギターループ作品。


Linus Hillborg, Theodor Kentros - Four Works
Kali Maloneらが主宰するスウェーデンのレーベルxKatedralより、ストックホルムを拠点とするミュージシャンLinus HillborgとTheodor KentrosのスプリットLP。HillborgはYear001所属のポストパンク・バンドViagra Boysのギタリストでもあり、2人のユニットSänktとしての作品もある。オルガン、ヴァイオリン、バスクラリネットとエレクトロニクスによるドローンを計4曲収録。


ludwig berger - photosynthetic beats – utricularia vulgaris, marais des pontins
イタリアとスイスを拠点に活動するフィールド・レコーディング・アーティストLudwig Bergerがドイツの新興レーベルforms of minutiaeからリリースした作品。沼池の水生植物が光合成により酸素を吐き出す音を水中マイクで録音した、天然のポリリズム。音楽すぎてびっくりする。音自体はエフェクト処理されているが、時間的流れは全く未編集だという。2番目の録音では、植物に影を落とすことでリズムを人為的に変化させている。限定25部のアナログ盤は、取り出した12のパターンをロックド・グルーヴ(レコード針がずっと同じ溝をなぞり続ける無限ループ)に記録した特別仕様(買いました)。


Militarie Gun - Life Under The Gun
MVディレクターとしての経験を糧に、2020年に映画制作を志してLAに移住したシアトルのハードコア・バンドRegional Justice CenterのIan Shelton。しかし、パンデミックによりすべては中断されてしまう。何もすることがなくなった彼が独力でスタートさせたのがMilitarie Gunである。その年のうちに1枚のEPを完成させると、仲間を集めてこれを実体のあるバンドに仕立て上げた。翌年、更に2枚のEPをリリースした後、インディ大手Loma Vistaとサイン。さらにJay-ZのRoc Nationとマネジメント契約を結ぶ。で、本作が1stフル・アルバム。ファスト&バイオレントなエクストリーム・ハードコアだったRJCから、フックの効いたメロディをシャウトするポスト・ハードコア/グランジへ。今年を代表するパンク・アルバムになることは間違いない。


Mun Sing - Inflatable Gravestone
ブリストルのエクストリーム・テクノ・デュオGiant Swanの片割れHarry Wrightのソロ・デビュー・アルバムは、2020年に亡くなった父親の死をテーマにした作品。オープニングから人を食ったような不規則ビート、リズム、ボーカル・チョップで聴き手をかく乱するが、MX Worldがボーカル参加する3曲目"Spirit And Legacy And Muckiness"、そしてSide Aのラストとなるビートレスのダーク・アンビエント"Inheritor"では憂鬱を垣間見せる。Worldはアルバム中計3曲で歌っており、その詞は薬物依存症であった父親のリハビリ日記からインスパイアされたもので、ときにはそこからそのまま引用もされてもいるという。Worldのボーカルが前面に出た、スピリチュアルなムードを持った"Helhest (Azrael Smirks)"のあと、エンディングのタイトル曲("空気注入式の墓石")を、Wrightは友人や家族の笑い声で埋め尽くし、その終わりにひっそりと父親の寝息を忍ばせている。イレギュラーな喪のプロセスの優しい幕切れ。


Not Waving - The Place I've Been Missing
UKレーベルEcstatic主催Alessio Nataliziaによるプロジェクトの最新作。おなじみのコラボレーターMarie Davidsonとのオープニング・トラック"Beginner's Goodbye"に始まり、Ashantiの00s R&Bクラシック"Foolish"をサンプリングしたレーベルメイトRomanceとの"Running Back To You"、Claire Rouseyとの傑作『an afternoon Whine』を同レーベルからリリースしているMore Eazeのオートチューン・ボーカルが印象的な"Waiting For You To Notice"など、Ecstaticのレーベル・カラーをレペゼンするドリーム・アンビエント。


Oleksandr Yurchenko - Recordings Vol. 1, 1991​-​2001
過去のウクライナのアンダーグラウンド・シーンを掘り起こす発掘レーベルShukai(Muscutのサブ・レーベル)より、2020年に亡くなったミュージシャン兼イラストレーターOleksandr Yurchenkoのアーカイブ音源集。Henry FlyntやTony Conrad, La Monte Youngも彷彿とさせる、自作楽器を用いた25分の即興弦楽ドローン“Count to 100. symphony#1”がやはり圧巻。グラスゴーのレーベルNight Schoolが2020年に再リリースしたSvitlana Nianioとのフォーク・アルバム『Znayesh Yak? Rozkazhy』も傑作なので聴きましょう。


Protomartyr - Formal Growth In The Desert
デトロイトのポストパンク・バンド、気づけばもう6作目。フリージャズ畑のミュージシャンを招くなど音楽的な拡張を見せた前作から、パンデミックやフロントマンJoe Caseyの母親の死などを経た本作では、シンプルな4人の編成に回帰し、へヴィネスを増幅させている。“make way for tomorrow”と力強く宣言するオープナー“Make Way”から次のトラック“For Tommorow”へ、現行インディー・ロック最良のボーカリストのひとりCaseyは頑なに前方を見据える。そして、中盤に置かれた“Polacrilex Kid”の最後に提起する“Can you hate yourself and Still deserve love?”(自分を憎んでも愛される価値はあるか)という問いに、ラスト曲“Rain Garden”で冒頭の“make way”という言葉を今一度呼び戻して“make way for my love”(私の愛に道を譲れ)と自ら答えている。こんな風に愛を歌うバンドだったか?傑作。


Saint Abdullah & Jason Nazary - Looking Through Us
イラン出身の兄弟ユニットSaint Abdullahと前衛ドラマーJason Nazaryによる再びの共演作。2月編で取り上げた『Evicted In The Morning』での電子アンビエント・ジャズ的静は影を潜め、Saint Abdullah本来の混沌とした攻撃的ノイズと躁状態のエレクトロニクスで溢れかえり、Nazaryはブラストビートすれすれの激しいドラミングでそれに応答する。むしろ前作の特殊性が際立つ興味深いアルバムになっている。


Sea Moss - REMOSS2
ポートランドのシンセ・ノイズ・パンク・デュオSea Mossが昨年リリースした傑作『SEAMOSS2』のリミックス・アルバム。参加アーティストは曲順に、ハードコア・ドラマー/ヒップホップ・プロデューサーNAH, デジタル・ハードコア・ユニットMachine Girl, ハードコア・バンドShow Me The BodyのベーシストHarlan Steedのソロ・プロジェクトPresident Evil, フィラデルフィアの自称”nü jungle, digital hardcore, US grime band"GHÖSH, Eat My Shit Recordsを主宰するマルチメディア・アーティストAvola, ご存じOrange Milk主催Keith RankinのGiant Claw, Angel Marcloidによるヴェイパー・フュージョン・メタリック・スクリーモ・プロジェクトFire-Toolz, ボルチモアのエクスペリメンタル・アーティストBl_ank。総勢8名の過剰な人々。過剰を過剰でかきまぜて新しい過剰を生みだす、とっても楽しい遊び場。


SWARVY - Karate
フィラデルフィア出身マルチ奏者/SSW/プロデューサーSWARVYが5曲入のインストゥルメンタル集をリリース。ビートメイカーとしてはlojiiPink Siifu, Liv.eとのジョイント作や18年のソロ名義『Anti​-​Anxiety』、SSWとしては20年の素晴らしい『SUNNY DAYS BLUE』、プロデューサーとしてはmndsgn『Rare Pleasure』(ベースも演奏)や、昨年の見過ごされた傑作であるContour『Onwords!』など、パフォーマーとしてもエンジニアとしても常に様々なプロジェクトに取り組んでいる彼だが、力の抜けたラウンジ調の小品ともいえる本作にも彼の美意識はしっかりと流れている。印象的なカバーアートはStones Throwからイラスト・ブックも出している下関在住の日本人munguni氏。


thanks god - ULTRAV!OLENCE
Youtubeチャンネルとしてスタートし、新興ジャンルHexD/Surgeの中心地となったカリフォルニアのオンライン・レーベルDismiss Yourselfより、NYのベッドルーム・エクスペリメンタル・アーティストthanks godの新作。チルウェイヴ/ヴェイパーウェイヴ、ドラムン・ベース、インダストリアル、ノイズ、シューゲイザー等をごたごたと解釈した、末期的世界と戯れるエクストリーム・ポップ。MV ("ST!LL L!FE with OPPOS!T!ON" / "FUCK BOY" / "SCAM bible")や彼のインスタグラムを観ると世界観がビシバシ脳内に侵入してきます。


Tree - FREE TREE
3年間の懲役刑で現在服役中のシカゴのラッパーTreeが裁判官に認められた39日の執行猶予期間中に録音したアルバム。自身のスタイルを"Soul Trap"と称して2010年頃からオンラインで作品をリリースし、10年前にはPitchfork Festに出演したり、Chris CrackやVic Spencerといった地元ラッパーとのコラボレーションもしたりと比較的キャリアの長いベテランだが、ある時点で商業的な成功や知名度には全く欲を見せなくなり、自らの家族生活とファン・コミュニティをベースに活動してきた慎ましい男なのである。大変な状況で制作された本作だが、美しいピアノに乗せて後悔を歌うオープナー"I SHOULDVE COULDVE WOULDVE"、"baby, I'm sorry"と繰り返すユニークなタイトルの"TYE TOLD ME CUT OUT ALL THIS SINGING"等をはじめとして、Treeの歌声がどれも素晴らしい。彼と彼の家族を支援する意味でも、みんなで聴こう!2019年作『We Grown Now』、Roc Marcianoも参加している2021年作『SOUL TRAP』ももちろんおすすめ!


Various Artists - Dungeon Rap: The Evolution
メンフィス・ラップと90年代ブラック・メタルのサブジャンルであるダンジョン・シンセがウクライナで悪魔合体を果たしたダンジョン・ラップ。2019年の『Dungeon Rap: The Introduction』以来となる第2弾コンピレーションである。ダンジョン・ラップの生みの親DJ SACREDがシカゴのカセット・レーベルTAPE HOUSE USAからリリースした『Memphis Rap Strikes Back』に衝撃を受けて以来、この新興ジャンルには注目を続けているが、全21曲収録の本コンピレーションのうち12曲はDJ SACREDの変名であるPillbox, DJ Armokの楽曲。自作自演感が否めないが、それでもフィンランド、ドイツ、イギリスのプロデューサーも参加しており、賛同者のじわじわとした広がりを感じさせる。近しいサブジャンルとして、同じくメンフィス・ラップから派生して10年代前半にマイアミのラッパーSpaceGhostPurrpが火をつけた"Phonk"が存在するのだが、それが2020年頃ロシアにおいてTikTokおよび自動車文化と結びついてBPMを上げた"Drift Phonk"なる新たなサブ・サブジャンルに派生。それがやたらと重低音を称揚するEDM文化と混ざり合い、今となっては"Phonk"といえば「夜のドライブのBGMにぴったり」「筋トレのBGMにぴったり」といったようなかんじの、ハッキリ言ってクソ残念なものになってしまっている(ここ1年以内でアップロードされたYouTube上のPhonk Mixを聴いてみよう)。それに比べて、ダンジョン・ラップはいまだ暗黒の聖域として生き長らえているのだ。守りたい。本作はロシア・ウクライナ戦争の戦没者に捧げられている。


Various Artists - ০
こちらはインドは西ベンガルのエクスペリメンタル・レーベルBiswa Bangla Noiseのコンピレーション。今年に入って同レーベルからリリースされたBengal Chemicalsのアルバム2作(BandcampがBest Folk Musicに選出)がきっかけで西ベンガルのアンダーグラウンド・ノイズ・カルチャーを初めて知るところとなったのだが、インドのインディペンデント・シーンにフォーカスしたサイトThe Indian Music Diariesがレーベル設立のいきさつ、Bengal Chemicalsのバックグラウンドについて等、詳しく記事にしていたので興味のある方は参照されたい。記名性の希薄なアンビエントやノイズといった音楽ジャンルの懐の深さを感じる。ベンガル語とか全くと言っていいほど理解できないけど、ノイズはノイズだもん。


waterbaby - Foam
ストックホルムのベッドループ・ポップ・シンガーwater baby、Sub PopからのデビューEP。「私があなたの911になる」と優しいサイレンを鳴らす"911"がすごく好きだ。5月編で紹介したHannah Jadaguとも共鳴。


Wild Up - Julius Eastman Vol. 3 If You're So Smart, Why Aren't You Rich
LAの現代音楽コレクティブWild Upの最新作は、先ごろ『Feminine』が初アナログ・リリースされたNYの黒人クィア・アーティストJulius Eastmanの楽曲を再解釈し演奏するシリーズの第3弾。やはりハイライトはBlood OrangeことDev Hynesがリーダーを務めたピアノ連弾によるミニマル"Evil Nigger"だろう。繰り返されるピアノのトリル音に、様々な楽器が参入・離脱しながら不協和音を生み出す強烈な楽曲である。


Wiring - Of Good Fortune
ボストンのカセット・レーベルCandlepin Recordsからデビューしたインディー・ロック・バンド(?)。クレジットを見ると、ギター&ボーカルのConnor GibsonとドラムMicheal (Sauce) Sandvig以外の演奏者は流動的なようである。アルバムをものの数曲聴けば、彼らの目指す方向が明らかになる。シカゴ音響ポストロック(David Grubbs)~Polvo, Chavez, June of 44, CodeineGang of Four, Mission of Burma, 近年でいえばPileなど、いくつもの参照元が浮かんで来るが、やはり全体的にPolvoっぽい。今更Polvoフォロワーが出てくるの嬉しい。


Wobbly - Additional Kids
サンフランシスコ在住のアーティストJon Leideckerによるメイン・プロジェクトWobblyがHausu Mountainからリリースした最新作。共作も多いPeople Like Us同様のサウンド・コラージュで有名な彼だが、本作ではほとんどの曲にゲスト・ボーカルが参加し、ポップ・ミュージックのフォーマット上で実験的なグリッチ・サウンドを探求する。


Wolf Eyes & Model Home - More Difficult Messages
Wolf EyesのJon OlsenとNate Youngがパンデミック下に様々なアーティストと制作した私家盤7インチをまとめて今年1月にリリースされたコンピレーション『Difficult Messages』、そこに入りきらなかった楽曲群を、Disciplesのレーベルメイトでもあるエクスペリメンタル・ラップ・デュオModel Homeの2人が受け取り、再構築し、オーバーダブを施して完成させた異色のコラボレーション作。もちろん大正解。


YL - Don't Feed The Pigeons
先月のThe Pigeonsに続く鳩案件。NYCのヒップホップ・コレクティブRRRのラッパーYLの新作。Roper Williams, Junie, RRRの盟友Zoomo, eyedressらがビートを提供。YLがセレクトするビートも、彼のレイドバック気味のフロウも思わずリピートしたくなる心地よさ。Zoomoと組んだ昨年の『In Memory Of』も傑作だったので聴くべし。


Youth Lagoon - Heaven Is a Junkyard
アイダホのミュージシャンTrevor Powersが8年ぶりにYouth Lagoon名義で新作をリリース。Youth Lagoonというプロジェクトを終了させてからも、本名で作品を発表していたのは知っていたが、2011年のデビュー作『The Year of Hibernation』は、やはりリアルタイムでじっくり聴いていた思い出深いアルバムであり、たとえ彼がYouth Lagoonという檻に再び入り込んだのだとしても、それは特別な魅力を放っている。ノン・ボーカルの前作『Capricorn』を発表したあと、市販薬の重度の副反応によって8か月ものあいだ声を発することができず、体重は13キロ近く減り、死んだような気分で生きていたという彼が再び特異なボーカリスト/ソング・ライターとしてカムバックするのも自然な成り行きのような気もしているし、今までのディスコグラフィーの中で最もボーカルにフィーチャーした作品になっているのも頷ける。


今月は以上!上半期ベストアルバムとかは特にないですが、上半期ベスト・ジャルジャルタワーは『コンビニのトイレの小窓から帰る奴』です!ありがとうございました。

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