NEW MUSIC TROLL - MAR '24

やります! 

Adrianne Lenker - Bright Future
Lenkerの歌を聴いていると救われたような気持ちになることがある。あるいは、この音楽には救われた(この先救われる)たくさんの人たちを思う。本作のオープニングに置かれた"Real House"はまさしくそのような歌だった。Nick Hakimの抑制的な美しいピアノの音に乗せてLenkerは子供時代を回想する。澄んだ空気、夜が流す涙のように輝く星、映画が見せる人類の最期、空を飛ぶ夢、愛犬の死と父の涙。ある日の午前中にこの曲を聴いていて、ふとそのような気持ちになったのだった。


Alena Spanger - Fire Escape
バンドTiny Hazardのリード・シンガーだったブルックリンのSSW。特徴的なボーカルが魅力だが、フォーク~シンセ・ポップ~チェンバー・ポップさらにはアンビエント/ニューエイジっぽいテクスチャーを混ぜ込んだアレンジも面白い。ケイト・ブッシュっぽいなと思ったら、10年前にケイト・ブッシュのトリビュート『Running Up That Hill: Kate Bush Covers for Reproductive Rights』に参加していて納得した。



Anysia Kym - Truest
Jadaseaとのジョイント・アルバム『Pressure Sensitive』を昨年紹介したブルックリンのプロデューサーAnysia Kymの新作。今作は初めて彼女自身のボーカルが全面フィーチャーされ、Liv.e的なオルタナティブR&Bシンガーとしての才能を発揮している。なんでもできちゃうんだな。


Arushi Jain - Delight
@modularprincessことインド生まれのシンセシスト。Leavingからのデビューとなった前作『Under the Lilac Sky』と同様に故郷の伝統音楽であるラーガとニューエイジ/ドローンを基本に、今作では生の管弦楽器やボーカル、さらにクラブ対応もできそうなビートも積極的に導入している。四つ打ちキックが恍惚を喚起する"You Are Irresistible"は完ぺきなエンディングだ。


AyGeeTee & The Actress Pets - About You
ロンドン在住アフリカ・ルーツ(?)のDIYミュージシャンAyGeeTeeことAndrew G ThomsonがKit Recordsからリリースした新作。「ほとんど方法論がない」と自説する掴みどころのない音楽性("hip-hop ambient tropical folk"とタグ付けされている)は、フォークトロニカ、ローファイなヒップホップ・ビート、シンセ・アンビエントなどを横断する。


Basque - Pain Without Hope of Healing
カナダの4人組スクリーモ・バンドの1st。ポスト・ロック~マス・ロック系激情POST HCですね。東京のSkramzレーベル3A RecordsがCD販売中。


Beachers - Off the hook
テープ・レーベルBezirk Tapesのオーナーであり、The QuietusやBandcamp Dailyでコラムを執筆するライターでもあるDaryl Worthingtonのプロジェクト。職場に置いてある電話が発するビープ音のみを用いて作曲された、いわば"オフィス・ミニマル音響"作品。同僚が帰宅した後の他に誰もいないオフィスで密かに鳴っていた電話の音に気付き、その不気味さからインスピレーションを得て制作されたのだという。


BEANS - ZWAARD
映画『アザー・ミュージック』でアザー・ミュージックの従業員として働きながら自分のアルバムを客に押し売りしていたという素敵なエピソードが語られていたベテラン・ラッパーBEANS(ex-Antipop Consortium)の最新ミックステープ。プロデュースは『Multila』がダブテクノ名盤として名高いVladislav DelayことSasu Ripattiが担当。50歳を過ぎた自身の老いをネタにしながら(「生え際が首と握手しようとしている」!)、それでもアグレッシブなフロウとリリック。かっこいい。Bandcampページに歌詞が載っているので軽くでもいいから読んでみてほしい。


bedbug - pack your bags the sun is growing
LAのベッドルーム・ローファイ・プロジェクトbedbugの新作。4月に奇跡の来日ツアーを果たしたYour Arms Are My Cocoon(もちろん観に行った(涙)!)がThe Brave Little Abacusとともにフェイバリットに挙げているように、あるタイプの人間の心には猛烈に食い込む音楽であり、僕はそういうタイプの人間だ。俺はこういう人間だ(©ビッグダディ)。そうだ俺たちみんな初期Modest Mouseが大好きなEMOキッズ (in the bed)だったことを思い出そう。


Bianca Scout - Pattern Damage
マンチェスターのアンビエント・レーベルsfericからダンサー振付師としても活動するBianca Scoutの新作。1分間にわたる音のコラージュ"Intro"を潜り抜けると、ロンドンのレーベルEcstatic(Not Waving, Romance)を連想させるモダン・クラシカル・アンビエントが聴こえてくる。昨年のソロ作品が素晴らしかったMun Sing(Giant Swan)のギターをフィーチャーした次トラック"Midnight"はGrouperや静香を思わせるメランコリーなアンビエント・ポップ。これは私が望んでいるものです。アートワークも◎。


Bill Orcutt Guitar Quartet - Four Guitars Live
2022年にBill Orcuttが発表したソロ・ギター作『Music For Four Guitars』を演奏するために結集した強力ギター・カルテットのライブ・アルバム。Ava Mendoza, Wendy Eisenberg, Shane Parish(昨年度9月編で彼の参加したアルバム『On and Off』を紹介)、これら全員フリージャズ界やエクスペリメンタル・ギター界では名の知れたスペシャリストである。2023年に公開されたTiny Desk Concertでこの4人の演奏を観て心底感動したわけなのだが、同年11月に行われたオランダのフェスLe Guess Who?での演奏が待望の音盤化。最高なので言うことなし。最高なので僕が働いているレコード・ショップの輸入仕入れ担当に仕入れるように要望して無事仕入れたのに、店では誰も買っていきません!東京の音楽オタク、どうした?でも、実験音楽マニアの外国人観光客とは「Orcuttのこれ最高!年ベス!」って盛り上がったので温かい気持ちになりました(実験音楽マニアの外国人観光客と話すのはとても楽しい)。


Carme Lopez - Quintela
全国のバグパイプ・ドローン・ファンの皆様、お待たせしました!Éliane RadigueやPauline Oliverosといった偉大な先人の影響や、現代奏法にもアプローチしたバグパイプ・ドローンの新たな傑作です。Carme Lópezはスペイン・ガリシアの伝統音楽の演奏家であり研究者。ガリシア地方がケルト文化圏であるということも本作をきっかけに初めて知る。


Chastity Belt - Live Laugh Love
昨年10月編で予告した我らがChazzyの5年ぶり新作。2010年に大学の同級生4人で結成したこのバンドは、シアトルで"Pussy, Weed, Beer"と騒いだり、"Cool Slut"(このMVが本当に大好き)を名乗ったりしてriot grrrl風味のスラッカー・ロックを(お遊びの延長で)鳴らしていた。それから10年経った今では4人は別々の街に住んでいる。real life doesn’t feel real anymore ("Hollow"), stare into to the mirror and meet my shame ("Kool-Aid"), why does everything normal feel so bad ("Blue") 作品を経るごとに内省的になっていくChastity Beltの音楽は、まるで成長痛のようだ。前作のツアーを終えてからは、全員で集まるのは年に1回か2回だった。本作は2020年からの3年間で行われた3度のセッションの最中にレコーディングされた。メンバー全員が作曲に参加し、ときには楽器を持ち替え、全員でボーカルを取る。"Laugh"でメイン・ボーカリストのJulia Shapiroはこう歌う。"when I lose myself again with the little thoughts in my head, remember that summer we spent living instead. I wanted it to last, but it’s all in my head." 友情が途切れるわけではないけれど、あの頃のことが懐かしい…。実際には2021年の夏のことを歌っているそうだけど、昨年リイシューされたデビュー作『No Regrets』の10周年記念盤を聴いたあとでは、このラインはバンドが経てきた10年間と重なってノスタルジックに響くだろう。アルバムのタイトルに据えられた"Live, Laugh, Love"という安易で陳腐なスローガン(Viceは嘲笑の対象としてこれを取り上げた)は、逆張り的アイロニーとマジなwanna doを見事に表現していると思う。まあとにもかくにもこの4人が集まったら最高なわけ!以上!


Cindy Lee - Diamond Jubilee
カナダのポストパンクバンドWomenのメイン・ボーカルだったPatrick Flegelは(ステージ上での喧嘩、メンバーの突然死を経た)バンドの解散後、Cindy Leeというドラァグ・クイーンのペルソナを生み出した(残りのメンバーはViet Congを結成、のちにPreoccupationsに改名)。Womenがカルト・バンドだったのと同様に、Cindy Leeも同様に妖しいカルト・アクトだったが、本作がYouTubeとGeoCitiesでリリースされるとRate Your Musicで2024年トップ・アルバムに押し上げられ、批評メディアPitchforkではここ数年の最高スコアを獲得した。予定されていたツアーのチケットはみるみるうちに完売。今回のトータル2時間にも及ぶ長大な新作はSpotifyをはじめとするストリーミング・プラットフォームでは提供されておらず(上記のGeoCities上でFlegelはSpotifyのCEOを"A THIEF AND A WAR PIG"と罵っている)、この反資本主義に基づいた成功は今年のアンダーグラウンド・シーン最大トピックになっている。しかし、Flegelはツアーの日程を中途ですべてキャンセルした。R&BシンガーのYaya Beyは、Pitchforkによるインタビュー上で、Pitchforkが彼女のアルバムにBest New Musicを与えたあとで多くの白人インセル男性がショーに来るようになり、彼らは彼女がステージ上で表明する政治的意見に激怒し不満をぶつけてきた、と語っている。Flegelがツアーをキャンセルした理由は明かされていないが、本作の予想以上の広まりが困惑を引き起こしていることも想像には難くないだろう。そして、ここまで私が音楽そのものに関する話を全くしていないことにお気づきか?大層なことは思い付かないが、Flegelの古き良きヴィンテージ・ポップ(モータウン or フィル・スペクター)調のポップ・サイケデリア的アプローチは、たとえば去年のDamien Juradoのアルバムや(偶然だがJuradoには“Cindy Lee”というタイトルの楽曲がある)、先日リリースされたJessica Prattの新作にも通じるものがあり、こうした過去志向的な表現が目立つのは面白いと感じている(Lana Del Reyがヘッドライナーとして出演した今年のコーチェラでThe Caretakerの音楽を装置として使用したことも思い出そう)。 


DJ Anderson do Paraíso - Queridão
ブラジリアン・ファンク/バイレファンキの文脈から2015年頃に発生した"ファンク・ミネイロ"という新たなシーンにおいて頭角を現したブラジルのDJ/プロデューサー。Crack Magazineがこのファンク・ミネイロを紹介した「Deeper and Deeper: Funk Mineiro」という記事を公開しているので詳しくはそちらを参照していただきたいが、リオ・デ・ジャネイロから北に250マイル以上離れた場所にあるブラジル初の計画都市であるベロ・オリゾンテの「ファヴェーラ(ブラジルでスラム・貧民街を意味する)」が発祥の地とされている。「ドラッグとお祭り騒ぎを讃えるヴァース」と「よりミニマルでアンビエントなアレンジとリヴァーブ」が特徴の「リズムを削ぎ落した」、「よりスローで催眠的な」「伝統的ブラジリアン・ファンクの新たな解釈」。嚆矢となった楽曲はDJ SwatとDJ Vinicin do Concórdiaの"Sacanagem Toda Hora"やMC Denninの"Viciei Nessa Garota"。2012年ごろから作曲を始めたParaísoもこうしたシーンの形成に大きく影響を与えたうちの一人である。今年いちばん興奮したアルバムのうちのひとつです!


Drum Wife - Drum Wife
ポストパンク・バンドCowtownでも活動するリーズの実験ミュージシャンYakkida!ことHilary KnottとMenace BeachのボーカリストLiza Violetによる即興ノイズ・ロック・デュオの初作品。UKのカセット・レーベルLiquid Libraryとメキシコのカセット・レーベルSilencio EPIの共同リリース。関係ないけどDrum Wifeって聴くとマダムロスというバンドのDrum & Vo. Tamakiさんが頭をよぎる。井口奈巳監督の最新作『左手に気をつけろ』に出演しているそうです(そういえば去年高円寺ドムスタでマダムロスを観たときに井口監督が来ていた!)。


Duncan Blachford - Ill-Prepared Piano
"Ill-Prepared Piano"というタイトル通り、オーストラリアはソーンベリーにある工業地帯のとある倉庫の前の路上に捨てられていた朽ちかけのピアノを使って録音された作品。風雨にさらされてボロボロのピアノは演奏の最中にも壊れていき、外れた鍵盤がカタカタと音を立て始め、その不協和音は周囲の環境音(工場の作業音、従業員の話し声、鳥の鳴き声、etc...)と混ざり合う。5曲目の"After Hours"は、そのピアノが撤去されたあとに演奏が行われた場所で録音された11分のフィールド・レコーディングで、幻想から醒めたあとのような素晴らしいエピローグになっている。傑作!


Earth Flower - Earth Flower
昨年の8月編でアルバム『Alive People』を紹介したシンガーソングライターRuth Garbusと皆さんご存じSam Gendel、彼のコラボレーターであるパーカッショニストPhilippe Melansonの3人によるユニット。Gendelはサックスではなくシンセで参加。やはりGarbusの歌声が素晴らしいエクスペリメンタル・ポップ。


Feldman/Wolff/Eisenberg - The Possibility of a New Work for Electric Guitar
サンフランシスコの現代音楽レーベルOther Mindsがリリースした12インチEP。Side Aには、モートン・フェルドマンが作曲した"The Possibility of a New Work for Electric Guitar"のクリスチャン・ウォルフによる1966年の演奏と、Bill Orcutt Guitar Quartetの一員でもあるギタリストWendy Eisenbergによる2022年の演奏を収録。Side Bにはウォルフがフェルドマンへのトリビュートとして作曲した"Another Possibility"のEisenbergによる演奏が収録されている。


Folklore Tapes - Ceremonial County Series Vol​.​I - West Sussex | Cheshire/Ceremonial County Series Vol​.​II - Suffolk | Dorset
民俗学研究の視点からイギリスの伝説・神話・オカルトを再解釈するFolklore Tapesの新プロジェクト"Ceremonial County Series"が始動。イングランドに存在する48の郡それぞれに伝わる伝説をモチーフに、48組のアーティストが楽曲を制作、24ヶ月に渡ってカセットテープとしてリリースされていくものである。かつて「アメリカ50州それぞれのアルバムを作る」とぶち上げたスフィアン・スティーヴンスという珍奇な男がいたが(ミシガンイリノイの2作でストップ)、こちらはしっかり48曲発表されるだろう!昨年末にアルバム『tollard』を紹介して年間ベストにも選んだmemotoneがVol​.​IIでドーセット州を担当しているが、もう片面のArianne Churchmanによるサフォークも素晴らしいです。現時点でVol. IVまでリリースされているので、気になる人はレーベルのBandcampページをフォローしよう。


Francisco Meirino - The Mute Fortress
おなじみスイスのサウンド・アーティストFrancisco Meirinoの最新作は左から右、上から下、近くから遠く、ステレオ空間を動き回るノイズ音響実験。もちろんヘッドフォン推奨ですが、1万円チョイで買ったBluetoothのモニタースピーカーで聴いても楽しいです。


Heavee - Unleash
シカゴのフットワークDJ/プロデューサー。Hyperdubからは初となる2作目のフルレングス。リズムの追求とサウンド・コラージュ的な遊びとメロディックなシンセの折衷が◎。中村卓也の渋いトランペットをフィーチャーしたエンディング"Smoke Break"とか至福。


Jasmine Wood - Piano Reverb
アイルランドのピアニストJasmine WoodがAD93からリリースしたデビュー作。ダブリンの廃教会を巡るうちにその空間に魅了され、そこへアンティークのグランド・ピアノを持ち込んで録音された。その際、Woodは鍵盤を弾いた時のアタック音をオミットして空間に漂う不安定な残響音だけをキャプチャした。そのリヴァーブは編集・再構成され、ときに別の楽器やフィールド・レコーディングも混ぜ込みながらドローン・アンビエントとして完成させられた。まずもってコンセプトの勝利だし、ジャケットに映るWoodの出で立ちも何とも言えず良いではないですか。


Kelby Clark / Hal Lambert & Mitchell Mobley - Kelby Clark / Hal Lambert & Mitchell Mobley
サウスジョージアのバンジョー弾きKelby Clarkとバトン・ルージュのギター&ドラム・デュオHal Lambert & Mitchell Mobleyのスプリット・カセット。27分半におよぶClarkのメディテーティヴなサイケデリック・アメリカーナも良いが、Lambert & Mobleyがしょっぱなニュージーランドのノイズ・ロック・レジェンドThe Dead Cのカバーから始めるのでオレ大喜び。よくよく考えればLambertが運営する自主レーベルのTentative Powerという名もThe Dead Cからのいただきであったのだ。ちなみにThe Dead Cの代表作『Harsh 70's Reality』(タイトルがかっこよすぎる)が近々ひさびさにヴァイナル・リプレスされるので買い逃していた方は確実に入手してくれ!


Kevin - Laundry
ブルックリンのアンビエント作家Ben BondyとWest MineralのレーベルメイトでもあるMister Water Wetによる新ユニット。Bondyが昨年来k2dj名義で発展させてきたボーカル志向が、従来のアンビエントなテクスチャーも用いながらclaire rousayの最新作とも通じるようなスロウなベッドルーム・ローファイ・フォークに結実した魅惑的なアルバムになっている。


Lamplight - Lamplight
ブルックリンのシンガーソングライターIan Hatcher-Williamsによるソロ・プロジェクトのセルフ・タイトル1st。ニューヨークのインディー・フォーク・バンドLightning Bugのメンバーがプロデュース、エンジニアリングでバックアップする。


Laughing Clowns - Law of Nature (2024 Remaster)
オーストラリアのパンク・レジェンドThe Saintsの初代ギタリストEd Kuepperが脱退後の1979年に結成したLaughing Clownsの1984年2ndが再発。サックスやエレピを導入したプログレッシヴなポストパンクでKuepperのロバート・スミスっぽいボーカルも含めてユニークだが、後に前衛ジャズ・グループThe Necksを結成することになるピアニストChris Abrahamsが参加しているのも見逃せない。


(Liv).e - PAST FUTUR​.​e
mejiwahnがプロデュースしたデビュー作『Couldn't Wait To Tell You​.​.​.』でネオソウル・シンガーとしてデビューし、昨年の『Girl In The Half Pearl』ではプロデューサーとしてもアヴァンギャルドな才能を印象付けたが、独力で作り上げた本作では80年代ニューウェーブ/シンセウェーブやってて驚愕。今年1月にキム・ゴードンへのトリビュートとして公開していたSonic Youth "Kissability"のカバーも素晴らしかったんだけど、ゴードンへのリスペクトは本作のボーカル・スタイルにも十分見てとれる。いや前々から好きなシンガーだったが、こんなヤバい奴だとは思ってなかった。最高。一方のキム・ゴードンは新作『The Collective』でヒップホップやってるのもめちゃクールい。


Lolina - Unrecognisable
もはや元Hype Williamsという注釈も必要ないだろう、Inga CopelandことAlina Astrovaによる現行プロジェクトLolinaの最新作が自身のレーベルRelaxinから。本作は二人のレジスタンスが主人公のディストピア物語『Unrecognisable』の第3章と銘打たれている。第1章はサウンド付きグラフィックノベルとして公開され、第2章はライブで即興演奏された。複雑化するDAW時代に逆らうように、Astrovaは本作のほぼ全てを1987年製のサンプリング・キーボードCASIO SK-200で作曲(1.62秒のサンプリング時間、20のプリセット・ビート、49の鍵盤)。彼女にとってこの制約はむしろクリエイティビティを加速させる。CASIOのサンプリング・キーボード欲しいかも!


Low Altitude - Boat
ウェールズ在住のミュージシャンBruce Magillによるアンビエント・プロジェクト。00年代にSuperqueensというユニットでの活動を終えて以来音楽制作からは離れていたというが、コロナ禍をきっかけにして作曲を再開。2022年のアルバム『Waves』と同様、本作もフィールド・レコーディングを用いた水生の穏やかなシンセ・アンビエントです。


mary sue - Voice Memos From A Winter In China
本ブログではおなじみ!シンガポールのラッパー/プロデューサー/フォトグラファーMary Sueの新作。タイトルが表すように中国で行ったツアーにインスピレーションを受けて制作された。"Expired Toffee 过期的奶糖"では北京語でのラップを披露。本編後にはiPhoneで録音した深圳でのライブ音源も収録されている。収録曲"Sortaaa"のMVには同じくシンガポール出身のプロデューサーfailtrylagiが出演しているのだが、そこで彼が着ているのがSlauson Malone 1のロンT。[sLUms]周辺を嚆矢とする米国アンダーグラウンドやバーミンガムのTony Bontanaとの交流などから常に影響を受けながら("Winters Love"ではKing Kruleのネームドロップも。)、最高を更新し続けている。



MIKE & Tony Seltzer - Pinball
そのMary Sueに大きな影響を与えたMIKEは新作でメインストリームのトラップ・ビートに挑戦している。プロデューサーのTony SeltzerはMIKEのブレイクスルー作『MAY GOD BLESS YOUR HUSTLE』でも2曲でビートを提供しているが、昨年の大作『Burning Desire』から今作へのシフトチェンジはたしかにちょっとしたサプライズだ。


Moor Mother - The Great Bailout
昨年フリージャズ・ポエトリー・グループIrreversible Entanglementsとして『Protect Your Light』という傑作をリリースしたが、この名義では2022年の『Jazz Code』以来のアルバム。ここで彼女は、1833年にイギリスにおいて奴隷制が廃止された際に元奴隷主に対して20000000ポンドという大金が"保証金"として支払われた歴史的事実に注目し、欧州の植民地主義のトラウマを検証している。今回もゲストの顔ぶれが非常に面白い。まず昨年アルバム『Oh Me Oh My』でコラボレートしたLonnie Hollyと再び共演。そしてオハイオのクィア・シンガーKyle Kiddをフックアップ。さらにInternational Anthemの前衛ジャズ・アーティストAngel Bat Dawid。こうしたゴスペルやジャズに近しいアフロ・フューチャリストのコミュニティと、元Wolf EyesのAaron Dillowayや元Burning Star CoreのC. Spencer Yeh、イラン出身の兄弟デュオSaint Abdullahといったノイズ/エクスペリメンタル・シーンを結びつける。結果的に本作は彼女のディスコグラフィ上でも最もダークでアブストラクトなアルバムになっている。


more eaze, pardo & glass - paris paris, texas texas
claire rousayのマブダチでOrange MilkやLeaving、Ecstaticといった実験レーベルを練り歩くMari Mauriceことmore eazeとイタリアの実験レーベルOOH-soundsのボスPardoことMichele Pauli、フランスのエレクトロニック・デュオGlassのコラボレーション作。まずGlassの片割れHugo Lamyの即興ギターとPardoのリアルタイム・エフェクトによるセッションが出発点となり、OOHが提唱するところの"soft noise"なギターアルバムとして本作の原型が制作される。そこへ追加ボーカルを打診されたMauriceは、トレードマークのオートチューン・ボーカルだけではなく買ったばかりのペダル・スティールの音色をぶっこんで二人を驚かせたという。結果的にヴェンダースの名作『パリ、テキサス』を参照した、メランコリックなアンビエント・アメリカーナの傑作が生まれたのだった。大変オススメです!


NAH - TOTALLY RECALLED
ラッパーWikiとの仕事が馴染み深いフィラデルフィアのプロデューサー兼ドラマーMike Kuun a.k.a. NAHの新作。切り刻んだボーカルサンプルとフットワーク風のプログラミング・ビート、そして生の人力ドラムを組み合わせた怒涛の実験エレクトロニック・アルバム。先行シングル"I Don't Think This Will Ever Be Over"の本人出演によるMVもビザールで素晴らしい。


Oisin Leech - Cold Sea
フォーク・デュオThe Lost Brothersとして活動してきたアイルランドのミュージシャンOisin Leechの初ソロ作。米SSW/ギタリストSteve Gunnが全面プロデュースし、長年ボブ・ディランのツアー・バンドの一員として活躍するベーシストTony Garnierも参加する。ときにシンセサイザーによるアンビエントなテクスチャーも用いながら、Nick Drakeも彷彿とさせる親密なアイリッシュ・フォークを聴かせてくれる。ちなみにLeechという男、Arctic Monkeysが2006年に発表したシングル『Leave Before the Lights Come On』のB面に収録されているバーバラ・ルイス"Baby I'm Yours"のカバーでアレックス・ターナーとデュエットしている。


Pan American & Kramer - Reverberations of Non-Stop Traffic on Redding Road
Shimmy-discのボスにしてGalaxie 500や初期Low, Half Japanese, Daniel Johnstonを手掛けた名プロデューサーKramer(もちろん彼自身ShockabillyB.A.L.L., Bongwaterといったバンドで活動し、Buuthole Surfersのベーシストとしてツアーをし、素晴らしいソロ作品を残しているアーティストである)。2022年のソロ作品『Music For Films Edited By Moths』、それに続くLaraajiとのコラボレーション作『Baptismal』と、近年グッドなアンビエントを繰り出していた彼が、今回はMark Nelsonによるポスト・ロック~アンビエント・プロジェクトPan Americanとチームアップ。Nelsonの美しいギターとKramerのアンビエント・ドローンが融合した傑作です。


People Skills - Subalternity Interlude
昨年の7月編で前作『Hum of the Non​-​Engine』を紹介したフィラデルフィアの実験ミュージシャンPeople Skillsの新作。今作では得意の抑鬱的なボーカルは聴かれないが、やはりダウナーでローナー(loner)なアンビエント・ノイズ・ドローンが時間の経過を引き延ばすように1時間持続する。ミニマルなギターはスロウコア~ポスト・ロック的。個人的にはM4"Concrete Aegg"のチープなシンセのメロディーに心掴まれる。永遠にリピートしていたい。「サバルタンのインタールード」というタイトルは、もちろんガザ危機以降改めて注目されるスピヴァクやサイードといった思想家たちによるポスト・コロニアリズムへの言及であり、停戦の願いなのだろう。


Pissed Jeans - Half Divorced
Black Flag, Flipper, Jesus Lizardに連なるスラッジなノイズ・パンク・バンド結成20年目の6作目。2017年の前作『Why Love Now』では、いわゆる"有害な男らしさ"や男性特権とその不安について歌っていたが、今作では主に現代資本主義が呼び起こす怒りと憂鬱を、いつものように身近なモチーフでもってがなりたてている。終わりの見えない借金返済("Sixty-Two Thousand Dollars in Debt")、ジェントリフィケーションや気候危機その他による逃げ場のない世界("Everywhere Is Bad")、ナッジとテクノロジーの不安("Seatbelt Alarm Silencer")、etc...。そうした社会的・政治的な不満・不安をシニカルなユーモアに昇華する彼らの語りのセンスはいつも素晴らしい。特に私が感銘を受けたのは、画期的な反サピオセクシュアル・ソング"Anti-Sapio"です。


PTP - RESIST COLONIAL POWER BY ANY MEANS NECESSARY
GENG PTP a.k.a. KING VISION ULTRAが運営するPTP (Purple Tape Pedigree)のパレスチナ&ハイチ支援コンピレーション。95組のアーティストが参加しており、売上のすべてがgofundmeのUrgent support for medical professionals in GazaCultural Capital Haitiに50%ずつ寄付される。ガザ危機以後こうした寄付型のコンピレーションはいくつもリリースされていて、もちろん直接寄付できる窓口もあってそういうやり方で黙々と支援している人もたくさんいると思いますが、消費行動が支援に繋がるっていうのはやっぱり気軽。あるいはその反対にイスラエル支援企業に対するBDS運動も消費者として実践できる活動です(→BDS JAPAN)。一方、ハイチでも治安の悪化による人道危機が起きている(ハイチ武装暴力激化 「人が作り出した栄養危機」ユニセフ警鐘 12.5万人の子どもが重度急性栄養不良に瀕す)。ハイチの歴史に関してはハイチの歴史研究の第一人者である浜忠雄さんが昨年出した新書『ハイチ革命の世界史』がすごく面白かったのでオススメだし、ハイチ系アメリカ人ラッパーMach-Hommyがめちゃかこいいので聴くのもよろし。慈善行為に関しては、近年賛否のわかれる"効果的利他主義"あるいは"長期主義"といった観点からの検討に最近興味があるのだが、現代思想の2024年8月号で長期主義特集が組まれているので読もうと思います。社会運動に興味はあるが基本ROM専の僕みたいな人間は黙って勉強するしかない。

その他ガザ支援コンピレーション
Free Palestine: A Benefit Compilation For The Palestine Children's Relief Fund (Cindy Lee, Homeshake, A. Savage, Julie Doiron, Maria BC, etc)
Musicians for a Free Palestine (Deerhoof, Downtown Boys, Frankie Cosmos, Shamir, Squirrel Flower, Ted Leo, etc)
For Palestine (Eli Winter, Mutual Benefit, Told Slant, Wht Bonnie, etc)
・HATETOQUIT - Merciless Accelerating Rhythms - Artists United for a Free Palestine (Little Wings, Mount Eerie, John Andrews & The Yawns, etc)
NO MORE DEATHS​:​THAWABET (Eyeteeth, JoeJas, Nailbreaker, etc)
A HOMELAND DENIED: A Compilation for the Palestinian Liberation (Cloud Rat, Thou, Twitching Tongues, Coma Regalia, etc)
Just Cause Vol. 1 (YATTA, This Is Lorelei, MIZU, Ben Seretan, Lia Kohl, Lucy Liyou, etc)


Pure Shit - Reality Check
No AgeのDean Spuntが運営するPost Present MediumからLAの2人組ジャズ・パンク・バンドPure Shitの新作EP。スラッジなベースのリフとNo Wave-yなフリー系サックスの絡みがたいへんドープである。神出鬼没のPatrick Shiroishiもゲスト参加。


Qontinue - Gathered, By Here
昨年の3月編でデビューミックステープを紹介したトロントのラッパーQontinueの2作目!セルフ・プロデュースによるアブストラクト・ラップ。ボーカル・チョップを多用するR&Bサンプリングはdj blackpowerっぽい。シンガポールのMary Sueもゲスト参加。


Richard Teitelbaum - Asparagus
Oren AmbarchiのBlack Truffleから画期的なリリースが!アメリカのアニメーション作家スーザン・ピットの代表作『アスパラガス』のサウンドトラックが初の作品化。このアニメ自体は2019年のイメージフォーラム・フェスで観たんだが、全然普通にYouTubeで観られます。公開当時はリンチの『イレイザーヘッド』と2本立てでミッドナイトシアターに2年間かかっていたという。悪夢!Richard Teitelbaumはアメリカ生まれの作曲家で、モーグ・シンセサイザーを初めてヨーロッパに持ち込んだとされている。本作では、実際に劇伴として使用されたオリジナル版(Steve Lacy, Steve Potts, George Lewis, 小杉武久が参加)と、その基となったソロでの"European Version"を収録。ビジュアルの印象が強烈すぎてサウンドトラックについては素通りしていたが、改めて聴いてみると音楽もヤバかった。


Roc Marciano - Marciology
昨年プロデューサーとしてJay Worthyとジョイントした『Nothing Bigger Than The Program』は紹介しましたが、NYCアンダーグラウンドのキングMarciのソロ最新作が堂々リリース。AlchemistとAnimossが2曲ずつビートを提供している以外はすべてセルフ・プロデュースで、Larry June,  Flee Lord, Jay WorthyといったMarciをリスペクトする面々がfeat.参加する。中でもCRIMEAPPLEは"Killin' Spree"において、『Marcberg』『Reloaded』の2作を挙げながら、Marciに受けた衝撃をラップしている。たしかにMarciは2010年以降のアンダーグラウンド・シーン(特にGriselda周辺)に大きな影響を与えてきたのであり、アルバム・カバーに示されている"A cult..."という形容は相応しい。ドープなサウンドを示唆するノワール風のアートワークも◎。現役最高のヒップホップ・アーティストの一人だと思います。


Sea Urchin - Destroy!
ニュージャージーのDIYパンク・バンドSea Urchinのデビュー作!ガレージ・パンクやポップ・パンク、ハードコア、ブルース・スプリングスティーン、ミートローフのロック・オペラ、ミスフィッツ&ダンジグ、あるいは50~60年代に隆盛を誇ったポップスのスタイル"デス・ディスク"等に影響を受けた、自称"Sad Punk"のレコードである。ほとんどの曲は悲劇的な別れをきっかけに書かれ、その演技的な悲しみを自分自身で面白がりながら、さらに悲しみとバカバカしさを深めていったという。つまり、心の底から悲しみに浸りきるには自意識が余剰なのだ。「コメディ性を損なうことなく、シリアスな事柄の矮小化を回避する術を発見すること」とはバンドのプロフィールに書かれている文言だが、これはコンセプトの勝利であり、本作はその達成であろう。ユーモラスで大げさだが、ジョークというには切実すぎる。アルバムの最後に置かれた約12分に及ぶ大作ロック・オペラ"I Beefed it (On My Motorbike)"におけるマジすぎる熱唱を聴いてくれ。本当に笑えるから。素晴らしい、素晴らしい。


Turn On The Sunlight - Ocean Garden
LAのスピリチュアル~アンビエント・ジャズ・シーンで長きにわたって活躍するJesse PetersonとCarlos Niñoが2009年に結成したTurn On The Sunlightの新作。Moon Glyphからリリースされた前作『You Belong』から2年ぶりだ。Niñoは本作では2曲のみの参加となっているが、今年はLeavingから『Subtle Movements』、International Anthemから『Placenta』と個人名義で傑作を連発している。さらにはPetersonと共にAndre 3000『New Blue Sun』に、Shabaka Hutchingsのソロ作『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』にも参加。こうした2人の活躍ぶりはシーンの盛り上がりを感じさせる。東京のレーベルRingsからリリースされた本作は、金延幸子やララージ、Phil Ranelin、Dwight Trible、Jeff Parkerバンドのサックス奏者Josh Johnson、Sam Gendelなど様々なミュージシャンが参加。3月にはMoon Glyphからさらにもう一作『Canoga to Ha​ʻ​ikū』もリリースしているのでそちらも合わせてどうぞ。


Various Artists - Pieces For Sixth​-​Tone Harmonium
今年の1月編でWarm Winters Ltd.からリリースされたIan Mikyska & Fredrik Rastenによる『Music for Sixth​-​tone Harmonium』を紹介しましたが、新たな6分音ハーモニウムものがSub Rosaから立て続けに登場。前述のIan Mikyskaや故Phill Niblockなどチェコやその他の国の現代音楽家が新たに作曲した6分音ハーモニウムのための独奏曲を、今回も世界で唯一の6分音ハーモニウム奏者Miroslav Beinhauerが大車輪の活躍で演奏している。1928年に作曲されて以降、約90年間にわたって唯一の6分音ハーモニウム曲であったアロイス・ハーバの"Six compositions for sixth-tone harmonium, op. 37"もバッチリ収録。いずれやってくるかもしれない6分音ハーモニウム・ブームに向けて、これは押さえておきましょう!(適当)


Viv Corringham - Soundwalkscapes
1970年代後半から活動するイギリスのサウンド・アーティストViv Corringhamの作品がロンドンの実験レーベルFlaming Pinesより。彼女が数十年にわたって実践している"Sound Walking"、散歩のフィールド・レコーディングの最新の成果である。ニューヨークとロンドンの町を歩きながら、Corringhamは目に入った事物に対して語りや即興の歌で反応していく。僕なんかは寧ろ一人で街歩きをしているときのほうがよく喋り歌うようなタイプの奇人なのでサウンド・ウォーキングにも向いているんじゃないかと思うんだが、基本的には目に入った通行人や鳩に対する悪口とか「野菜を食べよう~」みたいなしょうもないオリジナル・ソングなのでモノにはならなさそうである。


Waxahatchee - Tigers Blood
Katie Crutchfieldのソロ・プロジェクトWaxahatcheeの新作。個人的には全編にわたって僕にとっての新たなギターヒーローであるMJ Lenderman(9月にソロ新作が出ます!)がフックアップされているのが一大トピックなわけですが、先行シングルで"Right Back to It"で堂々デュエットして、TVデビューまでしていて「おまえ本当にすげえよ」と思いました。名曲だしね。


3月編は以上です!さよなら、さよなら、さよなら。