NEW MUSIC TROLL - JULY

新譜紹介、7月編です!


7038634357 - Neo Seven
上海のGenome 6.66MbpなどからリリースをしてきたNeo Gibson a.k.a. 7038634357(自身の電話番号らしい)がBlank Forms Editionデビュー。やわらかいシンセの反復音+グリッチーなノイズ+幽かな加工ボーカルの連続的パターンといった趣のメロディックなアンビエント・トラック全7曲。M1"Winded"とM7"Perfect Night"における激ディストーション・ノイズが強い印象を与える。ボーカルを覆っていたそのノイズがジジジと故障を思わせるかのように途切れ、Gibsonの声が取り残されるような映画的エンディングが◎。


AJ Suede - Ark Flashington
1月編、3月編に続いて三度登場。シカゴのラッパーAJ Suedeの最新プロジェクトは全曲セルフ・プロデュース。Suede's ビートの十八番とも言えるボーカル・サンプルのセンスはやっぱりエグい。中でもエキゾなジャパニーズ歌謡曲サンプルは本作でもM2"Direct Currents", M3"Tesla Coil"で登場。しかし元ネタ不明!ピンと来た方、情報お待ちしております。M7"No Brainer"にはScallops Hotel(a.k.a. Rap Ferreira, f.k.a. Milo)参加。



Al.Divino - "SHEET MUSIC" VOL. 1000
マサチューセッツのアングラ・ラッパーal. divino、1月の三部作『Prkoswv』『Self Phone』『Power Pack』とBoriRockとの『MGNTK』に続く最新ミックステープ。 No Face prod.のカオスなオープニング"Loading Screen"→POI$UN 陽 prod.のダークなブーン・バップ"Dreamweave / Portals"で掴みは抜群。ブロンクスのラッパーBa PaceのコラボレーターThe Builderによるレイドバック系Boom "Quicksand"や盟友ESTEE NACKの参加曲も良い。


Anohni and the Johnsons - My Back Was A Bridge For You To Cross
ソロ作『Hopelessness』からは約7年ぶり、The Johnsonsを率いての作品としては『Swanlights』以来13年ぶりとなるAnohni Hegartyの新作フル。Daniel Lopatinまでも登用した実験的で痛烈なプロテスト(ドローン爆撃、オバマ、消費主義、男根主義、etc)を含む前作同様、曲の多くは政治的なメッセージを含むが、本作はそこへ慈悲と許し、優しさを導入したのだという。本作で彼女が志向したブルー・アイド・ソウルという複雑なジャンルについてや、重要なインスパイア元であるマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン』、前作からの変化、ジャケットに写るトランス活動家マーシャ・P・ジョンソンのことなどはTurnAtlanticのインタビューに詳しい。多くの曲でファースト・テイクを採用したというアノーニのボーカル・パフォーマンスは素晴らしく、じわじわとボルテージを上げていくソウルフルなM4“Can't”は個人的ベスト・トラック。かつて名曲“Fistful of Love”で共演した故ルー・リードとの会話を元に書かれたM3“Shilver of Ice”も感動的だ。アルバム自体ももちろん年間ベスト候補。20年にリリースされたグロリア・ゲイナーのディスコ・クラシック“I Will Survive”の荘厳なカバーも未だに忘れがたい。3月編で取り上げた、90年代にアノーニが主催したアングラ・パフォーマンス集団Blacklips Performance Cultのコンピレーションも今一度チェックされたし。



anonymous - Fontana
フィラデルフィアの実験レーベルNo Rentから大変な企画モノが。アメリカ人もしくはアメリカ在住の匿名アーティスト18名が、ジョン・ケージの代表的テープ・コラージュ作品"Fontana Mix"をソースに楽曲を制作したノイズ・コンピ。各アーティストに課せられた条件は、(1)7日間以内にマスターを提出する、(2)シングル・テイクのライブ録音、(3)自身の真正なスタイルを誇示すること、であった。送られてきた素材をNo Rent主催のJason Crumerが90分、60分、30分というカセットテープのフォーマットに合わせて均一の長さにカット。カセット3本分・全長3時間弱の大作となっている。基本的にはアブストラクトなハーシュ・ノイズ/パワー・エレクトロニクス路線といってよいが、しかし同じソースを元にしているからこそ、そこに確かに個性(らしきもの)が浮かび上がっており、ライナーノーツで提案されているように"利きノイズ"的な楽しみ方も可能。先月紹介した仲山ひふみ論考と合わせて、ノイズ・ミュージックと対峙する姿勢を正されるような作品であった。


Ava Rasti - Ginestra
UK実験レーベルFlaming Pinesより、テヘラン在住のイラン人アーティストAva Rastiのデビュー作品。元々はアンダーグラウンドなガールズ・ポストパンク・バンドでベースを弾いていたRastiは、2020年からモダン・クラシカル/アンビエント/ドローンに傾倒したソロ・プロジェクトを始動。本作は、バッハ、シベリウス、ベートーベン、マーラーといったクラシック曲をサンプルに用いた「歴史の美しい瞬間を破壊した結果」という全6曲。Leyland Kirby a.k.a. The Caretakerの手法にも近い、ノスタルジーを人質にとったダーク・アンビエント。


B L A C K I E - cassette tape music
ヒューストンのラッパーB L A C K I E(場合によっては"B L A C K I E... All Caps, With Spaces"と丁寧に表記されることもある)の最新ミックステープ。20年~21年にかけての『Face The Darkness』シリーズ以来ひさびさのリリースとなった。彼の音楽の美点は何といってもノイズ/インダストリアル系の激ヘヴィなトラックと、声帯がちぎれんばかりに怒りや欲求不満をぶちまけるRAWなヴォーカル・パフォーマンスにあるが、今作も凄まじい迫力。全10曲13分半、"catharsis only"。最高。


bod [包家巷] - NONWARE 空​件​提​高
5月編でも取り上げたベルリン在住のオーディオ・ビジュアル・アーティストbod [包家巷]の最新作。メランコリー系アンビエント/ノイズ。例によって本作でもショート・ムービーが制作されているのだが、産業スパイ風の近未来SFで意外と面白かったです。


Chemiefaserwerk / Tim Olive - Der Hafen
エディンバラに新設されたカセット・レーベルMolt Fluidの第一弾リリースは、3月編で紹介した仏実験作家Christian Schiefnerの変名Chemiefaserwerk、カナダ出身神戸在住のTim Oliveによるコラボレーション作。互いの録音物を交換してそれぞれが編集・処理・ミックスを施した対話的ドローン/コラージュ。


Chris Corsano, Bill Orcutt - Play at Duke
13年の『The Raw And The Cooked』、18年の『Brace Up!』、21年の『Made Out Of Sound』等で素晴らしい即興ジャムを聴かせてきたデュオのライブ盤。22年に行われたThree Lobed Records設立21周年記念イベントでのパフォーマンス(大トリ!)が収録されている。Harry Pussy由来のパンキッシュなOrcuttのギターに呼応するCorsanoのドラミング、静と動、Orcuttのシャウト、カタルシスの持続、そして観客の反応。マジ熱い。この2名に2000年生まれの若手サックス奏者Zoh Ambaを加えた3人でのスタジオ録音作『The Flower School』も同時リリースされています!


The Clientele - I Am Not There Anymore
1991年結成UKインディー・バンドThe Clienteleの最新作。彼らの音楽といえば、ギャラクシー500由来のリヴァーヴの効いたドリーム・ポップ/ソフト・サイケであり、長いキャリアの中のどのアルバムを聴いても「クライアンテルだなー」という、確固たるスタイルを持つバンドだったのだが、チェロの音色とブレイクビーツ(!)で幕を開ける8分半のオープニング"Fables of the Silverlink"を聴けば、本作が彼らの長いキャリア史上最も実験精神に溢れた作品であることがわかるだろう。ところどころに挿入される"Radial"と名付けられた短いインタールードや、"Conjuring Summer In", ”My Childhood”, "The Village Is Always on Fire"でのスポークンワードといった試みは、過去の作品からするとずいぶん唐突に思える。Aqurium Drunkardのインタビューによれば、コンセプトらしいコンセプトはなく、「自分が作る最後の作品であるかのように、知っている全てを、愛するもの全てを注ぎ込んだ」結果、全19曲70分越えという長大な作品になったのだという。それでもやはり"Garden Eye Mantra", "Lady Grey", "Blue Over Blue", "Hey Siobhan"といった素晴らしい楽曲群にはバンドの本質が刻印されており、初期傑作群を愛するファンの心も離さない。LambchopのKurt WagnerやLowのAlanとMimiなど、キャリアの後年に尖ったことやり始めるベテラン・インディー・ミュージシャン、好き。


Cut Worms - Cut Worms
ブルックリンのシンガーソングライターMax Clarkeによるインディー・フォーク・プロジェクトCut Wormsのセルフ・タイトル3rd。ランタイム80分のダブル・アルバムであった前作『Nobody Lives Here Anymore』とは打って変わって、30分強のコンパクト・サイズにまとまったタイムレスなヴィンテージ・ポップ集。オープニングの切ないラブソング"Don't Fade Out"がフェードアウトで終わっていくアイロニーに胸がグッとなる。


Darlene - DON'T LOVE YOU BUT WANT TO
ブラジルのレーベルMunicipal K7より。サンパウロ在住のトラヴェスティ・アーティストDarleneによるエクスペリメンタル・ポップ作。21年に同レーベルからCrocodile Slim名義で発表した『Nascido em Swampland』はサンプリングやコラージュ主体の実験作品だったが、今作では冒頭からファルセットのボーカルを聴かせている。ラテン・アメリカにおける"Travesti"という語に関しては、英語版wikiを読むとなかなか複雑そうなのだが、Darleneの場合はトランスジェンダーと同義であろうと思われる。"DON'T LOVE YOU BUT WANT TO I"のMVでは、彼女が海から陸へと上がり、カメラに笑顔を向けて去っていく。Bandcampページのキャプションに載っている"To be travesti is to be somewhat amphibious, for me. "という彼女の言葉は、カバーアートに描かれた爬虫類のような生物のイラストにも反映されている。そこには、ノルウェーのアーティストJenny Hvalが2013年に発表した楽曲"Amphibious, Androgynous"において、両生と両性を併記したのと同様の感覚が見出せるだろう。キッチュにも感じられる攪乱的なDarleneの歌声は、そうした非バイナリーな在り様を発現させている。


The Dead C - The Operation of The Sonne/Tusk/The White House
ニュージーランドの即興ノイズ・ロック・トリオThe Dead Cが90年代にSiltbreezeからリリースした3作が現所属レーベルBa Da Bing!からついにアナログ・リイシュー!PavementのStephen Malkmusがかつてオール・タイム・ベストに選出した92年作『​Harsh 70's Reality』が取り上げられた今年5月掲載のPitchfork Sunday Reviewによれば、バンドのギタリストBruce Russellは「1995年頃には従来的な曲を書くことをやめた」と語ったことがあるらしいが、そうであれば今回復刻された3作はまさにフリー・ジャズ的即興ノイズ・ジャムに傾倒していく時期のものと言えるだろう。私的ベスト・トラックは『The White House』収録の約18分に及ぶ壮大なエンディング"Outside"。4月編で紹介したBill DireenTall Dwarfs、9月にSuperior Viaductが発売を予定しているPeter Gutteridgeなど、80~90年代のNZアンダーグランド・シーンの再発事業は比較的盛んに行われているが、私が猛烈にお願いしたいのはPeter Jefferies, Alastair Galbraithらによる短命バンドPlagal Grindが唯一残したEPの再発であります!寝て待つ!


Fatboi Sharif - Decay
ニュージャージーの変態ラッパーFatboi Sharifの最新プロジェクトは、近年鬼のようにビートを量産するプロデューサーSteel Tipped Dove(4月編ではAlaskaとの共作を取り上げた)とのジョイント作品。Roper Williamsとの『Gandhi Loves Children』を聴いたSteel Tipped Doveが自らSharifにコンタクトを取り、コラボレーションが実現したのだという。様々なタイプのビートを操るSteel Tipped Doveだが、今回はSharifの個性的な声やスタイル(B級ホラー映画への愛を付け加えてもよい)にフィットする不穏でサイケデリックなプロダクションを提示している。対するSharifも過去作に比べてよりラップらしいラップで応答。見事なコラボレーションになっている。Steel Tipped Doveは現在AJ Suede、さらにR.A.P. Ferreiraとの共作も準備中だとか。働きすぎ!


Guided By Voices - Welshpool Frillies
80年代から活動するデイトン, オハイオのインディ・ヒーローGuided By Voicesの2023年2作目。2004年の一度目の解散を経て、2011年に90年代のクラシック・ラインナップで再結成。短期間に6枚のアルバムをリリースするも、14年に2度目の解散。その舌も乾かぬうちの16年、Robert Pollardが独力でGBVを復活させると、17年以降は盟友Doug Gillardを含む現在のメンバーをバンドに加え、リリースのペースは更に加速。たいてい年に2~3枚のアルバムを発表するのが常となっている。Pollardの辞書にはおそらく"自己模倣"とかいう言葉はないのだろうが、聴いているこちらとしても最早そんなことは気にならない。あまりにも数が多いので…(ソロや別ユニットも含めれば、彼の書き残した楽曲の数は少なくとも3000曲に及ぶと言われている)。キャッチーなフックのあるメロディー、ワンアイデアを1曲のうちにきっちり使い倒す(ときに実験的で)インスタントなバンド・アレンジ、そしてPollardのアブストラクトなリリック。こうしたGBV特有のサイクルが常に回り続け、新しい音楽が次々と産み落とされていく。19年の『Sweating the Plague』、20年の『Mirrored Aztec』、21年の『Earth Man Blues』といった近年の良作群の中に、本作『Welshpool Frillies』も新たに加えたいと思う。90年代黄金期のアルバムに収録されてもおかしくなさそうな"Cruisers' Cross"、Pollardの傑作ソロアルバム『Kid Marine』を思い起こさせるメランコリックな"Chain Dance"、跳ねるドラムを切り開いてエモーショナルなメロディが現れる"Why Won't You Kiss Me"、ギターのシンプルなコードに乗せてPollardらしい掴みどころのない、そこはかとなく美しい詞が唱えられる"Mother Mirth"、代表作『Bee Thousand』収録の名曲"Smothered In Hugs"を思わせる哀愁イントロと曲後半のギターワークが印象的な"Better Odds"等、楽曲は粒揃い。GBVのファン以外に訴求するのものなのかはわからないが…。さて、そんなGBVファンを自負するそこのお前に朗報!90年代のGBVにおいてPollardのサイドマンとして数々名曲を残したギタリスト/ソングライターTobin Sprout(Pollardとの2人ユニットAirport 5も素晴らしい!)が、9月に『Demos And Outtakes 2』をリリース予定。うーん、これは非常に楽しみです!


Gunn Truscinski Nace - Glass Band
Gunn-Truscinski Duoとして数年来コラボレーション作品をリリースしてきたギタリストSteve Gunn(3月編でDavid Mooreとの共作『Reflections Vol. 1: Let the Moon Be a Planet』を紹介している)とドラマーJohn Truscinskiに、キム・ゴードンとのユニットBody/Headでも知られる実験ギタリストBill Naceが加わった強力なトリオ作。Gunn-Truscinski Duoにおけるサイケデリック・ロック的ジャムの感覚が、Naceに催眠でもかけられたかのようにスピリチュアルに変化しているのがすごく面白い。タッチの細かいギターフレーズの反復とヘヴィなドローンと渦巻くドラムとがグツグツと同時進行する11分半の大作"Fencer"が出色。


H​à​i Đ​ộ​c Tho​ạ​i - H​à​i Đ​ộ​c Tho​ạ​i (ph​ầ​n II)
4月編で取り上げたホーチミンのRắn Cạp Đuôiと並ぶ現行ベトナム・エクスペリメンタル・シーンの代表格Mona EviのメンバーLong TrầnによるユニットPilgrim Raidが全面プロデュースするヒップホップ・ユニットH​à​i Đ​ộ​c Tho​ạ​iの最新ミックステープ。JPEGMAFIAみたいだなーとは思うが、ベトナム語のラップすごいかっこいいから聴いてほしい。


Jessy Lanza - Love Hallucination
基本的にはダンス・ミュージックやクラブ・カルチャーを好まない(スティーヴ・アルビニほどではないが)私だが、完全に人を踊らせにかかっている陽気なハウス・チューンのオープナー"Don't Leave Me Now"→最近リバイバルしているらしい2ステップ・ビートの"Midnight Ontario"→最高のシンセ・ブギー"Limbo"というLanza流のダンス・ポップ三連打を前にしては、抵抗の術もない。というか、2016年の傑作『Oh No』以来、僕は一貫してLanzaのファンなのであった。「一度イッただけでは物足りない」「マラソンみたいに走ってみせて」と挑発するLanza自身が中盤でサックス・ソロを吹き鳴らし、挙句"I don’t think you’re very funny. Sorry."というキラーフレーズを囁くDIVAソング"Marathon"におけるセックスを題材にした辛辣なユーモアや、浮遊感のあるエキゾ&チルなトラックに乗せてひたすら自己嫌悪を吐露するシンセ・バラード"I Hate Myself"の対位法には心揺さぶれずにはおれないだろう。


jim o'rourke - steamroom 61
ジム・オルークさんの自主リリース・シリーズ『steamroom』のVol. 61。"Lazy Evaluation"と名付けられた約39分のドローン作品で、大まかに判別すると少なくとも5~6部の構成になっており、各シークエンスがグラデーション的に変化していく。およそ6分半続く不協和音ドローンの第一部と第二部のインタールードとして"You just cut my headphone!"などと男性同士が言い争うボイス・サンプルが用いられているが、これはTikTokerのイタズラ動画がソースであることが判明してウケた。シンセのパルスが刻まれる比較的耳心地の良い第二部がグリッチ・ノイズを浮かび上がらせながら15分過ぎの地点まで継続すると、第三部では再び不穏な不協和音が現れる。19分を過ぎると催眠的なチャイムが鳴り始め、薄く持続する高い周波数のドローンの上を、逆再生されたようなデジタル・ノイズや人間のものと思われる何とも知れない音声が群発的に転がり回っている。24分40秒当たりで一度静寂が訪れて以降は、クレッシェンド/デクレッシェンドを行き交う和音ドローンと何やらメタリックなノイズのせめぎあいが開始。31分を過ぎたあたりでドローン音は息をひそめ、静かに終曲を迎えていく。僕自身熱心なsteamroomリスナーではないのだが、今回の新作は非常に惹きつけられる作品であった。まあTikTokサンプリングが一番面白いけどな。あ、ジム・オルークさんはDrag Cityから映画サントラ『Hands That Bind』も出したので、そちらも忘れずに!


Jonathan Deasy + Matt Atkins - Circulation of Subtleties
フランスのカセット・レーベルFaltより、アイルランドのJonathan DeasyとイギリスのMatt Atkins両サウンド・アーティストによるコンクレート作品。リリースページに特にキャプションがないので制作プロセスは不明だが、おそらくテープループによる(リモート?)セッションあるいは物音のライブ録音も含まれるのかもしれない。静謐かつ不穏なチルアウト系ミニマル・アンビエント。


Julie Byrne - The Greater Wings
バッファロー出身のフォーク・シンガーJulie Byrne約6年半ぶりの3作目。2014年に出会って以降、公私に渡るパートナーであったEric Littmannが本作でもプロデュースを務めていたが、21年に彼が突然亡くなってしまい、制作は中断。レーベルのGhostly InternationalがJonsiとのユニットJonsi & Alexでも知られるAlex Somersと彼女を引き合わせてレコーディングが再開された。リヴァーブの効いた自然志向のサイケデリック・フォーク好盤であった14年のデビュー作『Rooms with Walls and Windows』以来、彼女の音楽は聴き続けているが、前作『Not Even Happiness』で部分的に用いられていたシンセサイザーが本作では大胆に導入されている。中でもシューゲイズ・ドローン作家Jefre Cantu-Ledesmaの参加が嬉しい。20年にLedesmaの素晴らしい楽曲“Love's Refrain”のリワークver.を連名でリリースしていたのが伏線となっており、本作ではその曲が“Hope’s Return”として新録されている。それに続く最後の曲“Death Is The Diamond”は本作において唯一Littmanの死後に書き上げられたもの。“Sign on Caravan East reads, "For you, anything". I guess it's a story so much greatеr than our own”という歌詞が本当に美しいと思う。


DJ Koze - Wespennest​/​Candidasa EP
来年発売予定だという新作アルバムのムードを予告する久々の新曲リリース。Pampa所属のシンガーSophia Kennedy(スコセッシ『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の名場面をオマージュしたMVでおなじみ)をフィーチャーした"Wespennest"、バリ島にある町の名前を冠したサイケデリック・トランス"Candidasa"の2曲。Kozeは来月発売になるRóisín Murphyの新作『Hit Parade』を全面プロデュースしており、そちらもめちゃめちゃ楽しみである。先行シングル"CooCool"とかすでに最高。ところで、Kozeが2018年に世に送り出したバンガー"Pick Up"にMurphyが参加したライブ映像は多幸感がすごくて僕はしょっちゅう見ているのでみんなも見てください。


L​ä​uten der Seele - Ertrunken Im Seichtesten Gew​ä​sser
ドイツの素晴らしい実験フォーク・デュオBrannten SchnüreのメンバーChristian Schoppikのソロ・プロジェクトLäuten der Seeleの新作がロンドンのレコード・ショップ兼レーベルWorld Of Echo(ラフ・トレードよりも行ってみたい!)から。多数のサンプルを用いたノスタルジックな長尺コラージュ/アンビエント全2曲。楽曲のイメージをビジュアル化したSchoppik自身によるMVも公開されている。


Marc Richter - Coh Bale
『資本主義リアリズム』のマーク・フィッシャーが評論集『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』で取り上げていたBlack To Comm名義でのアルバム『Alphabet 1968』でその存在を知ったハンブルクの実験音楽家Marc Richterの最新作。本作はその『Alphabet 1968』の続編として構想され、2011年から2015年にかけて制作された楽曲のコレクションになっている。調律の狂ったピアノ、ヴィンテージのシンセ、オートハープといった様々な楽器、そしてエレクトロニクスやボイス・サンプル、ときにオートチューン・ボーカルなど多様な音を解体・再構築してポスト・クラシカル・アンビエント。


Mary Sue - For Sure
Earl以降の現行NYアンダーグラウンド・シーンに非常に強く共鳴したスタイルを持つシンガポール出身ラッパー/プロデューサーmary sue(Siew Png Simの名前で写真家としても活動)の新作。Tony Bontana(a.k.a. SPEW)(SueとBontanaはその後Tony Sueとして共作『COAST TO COAST』も発表した), FATBOYDUPREE, Kip c, KINGAYEOといった海外のアーティストたちの協力を得て昨年リリースした『KISSES OF LIFE』『VOICE MEMOS ACROSS A COUPLE BODIES OF WATER』から翻って、本作は地元の仲間たちと制作され、生楽器も積極的に使われている。内省的なリリックも含めたNYC経由のスタイルを、自らに定着させていく探求のプロセスなのかもしれない。もちろんヘビーローテーションです。


Mike Cooper - Life and Death in Paradise + Milan Live Acoustic 2018
現在はRoom 40などからの実験的なギター作品で知られるMike Cooperだが、初期にはシンガーソングライターとして活動していた。2014年にParadise of Bachelorsが再発した『Trout Steel』(リチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』から採られている!)『Places I Know』『The Machine Gun Co. With Mike Cooper』の3作品によって僕自身も彼の素晴らしさを知ったわけだが、今回PoBが再びシンガーソングライターMike Cooperに光を当て、1974年リリースの最後のボーカル・アルバム『Life and Death in Paradise』を初リイシュー。Van Morrisonの傑作『Astral Weeks』を念頭に置き、英国在住の南アフリカ人ミュージシャンからなるビッグ・バンドBrotherhood of Breathの参加メンバーらとジャム・セッションを行いながら制作された全6曲。やっぱりCooperの歌は素晴らしい。フォーク・シンガーとしてのルーツに立ち返ったというライブ録音『Milan Live Acoustic 2018』が追加収録されている。


Natural Wonder Beauty Concept - Natural Wonder Beauty Concept
LA在住のアジア系ニューエイジ作家Ana Roxanneとアンビエント/IDMプロデューサーDJ Pythonによる新プロジェクト。遠いようで近い、意外だがしっくりもくる(Pythonは昨年Ela Minusがボーカルをとった『♡ EP』を発表している)不思議な組み合わせ。Roxanneの歌声は自身の音楽の中心的な役割を担ってはいたが、高速ブレイクビーツの上で歌うRoxanneを想像できただろうか("Natural Wonder Beauty Concept")。ラスト曲"World Freehand Circle Drawing"で聴かれるRoxanneのよりダイレクトでエモーショナルな歌唱も、"III"でのPythonのゆったりとしたラップも、それぞれ個人のプロジェクトでは起こりえないだろう。


The Particles - 1980s Bubblegum
1977年結成、8年の活動期間にわずか3枚の7インチしか残さなかったシドニーのインディー・ポップ・バンドThe Particlesのアンソロジー。もちろん今回初めて知ったバンドだったのだが、同時期のTelevision Personalities的なDIYパンク感覚にTwee & ポストパンクなガール・ボーカル…こんなものは好きに決まっている。21年に発掘再発されたメンバー全員10代の80sインディ・ポップ・バンドTangled Shoelacesもよかったし、Chapter Musicには今後ともこの路線のリイシュー企画を期待。


People Skills - Hum of the Non-Engine
SiltbreezeBlackest Ever BlackSophomore Loungeといったレーベルから作品をリリースしてきたフィラデルフィアのミュージシャンJesse DewlowによるプロジェクトPeople Skillsの2023年最新作。Graham Lambkin/The Shadow Rings(ついにBlack Formsから過去作2タイトルのリイシューアナウンスされた!)に多大な影響を受けているという、非常にアブストラクトなローファイ・エクスペリメンタル・フォーク(Lambkinが13年にリリースした7インチシングル『Abersayne / Attersaye』はこうしたコラージュ・フォーク路線の傑作である)。それだけでなく初期Smog(現Bill Callahan)や初期Lowといったスロウコアにも通じる感触もある。ほとんど言葉の判別がつかないほどまでに加工されたボーカルやドローン系ノイズの内にポップネスと叙情が秘められているのを僕は見過ごさない。21年リリースのThird Eye Blind "Semi-Chamed Life"やThe Cranberries "Linger"などが収録された恐るべきカバー集『Repeat Performance 377』を聴くと、彼の本質的なポップス志向が分かるだろう。過去作も良いのでぜひ聴いてくれ!


Present Electric - Present Electric
Television Personalitiesの楽曲"The Boy In The Paisley Shirt"にちなんで名づけられたサンフランシスコの素晴らしいDIYカセット・レーベルPaisley Shirt Records所属Present Electricの新作。同レーベルでひとりローファイ・バンドSad Eye Beatniksとしても活動するK Linnによる、よりエクスペリメンタル色を推し出した別プロジェクトである。Linn、Mike Ramos(April Magazine←本ブログ3月編で紹介, Flowertown)、Karina Gill(Cindy←本ブログ4月編で紹介, Flowertown)の三人によるバンドHospitalsのアルバム『Hospital II』も同時リリースされているので、僕のようなPaisley Shirt信奉者は忘れずに聴くように!


RETIREMENT - BUYER'S REMORSE
ポートランド出身の4人組ハードコア・ノイズ・ガレージ・バンド。シアトルの素晴らしいパンク・レーベルIRON LUNGから。同レーベルでリリースされた18年のホーム・レコーディングによるデビュー作『EP』以来となるアルバム『BLEED CITY』を3月に自主リリースしたばかりだったが、5年のブランクを埋めるように早くも新作が登場。「バイヤーの後悔」というシニカルなタイトル、"Life Debt", "Human Waste", "Death Sentence"といった期待感を煽る曲名から想像する通り、単に速さで勝負するのではないヘヴィ&ノイジーなひねくれ者のアウトサイダー・ハードコアで素晴らしい。


Sad Park - NO MORE SOUND
カリフォルニアのポップ・パンク/エモ・バンドのPure Noiseデビューとなる3作目。カナダのPUPや、あるいはボーカルであるGraham Steeleの声はかつて存在したNYCのインディー・バンドCymbals Eat GuitarsのボーカリストJoseph D'Agostino(Empty Countyとして秋に新作リリース予定)を思い起こさせる。


Shapednoise - Absurd Matter
イタリア出身ベルリン在住のプロデューサーShapednoiseが新たに立ち上げた自身のレーベルから発表した新作。「不条理な問題」と題された本作は、ShapednoiseことNino Pedonの身に起こった突発性難聴という経験そのものからインスピレーションを受けて制作されており、その結果、過剰な低音圧にとりつかれた非常に耳障りなエクストリーム・ノイズ・テクノ・ヒップホップ・アルバムに。Romanceとの共作『River Of Dreams』も素晴らしかったデヴィッド・リンチ作品のサウンド・デザイナーDean Hurley、Billy Woods & E L U C I DのArmand Hammer、アフロ・フューチャリストMoor Motherら、強力なゲストたちが参加しているが、中でもBruiser Brigadeの個性派ラッパーZelooperzがノイズに呑まれながらも意外にハマっているのが発見であった。迷わずヘッドフォンで聴くべし!


Silicone Prairie - Vol. II
Warm BodiesNatural Man Band、そして今年アルバムを出したSnooperのギタリスト(アートワークも担当)として忙しく活動してきたカンザスシティのミュージシャンIan Teepleによるソロ・プロジェクト。21年のデビュー作『My Life on the Silicone Prairie』に続いて、The Drin, Smirk, Crime of Passing, Spread Joy等を擁するシンシナティの素晴らしいパンク・レーベルFeel Itより。DevoライクなLo-fi ベッドルーム・ジャングリー・ポストパンク・サウンドにさらに捻りが加えられ、フルートの調べが爽やかなソフト・ロック調の"Mirror on the Wall"なんていう名曲も生まれる始末で本当に素晴らしい。11月末にまさかの来日ツアーが決定しているのでみんなで駆け付けよう!


Strange Ranger - Pure Music
Strange Rangerほど変化することに躊躇いのないバンドもなかなかいないだろう。Isaac EigerとFred Nixonの二人によってSioux Fallsとして結成され、自主リリース作『Lights Off For Danger』(僕は未だに1曲目"On the Bus In the Heat"なんか大好きである)などを経て、Modest Mouseの影響が非常に色濃い2LPの大作『Rot Forever』で2016年にデビューする(僕はこのデビュー作も10s USインディーの隠れた傑作だと思っている)。その後バンドは現在のStrange Rangerに改名。ポートランドからフィラデルフィアへ拠点を移し、17年にはアルバム『Daymoon』を発表。この時点でメンバーは今のラインナップとなっているのだが、こちらはまだSioux Falls時代の名残を感じさせつつも、初期Alex G的ナイーブさがIsaac Brock的鬱屈を中和するようなローファイ・ギター・ロックであった。EP『How It All Went By』を挟んでリリースされた19年の3rd『Remembering The Rockets』は、これまでバンドの主役であったギターがその場所を若干だがピアノやシンセに明け渡し、打ち込みドラムや短いインスト曲も導入された、新たなスタイルを感じさせるソフィスティケートされたポップ・ソング集であった(その当時のインタビューにおいて既にメンバーはYves TumorやOneohtrix Point Neverの影響を公言しており、僕はこのアルバムもまた大好きなのである)。そして、さらに冒険を推し進めて大胆にエレクトロニクスを取り入れた2021年の向こう見ずなミックステープ『No Light In Heaven』はバンドにとってのエポックとなり、拠点をニューヨークに移して現レーベルFire Talkとサイン。エクスパンデッド・バージョンにはBlaketheman1000らによるRemixも収録された。そして今回の『Pure Music』は、ダンス・ミュージックやIDMの薫陶を受けての荒療治的な変異を、M83やThe Cure, Talk Talkといったシンセ・ロックのメランコリーを養分にして自身のスタイルにチューニングしていったような、彼らのメタモルフォーゼの完了を示すような一作であった。Strange Rangerと名前を変えてからのアルバム・カバーを並べてみると、郊外の日暮れから都市の夜へと移り変わっているが、それはまさに彼らの現在地点を示しているのだった。


't Geruis - Terre- Poussière
昨年はLost Tribe Soundから『Slow Dance On Moss Beds』、LINEから『Vast』、LAAPSから『Bain D'Étoiles』と3作のグッド・アンビエントを提供してくれたベルギーのサウンド・アーティスト't Geruisが、UKの新設レーベルQuiet Detailsからリリースした新作。「地球、塵埃」と名付けられた本作は、たしかに全編がザラついたホワイト・ノイズに覆われている。その中でシンセによる低音域のドローン、高音域のメロディのループが繊細なテクスチャーを形成していく。William Basinskiが好きな方にはおすすめです。


UFOm - Aliens Are Real
ポートランドのアンビエント/ニューエイジ・レーベルMoon Glyphから、匿名アーティストUFOm(小規模の宗教団体と関わりがあるため匿名を希望したのだという)のデビュー作品。シンセ、エレピ、マリンバ、フルート、ラップスチール、そしてフィールド・レコーディング等のさまざまな楽器を多重的に使用した、素晴らしいコズミック・ニューエイジ。


Whettman Chelmets - Koppen
昨年リリースした『Joan』『Brunch』も素晴らしかった(特に『Brunch』!)オクラホマはタルサのアンビエント/シューゲイズ/ドローン作家Whettman Chelmetsの最新作。スペインのStrategic Tape Reserveより。タイトルの"Koppen"は、ドイツの気候学者ケッペンが考案したケッペンの気候区分(Wikipedia)のこと。ケッペンは世界を(A)熱帯(B)乾燥帯(C)温帯(D)亜寒帯(E)寒帯に大別し、さらに季節ごとの温度や湿度によって細かくマッピングした。本作では、その気候区分(Af, BWh,Csa. etc...)に倣って全15曲が名づけられており、Chelmetsは"the beautiful, the grotesque, the anxious, and the calm"といった日常的な感情に基づいて、モジュラーシンセの音色をさまざまに変調させながらサウンドスケープをマッピングしていく。構造的なコンセプトのノイズ作品。


Ziúr - Eyeroll
Planet MuやPANで作品を発表してきたベルリンのDJ/プロデューサーZiúrがウガンダのNyege Nyege TapesのサブレーベルHAKUNA KULALAからリリースした最新アルバム。ロートタムと呼ばれる瞬時のピッチ調整が可能な平べったいドラムを用いた自在な生のリズムとエレクトロニクスの混成を基調にしたレフト・フィールド作品。ウェールズの前衛ボーカリストElvin Brandhiやエジプト出身アーティストAbdullah Miniawy、UKのエクスペリメンタル・ラッパーIceboy Violetら少数精鋭ゲストたちも素晴らしい。タイトル・トラック"Eyeroll"や"Cut Cut Quote"でのBrandhiのパフォーマンスには特に惹きつけられる。彼女は4月編で取り上げたkœnig『1 Above Minus Underground』にも参加していたが、さらに今月HAKUNA KULALAからアルバム『Drunk in Love』をリリースしている。ちなみにIceboy Violetも同日に新作『Not a Dream But a Controlled Explosion』を発表。どちらも8月編で改めて取り上げることとなるだろう。


7月編・終

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