A Lily - Saru L-Qamar
00年代後半に何となく流行りに乗ってポストロックを聴いていた諸氏ならご存じのYndi Haldaのメンバーで、現在は素晴らしいレーベルPhantom Limbを運営するJames Vellaのソロ・プロジェクト。マルタ人である彼のルーツを巡るアンビエント・エレクトロニカ作品である。マルタから海外へ移住した移民たちには、カセットテープに近況を録音して母国の親戚家族へ郵送するというカルチャーがあり、その声の多くはGħanaと呼ばれるマルタにおけるフォーク・ミュージックの形をとっていたという。本作は母国のNPO団体Magna Żmienがアーカイブしていたそのテープ素材を使用して制作された。ジャケットに採用されているモノクロの家族写真を見ても、過去を現在に召喚するその手法はマーク・フィッシャーやサイモン・レイノルズが評したところの「憑在論」的音楽のそれであろう。そこには美しくも不気味なノスタルジーが纏わりついている。
krankyのアンビエント・レジェンドStars of the Lidの片割れであり、Dustin O'HalloranとのA Winged Victory for the Sullenでも活動するAdam Wiltzieのソロ・アルバム。Stars of the LidのバンドメイトであるBrian McBrideが昨年急逝してしまったことを思うと、これはなにがしかのトリビュートなのではないかと勘繰ってしまうが、本作は「自分の作った音楽を聴いた人間が死ぬ」というWiltzie自身が繰り返し見た夢にインスパイアされたものなのだという。SotLの作品と変わらぬ静謐なドローンと美しいオーケストレーション。SotLは2007年から作品をリリースしていなかったが、Wiltzieによれば2010年代に行われたセッション音源を発表する計画があるという。
シカゴのサウンド・アーティスト兼プログラマー。2021年にリリースしたEP『*』に続いてLeavingから本作でフルレングス・デビュー。15歳の誕生日プレゼントにもらったレコーダーでフィールド・レコーディングに目覚めた頃から「これは未来の自分にとって特別な目的を持つ」との確信の元、様々な音を録音していたのだという。長年蓄積した素材とエレクトロニクスのコラージュを一種のタイムトラベル、あるいは過去の自分とのコミュニケーションとして作り上げたアンビエント・アルバム。
ソウル出身ベルリン在住のDJ/プロデューサー。ベルリンのSubtext RecordingsとポーランドのUnsoundとの共同リリース。ハードなビートとノイズ、そして喉を傷めつけるような凄まじいボーカルはNyege Nyege TapesつーかDuma的なメタリックさを放ちながらエクストリームな"Deconstructed Club"を実践する。かと思えば、アルバムの中心に据えられた"풀이"では全く違った美麗なボーカルスタイルで癒し系アンビエントを聴かせるのだが、その後再び「韓国社会の欺瞞に対する暴動」と位置づけられた強力なトラック"나락"="奈落・どん底"で聴者を圧倒し、9分間に及ぶ最後のタイトルトラックでアンビエンスと"Cry"=叫びが弁証法的に融合する。解体と統合。バイナリズムに抗うノイズ。
Black Country New Road, Black Midi, Squid, Dry Cleaning, Goat Girl等を輩出したサウス・ロンドンのギターロック・シーンから満を持してデビューした6人組。結成は2017年、現在の体制になったのが2018年、2022年のEP『Motorbike』で注目を集め、そこから2年経っての1stである。BCNRは支柱を失い、つい先日Black Midiは解散した。そこへBlue Bendyは新人の顔をして登場する。「ロンドンで3番目のギターバンドではいられるだろうけど、何かで1番にさせてくれ」("Mr. Bubblegum")。
Velvet Undergroud(もちろん3rdアルバムのことである)、あるいはMazzy Star直系のスロウなドリームポップを歌うシカゴのバンド。ソングライターであるJessica VisciusがかつてのパートナーTrey Gruberの死に直面した後制作された2021年のデビュー作『Everything』は、たしかに悲しみについてのアルバムであった(Gruberはシカゴのミュージシャンであり、Numero Groupが彼の死後に素晴らしいコンピレーション『Herculean House Of Cards』をリリースしている)。プレスリリースでは"brighter"と説明されている本作だが、アルバム全体を通してそこにはいまだdepressionが横たわっている。"I still remember the first time you said you loved me"とChris Bellの"Speed of Sound"を彷彿とさせるラインで始まる先行シングル"Good Stuff"は、Bellのと同様に喪失の歌である。"I’m running from the past but the past keeps catching up"("Something Blue"), "loving you today but
tomorrow always becomes the past"("Nothing Lasts"), "trying to forget you, but I’m struggling."("Rainbow")と、Visciusは過去について歌い続けるし、最後まで自己嫌悪は終わらない("no one loves me anymore")。かつてStephen Merrittが"Love is Like a Bottle of Gin"(from『69 Love Songs』)で面白半分に歌ったことはほとんど正しいことのように思われる。それでもラブソングは100万曲あっていいだろう。
Bobby Would - Relics Of Our Life
ベルリン出身のパフォーマンス・アーティスト兼フォトグラファー兼マルチメディア・アーティスト兼ミュージシャンRobert Pawliczekによる音楽プロジェクト。サンフランシスコのインディー・バンドCindyのKarina Gillは、本作に寄せたライナーノーツの中でニュージーランドのFlying Nun Recordsを引き合いに出しつつこれを称賛しているが、僕が思い出すのは2010年代初めあたりのDirty BeachesとかCrystal Stiltsとか、あるいはイスラエルのカルト・シンガーCharlie Megiraとかなのである。ローファイで、夢想的で、ちょっと土臭い。そしてなんだか懐かしい。
去年の6月編で紹介したオーストラリアのシンセ・パンク・バンドの新作。当時僕は「Times New VikingがKleenexを高速カバーしているよう」と表現したましたが、まあ今回も相変わらずです。素晴らしい。
インディアナのエモ・バンドLights Strung Like StarsのギタリストBlake Mawhorterによる、ひとりローファイ・ベッドルーム・スクリーモ・プロジェクト。Mawhorterは友人の質問に対して咄嗟に口に出た"maps and flags"というフレーズが長いあいだ頭から離れず、いつか完成する"maps and flags"こそが自分にとっての完璧な最高傑作になると信じていたのだという。が、彼はついに3年かかって"maps and flags"が不完全な作品であることを受け入れた。それでいい。どんどん出してくれ。
Stephen O’MalleyがキュレーションするIdeologic Organから、ブルックリンでノイズ・フェスNo Fun Festを主宰していたベネズエラ人実験アーティストCarlos Giffoniの新作。滑らかなシンセ・アンビエントとハーシュじみた不協和音のノイズ・ドローンの絶妙なハイブリッド。漫然と聞いていられる長尺アンビエントももちろんいいんだが、こういうの聴くと唸らされる。
ブルックリンのジャズ・サックス奏者Caroline DavisとDerek Bailey直系の前衛ギタリストWendy Eisenbergのデュオ作品がテキサスのAstral Spiritsから。どんなアヴァンギャルド即興が聴けるのかと思えば、1曲目からシンプルなギターのリフと浮遊系シンセに始まる歌モノ。Davisのアルトサックスも控えめに歌に寄り添っている。ところが2曲目ではサックスとギターが小刻みに応答しあうインストに。3曲目は再び歌。2人共がボーカルを取りながら、アルバムはジグザグと2つの領域を往来する。思えばたしかにEisenbergはフォーク的な感性も持ち合わせたシンガーであった(ジュディ・シルのカバーを聴かれたし)。歌にまでも遊び跳ねるラディカルなシンクロニシティ。
NYの実験音楽家Chantal MichelleがLAのDinzu Artefactsからリリースしたアルバム。ノイズ・ドローンとヴィオラ&アルトサックスの3パートからなるマルチ・チャンネルのサウンド・インスタレーションとして発表された作品。参加しているミュージシャンのJoanna MattreyはRelative PitchやNoticeといったモダン・ジャズ・レーベルからリリースをしているヴィオラ奏者。もう一人のLea BertucciはBen VidaやLawrence Englishらと共演作を発表しているサックス奏者である。
昨年Saddle Creekから素晴らしいシングル『Sigh In My Ear』を発表するとともに「スロウコア・アルバムを作った」とXで発言し、リリースしてくれるレーベルを募っていたrousayだったが、そこで手を挙げたのがThrill Jockyだったというオチ。個人的に今回のrousayのアンビエントから"indie darling"へのトランシジョンはスロウコアというよりも、在りし日のOrchid Tapes(10年代DIYベッドルーム・ポップ愛好者にとっては特別なレーベルだ)のムードを思い起こさせるのだ。Orchid Tapesやその周辺の宅録ミュージシャンもrousayと同じようにModest MouseやElliott Smithといった90~00年代初頭のインディーロックを信奉するキッズであったし、中にはTeen SuicideのSam Ray(=Ricky Eat Acid)やSpencer Radcliffe(=Blithe Field)のように別名義を使用してアンビエントに傾倒する者もいた。katie dayやAlex Gのボーカル加工に対する偏執とrousayのオートチューン使い(ヒップホップ、R&Bからの影響もあるだろうが)の近似も指摘できるかもしれない。そんなわけで、私は"emo ambient"の強力な擁護者である。海外で行われていたツアーの様子を見ると、ベッドルームを再現したステージ上(壁にアーサー・ラッセルのポスターが貼ってあったりする)でrousayがベッドに座ったままラップトップいじったりしていて最高なので、日本でもそんなかんじでライブしてほしいと思っている。
NYCのノイズ・パンク/スラッジ・バンドの通算4作目。ヘヴィでエクストリームなギター音楽が好きならぜひ聴いてくれ!ボーカルのMegan Osztrositsが述べ叫ぶ物語仕立てのバッド・テイストなリリックも素晴らしい。