Akai Solo - Verticality//Singularity / Only the Strong Remain
今年もPhiik x Lungs、ELWD、Roper Williams、Blockheadなど、ここぞという場面での客演が目立ったブルックリンのラッパーAkai Soloが前作『Spirit Roaming』以来、約1年ぶりのアルバムを2作同時リリース。Twenty Fifth NightやWavy Bagels、iblss、ArgovなどAkai作品ではおなじみのプロデューサー陣がバックアップ。Earl Sweatshirtもそれぞれのアルバムに1曲ずつめちゃクールなビートを提供している。他MCのフィーチャーは一切なし。イヤー・エンド・リストに今すぐぶち込むべきアブストラクト・ヒップホップの傑作。例によってアニメからのリファレンスが多いオタクなAkaiだが、アニメ『ゴッド・オブ・ハイスクール』のキャラクターから取られたと思われる"Dan Mori"では、X(旧Twitter)でも何人かのリスナーが反応しているように"We only name disasters after women because of misogyny"というコンシャスなラインを忍ばせている。2作品を通してスピーチのサンプリングは随所に見られ(そのせいで権利的な問題に引っかかってしまったらしいのだが…)、特に『Verticality//Singularity』では日本でも有名なフェミニズム理論家であるベル・フックスや「権力の文化(The Culture of Power)」で知られる教育学者リサ・デルピットといったアフリカ系女性の声が取り上げられている。"All Yours"は2021年に亡くなったフックスに直接的に捧げられた曲だ。両アルバムは現在ストリーミング・サービスでの配信はなく、Break All Recordsのサイトから直接購入可能です!
グラスゴーのアヴァンギャルド・ロック・トリオStill House PlantsのメンバーFinlay Clarkのソロ・デビュー作がAD93から。Touch&Goに2枚の強烈なアルバムを残したマス・ロック・バンドStorm&Stressや同郷グラスゴーのカルト・バンドLife Without Buildingsから強い影響を受けたというStill House Plantsの20年作『Fast Edit』は個人的に非常に印象深いアルバムであった。本作はClarkがバンドとしてのショーの合間にiPhoneや4トラックのレコーダーに録音した、慰めのような或いは怒りのような音楽のスナップショット。オープナー"morning-star"の厳かな室内楽的雰囲気は、次の"jesus' son"(デニス・ジョンソンの小説から取られているのだろうか?)での乱調のギターとバイオレントなボーカルへと一気に暴発する。エモとスラッジ・メタルとトム・ウェイツが出会ったようなClarkのラディカルなボーカル・パフォーマンスは、ピアノのメロディーが美しい中盤の"strong"において極に達する。もうセンスしか感じない。年ベス入り待ったなし!
ブリストルのプロデューサーMemotoneことWilliam YatesのThe Trilogy Tapesデビューとなる最新作。2023年はMika Vainioが設立したSähköからセルフタイトルのEP『Memotone EP』を、さらにNYCのpatienceからフルレングス『How Was Your Life?』をリリースしているが、年の瀬に最高傑作が登場。カントリー/ブルーグラスを思わせるバンジョーの音色が印象的な"Laughing Grass"、オルガン、ストリングス、木管楽器がアジアっぽいノスタルジックなメロディーを奏でる"Door To The Sky"、突然にYatesが歌いだす"Funny To Stay The Same"などなど、ニューエイジ~アンビエント系ジャズ/フュージョンを基調にしつつ全体にエスノ/フォークロアなムードが漂うジャンルレスな作品。
Nina Harker - Nina Harker
11月編で紹介したKOUのApolline SchöserとNocola HenryによるユニットNina Harkerが早速新作をドロップ。これまた一貫性のないシュールな実験コラージュ・フォークで如何様にも形容しがたい。“de dos il fuit”における合成音声のグロッソラリア、“(//▽//)”というカワイイ系曲名などの言語的撹乱はもはやこのグループおなじみ。ドラムマシンとチープなシンセが孤高に鳴り響く“Hin Und Her”は80年代始めに作られたカルトSF映画のサウンドトラックのようだ。
purl - winter
LAのジャンルレスな再発レーベル[7th heaven]より、1995~1996年に活動(行ったライブは3回だけ)したサンディエゴのバンドpurlのお蔵入り録音がカセット化。ポスト・ハードコア・バンドJuliaとPapillonの楽器隊からなるインスト・バンドで、本作は元々2019年にBandcamp上でもうひとつのアーカイブ録音『summer』と共に公開されていたもの。サンディエゴのポスト・ハードコアといえばやはりPitchfork~Drive Like Jehu~Hot SnakesというJohn Reisの偉大な軌跡が真っ先に思い浮かぶが、purlの音楽はサンディエゴというよりはDavid Pajo(Slint, Papa M)のAerial MやTortoise, Codeine, Rexのメンバーが結成したインストバンドPullmanを想起させるようなポストロック~スロウコア。つまり僕がとても好きなやつ。当時正式にアルバムを残していたら「知っている人は知っている渋いバンド」くらいにはなっていたのだろうな~とどうでもいい歴史のifを考えてしまいます。
't Geruis - A Thousand Branches, A Thousand Arms
7月編でアルバム『Terre, Poussière』を紹介したベルギーのアーティスト't Geruisの新作。セルフ・リリースではあるが、前作のリリース元であるUKの新興レーベルquiet detailsのスタジオでマスタリングされている。Geruis自身の説明によれば、2022年の傑作『Slow Dance on Moss Beds』の直接の続編であるという。これまで以上に明確なメロディーが刻まれ、1曲1曲にダイレクトなエモーションが込められ、比較的短いランタイム(5分を超える曲は1つもない)でループされている。いま最も信頼のおけるアンビエント作家のひとりです。
Territorial Gobbing - REPEATER
8月編で紹介した『This Is How I Win』が年間ベスト入り待ったなしのUK実験ミュージシャンTerritorial Gobbingのデジタル・シングル。"repeater! one, two, three!"というフレーズが繰り返される"REPEATER"は、Joey RamoneのシャウトをサンプリングしたBill Orcuttの名作『A MECHANICAL JOEY』を想起させる、パンク的ミニマリズムの追求。"Listen until satisfied"とキャプションが付け加えられているように、グルーヴィーな2曲目"RETAEPER"のケツと1曲目"REPEATER"の頭が繋がっているのでみんなも好きなだけリピートしよう。
92年結成、2001年にフロントマンRichie Leeの自死によって活動を終えたロサンゼルスのインディー・ロック・バンドAcetoneのコンプリートLPボックスが爆誕。同時に4枚のオリジナル・アルバム『Cindy』(1993),『If You Only Knew』(1996),『Acetone』(1997),『York Blvd.』(2000)も個別にアナログ再発された。Light In The Atticが2017年にリリースした2LPのコンピレーション『Acetone 1992–2001』で僕自身このバンドの存在を知ったわけなのだが、たしかにそれまでAcetoneはほとんど忘れ去られていたようであった。そのコンピには、スロウコアの到達点であるBedheadを牧歌的にしたような、ヴェルヴェッツの3rdを想起させるような穏やかな楽曲群が収録されており、僕はたちまちファンになったのである。限定750部のLPボックスは既に完売。僕はオーダーしたのが届くのを今か今かと待っています!
昨年、Ninja Tuneからリリースしたインスト4部作『Music By Cavelight』『Downtown Science』『The Music Scene』『Interludes After Midnight』がリプレスされたのも記憶に新しいNYCのベテラン・プロデューサーBlockheadがBackwoodz Studiozのボスbilly woodzをエグゼクティブ・プロデューサーに迎え、数多のアンダーグラウンドMCと共に完成させたラップ・アルバム。アブストラクトなビートや奇妙なボイス・サンプル、流麗なピアノのメロディーがアルバム全体のトーンを設定しているが、Navy Blue, Quelle Chris, Aesop Rock, Armand Hammer, Bruiser Wolf, Open Mike Eagle, Koreatown Oddity, Defcee, ShrapKnel(Curly Castro & PremRock), Akai Solo, Fatboi Sharif, RXK Nephew, Danny Brownといったゲストがやはり強キャラすぎる。盟友Aesop Rockとの"Mississippi", Bruiser Wolfとの"Papi Seeds", Infinity Knivesとのジョイント作『King Cobra』が印象深いBrian Ennalsとの"Sad Vampire"なんかがお気に入り。
bod [包家巷] - enough music
5月編で『music for Film01』、7月編で『NONWARE 空件提高』を紹介したベルリン在住の中国系アメリカ人アーティストbod [包家巷]の最新作は、愛鼠Gricioへ捧げられたアンビエント・ポップ全8曲。「バックグラウンド・ノイズのある環境下でのリスニングを意図している」そうなので、たぶん地下鉄の車内とかで聴くのが良いと思う。
Camp Ghost - Double Pack
DIYエモ・レーベルHoneysuckle Recordsから、ソルトレイクシティのアコースティック・ローファイ・エモ・デュオの1st『enjoying what's left』と2nd『keep it together』をカップリングした企画盤がデジタル・リリース。10年代エモ・リバイバルを代表するModern Baseballなんかが好きだったそこのお前に聴いてほしい。
Brownにとってのブレイクスルーとなった2011年作『XXX』の続編として構想され、当初は『XXXX』や『40』といったタイトルで予告されていた40歳記念アルバム。3月にリリースされたJPEGMAFIAとの『SCARING THE HOES』とは対照的な抑制された声のトーンが印象的だが、本作の大部分の曲が制作されたパンデミックのロックダウン期間中、Brownは深刻なアルコール依存に陥っており、精神的などん底にいたのだという。"This rap shit done saved my life and fucked it up at the same time"という悲痛な歌い出しで始まるタイトルトラック"Quaranta"のコーラスでは"Nigga, you 40, still doing this shit?"(40にもなってまだこんなクソみたいなことしてるのか?)と自らに問いかけ、30歳を目前に控えた上昇志向と焦燥に満ちた『XXX』後の10年間と、その快楽主義的で自己破壊的でおちゃらけたパブリック・イメージに内省を加えていく。『SCARING THE HOES』が躁なら、『Quaranata』は明らかに鬱のアルバムだ。Brownは今年初めにリハビリに通い断酒に成功。JPEGとのツアーもシラフで乗り切ったことを自慢げにインタビューで語っている。アルバムのラストを飾る"Bass Jam"の穏やかでスウィートなムードは、quarantine期のハッピーエンディングと新たにスタートさせたクリーンな生活を予告しているかのようだ。
Duster - Remote Echoes
今やTikTokでも人気になってしまったスロウコア・レジェンドDusterの初期ホームレコーディング・デモ音源集。曲というよりはアイデアのスケッチに近いものだが、Mohinder~Calm~Dusterへと至るCanaan Dove AmberとClay Partonの道程を探る上では非常に貴重なドキュメントになっている。
米インディアナ州のアンビエント・レーベルPast Inside the Presentより、夫婦ユニットAwakened Soulsでも活動するベテラン・アンビエント作家James BernardとAnthéneことBrad Deschampsの共演作。録音はBernardの6弦ベースとDeschampsのラップ・スティール・ギター、アナログ・シンセ、さらにフィールド・レコーディングを組み込みながらワンテイクで行われているという。エッジを削ぎ落したハーモニーのグラデーションにただただウットリさせられる。
John Francis Flynn - Look Over the Wall, See the Sky
アイルランドはダブリンのシンガー/ギタリスト/フルート奏者John Francis Flynnの2ndアルバム。本作に収録されている楽曲は、古くからの伝承歌や20~60年代のフォーク・ソング、あるいはアイリッシュ・パンクを代表するバンドThe Poguesの“Kitty"といった既存のものなのだが、彼はそれらを大胆にリメイクしてみせている。いわばトラッド・フォークの脱構築的リバイバリスト。例えば、ハリー・スミスが編纂した『Anthology of American Folk Music』収録のBascom Lamar Lunsfordの歌唱で最も有名な"I Wish I Was a Mole in the Ground"は、Jackson C. FrankやKaren Daltonをはじめとして様々なミュージシャンにカバーされてきたが、ここでFlynnはこの曲をポストパンク調のスポークン・ワード・スタイルでアレンジする。まじカッコいい。つぎの"Willie Crotty"は、ダークなインダストリアル・アンビエントに様変わりし、前述の"Kitty"は弦楽器のドローンとゆったりとしたドラムのビート、Flynnのバリトン・ボーカルがオリジナルとは別の美しさを生んでいる。ラストの"Dirty Old Town"はThe Poguesのカバーで有名になったEwan MacCollの代表曲。ここではMacCollのヴァージョンに近いシンプルなアレンジで、自身が本来的にトラッドなミュージシャンであることを明らかにしている。Flynnはいくつかのインタビューでダブリンで起こっているジェントリフィケーションとそれに伴って元々の地域コミュニティの維持が困難になっていることを口酸っぱく批判していたが、つまり彼は正しい意味での保守主義者なのだ。
フランスのアヴァン・デュオNina HarkerのメンバーApolline Schöserと主にベーシストとして活動するThomas CoqueletによるプロジェクトKOUのデビュー作がベルギーのAguirreから。Nina Harkerにも日本語歌唱の不思議な曲があるのだが、本作は「やーこのLPは非常に良いと思いますー。よろしくお願いします。村山でした。」という謎の人物・村山氏のコメントで幕を開ける。BlodやBrannten SchnüreあるいはLäuten der Seeleに近い感触のローファイ/エクスペリメンタル・フォーク&サウンド・コラージュをベースに、Alvin Luierの代表作“I Am Sitting in a Room”をパロった“I Am Not Sitting In A Room”、ブロードウェイの作曲コンビ、ロジャース&ハートによるオールディーズ“Blue Moon”の真面目なカバー、素人カラオケ大会の様相を呈する“Kedith Shea”など底知れぬユーモア・センスを披露するAguirreらしい作品。
Leo Okagawa - Druhé Město
アンビエント/ドローンを中心とした実験音楽レーベルzappakを運営するアーティストLeo Okagawaの新作が、本ブログでも何度か取り上げているエディンバラのカセット・レーベルMolt Fluidから。「知らない街の原風景」をイメージして制作された、フィールド・レコーディングと電子ノイズのコラージュ作品。似ているけれど手法が異なる、8月編で紹介したフィーレコ&ライブ・エレクトロニクスによるMaeda Yasuyuki & Li Song『28th Dec, Arakawa』と合わせて聴くのも良いでしょう。
メルボルンの実験音楽家Lisa LerkenfeldtがフランスのShelter Pressからリリースした新作。9月にLawrence EnglishのRoom40で発表した『Shell Of A City』は、高速道路の下部構造にマイクを触れさせ、そこで起こる不思議な共鳴を捉えたフィールド・レコーディング作品で、ある種の音響彫刻作品であったが、本作でLerkenfeldtが探求するのは空洞だ。トンネルや排水路、廃墟などを探索する地元メルボルンの都市探検集団Cave Clanとの活動からインスピレーションを受けて制作されたというテープ・ループ主体のモダン・クラシカル・アンビエント。"Every moment is extended when under the damp earth. Even the walls have a voice."。ここでは、地下空間における音の反響・引き延ばされるエコーが、The Caretaker的な記憶のモチーフと結びついている。
00年代後半のノイズ・ロック界のギター・ヒーローであり、10月にローリング・ストーン誌が発表したばかりの「最も偉大なギタリスト250人」にも選ばれたMarnie Stern、10年ぶり(!)のアルバム!Sleater-Kinneyに衝撃を受け、さらにDon Caballero, Hella, Boredoms, Melt-Bananaに触発され、練習の鬼となって会得したタッピング奏法を武器にZach HillのプロデュースでKill Rock Starsからレコード・デビュー。4枚目のアルバム『The Chronicles Of Marnia』のあと、NBCのトーク番組Late Night with Seth Meyersのハウス・バンドThe 8G Bandのメンバーに選ばれ、2014年から2022年までの8年間を忙しないTVの世界で過ごす。その間に妊娠・出産も経験。そんな怒涛の期間を経て、ようやく自らの音楽にカムバックしたわけだが、オープナー"Plain Speak"のイントロのギターと、力強く繰り返される"I can’t keep on moving backwards"という宣言を聴いた時点で「もう優勝!」みたいな気持ちに。やっぱりMarnie Sternはギター・ヒーローだった。
Matmos - Return to Archive
1948年にモーゼス・アッシュによって設立されたFolkways Recordsは、ウディ・ガスリーやピート・シーガー、あるいはハリー・スミスによる『Anthology of American Folk Music』(本記事2度目の登場)等によって、アメリカン・フォークのリバイバルに重要な役割を果たしたレーベルであるが、音の百科事典を標榜し、音楽以外のさまざまな録音物(カエルの鳴き声、イルカの鳴き声、昆虫の発する音、オフィスや廃品置き場のフィールド録音、自己催眠による禁煙のHow To、声帯切除手術を受けた男の食道発声、人工発声装置のデモンストレーション)も出版してきた。整形手術の音や洗濯機の音で音楽を作ってきた実験エレクトロニック・デュオMatmosは、レーベル設立75周年を記念するプロジェクトの一環でFolkwaysに招かれた際、過去の膨大なカタログにおけるそういった非音楽的なサウンドをソースに音響コラージュを制作することを逆提案。それが本作『Return To Archive』である。1曲目"Good Morning Electronics"から、もう色んな音が聴こえてきて楽しい。EvicshenやAaron Dillowayもゲスト参加し、予測不可能なアクセントを加えている。サンプリング・ソースになっている奇怪なレコード普通に欲しくなってくるわ。
MJ Lenderman - And The Wind (Live and Loose!)
ご存知アッシュビルのカリスマ・ギタリストMJ Lendermanのライブ・アルバム。Wednesdayからラップ・スティールのXandy Chelmis、ベースのEthan Baechtoldも参加した編成で、アルバム『Boat Songs』の曲を中心に、来年リリースが予定されている新作に先駆けて公開されたシングル“Rudolf”, “Knockin'”も披露されている。“Toontown”ではWednesdayのKarly Hartzmanがボーカル参加。ささやかな傑作『Ghost of Your Guitar Solo』収録の“Catholic Priest”, "Live Jack", “Someone Get The Grill Out of The Rain”といった名曲群もバンドのダイナミズムを獲得して生まれ変わる。来年春の来日公演が一層楽しみになりました。僕はWednesdayよりLendermanソロが断然好きななのさ!
Mo Troper - Troper Sings Brion
ポートランドのパワー・ポップSSW、Mo Troperの新作は全曲Jon Brionカバー。Jon Brionといえば初期ポール・トーマス・アンダーソン映画や『エターナル・サンシャイン』『ハッカビーズ』『脳内ニューヨーク』『俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-』『パラノーマン』『レディ・バード』といった映画音楽の傑作や、フィオナ・アップル、カニエ・ウェストといった一流アーティストのプロデュース・ワークで一般的には知られているが、Troper的にも僕的にも2001年の純SSWアルバム『Meaningless』(2022年にめでたく再発された)が彼のベストの一つなのであり、本作もその『Meaningless』収録曲のカバーなのかと思いきや、否、今回Troperがセレクトしたのは、Brionファンの間では有名な2枚組の非公式デモ録音集やライブ・ブートレグのみに収録されている未発表曲(そのブートレグが気になる方は以下を参照されたい→https://fuckyeahjonbrion.tumblr.com/recordings)。例外的には、BrionがJellyfishのJason Falknerと結成した短命バンドThe Graysの唯一作『Ro Sham Bo』に収録された“No One Can Hurt Me”のカバーも含まれている。この特殊な成り立ちのアルバムは、Brionのソング・ライティングの素晴らしさを証明すると共に、ビーチ・ボーイズを愛するTroperのヴィンテージ・ポップ職人としてのセンスが発揮された幸福な作品となっている。
ミランのエレクトロニック・レーベルHaunter Recordsの共同設立者Francesco Birsa Alessandriによるハード・インダストリアル・プロジェクトSense Fractureのデビュー・アルバム。Elvin Brandhi、DumaというNyege Nyege人脈が参加しているので、それにピンときた方はすでにBandcampの購入ボタンを押していることだろうが、これはそんなオメェを裏切らないデジタル・グラインド・ノイズ・アルバムだ。"Heading Wasteward"で強力なボーカルを提供する?Alosは、イタリアの"queer-pagan-doom-avant-metal"プロジェクト。もう一組のゲストLizzitskyは、Gabber Eleganzaが主催するレーベルNever Sleepに所属するロンドンのプロデューサー。Alessandriのこうしたエクストリームな音楽が何に向けて放たれているのかを端的に示すのは、パンデミックとBLM運動の2020年にリリースされたシングル『What We Could Have Done / RAN』だろう。RAN=乱、つまりアジテーション。棘の荒野に立ち尽くせ。
Signal Quest - Hypermyth
Keith Rankin(Giant Claw)とSeth GrahamのOrange Milkから、Lynn Avery, Cole Pulice, Mitch Stahlmannによるスペシャル・ユニットSignal Quest f.k.a. LCMの2作目。Lynn AveryとCole PuliceといえばMoon Glyphからリリースされたコズミック・ニューエイジ・アンビエントの傑作『To Live & Die In Space & Time』でのコラボレーションが印象深いが、フルート奏者Mitch StahlmannもまたAveryのユニットIceblinkやPuliceの傑作ソロアルバム『Scry』に参加しているイツメンなのであり、こんなのは座組を見ただけで即買いやで!Rankinのアートワークや曲のタイトルからも何となく伝わるように、ゲーム音楽からの影響を受けたデジタル&アコースティック・アンビエント。ちなみにマスタリングはFire-ToolzことAngel Marcloidが担当。
1月編でアルバム『Forget The Curse』を紹介しましたオーストラリアのオブスキュア・ポップ・デュオTrothの最新EP。3月にはDiscreet Musicからレアリティ・コンピ『Uncut Flowers』が出ていてそちらもグッドでしたが、今回も傑作。リヴァーブを効かせたボーカルのオーバーダブでローファイ・フォークをドリーム・ポップっぽくアレンジした"Kind Of Cure"、Digital Regressのレーベル・メイトPeople Skills(7月編で紹介)を思わせるシュールなエクスペリメンタル・フォーク"Angel Not So Easy"など、終始ぼんやりしたメランコリーを放ちながらいつの間にか始まりいつの間にか終わる全6曲。
Various Artists - Synthetic Bird Music
今、鳥が熱い。知らんけど。本ブログでも度々取り上げているスロヴァキアの実験レーベルmappaから、シンセサイザーの合成音による"ニセ"の鳥の鳴き声にフォーカスしたコンピレーションが登場。国内外合わせて32組のアーティストが集合し、鳥の真似をしている。Dialect, Vic Bang, Grykë Pyje, Mike Cooper, Andrew Pekler, Kensho Nakamura等、名前に馴染みのあるアーティストも多く参加。もちろん本作は「今世紀末までに全鳥種の3分の1を絶滅させる」と言われる人類と鳥類の、ひいては人類と地球の関係について再考を促す取り組みである。日本で鳥といえばメルツバウこと秋田正美か江戸家猫八かといったところだろうが、鳥の鳴き声は何百年も前から人間にインスピレーションを与えてきたのだという。信頼のおける音楽ジャーナリズム・サイトThe Quietusでは、本作と本作にも参加するロンドンのサウンド・アーティストKate Carrが同時期にRoom40からリリースしたアルバム『A Field Guide To Phantasmic Birds』を出発点に、13世紀まで遡って鳥の声と音楽との関係を考察した記事「An Ungraspable Intelligence: Bird Song In The Time Of Collapse」が公開されていたので読むとよろしい。僕が鳥で思い出すのは、小学生の頃に公園で出会った"鳩捕まえおじさん"…。
Vektroid - cRASH 1
Vaporwaveという死んでも死なない音楽ジャンルにおいてMacintosh Plus『Floral Shoppe』が最も参照される作品であることに異論の余地はないだろう。そんなMacintosh PlusことRamona Andra Langleyが、2016年に『RE・SET』と宣言してカムバックしたこと、Macintosh Plus名義では8年ぶりとなった新曲『Sick & Panic』においてフローラルの専門店神話を破壊しようと試みたこと、Fuji Grid TVの11年越しの続編『Fuji Grid TV II: EMX』をVektroid & New Dreams Ltd.名義で発表したこと…本作『cRASH 1』はその道程の延長であると同時に極地点である。ここで聴かれる、ほとんど原形を留めないほど短く細かく刻まれた何物とも呼べないグリッチの連続は、そこらへんに転がっている"サンプル素材"を安直にスクリューしループするような古典的方法論としてのEccojamsの対極に位置すると言ってもよいかもしれない。制作プロセスについてはBandcampページに文章で詳しく解説されているが、ちょっと何言ってるのかわからないです。あくまでもサンプル・ベースであることはわかるのだが(彼女のVTuber配信を見ればわかるのかもしれないが)。彼女によれば本作は"reconstructive process"と呼ばれる方式のマイルストーンであり(「ベータ版」という言い方もしようとする)、おそらく今後これを基にして更なる作品が生み出されるのであろう(Patreonの支援者向けには3時間ヴァージョンが公開されている)。なので、『cRASH 2』『cRASH 3』...と発展していく習作にすぎない可能性もあるのだが、これはこれでノイズ・ミュージックとして充分楽しめるものであるには違いない。誰でもが、とは口が裂けても言えないが。
11月編は以上!さて、引きこもりがちになった今年4月から始めたこのブログ企画NEW MUSIC TROLL。きっちり毎月更新を続けて気がつけばもう年末。書く労力のわりに手応えがほとんどないにも関わらずこうして継続してこられたのは、一重に素晴らしい音楽を絶えず生み出すアーティストの方々、それをサポートする素晴らしいレーベルの方々、そして法外なロイヤリティで特に僕が好むような小規模アーティストを搾取し続けるストリーミングサービス(予てからこの問題について重要な指摘を続けている元Galaxie 500・現Damon & NaomiのDamon KrukowskiがGuardianに寄稿した記事「Spotify made £56m profit, but has decided not to pay smaller artists like me. We need you to make some noise」を絶対に読んでくれ!)とは違って(!)彼/彼女らとリスナーを直接繋いでくれる素晴らしいプラットフォームであるBandcamp(しかし10月には親会社による従業員のレイオフが行われるなど、今後運営が破綻する可能性も指摘されている→Pitchforkの記事「Is Bandcamp as We Know It Over?」参照)、さらには新しい音楽に飢えたリスナーを導く音楽ジャーナリズムに携わるライターの方々、こうした駄文を書く場を与えてくださる世界に冠たるプラットフォーム企業Google様、そしてなにより私自身の強迫観念とスノビズムのおかげです。来年以降も続けるならば、もう少し一記事のボリュームを抑えたい。そのうち更新予定の12月編と年間ベスト編もお楽しみに(虚空に向かって)!