NEW MUSIC TROLL - JAN '24

2024年1月編です!やります!
 

90 Day Men - We Blame Chicago
1995年結成、シカゴを拠点に活動したポスト・ハードコア・バンド90 Day Menのコンプリート・ディスコグラフィ。昨年の4月編で紹介したFACSのBrian Caseが組んでいたバンドです。最近のNumero Groupのこのラインのリイシュー企画は目の付け所がニッチすぎて、「これを出してペイできるのだろうか…」と心配になるレベル。たとえばDusterは今の時代に事故的にフィットして見事にリバイバルを巻き起こしたが、90 Day Menは絶対にそんなことにはならないだろう。かといってカルト的なフォロワーを生み出すわけでもないだろう。でもそれを掘り起こすのがNumero!Numeroにしか出来ない仕事!ありがとう!改めて聴いてみると、初期のあからさまにFugaziやSlintを想起させるアプローチが、ピアノのメロディーがリードする複雑かつ荘厳なアンサンブルに深化していく様子がつぶさに捉えられて非常に興味深い。2000年の1st『(It (Is) It) Critical Band』から2年後の2nd『To Everybody』、さらにその2年後のラスト作『Panda Park』へ至るまで1作ごとの無茶な変質に驚かされる。僕の働いているレコード屋でもBOX入荷したけど、もちろん売れ残っている!


Angry Blackmen - The Legend of ABM
JPEGMAFIAやclipping.やDos MonosをリリースしてきたDeathbomb Arcに所属するシカゴのラップ・デュオ。Danny Brown, JPEG, Death Grips以降と言ってよいインダストリアル~ノイズ系ビートはデビュー以来タッグを組むFormantsことDerek Allenがプロデュースしている。明瞭なフロウで語られるアルバムのテーマは資本主義、消費主義、レイシズム、実存とメンタルヘルス。アルコール依存や自動車事故などの生死に関わる実体験とともに、フィリップ・K・ディックやリチャード・マシスンといったSF作家、あるいは『ノー・カントリー』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』等の映画をはじめとしたポップ・カルチャーからの影響やその参照も繰り返す。風刺の風刺的なこのグループのロゴイラストを持ってジャケットに写っているのはメンバー2人の古くからのネット友達だという日本人女性Yuki Fujinamiで、タイトル曲ではナレーションとしても参加。2024年エクスペリメンタル・ラップ界のファースト・インパクトだ。Fatboi Sharif, Skech 185というゲストの人選にも全く狂いはない。


Arv & Miljö - Samling
ヨーテボリ・アンダーグラウンドの中心グループEnhet För Fri Musikのメンバーであり、ここでも何度も言及しているレコードショップ兼レーベルDiscreet MusicのオーナーMatthias Anderssonのソロ・プロジェクト。現在のアンビエント・サウンドに移行する以前のハーシュ・ノイズ期にあたる2010~2015年までにコンピレーション等に収録されていた楽曲を集めた編集盤として2016年にカセットでリリースされていた作品がアイルランドのレーベルKrim KramからCD再発された。本作の終盤ではフィールド・レコーディングやシンセを活用したアンビエンスの萌芽が伺える。X(旧Twitter)でも言ったんだけど、Arv & MiljöがベルリンのアーティストKrubeとのスプリット・カセットとして2016年に発表していた"Ok​ä​nd Strand"という楽曲が、ニュージーランド・アンダーグラウンドのレジェンドPeter Jefferies(Nocturnal Projections, This Kind of Punishment, Plagal Grind)の大名曲"On An Unknown Beach"オマージュのテープループのピアノ・アンビエントでとても素晴らしくて最近めっちゃ聴いてる♪


Bumbrle & Slezské předměstí - Mourku, kdy zavrn​í​š​?
チェコ・プラハ出身のブルース・シンガーTomáš Pácaltのソロ・プロジェクト。地元レーベルStoned To Deathからこれが2作目。プレスリリースでボブ・ディランが手掛けたペキンパー『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』のサントラとアメリカの作家ジョン・ファンテ(代表作『塵に訊け!』がついに新訳で再販された!)の散文が引き合いに出されているのが興味を惹く。なるほどチェコ語による簡素でミニマルな歌は新鮮に響くのだった。


Cowboy Sadness - Selected Jambient Works Vol. 1
末期のがん患者とホスピスで働く職員のロマンスをコンセプトにした傑作『Hospice』で知られるインディー・バンドThe AntlersのフロントマンPeter Silberman, ミニマル室内楽プロジェクトBing & Ruthの中心人物David Moore(Steve Gunnとの共作『Reflections Vol. 1』も素晴らしかったよね~), Port St. WillowことNicholas Principeの3名によるアンビエント・ユニットのデビュー作。デビューとはいっても、10年以上前から3人で定期的に即興のアンビエント・ジャム・セッションを開催していたというので、実は息の長いグループなのだった。そしてSilbermanが言うには「商業的なプレッシャーから解放された」プロジェクトである。アルバムタイトルは当然Aphex Twinのパロディーで、その点からも気張らないリラックスしたムードが伺えて微笑ましい。


CRAWL SPACE - My God​.​.​. What've I Done?
シアトルの5人組ハードコア・バンドのデビュー作。地元レーベルIron Lungから。80sマナーのファスト&バイオレントなハードコア全10曲9分半。申し分ございません。


Daniel Johnston - Songs of Pain (Al Pomplas Version)
昨年末から始動したダニエル・ジョンストンのカタログの高音質リマスター再販プロジェクト"Daniel Johnston in the 20th Century"に続く"Daniel Johnston in the 21st Century"の一環としてサブスクライバー向けにリリースされた秘蔵作。最初期のダニエルがダビングの方法を知らずに逐一テープにアルバムを全編吹き込み再録しては親愛なる友人・知人に配っていたというのは有名な話だが、本作は当時彼が通っていたオハイオのケント州立大学で教鞭を執っていた美術教師Albert Pomplasさんに向けてダニエルが録音した『Songs of Pain』のAl Pomplasヴァージョン。現在市場で流通している『Songs of Pain』と比べると、ピアノの音もボーカルもAl Pomplas ver.のほうがよく録れている。もちろん歌唱や演奏のテンションや日頃録り溜めた会話のサンプル等の違いもある。まあこんなのはいつ聴いても素晴らしいし美しいので。ただKathy McCarty(彼女も当時ダニエルからテープを受け取っていた一人である)がカバーして『ビフォア・サンライズ』のサントラに収録された名曲"Living Life"が本ヴァージョンには未収録であることには留意されたい。"Daniel Johnston in the 21st Century"では今後もサブスクライバー向けにこうしたレア音源の配布が予定されているのでみんなも加入しよう!(月9ドル)


Dau - PSALM014: Gilly's Wood
UKブライトンのレーベルPhantom Limbの" Spirituals imprint"であるPSALMの第14弾は、ポスト・ロックを掘ったことがある方なら覚えているかもしれないYndi HaldaのメンバーでもあるPhil Selfのソロ・アンビエント・プロジェクトDAUの新作。録音が行われたのは2021年。オハイオ州ケント市の音楽フェスSmugglers Festivalの出演から2週間後、パートナーが新型コロナに感染したために会場に置き去りにせざるをえなかったリード・オルガンと機材を使い、そのままフェス会場である森の中で即興録音したのだという。だから、音楽の背景には鳥のさえずりが聴こえている。特殊なロケーションが生んだグッド・アンビエント・ドローンです。


Duncecap - Pay or Dispute
Backwoodz Studiozから昨年リリースされたHajinoとのジョイント作『Go Climb A Tree』で知ったNYCのラッパーDuncecapの新作が同じくBackwoodzから。今回はほとんどセルフ・プロデュース。中毒性のあるアブストラクトなサンプル・ループと軽口なフロウは当然あたし好みです。


The Fall - The Real New Fall (Formerly Country On The Click)
我らがアイドル、マーク・E・スミス率いるThe Fallの2003年23作目、キャリア後期の傑作が20周年記念再発!暴君スミスによって却下された再ミックス前のオリジナル・ヴァージョン=『Country On The Click』も公式リリースされた。聴き比べてみると、大きなところではオリジナルにあるフニャついたシンセが最終版では削除され、よりタイトに聴こえるようになっており、結果的にはスミスの裁量は正しかったと思われる。1977年のデビューから、The Fallは常に聴き続けるのに値するバンドであったことを証明するリイシューです。ミュージシャンの訃報を聞いて僕が涙を流したのは、志村正彦、ダニエル・ジョンストン、デヴィッド・バーマン(Silver Jews)、そしてマーク・E・スミス、その4度だけです!


Finnoguns Wake - Stay Young
君はオーストラリアの最高にクールなガレージ・パンク・バンドRoyal Headacheを覚えているか?2008年に結成、2011年に1stアルバム『Royal Headache』を、2015年に2ndアルバム『High』をリリースして2017年に解散。僕はこのバンドがとても好きだったのだ。解散後、ボーカルであったShogunはShogun And The Sheetsとして2018年に7インチを出したりもしていたがそれっきりで…。しかし、彼がついにこの4曲入りEPで正式カムバックしたのです。もう一人のメンバーFinn BerzinはShogunの親友の弟で、4曲中2曲でリード・ボーカルも取っている。ただやはりShogunの歌はとびきり素晴らしい。飽きずにLPを出してくれ!


Ian Mikyska & Fredrik Rasten - Music for Sixth​-​tone Harmonium
スロバキアの実験レーベルWarm Winters Ltd.より、チェコの音楽家アロイス・ハーバが開発した世にも珍しい楽器「6分音ハーモニウム」をフィーチャーした作品が登場。6分音っていうのはつまり、えーと、12音階でいう全音の1/6、半音の1/3ですね。っていうことはつまり、1オクターブを、えーと、何分割になるんですかね、うーん…(指折り数えながら)、はい、1オクターブを必要以上にいっぱい分割して奏でられるように作られたのが6分音ハーモニウムなのです。本作は、プラハの作曲家Ian Mikyskaとドイツの即興ギタリストFredrik Rastenがその6分音ハーモニウムのために曲を作り、それを世界で唯一の6分音ハーモニウム奏者Miroslav Beinhauerとともに演奏したもの。このプロジェクトが始動した2021年以前には、6分音ハーモニウムのための作品はハーバが1928年に作った"Six compositions for sixth-tone harmonium, op. 37"の1曲しか存在しなかったという(Beinhauerによるop. 37はこちらで聴けますが、まあメチャ・ストレンジ)。フィールド・レコーディングや物音といったエレクトロニクスとハーモニウムの不思議な調性が相互に作用するMikyska作の"In"と、Rastenが演奏する2本のエレキ・ギターとハーモニウムによる瞑想ドローン"Concord"の2曲を収録。イチオシです!


James Ferraro - Genware I: DHICRO / Genware II: Eigen Embryo / Genware III: Neuralpaint
Vaporwaveのパイオニアのひとりである米実験ミュージシャンJames Ferraroによる"Cybernetic Impressionism(サイバネティック印象派)"と題されたプロジェクト"Genware"が3部作同時リリース。2018年から開始され、『Requiem for Recycled Earth』『Neurogeist』『Terminus』と続いてきた"Four Pieces For Mirai"と題されたシリーズとの関連は特に示されていないので、派生的な作品なのだろうか。中世の音楽を参照しつつポスト・ヒューマン的想像力を伴った瞑想アンビエントという基本的な路線は大きく変わっているようには聴こえない。"GENWARE"をぐぐってみると、「業界TOPシェアを誇る組込みGUIソフトウェア」しか出てこないが、Ferraroの言う"Mirai"がモノのインターネットに攻撃を加えるコンピューター・ウイルスを指しているように、これもたぶんそのソフトウェアを指しているのだろう。Neuralpaintっていう画像編集アプリもあるみたいだし。ちなみにアタイの好きなJames Ferarroのアルバムは『NYC, HELL 3:00AM』『Cold』『Skid Row』あたりのやつなのさ。


Jesu - Hard To Reach EP
昨年私が年間ベストにも選んだGodfleshを率いるJustin Broadrickの別プロジェクトです。2008年にリリースされた日本のポスト・ハードコア・バンドEnvyとのスプリットに収録されていた2曲と、同時期の未発表曲2曲、プラス"Hard To Reach"の未発表バージョンの計5曲を改めてコンパイルしたEPがなんか急にリリースされた!5曲のEPとはいえ合計45分くらいあるので物足りなさはないでしょう。Godfleshも良かったけど、やっぱりJesuはもっと好き!


Jiyoung Wi - Accept All Cookies
ソウル出身現在はオランダのハーグで活動するアーティストJiyoung Wiのデビュー・アルバム。デジタル・ノイズと公共空間でのフィールド・レコーディング、演出された会話等をソースに、空間と言語を撹乱してみせるユニークなリスニング体験。"S*fe Word"ではホテルのロビー(?)で演奏される久石譲の"Summer"が強い印象を残す。知らん人だったけど、JoyulYeong Dieと3人で来日ツアーを行ったこともあったみたい。


karl wille - Out Of Ash And Snow Roses Start To Grow
上海のGenome 6.66Mbpからブリュッセルの宅録hyper popアーティストkarl willeの6曲入りEP。こいつのこと気になりすぎてYouTubeでも調べたらリリース日にWebラジオでライブ配信してて、狭いスタジオの中でエモーショナルにKARAOKEしてて余計に好きになったのでみんなも観てやってください。


kip c - stars above
UKブリストルのラッパーkip cのセルフ・リリース新作。NYCアンダーグラウンドに呼応するアブストラクト・ヒップホップで、シンガポールのMary Sueが参加しているのもイイ。cとSueいままで関わりあったのかなって検索したらロンドンのラッパーLynx Caneのアルバムで共演してた。素敵なカバーアートはウェールズの抽象画家Sandy Arteaga Clarkによるもの。インスタグラムにほかの作品も沢山載ってました。


Lou Reed - Hudson River Wind Meditations
ルー・リードが2007年にリリースした最後のソロ・アルバムがLight In The Atticからリイシュー。これ聴いたことなかったんだけど、激ニューエイジ・アンビエントで、流石『メタル・マシーン・ミュージック』を作った男だなと思った。元々はリードが晩年に凝っていたという瞑想と太極拳の練習のためのサウンドトラックとして個人的に作曲したものだったという。イヤホンでこれ聴きながら草に寝転がって空眺めたい。


Milan Knizak & Phaerentz & Opening Peformance Orchestra - It's Not Quite That Inventive (Sixty Years with Broken Music)
チェコのフルクサス・アーティスト/パフォーマーMilan Knizakの代表的物理コラージュ作品"Broken Music"(複数枚のレコードを切断し繋ぎ合わせ、傷をつけたり、ドリルで穴をあけたり、テープを張ったり、燃やしたり、絵を描いたりするなどした)の誕生60周年を記念したアルバム。2020年にチェコ音楽博物館で行われたライブ・パフォーマンスと1973年に制作された私家版"Broken Music"を収録。クリスチャン・マークレーやヤン富田の先駆と言っていいだろうが、本作のタイトルは「そんなに発明的じゃない」。大変謙虚な方です。


Nicholas Craven & Boldy James - Penalty of Leadership
昨年一月に自動車事故で負った重症からの復帰作となったCHANHAYSとのジョイントEP『Prisoner Of Circumstance』も素晴らしかったが、フルレングスとしてはこれが復活後1作目。しかも、2022年の『Fair Exchange No Robbery』で抜群の相性を示したソウルフルなビート職人Nicholas Cravenとのタッグ。カバーアートからも事故のトラウマが嫌というほど伝わってくるように、リリックにも当然その経験が反映されている。リハビリを終えてからわずか5日後に録音したという先行シングル"Brand New Chanel Kicks"では「3週間前にはボルトとロッドを身体に入れられて何もできなかった マザファッキンつま先さえも動かせなかった」「ビジネスに戻ってきた イェ 歩行器で歩いて戻ってきた 車椅子から立ち上がれんだぜ」と身体に負った過酷なダメージとそれを克服するタフネスをラップする(実際のレコーディングは車椅子に座って行われたという…)。Jamesがうなだれたようなフロウで語るハードなストリート・ストーリーは、重大事故からの生還というフィルターを通すと更に重みを増して聴こえてくるようだ。


or best offer - Center
ボーカル&ギターのGrace Schmidhauserとドラマー兼シンセシストBrian Culliganからなるエクスペリメンタル・ロック・デュオのデビュー作がBa Da Bing!から。プレスリリースではGastr del SolやCat Power, Godspeed You! Black Emperorなどが引き合いに出されておるが、たしかにエレクトロニクスとアコースティックの折衷的なポストロックとフォーキーな歌心が混在している(Bandcampページでは"ambient"や"improv"といったタグとともに、ボーカリストFrances Quinlanの歌声が一番の魅力である米インディー・バンド"Hop Along"の名をそのまま冠したタグが付けられている)。個人的にはすでに本年ベスト・ロック・アルバム候補としています。


Phil Geraldi - AM/FM USA
サンディエゴの実験ミュージシャンPhil GeraldiがNot Not Funからリリースしたカセット作品。タイトル通りラジオ放送の音源とハイウェイのフィールド・レコーディング、ペダル・スティールの演奏をコラージュしたアンビエント・アメリカーナ。これは現代のBruce Langhorne『The Hired Hand』なのでは?素晴らしい。


poorly wrote suicide note - pwsn ii
米ロチェスター在住のAshley PearsonによるBedroom lo-fi Skramz(a.k.a. Bedroom Screamo, Bedroom Emo)プロジェクト。カリフォルニアの"queer-run"レーベルDeapfth Pop Recordsから2作目となるフル・レングス。Bedroom Screamoというサブジャンル自体が湛える切なさが僕にはたまらないのだが、このpoorly wrote suicide noteはその筋のカリスマYour Arms Are My Cocoonのフォロワーに位置付けられるだろう。YAAMCのデビュー作をかのDismiss Yourselfが再リリースしていることは特筆に値するし、インターネット・サブカルチャー、あるいはポップ化したメンタルヘルスやクィアネスと所謂"5th wave emo"との浅からぬ関係は研究したら面白いだろうと常々考えているので、これに関して一家言ある方は是非お聞かせいただきたい。本作に加えて1月にはpwsnとテキサスのBedroom SkramzアーティストBright, Little StarsのスプリットEP『BLS x PWSN』がミズーリのDIYエモ・レーベルHoneysuckle Recordsから再リリースされていたので要確認!


R.A.P. Ferreira & Fumitake Tamura - the First Fist to Make Contact When We Dap
ご存じシカゴ出身のラッパーにしてRuby YachtコレクティブのボスR.A.P. Ferreiraの新作は日本人プロデューサーFumitake Tamuraとのジョイント・アルバム。田村氏は2019年にもYUNGMORPHEUSとの共作『Mazal』をLeaving Recordsからリリースするなど国内外で活躍するミュージシャンであるが、今回のコラボレーションに至ったきっかけは、Ferreiraが自ら運営するレコードショップSoulfolks Records & Tapesを昨年5月にナッシュビルに移転オープンさせたことが少なからず関係していると思われる。商材(学研のトイ・レコードメーカー)を仕入れるために昨年4月に日本を訪れたFerreiraは、東京と大阪でイベントに出演しており、そこで田村氏と共演していたのだった。日本のBボーイやBガールそしてDJといった音楽を中心としたコミュニティのありようにも感銘を受けたというFerreira。Soulfolksでは頻繁に参加無料のイベントを開催し、ヒップホップ・カルチャーのハブとしてナッシュビルの街に受け入れられているようである。以上、Soulfolks Recordsの勝手な宣伝でした。


RADICAL KITTEN - Uppercat
フランスはトゥールーズの"queer and feminist rrriot punk band" RADICAL KITTENの2nd。Crass, Au Paris, Bikini Killの遺伝子を引き継いでアナーコ・パンクとフェミニスト・パンクを実践するクールなmeow!


Reverse Baptism - Street Business
ペンシルベニアのノイズ・レーベルNo Rent Recordsの創設者Jason Crumerがかつて組んでいたパワー・エレクトロニクス・トリオReverse Baptismの2011年作が同レーベルから再リリース。これ傑作だった。ノイズ・ミュージックが好きだと言うと、「どういう気分のときにノイズ聴くの?」と問われることがあるのだが、この素朴な問いは「ノイズとは何か(音楽なのか)」「ノイズを能動的に聴取するという行為に妥当性はあるか」という、ノイズ・ミュージックというジャンル自体が孕む根源的な矛盾に至らざるを得ない。逆説的に、ノイズを聴取するのに相応しい環境について考えてみると、おそらくそんなものは存在しない。なぜならば、ノイズとは「否定形によって表されるもの(受け入れられない音、音楽でないもの、正当でないもの、メッセージや意味でないもの)であり、否定的な意味に規定されたもの」(ポール・ヘガティ『ノイズ/ミュージック』より)なのだから。ノイズを能動的に聴取するという行為自体そもそも不当なのである。いつだったか北村紗依さんが「Zoomでノイズミュージックに関する学会発表をすると、音楽を流してもノイズが全部カットされてしまう」とツイートしていたように、それは一義的に邪魔なものであり、排除の対象なのだ。しかし、ノイズ・キャンセリング機能がノイズを拒むのとおなじように、ノイズ・ミュージックのほうもまた我々を拒んでいる。理解を拒み、調和に抵抗し、あわよくば支配を目論んでいる。ここで最初の「どういう気分のときにノイズ聴くの?」という問いに戻れば、それは拒絶されながら共に拒絶し、抵抗されながら共に抵抗するという行為である。


Roy Montgomery & Friends - Broken Heart Surgery
The Pin Group, Dadamahといったバンドで80年代から活動するNZアンダーグラウンドのレジェンドRoy Montgomeryの新作が意外にもヨーテボリのDiscreet Musicから。ギタリストとしての印象が強い彼だが、近年はゲスト・ボーカルを迎えたり、ときには自身で歌ったりする、いわば"4AD系ドリームポップ"路線の作品も多く、本アルバムはその方向の新たな傑作。おなじみのコラボレーターEmma Johnston、NZのアンビエント・シンガーAlicia Merz a.k.a. Birds Of Passage、Montgomeryと同じくクライストチャーチのインディーシーンでThe Terminalsのボーカルとして活動したStephen Cogle、そしてSquidのヒット・シングル"Narrator"に参加し、昨年AD93からシングル"Dogs"もリリースしたUKのエクスペリメンタル・アーティストMartha Skye Murphy(作詞も担当)など、"Friends"の顔ぶれも見逃せない。ところで、Montgomeryが1996年にkrankyからリリースしたソロ・デビュー作『Temple IV』が3月に初めてLPで再発されるのだが、ディスクユニオンはちゃんとこういう商品を取り扱ってください!扱うように言っときます!


Taku Sugimoto - Since 2016
日本を代表する実験音楽家・即興ギタリスト杉本拓氏の新作がAndrew Weathersの運営する米実験レーベルFull Spectrum Recordsから。タイトル通り2016年から2022年にかけてのベスト盤的内容。酒酔い映画の傑作である黒川幸則『VILLAGE ON THE VILLAGE』での歌唱シーンが印象深い佐伯美波(同監督の『にわのすなば』、堀禎一『夏の娘たち~ひめごと~』にも出演)とのプロジェクトSongsによる歌モノが中心となっていて、これが大変素晴らしい(発見)。歌モノといってもLoren Connors & Kath Bloomのようなメロディーと伴奏が形成するフォーク・ソングとは異なる、一音一音のミニマルなコミュニケーション実験としての声とギター。こうしてこの文章を書いてて、聴き直してて、気が付いたら限定100枚のアナログ盤オーダーしてしまっていたし、正直に言うと、ひとつ前のRoy Montgomeryも文章書いてて、聴き直してて、気が付いたらアナログ盤オーダーしていたので、セルフ物欲促進効果がヤバい。


They Hate Change - Wish You Were Here...
フロリダのヒップホップ・デュオThey Hate Changeの新作EP。Deathbomb ArcからJagjaguwarに移籍してリリースした2022年の『Finally, New』はダンス・ビートが印象的な好盤だったが、本作では初めて外部のプロデューサーにトラックを委託。2022年にWarpからデビューしたWu-lu, マンチェスターのIDMプロデューサー96 Back, 同郷フロリダのフットワーク・プロデューサーDJ Orange Julius, Wilma ArcherとのユニットWilma Vritraでアブストラクト・ラップの傑作『Grotto』をリリースしているMC/プロデューサーVritra (from Odd Future)という顔ぶれ。They Hate Changeというユニット名そのままに、トラックメイカーが変わっても彼らのスタイルは変わらず寧ろ強化されている。96 Back prod.の"Wallabies & Weejuns"とか最高です。


Various Artists - European Primitive Guitar (1974​-​1987)
イースト・ロンドンのネット・ラジオ局NTS Radioがキュレーションするコンピ・シリーズの第5弾。これまでも南アフリカのアマピアノ、タンザニアのシンゲリ、90s ダーク・アンビエント~ダンジョン・シンセといったエッジの効いたジャンルを取り上げてきたが、今回はヨーロッパにおけるプリミティブ・フォークをフィーチャー。その道のパイオニアであるジョン・フェイヒィに影響を受けた、あるいは独自にそこへ到達したギタリストの楽曲をLP2枚にたっぷり収録。こういった音楽を今の時代に聴くとアナクロなものに思えるが、フェイヒィやRobbie Basho, Leo Kottke, Peter Walkerらが活躍した60年代には間違いなく前衛であったのだ。Numero GroupのWayfaring Strangersシリーズなど、アメリカにおけるプリミティブ・フォークにフォーカスした企画盤は存在していたものの、ヨーロッパのものとなると今まで見落とされがちだったので、これは本当に素晴らしい仕事!勉強になります!もちろんアナログ盤買いました!


When 2 - Here
このブログではおなじみのレーベルHausu MountainやOrange Milkでリリースを重ねるRXM RealityことMike Meeganの新たなプロジェクトWhen 2の1stアルバムは、サンプルを細かく刻んだクレイジーなプランダーフォニック。Hausu Mountainの立ち上げ人Max Allison a.k.a. MukqsがキュレーションするレーベルBlorpus Editionsから。Keith Rankinによるアートワークも毎回かっこいいです!


zakè - Lapis
インディアナポリスのアンビエント・レーベルPast Inside the Presentのオーナーzakèが、UKの新興レーベルquiet detailsからリリースした新作。ループ・ベースのオーソドックスなメロディック・アンビエントで文句のつけようもございません。昨年ベルギーのアンビエント作家't Geruisを取り上げたときにquiet detailsについても触れたように思いますが、音楽はもちろんのこと統一感のあるアートワークがいつ眺めても素敵なレーベルです。


1月編は以上です!1月といったら1年の最初の月です。1月編を書いてしまったら、2月、3月、4月、n月…と続けていかなければいけない雰囲気が出るじゃないですか。なので、ちょっと逡巡していたら2月ももう終わりかけていましたよね。昨年はひと月分書くのにだいたい10~12日間くらいかかってましたよ(まあ、怠けながらちびちび書いていたからなのだが)。たしかに情報過多だったと言えばそれは言い過ぎではないでしょう。出来るだけ気になることは調べて、その5~6割くらいを文章にしたためていたと思うんですが、それでもこのブログのリンクを開いた途端にみんな「長え(なげえ)んだよ」「画像とBandcampの埋め込み重ーし(おめーし)」って萎えていたと思うんです。その反省を活かして、今年はサクッとね、パスッとね、持続可能な心持ちでやっていきたい(ここで実はサクッのあとに続く擬態語を「スコッ」や「マキッ」やその他諸々のどれにするかで小一時間悩んでいる)。今回は5日間くらいで書けましたね。もうね、チョイとしか調べない。言葉が見つからなかったらそれでいい。元々どうせ誰も読んでいないのだから。ここまで読んで気が付いたとは思いますが、基本的に僕の文体は気持ちが悪い。それでは最後に恒例の最近読んで良かった本コーナーです!

【最近読んで良かった本コーナー】
・佐々木敦「ニッポンの思想 増補新版」(ちくま文庫)
・トマス・ネーゲル、訳・永井均「新装版 コウモリであるとはどのようなことか」(勁草書房)
・稲葉振一郎「社会倫理学講義」(有斐閣アルマ)
・マウリツィオ・ラッツァラート、訳・杉村昌昭「耐え難き現在に革命を! マイノリティと諸階級が世界を変える」(法政大学出版局)
・岡真理「記憶/物語」(岩波書店)
・「現代思想 vol.52-2 パレスチナから問う」(青土社)

読書会やイベント、デモのお誘いもお待ちしております!

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