NEW MUSIC TROLL - FEB '24

2024年2月編です!

The American Analog Set - New Drifters
今月もNUMERO再発から始まってしまった!1995年にテキサス州オースティンで結成されたスロウコア・バンドThe American Analog Setが地元レーベルEmperor Jonesからリリースした初期3作に未発表曲を加えた5LPのボックス・セット。メインのソングライターであるAndrew Kennyの祖父母の家にお手製のスタジオを構え、当然のようにデビュー作から一貫してセルフ・プロデュースで制作されていて、アンダーグラウンドがオーバーグラウンド=音楽産業に引っ張りあげられていくこの時代にしてはあまりにもリラックスしすぎている。そして彼らがギャラクシー500やスペースメン3の熱心なリスナーだったろうことは想像に難くない。1st『The Fun of Watching Fireworks』は当時からステレオラブとも比較されて所謂"スペース・ロック"という括られ方をされたようだが、続く2nd『From Our Living Room to Yours』においてより一層スローにミニマルに邁進しているのが素晴らしい。ホントにいいバンドです。ちなみに去年18年ぶりの新作『For Forever』で復活しています。


Ariel Kalma, Jeremiah Chiu & Marta Sofia Honer - The Closest Thing to Silence
70年代から活動するニューエイジ巨匠Ariel Kalmaと、昨年の9月編でアルバム『In Electric Time』を取り上げたLAのモジュラーシンセ奏者Jeremiah Chiu、ヴィオラ奏者Marta Sofia Honerによるコラボ作。後者2名は2022年に『Recordings from the Åland Islands』でデュオとして作品を発表しており、それを聴いたKalmaがBBCのラジオ番組Late Junctionでのコラボレーション企画の相手に2人を指名したのが始まりなのだという。3名それぞれの即興演奏を基にしたスピリチュアル・ジャズ~アンビエント・コラージュ。その中には、1970年代に電子音楽/コンクレートの聖地INA-GRMで技師をしていた頃のKalmaが録音したアーカイブ素材も含まれている。


Armbruster - Can I Sit Here
ニューヨークのヴァイオリン奏者Connor ArmbrusterがペンシルベニアのDear Life Recordsからリリースした新作。歪ませた電子ヴァイオリンのループ・ドローンを基調にしながら、ノイズやヘヴィ・ロックさらにはメタル・ギターといった意外なテクスチャーを非常にエモーショナルに混ぜ込んでいる。"Night biking"での泣きの高音とかマジでルー・リードかよってかんじだ。


bod [包家巷] - elision
昨年もさんざん取り上げたベルリン在住bod [包家巷]の新作。1月の来日ツアー行きたかったな…。


Chris Pitsiokos - Irrational Rhythms and Shifting Poles
ニューヨークの前衛サックス奏者Chris Pitsiokosによるアルトサックスと4チャンネルのエレクトロニクスを用いた「無理数(irrational number)によって生成されるリズムと、相反する極性(polarity)のオーディオ信号を別々のスピーカーで再生する、という2つのアイデアからなるコンセプト」の電子音響フリージャズ作品。JazzTokyoに剛田武氏によるレビューが載っていたので是非そちらを参照していただきたい。なにやらアカデミックなかんじがしてしまうが、ノイズ・ミュージック、ミニマル・ミュージック、即興音楽として全然超刺激的なのでオススメです。


CS (Christian Schiefner) - Dezember/Oh Trouble
昨年のYear End Listに『Februar + Folgendes』を選出したChemiefasewerkことChristian Schiefnerが自身のカセット・レーベルFaltからリリースした新作テープ。シドニーにあるギャラリーSydney Non Objectiveのサイト上で2022年に公開されていた"Dezember"と昨年セルフ・リリースしていた"Oh Trouble"を収録。フィールド・レコーディングやオブジェクト、電子ノイズ、楽器による静謐なコラージュ/ドローン。


David Grubbs & Liam Keenan - Your Music Encountered in a Dream
ご存じDavid Grubbs先生(Bastro, Gastr del Sol)とMeteor Infant名義でSSW活動をするシドニーのミュージシャンLiam Keenanの2名によるギター・インプロビゼーション。Lawrence EnglishのRoom40から。エフェクトによってエレキ・ギターをシンセのパルスのように変換する"Gemini Cluster"の後半部が出色。


Ducks Ltd. - Harm's Way
80sジャングル・ポップの美しきリバイバリストDucks Ltd.の新作。古き良きFlying Nun~Sarahサウンドを2024年の今ここまで馬鹿正直に追求している、その一点だけでもこの上なく素晴らしく、かけがえがない。本当に大好きなバンドです。Brooklyn VeganとFlood Magazineで彼らが好きな曲を挙げているので確実にチェックお願いします。


ecm - if you smile, i smile
本ブログではすっかりおなじみエジンバラのカセット・レーベルMolt Fluidから、実験デュオOishiの一員でもあるZheng HaoとJoseph Khanからなる2人組ユニットecmのデビュー作。アブストラクトな即興モジュラー・セッション"if you smile, i smile"もいいが、ツマミとケーブルをエレキ・ギターに持ち替えてお届けするB面のローファイ・エクスペリメンタル・ロックもなんかいい。結局オレらは"Here Comes The Warm Jets"が好きなんだ。


Emahoy Tsege Mariam Gebru - Souvenirs
昨年3月に99歳で亡くなったエチオピアの修道女エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルーの新たな発掘音源集。この方の生涯についてはTurnに掲載された柴崎祐二さんによる追悼記事を読んでいただくとしまして、Mississippi Recordsがここ数年来行ってきた素晴らしいリイシュー・プロジェクトの中でも本作が際立っているのは何よりも初めてのボーカル・アルバムであるという点だ。1977~1985年にかけて自宅でカセット・テープに録音された極私的な歌の中で彼女が語るのは、彼女自身が"The Homeless Wanderer"であるという経験そのことに他ならない。同時に今"故郷"や"祖国"について考えるとき、パレスチナの人々のことを思わずにはいられないだろう。


Flowertown - Tourist Language
サンフランシスコのPaisley Shirt RecordsからCindyのメンバーでもあるKarina GillとMike Ramosのローファイ/ドリームポップ・デュオFlowertownの4枚目。RamosはApril Magazine, Tony Jayでも活動しており、これらのバンドの音には2人の強力な個性が刻印されている。どのバンドのどの曲から聴いたっていい。どれもそんなに違わない。僕にはこのことが大変好ましいのだ。本作にはシド・バレットの"No Good Trying"のカバーが収録されているが、これも完璧にFlowertown節にアレンジされている。この調子でカバーアルバムとか作ったら面白いだろうな。


The Follies - Permanent Present Tense
NYCのパンク・バンドThe Folliesのデビュー作がオハイオ州シンシナティの間違いないパンク・レーベルFeel Itから。歌心のあるパブ・ロック・スタイルで、個人的にはTed Leo and The Pharmacistsなんかを思い出す。ボーカル&ギターEvan Radiganとリード・ギターMichael LiebmanはVanityというバンドでも活動。ベース&ボーカルのJess Poplawskiは現L.O.T.I.O.N. Multinational CorporationのAlexander Heirとダークなゴス・バンドSurvivalを組んでいたようだ。新しいバンドのデビュー作とは言ってもメンバー各々様々なバンドで活動していて10年くらいのキャリアがある、というDIYパンクあるある。


Grimório de Abril - Castelo d'Água
ブラジルはサンパウロ出身のアーティストVeridiana Sanchezによるソロ・プロジェクト。2020年にヴェイパーウェーヴ・レーベルDream Catalogueからゴシックなダーク・アンビエント・ポップ作『A Lung Full Of Flowers』でデビュー。2022年にはウェスト・バージニアのCrash Symbolsから2nd『The Glass Labyrinth』をリリース(この作品もDream Catalogueの共同設立者t e l e p a t h テレパシー能力者がマスタリングを担当)。そして3作目となる本作は地元ブラジルの実験レーベルMunicipal K7から(このレーベルのリリースはどれも面白いので今すぐBandcampページでフォローすべし!)。ドリーム・ポップ、アンビエント・フォーク、ニューエイジ、グリッチ、あるいはブラジリアン・ファンク、さらにBandcampページのタグに含まれている"baroque"など多様な要素が乱反射する、掴みどころのないキメラ状のレフトフィールド・ポップ。これ不思議と何度もリピートしてしまう。同じブラジルのアーティストBabe, Terrorの作品に感銘を受けた方やスペインのMarina Herlopが好きな方におすすめです。


Harry Gorski-Brown - Durt Dronemaker After Dreamboats
バグパイプ・ファンのみなさまお待たせしました。本ブログでは昨年の4月編で取り上げたJacques Puech『Gravir / Canon』以来のバグパイプもの。グラスゴーのミュージシャンHarry Gorski-Brownが地元レーベルGLARCからリリースしたデビュー作。演奏されているのは全てスコットランドのトラディショナルな楽曲で、当然バグパイプのドローン音はアルバムの中心に鎮座しているが、そこには同時にGorski-Brown自身の歌声があり、さらにはドローンを強化するシンセやノイズも現れてくる。アイルランドのJohn Francis FlynnやニューカッスルのRichard Dawsonが行ってきた土着フォーク・ミュージックの脱構築・再解釈の新たな実践者だ。


Helado Negro - PHASOR
エクアドルにルーツを持つ米国のミュージシャンRoberto Carlos Langeの新作。ドラマーMatt CrumとのROMやScott Herren(Prefuse 73)の別プロジェクトSavath & Savalasへの参加等20年近いキャリアを持つ彼だが、Helado Negroとして注目を浴びたのはやはりRVNG Intl.移籍以降だろう。その後新たに契約した4ADからはこれが2作目。かつて"We are Young, Latin and Proud"と歌っていたようにラテン・アメリカのフォークやファンクに根ざしながら、大学で学んだという実験音楽・電子音楽からのリファレンスも多く、本作ではダンサブルなポップスと実験的エレクトロニクスの折衷的スタイルがさらに押し進められている。1曲目"LFO (Lupe Finds Oliveros)"はフェンダー社のアンプ配線技師Lupe Lopezとディープ・リスニングの提唱者Pauline Oliverosという2人の女性へのトリビュートだし、"Out There"や"Flores"といった楽曲では心地よいシンセ・アンビエントが展開されている。


Ian Wellman - The Night The Stars Fell
ロサンゼルス在住のサウンド・アーティスト。2020年に起こったカリフォルニア地域の大規模森林火災で被害を受けた森や砂漠でのフィールド・レコーディングとテープ・ループをコラージュした実験作品。本作の重要なモチーフとなっているのは風の音だ。焼け朽ちた木に吹き付ける風、砂漠に放置された脱線車両の中を吹き抜ける風、強風を受けた廃屋が激しく軋む音…。消耗していくテープがループするアンビエント/ドローンが崩壊のイメージを喚起する。


Jean-Luc Guionnet + Eric La Casa + Philip Samartzis + Dan Warburton - Parking
タイトル通り、駐車場録音作品。"Parking La Villette 1"は2007年パリのラ・ヴィレット公園の駐車場で行われたサックス奏者Jean-Luc Guionnetとヴィオラ奏者Dan Warburtonによる即興演奏。フランスのEric La CasaとメルボルンのPhilip Samartzisが録音者として立ち会っている。"Parking 2"は2021年パンデミックのピーク時にGuionnet & CasaとSamartizがそれぞれパリとメルボルンで別々に録音した素材のモンタージュ(?)なのだろうか。駐車場(あるいはロックダウン下の無人都市の駐車場)というイレギュラーな制御不能空間における音の運動をとらえたユニークなドキュメントとなっている。


JORTS - Carpe Denim
ギターとドラムからなるUKブリストルの"Post-math, not-not-jazz"デュオJORTSのライブ録音。Storm & StressやU.S. Mapleといったシカゴ周辺の90年代USマス・ロックorノイズ・ロックの香りがする。


Kitchen Cynics & Grey Malkin - We Are All Ghosts
スコットランドのミュージシャンAlan Davidsonによるソロ・プロジェクトKitchen Cynicsと"haunted folk"デュオThe Hare And The Moonで活動したGrey Malkinが2020年から不定期にリリースしていたジョイント・シングルのコンピレーション。歌のモチーフはもちろん幽霊や超自然現象についてである。ある土地に伝わる幽霊伝説やアルジャーノン・ブラックウッドの怪奇小説、ジャック・クレイトンが監督した古典的ホラー映画『回転』などからインスピレーションを受けたセピア色のダーク&ゴシックなフォーク・バラードが10曲。コンセプトからして素晴らしい。


Leo Okagawa - Send and Return
実験レーベルzappakを主宰する東京のサウンド・アーティストLeo Okagawaの新作が北京のAloe Recordsから。音源ではフィールド・レコーディングを用いた作品も多く、昨年Molf Fluidからリリースされた『Druhé M​ě​sto』はフィールド・レコーディングとエレクトロニクスのコラージュであり、Ftarriからリリースされた『just another day』はカットアップ手法で編集された純フィールド・レコーディングであったが、ライブでのソロ・パフォーマンス録音である本作は即興による純エレクトロニクス作品。さまざまにニュアンスを変化させながら持続するノイズは、ノイズでありながらむしろ場に対して調和的にすら感じられる。"Nanahari"の冒頭では劣化したCDが発する異音を取り入れているという。一度取り込んだだけで二度と開けることのないCDいっぱい持ってるけど、劣化してんだろうなー…。


Limbo District - Circle of Monkeys b​/​w 5 'til 12
昨年11月編でも紹介しました80年代アセンズのヘンテコ・バンドLimbo Districtのニュー7inchです!約2年の活動期間に20曲ほどを録音しているというので今後もリリースされていくでしょう。今月また3曲入り7inch『Have You Seen Margo? b​/​w Funhouse + New Ground』が出ています!


Maya Shenfeld - Under The Sun
2022年のデビュー作『In Free Fall』に続くThrill Jockeyからの2枚目。出生地であるエルサレムで幼いころからクラシックの専門教育を受けていたというShenfeldだが、ベルリン芸術大学に入学すると実験音楽や即興、機材に夢中になり、パンクバンドでギターも弾いていたのだという。本作も前作同様にドローン・シンセのハーモニーを中心とした美しいアルバムだ。ポルトガルのヴィジュアル・アーティストPedro Maiaとの共同制作プロセスの中で録音された大理石採掘場でのフィールド・レコーディングも使用されており、"Tehom"や"Sedek"といった楽曲ではインダストリアル風味の反響音が聴かれる。その採掘場で撮影しMaiaがディレクションしたMVも公開中。


Mike Cooper And Friends - Soprano - An Homage to Lol Coxhill
英国のギタリスト/実験音楽家Mike CooperがおなじみRoom40からリリースした新作は、2012年に亡くなったフリー・サックス奏者Lol Coxhillへのトリビュート。ソフト・マシーンのケヴィン・エアーズ、ザ・ダムド、フレッド・フリス、あるいは日本の突然段ボールと共演し、Derek BaileyのCompanyや英国アヴァンギャルド・スーパーグループ49 Americansに参加するなど、70年代から多岐に渡って活動しているCoxhillだが、Cooperとは1982年にドラマーRoger Turnerと共にThe Recedentsを結成し長く共に活動していた。本作にはCooperがCoxhillと関わりのあったソプラノ・サックス奏者11人とそれぞれ共演したサックス×エレクトロニクスのインプロ・セッション11曲が収録されている。


Mint Mile - Roughrider
90年代にSteve Albiniとタッグを組んでMatadorやTouch & Goから傑作を次々リリースしていたインディー・ロック・バンドSilkwormをご存じか?2005年にドラマーのMichael Dahlquistが自殺を企図した自動車事故に巻き込まれて亡くなってしまいバンドは解散。中心メンバーのAndy CohenとTim Midyettは新たなバンドBottomless Pitを結成し、2014年の活動休止までに3枚のアルバムをリリースした。その後Midyettが始めたプロジェクトがこのMint Mileなのだ。バンドは2015年から18年にかけてEP3枚を発表し、Midyettのドゥーム・メタル・バンドSun O)))への参加も挟みつつ、2020年に1stフル『Ambertron』をリリース。本作はそれ以来4年ぶりの2ndである。アタイはSilkwormのことが特別に好きだし、Midyettが2002年にひっそりThree Lobedからリリースしたソロの弾き語りEP『It Goes Like This』も大好きなので、Mint Mileもだーいすき。ちなみにドラムのJeff PanallはSongs: OhiaことJason Molinaの代表作『Magnolia Electric Co.』でも叩いている男である。Midyettの歌はもちろん最高だし、6分から7分の長尺曲でじっくり聴かせるバンドのジャムも◎。ラストのスローなアメリカーナ・バラード"I Hope It's Different"ではシンガーソングライターNina Nastasiaがボーカルを聴かせてくれる(SilkwormはかつてNastasiaの楽曲"That's All There Is"をカバーしている)。では最後に個人的Silkwormおすすめアルバム3選を発表します。
・『Firewater』(1996) Youtube Matadorデビュー作。Andy Cohenのギターを堪能するならこれ。
・『Lifestyle』(2000) Bandcamp おそらくこれがバンドの全キャリアを通しての代表作。Facesの名曲"Ooh La La"のカバーとかホント最高。
・『Italian Platinum』(2002) Bandcamp 本作における陰の主役はBedheadやThe New Yearでスロウコアの歴史にその名を刻むMatt Kadaneの鍵盤である。


Nate Scheible - or valleys and
米アンビエント作家Nate Scheibleが地元ワシントンD.C.に新たに立ち上がった新レーベルOutside Timeからリリースした新作テープ。エレクトロニクスやピアノによるアンビエント("small and horseless")、ビニールをくしゃくしゃする音("the silver shore")、小規模のホーン・アンサンブル("stray")、くだらない会話録音("missississippi")といった様々な要素をわずか17分間に詰め込んだ大変ユニークな実験作です。


Nick Schofield - Ambient Ensemble
カナダのアンビエント作家Nick Schofieldの新作。2021年作『Glass Gallery』は完全ソロで構築した素晴らしいシンセ・アンビエントだったが、今回は自身のピアノの即興演奏を基にヴァイオリン、クラリネット、ベース、ボーカルのアコースティック・アンサンブルとしてスケール・アップ。そこへさらにシンセがきらびやかなアクセントを加えている。


Ol' Burger Beats - 74: Out of Time
ノルウェーのビートメイカーOl' Burger Beatsの新作は全編74BPM縛りのスローなジャジー・ヒップホップ集。lojii, Lil B, Pink Siifu, billy woods, YUNGMORPHEUS, Quelle Chris, Gabe Nandez, Fly AnakinとゲストMCの顔ぶれも最高。


Persher - Sleep Well
PariahことArthur CayzerとBlawanことJamie Roberts、デュオでKarennとしても活動するUK出身DJ2名によるエクストリーム・エレクトロニック・スラッジ・プロジェクトの2nd。正直PariahもBlawanもKarennも趣味の範囲外なんだが、ヘヴィなシンセとデス系ボーカルでスラッジ・メタルごっこしているこのPersherは最高だと思う。なんでも二人は敬虔なパンク/メタルのヘッズなのだとか。ぜひこの調子で人を踊らせないくらいエクストリームで̪̪シットな音楽を作ってほしい。オレは踊りたくないんだ!


Phill Niblock - Looking for Daniel
今年1月に90際で亡くなったドローン・ミュージックの大家Phill Niblock御大のPosthumousリリース。"BILIANA"はブルガリア出身のヴァイオリン奏者Biliana Voutchkovaのために2023年に作曲されたヴァイオリンとヴォーカリゼーションによるドローン作品。"EXPLORATORY, RHINE VERSION, LOOKING FOR DANIEL"は20のパートからなる複雑なアンサンブル作品で、ここではオランダのフェスティバルで演奏された9名の弦楽アンサンブルによるパフォーマンスが収録されている。2021年には銀座メゾンエルメスで行われた展覧会の企画で東京の声楽アンサンブルVox humanaが24声ヴァージョンを録音していたらしいので、編成は自由なものと思われる。これからNiblock聴いてみたいよ~という方は、その名も『Young Person’s Guide to Phill Niblock』というアルバムがあるので素直にそちらから聴いてみてください。ジム・オルークのMoikaiからリリースされた『G2​,​44​+​/​x2』は、Rafael ToralやKevin Drumm, Alan Licht, Thurston Moore, Lee Renaldoといった錚々たる顔ぶれによるギター・ドローン作品。あるいはロンドンのレーベルTouchからリリースされた一連の長大なTouchシリーズも。基本的にはどれも大きな音量での再生が推奨されています。かつてNiblockはこう書き記した。"You should play the music very loud. If the neighbors don't complain, it's probably not loud enough."いつでも胸に留めておきたい格言です。


Rafael Toral - Spectral Evolution
そのジム・オルークさん主催レーベルMoikaiが20年以上ぶりに新たな作品を世に送り出した。ポルトガルの実験音楽家Rafael Toralの最新作『Spectral Evolution』である。Toralといえば1994年のデビュー作『Sound Mind Sound Body』と翌年の『Wave Field』がギター・ドローンの名作として語り継がれているわけだが、2000年代中盤からはギターを脇に置き、自身が"post-free jazz electronic music"と呼ぶ"Space Program"を開始。近年はSpace Quartetとしてフリー・ジャズとエレクトロニクスの融合を志向するグループ活動をしていた。2021年にSpace Quartetに終止符を打ち、本作でついにエレキ・ギターに回帰。しかも鳥ジャケ。昨年mappaがシンセサイザーによる鳥の鳴き真似コンピ『Synthetic Bird Music』を出したとき、私は「今、鳥が熱い」と適当なことを言ったのだが、実際熱いのかもしれない。楽曲中でもまさに"Synthetic Bird Music"が結構な頻度で繰り広げられている。この鳥の鳴き声の正体はテルミンのアンテナを用いたフィードバックで、"Space Program"でも使用していたらしいので、Toral的には結構前から鳥は熱かったということになる。12のパートからなる47分のシームレスな長尺トラックとしてまとめあげられた本作は、Toralによればジャズの典型的なコード進行である「リズム・チェンジ」やデューク・エリントンのスタンダード「A列車で行こう」など、1930年代のジャズのコード進行を極端に抽象化した形で参照しているのだという。というわけで、今後は「ドローン、鳥、ジャズ」この3つが来ます(断言)!言い忘れてたけど、このアルバムは傑作です!


The Reverend Kristin Michael Hayter - SAVED! The Index
ところで人類史上常にホットな存在といえばJesusだろう。昨年10月にリリースされたLINGUA IGNOTA改めThe Reverend Kristin Michael Hayterの『SAVED!』は暴力とミソジニーのサバイバーであるHayterが、改めて神との関係を探求した狂気の賛美歌集であった。本作『SAVED! The Index』は、その傑作『SAVED!』のために録音された未発表曲のコレクション。Diamanda GalásやJohnny Cashも歌った"WERE YOU THERE WHEN THEY CRUCIFIED MY LORD"や、Gavin Bryarsのヴァージョンも有名な"JESUS' BLOOD NEVER FAILED ME YET"など、ここでもHayterの迫真の歌唱は凄みを感じさせる。『SAVED!』のラスト曲"HOW CAN I KEEP FROM SINGING"で強烈なインパクトを残したグロッソラリアが"TONGUES (EXTENDED)"として拡張再収録されているのも嬉しい。


Romance - Endless Love
セリーヌ・ディオンをサンプリングした『Once Upon A Time』、ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーをトリビュートした『Fade Into You』などで俗なメロドラマを研究するヴェイパー/アンビエント作家Romanceがバレンタインデーに合わせて「キューピッドの矢で傷を負った全ての人へ」向けてリリースした𝓔𝓷𝓭𝓵𝓮𝓼𝓼 𝓛𝓸𝓿𝓮...。2024年エンドレス・ラブ部門優勝間違いなし。


Roslyn Steer - Thirteen Ways of Looking at a Blackbird
ほら、言ったそばから鳥!と言ってもアメリカの詩人ウォーレス・スティーヴンスの同名の詩からの頂きである。各トラック・タイトルも全部で13ある詩の節それぞれから取られている。Roslyn Steerはアイルランドのコーク在住のマルチ奏者。ハーモニウム、コントラバス、電子ドラム、ギター、シンセ、スピリチュアルなボーカルが織り成すアシッド&ゴシックな不定形のエクスペリメンタル・フォーク。


RRR Music Group - Diamond Collection
NYCアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンのラッパーYLとSTARKER、そしてビートメイカーZoomoの3人からなるユニットRRRの新作。とはいえZoomoのビートは4曲止まりなので、実質的にはYL&STARKERのユニットLo.Ceasarってことになるのかもしれない。Zoomoの他にJUNIE.やNo Face、最近Chester WatsonとジョイントEP『winter mirage』をリリースしていた日本のill sugiといった馴染み深いプロデューサーがクレジットされているが、今回印象に残ったのはLook Damien!とDrivebyの2人。覚えて帰ってください!


SALIMATA - Wooden Floors
2022年にMIKEが主催する10kから『Salimata Presents - OUCH』でアルバムデビューしていたブルックリンのラッパーSALIMATAがLAのFada Recordsからリリースした2nd。本作でも4曲をプロデュースしているフランスのVelvetian Skyが昨年Fadaから出したEP『Family』にもPink SiifuやAhwlee, lojiiと共にフィーチャーされ、更にはB. Cool-Aid(Pink Siifu & Ahwlee)のアルバムにも参加するなど、昨年来東から西へライムを飛ばしている。"Dishes"の澱みない三連フロウとかかっこいい。


Shit and Shine - JOY OF JOYS
テキサス男Craig Clouse率いる珍奇なアヴァンギャルド・プロジェクト。2004年の活動開始以来ハイペースで様々な種類のSHITを世に放ち続けている。本作は単に"Joy"と名付けられた1~3分程度のチープな電子ビートとノイズの無秩序な断片の博覧会である。そこには初期電子音楽やインダストリアル、IDM、00年代USノイズのエレメントがまぶされ、徹底的に無機質で、"JOY"というタイトルはまるでアイロニー。だが、この人を食ったようなアンチ・エモーションな態度がある種の人間にとってはJOYに反転してしまうのだ。


Takashi Masubuchi & Yosuke Morone - Particles and Waves
2023年1月に水道橋Ftarriで行われた増渕顕史と諸根陽介のデュオ演奏の録音がzappakからリリース。諸根氏がファンクションジェネレータで生成する高周波の音信号やホワイトノイズの上で増渕氏がアコースティック・ギターを爪弾く。相乗的というよりは相補的で、何か理想的なコミュニケーションのあり方のようなものが提示されているような、そんな感覚を受ける。


Tony Bontana - L'Humanité
UKバーミンガムのMC/プロデューサー、そしてハードコア・パンク・バンドSPEWのボーカル/ギターでもあるTony Bontanaが亡き母親に捧げた新作。Tonyが立ち上げたEverything is Perfect Recordsに所属するDan Oddyseeやoghost, Spruceといった盟友たちによるボーカル・サンプルを多用したソウルフルでサイケデリックなビートは抜群だし、UbiquiyがフィーチャーされたオルタナティブR&Bなトラック"Pools Of Wax"でのTony自身が手掛けたアンビエント系ビートにも瞠目させられる。彼のそうした複雑性・実験性は、アウトロ的に収録されているアトモスフェリックなギター・アンビエント"Reach Out"で更に強く印象付けられる。今年聴いたヒップホップ・アルバムの中でもトップクラスに好きです。Tony Bontanaの名前だけでも覚えて帰ってくれ!


Weston Olencki & Laura Cocks - Music for Two Flutes
タイトル通りフルートのために作曲されフルートによって演奏される音楽なのだが、1曲目"ceòl meadhonach"を再生して耳に飛び込んでくるのは、我々がフルートと聞いてイメージする音色とは全く異なる激しいドローン音と不協和音である。スコットランドのゲール語で「中間の音楽」を意味する"ceòl meadhonach"は、バグパイプ音楽で用いられるCeol Mor="big music"とCeol Beag="little music"というカテゴリーの間に位置づけられた「行進やダンスに適さない」類の音楽のことらしい。OlenckiとCocksはそれを転用し、フルートによる表現を拡張させる。一方"SLUB"は振動するメディアとしてフルートを捉え直したようなフィジカル性の強い楽曲。Olenckiは2020年の『SOLO WORKS』などで予てからトロンボーンやトランペットでこうした管楽ノイズを演奏しており、Cocksにも実験的なソロ・フルート作品『field anatomies』がある。ハイリー・レコメンド!


Yol & David Curington - A Typical Sunday
UKのノイズ・アーティスト2名によるコラボレーション作品。Yolの支離滅裂で耳障りなヴォーカル・パフォーマンスとCuringtonのサンプリング・ノイズが渾然一体となって迫り来る。素晴らしいです。


柴田聡子 - Your Favorite Things
僕がいつも心の中で正座しながら聴いている名曲"どうして" (『スロー・イン』(2020)収録)の中で「謎の雰囲気担当大臣 わたし いくらでもふざけてみせますよ」と歌っていた柴田聡子は、本作リリースにあたってのインタビューでそうした衒いや「面白くありたい」の強迫観念からの解放について度々語っている。
・「面白くいなければ……!みたいな状態で人と付き合っていると、自分の言いたいこととか思っていることが分からなくなっていって、自分がどこにいるのかすらわからないし、それがいろんな辛さを招いていた感じがするんですよね。」(『ユリイカ』インタビューより)
・「<おもしろい曲>を作ろうとすると、自分が本当にやりたいことから離れていき、詰めが甘くなるときがあったんです。いまは自分が作りたい曲を作って、書きたい歌詞を書いているので、メロディーに歌詞が乗らなくても歌詞を変えたりはしない。<絶対歌う!>っていう根性で歌ってます。」(Mikikiインタビューより)
それと同時に近年はビヨンセ、安室奈美恵、アリアナ・グランデといったメジャーど真ん中のDIVAへの愛とリスペクトを真っ直ぐ表明することも厭わない。自分の好きなものを好きなように表現し言いたいことをそのまま言った結果が、ネオソウル的なアプローチと自由なフロウだとするならば、本作で起こった変化は何の違和感もなく腑に落ちるのである。ちなみに2019年に7インチオンリーでリリースされたDUBFORCEプロデュースの安室奈美恵 ”Baby Don't Cry”のDUBカバーが昨年YouTubeにアップされていたので聴けるうちに聴いてくれ!(この7インチはだいぶプレミア化している)


わーい書き終わった!今月は以上です!最後は恒例の最近読んで良かった本を紹介するコーナー、通称「最近読んで良かった本コーナー」です。
【最近読んで良かった本コーナー】
・朱喜哲「100分de名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯」(NHK出版)
もはや100分de名著を後追いで観るくらいでしかU-NEXTを使っていないのだが、このローティー回は良かったです。朱さんの新刊『人類の会話のための哲学 ローティと21世紀のプラグマティズム』もよはく舎から発売中。
・吉岡実「夏の宴」(青土社)
横浜に行ったときに伊勢佐木町の古本屋で買った詩集。箱入りの変型縦長で表紙に描かれた西脇順三郎氏によるイラストも可愛らしい。冒頭に置かれた一篇「楽園」で「私はそれを引用する 他人の言葉でも引用されたものは すでに黄金化す」と宣言しているように、本書は吉岡が引用詩を実践していた時期のもの。普段ほとんど詩とか読まないし、むかーしに引用詩を作る以前の彼の詩集を買って読んだときには悲しいかなハマれなかったのだが、引用大好き!引用せずには生きられない!僕には、この詩集がよく馴染んだ気がした。
・世良田波波「恋とか夢とかてんてんてん (1)」(マガジンハウス)
マガジンハウスが運営するweb漫画サイトSHUROで連載されている作品。青林工藝舎の雑誌アックス出身の方です。ストーリーは20代後半女性(低所得)の痛い恋愛。話はともかくとして、僕は世良田さんの描く夜の街の風景がとても好きなんだ。ちなみに本作の舞台は東京の高円寺。もしかしたら知っている風景も出てくるかもね。僕はひとつもピンと来なかったが。
・アミア・スリニヴァサン「セックスする権利」(勁草書房)
「まえがき」でスリニヴァサンは「(一部の問題を除いては)入り組んでいて難しいことを単純化して簡単なものにしたくないので、どちらともつかない立場をとっている」「フェミニズムは、(中略)政治は居心地のいい場所である、といったファンタジーに甘んじていてはならない」と書いている。実際にエッセイの中では過去のさまざまなフェミニストの言説を参照しながら試行を繰り返していく。著者のこうした姿勢は主にインターセクショナリティ(交差性)の概念に根差しており、それは常にある種の居心地の悪さを呼び起こすものである。しかしこうした「不快と葛藤のなかにとどまろう」とする慎重な態度こそ、僕自身もそうありたいと願う態度なのだ。


ですってよ!それではまた次回があれば…

NEW MUSIC TROLL - JAN '24

2024年1月編です!やります!
 

90 Day Men - We Blame Chicago
1995年結成、シカゴを拠点に活動したポスト・ハードコア・バンド90 Day Menのコンプリート・ディスコグラフィ。昨年の4月編で紹介したFACSのBrian Caseが組んでいたバンドです。最近のNumero Groupのこのラインのリイシュー企画は目の付け所がニッチすぎて、「これを出してペイできるのだろうか…」と心配になるレベル。たとえばDusterは今の時代に事故的にフィットして見事にリバイバルを巻き起こしたが、90 Day Menは絶対にそんなことにはならないだろう。かといってカルト的なフォロワーを生み出すわけでもないだろう。でもそれを掘り起こすのがNumero!Numeroにしか出来ない仕事!ありがとう!改めて聴いてみると、初期のあからさまにFugaziやSlintを想起させるアプローチが、ピアノのメロディーがリードする複雑かつ荘厳なアンサンブルに深化していく様子がつぶさに捉えられて非常に興味深い。2000年の1st『(It (Is) It) Critical Band』から2年後の2nd『To Everybody』、さらにその2年後のラスト作『Panda Park』へ至るまで1作ごとの無茶な変質に驚かされる。僕の働いているレコード屋でもBOX入荷したけど、もちろん売れ残っている!


Angry Blackmen - The Legend of ABM
JPEGMAFIAやclipping.やDos MonosをリリースしてきたDeathbomb Arcに所属するシカゴのラップ・デュオ。Danny Brown, JPEG, Death Grips以降と言ってよいインダストリアル~ノイズ系ビートはデビュー以来タッグを組むFormantsことDerek Allenがプロデュースしている。明瞭なフロウで語られるアルバムのテーマは資本主義、消費主義、レイシズム、実存とメンタルヘルス。アルコール依存や自動車事故などの生死に関わる実体験とともに、フィリップ・K・ディックやリチャード・マシスンといったSF作家、あるいは『ノー・カントリー』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』等の映画をはじめとしたポップ・カルチャーからの影響やその参照も繰り返す。風刺の風刺的なこのグループのロゴイラストを持ってジャケットに写っているのはメンバー2人の古くからのネット友達だという日本人女性Yuki Fujinamiで、タイトル曲ではナレーションとしても参加。2024年エクスペリメンタル・ラップ界のファースト・インパクトだ。Fatboi Sharif, Skech 185というゲストの人選にも全く狂いはない。


Arv & Miljö - Samling
ヨーテボリ・アンダーグラウンドの中心グループEnhet För Fri Musikのメンバーであり、ここでも何度も言及しているレコードショップ兼レーベルDiscreet MusicのオーナーMatthias Anderssonのソロ・プロジェクト。現在のアンビエント・サウンドに移行する以前のハーシュ・ノイズ期にあたる2010~2015年までにコンピレーション等に収録されていた楽曲を集めた編集盤として2016年にカセットでリリースされていた作品がアイルランドのレーベルKrim KramからCD再発された。本作の終盤ではフィールド・レコーディングやシンセを活用したアンビエンスの萌芽が伺える。X(旧Twitter)でも言ったんだけど、Arv & MiljöがベルリンのアーティストKrubeとのスプリット・カセットとして2016年に発表していた"Ok​ä​nd Strand"という楽曲が、ニュージーランド・アンダーグラウンドのレジェンドPeter Jefferies(Nocturnal Projections, This Kind of Punishment, Plagal Grind)の大名曲"On An Unknown Beach"オマージュのテープループのピアノ・アンビエントでとても素晴らしくて最近めっちゃ聴いてる♪


Bumbrle & Slezské předměstí - Mourku, kdy zavrn​í​š​?
チェコ・プラハ出身のブルース・シンガーTomáš Pácaltのソロ・プロジェクト。地元レーベルStoned To Deathからこれが2作目。プレスリリースでボブ・ディランが手掛けたペキンパー『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』のサントラとアメリカの作家ジョン・ファンテ(代表作『塵に訊け!』がついに新訳で再販された!)の散文が引き合いに出されているのが興味を惹く。なるほどチェコ語による簡素でミニマルな歌は新鮮に響くのだった。


Cowboy Sadness - Selected Jambient Works Vol. 1
末期のがん患者とホスピスで働く職員のロマンスをコンセプトにした傑作『Hospice』で知られるインディー・バンドThe AntlersのフロントマンPeter Silberman, ミニマル室内楽プロジェクトBing & Ruthの中心人物David Moore(Steve Gunnとの共作『Reflections Vol. 1』も素晴らしかったよね~), Port St. WillowことNicholas Principeの3名によるアンビエント・ユニットのデビュー作。デビューとはいっても、10年以上前から3人で定期的に即興のアンビエント・ジャム・セッションを開催していたというので、実は息の長いグループなのだった。そしてSilbermanが言うには「商業的なプレッシャーから解放された」プロジェクトである。アルバムタイトルは当然Aphex Twinのパロディーで、その点からも気張らないリラックスしたムードが伺えて微笑ましい。


CRAWL SPACE - My God​.​.​. What've I Done?
シアトルの5人組ハードコア・バンドのデビュー作。地元レーベルIron Lungから。80sマナーのファスト&バイオレントなハードコア全10曲9分半。申し分ございません。


Daniel Johnston - Songs of Pain (Al Pomplas Version)
昨年末から始動したダニエル・ジョンストンのカタログの高音質リマスター再販プロジェクト"Daniel Johnston in the 20th Century"に続く"Daniel Johnston in the 21st Century"の一環としてサブスクライバー向けにリリースされた秘蔵作。最初期のダニエルがダビングの方法を知らずに逐一テープにアルバムを全編吹き込み再録しては親愛なる友人・知人に配っていたというのは有名な話だが、本作は当時彼が通っていたオハイオのケント州立大学で教鞭を執っていた美術教師Albert Pomplasさんに向けてダニエルが録音した『Songs of Pain』のAl Pomplasヴァージョン。現在市場で流通している『Songs of Pain』と比べると、ピアノの音もボーカルもAl Pomplas ver.のほうがよく録れている。もちろん歌唱や演奏のテンションや日頃録り溜めた会話のサンプル等の違いもある。まあこんなのはいつ聴いても素晴らしいし美しいので。ただKathy McCarty(彼女も当時ダニエルからテープを受け取っていた一人である)がカバーして『ビフォア・サンライズ』のサントラに収録された名曲"Living Life"が本ヴァージョンには未収録であることには留意されたい。"Daniel Johnston in the 21st Century"では今後もサブスクライバー向けにこうしたレア音源の配布が予定されているのでみんなも加入しよう!(月9ドル)


Dau - PSALM014: Gilly's Wood
UKブライトンのレーベルPhantom Limbの" Spirituals imprint"であるPSALMの第14弾は、ポスト・ロックを掘ったことがある方なら覚えているかもしれないYndi HaldaのメンバーでもあるPhil Selfのソロ・アンビエント・プロジェクトDAUの新作。録音が行われたのは2021年。オハイオ州ケント市の音楽フェスSmugglers Festivalの出演から2週間後、パートナーが新型コロナに感染したために会場に置き去りにせざるをえなかったリード・オルガンと機材を使い、そのままフェス会場である森の中で即興録音したのだという。だから、音楽の背景には鳥のさえずりが聴こえている。特殊なロケーションが生んだグッド・アンビエント・ドローンです。


Duncecap - Pay or Dispute
Backwoodz Studiozから昨年リリースされたHajinoとのジョイント作『Go Climb A Tree』で知ったNYCのラッパーDuncecapの新作が同じくBackwoodzから。今回はほとんどセルフ・プロデュース。中毒性のあるアブストラクトなサンプル・ループと軽口なフロウは当然あたし好みです。


The Fall - The Real New Fall (Formerly Country On The Click)
我らがアイドル、マーク・E・スミス率いるThe Fallの2003年23作目、キャリア後期の傑作が20周年記念再発!暴君スミスによって却下された再ミックス前のオリジナル・ヴァージョン=『Country On The Click』も公式リリースされた。聴き比べてみると、大きなところではオリジナルにあるフニャついたシンセが最終版では削除され、よりタイトに聴こえるようになっており、結果的にはスミスの裁量は正しかったと思われる。1977年のデビューから、The Fallは常に聴き続けるのに値するバンドであったことを証明するリイシューです。ミュージシャンの訃報を聞いて僕が涙を流したのは、志村正彦、ダニエル・ジョンストン、デヴィッド・バーマン(Silver Jews)、そしてマーク・E・スミス、その4度だけです!


Finnoguns Wake - Stay Young
君はオーストラリアの最高にクールなガレージ・パンク・バンドRoyal Headacheを覚えているか?2008年に結成、2011年に1stアルバム『Royal Headache』を、2015年に2ndアルバム『High』をリリースして2017年に解散。僕はこのバンドがとても好きだったのだ。解散後、ボーカルであったShogunはShogun And The Sheetsとして2018年に7インチを出したりもしていたがそれっきりで…。しかし、彼がついにこの4曲入りEPで正式カムバックしたのです。もう一人のメンバーFinn BerzinはShogunの親友の弟で、4曲中2曲でリード・ボーカルも取っている。ただやはりShogunの歌はとびきり素晴らしい。飽きずにLPを出してくれ!


Ian Mikyska & Fredrik Rasten - Music for Sixth​-​tone Harmonium
スロバキアの実験レーベルWarm Winters Ltd.より、チェコの音楽家アロイス・ハーバが開発した世にも珍しい楽器「6分音ハーモニウム」をフィーチャーした作品が登場。6分音っていうのはつまり、えーと、12音階でいう全音の1/6、半音の1/3ですね。っていうことはつまり、1オクターブを、えーと、何分割になるんですかね、うーん…(指折り数えながら)、はい、1オクターブを必要以上にいっぱい分割して奏でられるように作られたのが6分音ハーモニウムなのです。本作は、プラハの作曲家Ian Mikyskaとドイツの即興ギタリストFredrik Rastenがその6分音ハーモニウムのために曲を作り、それを世界で唯一の6分音ハーモニウム奏者Miroslav Beinhauerとともに演奏したもの。このプロジェクトが始動した2021年以前には、6分音ハーモニウムのための作品はハーバが1928年に作った"Six compositions for sixth-tone harmonium, op. 37"の1曲しか存在しなかったという(Beinhauerによるop. 37はこちらで聴けますが、まあメチャ・ストレンジ)。フィールド・レコーディングや物音といったエレクトロニクスとハーモニウムの不思議な調性が相互に作用するMikyska作の"In"と、Rastenが演奏する2本のエレキ・ギターとハーモニウムによる瞑想ドローン"Concord"の2曲を収録。イチオシです!


James Ferraro - Genware I: DHICRO / Genware II: Eigen Embryo / Genware III: Neuralpaint
Vaporwaveのパイオニアのひとりである米実験ミュージシャンJames Ferraroによる"Cybernetic Impressionism(サイバネティック印象派)"と題されたプロジェクト"Genware"が3部作同時リリース。2018年から開始され、『Requiem for Recycled Earth』『Neurogeist』『Terminus』と続いてきた"Four Pieces For Mirai"と題されたシリーズとの関連は特に示されていないので、派生的な作品なのだろうか。中世の音楽を参照しつつポスト・ヒューマン的想像力を伴った瞑想アンビエントという基本的な路線は大きく変わっているようには聴こえない。"GENWARE"をぐぐってみると、「業界TOPシェアを誇る組込みGUIソフトウェア」しか出てこないが、Ferraroの言う"Mirai"がモノのインターネットに攻撃を加えるコンピューター・ウイルスを指しているように、これもたぶんそのソフトウェアを指しているのだろう。Neuralpaintっていう画像編集アプリもあるみたいだし。ちなみにアタイの好きなJames Ferarroのアルバムは『NYC, HELL 3:00AM』『Cold』『Skid Row』あたりのやつなのさ。


Jesu - Hard To Reach EP
昨年私が年間ベストにも選んだGodfleshを率いるJustin Broadrickの別プロジェクトです。2008年にリリースされた日本のポスト・ハードコア・バンドEnvyとのスプリットに収録されていた2曲と、同時期の未発表曲2曲、プラス"Hard To Reach"の未発表バージョンの計5曲を改めてコンパイルしたEPがなんか急にリリースされた!5曲のEPとはいえ合計45分くらいあるので物足りなさはないでしょう。Godfleshも良かったけど、やっぱりJesuはもっと好き!


Jiyoung Wi - Accept All Cookies
ソウル出身現在はオランダのハーグで活動するアーティストJiyoung Wiのデビュー・アルバム。デジタル・ノイズと公共空間でのフィールド・レコーディング、演出された会話等をソースに、空間と言語を撹乱してみせるユニークなリスニング体験。"S*fe Word"ではホテルのロビー(?)で演奏される久石譲の"Summer"が強い印象を残す。知らん人だったけど、Joyul, Yeong Dieと3人で来日ツアーを行ったこともあったみたい。


karl wille - Out Of Ash And Snow Roses Start To Grow
上海のGenome 6.66Mbpからブリュッセルの宅録hyper popアーティストkarl willeの6曲入りEP。こいつのこと気になりすぎてYouTubeでも調べたらリリース日にWebラジオでライブ配信してて、狭いスタジオの中でエモーショナルにKARAOKEしてて余計に好きになったのでみんなも観てやってください。


kip c - stars above
UKブリストルのラッパーkip cのセルフ・リリース新作。NYCアンダーグラウンドに呼応するアブストラクト・ヒップホップで、シンガポールのMary Sueが参加しているのもイイ。cとSueいままで関わりあったのかなって検索したらロンドンのラッパーLynx Caneのアルバムで共演してた。素敵なカバーアートはウェールズの抽象画家Sandy Arteaga Clarkによるもの。インスタグラムにほかの作品も沢山載ってました。


Lou Reed - Hudson River Wind Meditations
ルー・リードが2007年にリリースした最後のソロ・アルバムがLight In The Atticからリイシュー。これ聴いたことなかったんだけど、激ニューエイジ・アンビエントで、流石『メタル・マシーン・ミュージック』を作った男だなと思った。元々はリードが晩年に凝っていたという瞑想と太極拳の練習のためのサウンドトラックとして個人的に作曲したものだったという。イヤホンでこれ聴きながら草に寝転がって空眺めたい。


Milan Knizak & Phaerentz & Opening Peformance Orchestra - It's Not Quite That Inventive (Sixty Years with Broken Music)
チェコのフルクサス・アーティスト/パフォーマーMilan Knizakの代表的物理コラージュ作品"Broken Music"(複数枚のレコードを切断し繋ぎ合わせ、傷をつけたり、ドリルで穴をあけたり、テープを張ったり、燃やしたり、絵を描いたりするなどした)の誕生60周年を記念したアルバム。2020年にチェコ音楽博物館で行われたライブ・パフォーマンスと1973年に制作された私家版"Broken Music"を収録。クリスチャン・マークレーやヤン富田の先駆と言っていいだろうが、本作のタイトルは「そんなに発明的じゃない」。大変謙虚な方です。


Nicholas Craven & Boldy James - Penalty of Leadership
昨年一月に自動車事故で負った重症からの復帰作となったCHANHAYSとのジョイントEP『Prisoner Of Circumstance』も素晴らしかったが、フルレングスとしてはこれが復活後1作目。しかも、2022年の『Fair Exchange No Robbery』で抜群の相性を示したソウルフルなビート職人Nicholas Cravenとのタッグ。カバーアートからも事故のトラウマが嫌というほど伝わってくるように、リリックにも当然その経験が反映されている。リハビリを終えてからわずか5日後に録音したという先行シングル"Brand New Chanel Kicks"では「3週間前にはボルトとロッドを身体に入れられて何もできなかった マザファッキンつま先さえも動かせなかった」「ビジネスに戻ってきた イェ 歩行器で歩いて戻ってきた 車椅子から立ち上がれんだぜ」と身体に負った過酷なダメージとそれを克服するタフネスをラップする(実際のレコーディングは車椅子に座って行われたという…)。Jamesがうなだれたようなフロウで語るハードなストリート・ストーリーは、重大事故からの生還というフィルターを通すと更に重みを増して聴こえてくるようだ。


or best offer - Center
ボーカル&ギターのGrace Schmidhauserとドラマー兼シンセシストBrian Culliganからなるエクスペリメンタル・ロック・デュオのデビュー作がBa Da Bing!から。プレスリリースではGastr del SolやCat Power, Godspeed You! Black Emperorなどが引き合いに出されておるが、たしかにエレクトロニクスとアコースティックの折衷的なポストロックとフォーキーな歌心が混在している(Bandcampページでは"ambient"や"improv"といったタグとともに、ボーカリストFrances Quinlanの歌声が一番の魅力である米インディー・バンド"Hop Along"の名をそのまま冠したタグが付けられている)。個人的にはすでに本年ベスト・ロック・アルバム候補としています。


Phil Geraldi - AM/FM USA
サンディエゴの実験ミュージシャンPhil GeraldiがNot Not Funからリリースしたカセット作品。タイトル通りラジオ放送の音源とハイウェイのフィールド・レコーディング、ペダル・スティールの演奏をコラージュしたアンビエント・アメリカーナ。これは現代のBruce Langhorne『The Hired Hand』なのでは?素晴らしい。


poorly wrote suicide note - pwsn ii
米ロチェスター在住のAshley PearsonによるBedroom lo-fi Skramz(a.k.a. Bedroom Screamo, Bedroom Emo)プロジェクト。カリフォルニアの"queer-run"レーベルDeapfth Pop Recordsから2作目となるフル・レングス。Bedroom Screamoというサブジャンル自体が湛える切なさが僕にはたまらないのだが、このpoorly wrote suicide noteはその筋のカリスマYour Arms Are My Cocoonのフォロワーに位置付けられるだろう。YAAMCのデビュー作をかのDismiss Yourselfが再リリースしていることは特筆に値するし、インターネット・サブカルチャー、あるいはポップ化したメンタルヘルスやクィアネスと所謂"5th wave emo"との浅からぬ関係は研究したら面白いだろうと常々考えているので、これに関して一家言ある方は是非お聞かせいただきたい。本作に加えて1月にはpwsnとテキサスのBedroom SkramzアーティストBright, Little StarsのスプリットEP『BLS x PWSN』がミズーリのDIYエモ・レーベルHoneysuckle Recordsから再リリースされていたので要確認!


R.A.P. Ferreira & Fumitake Tamura - the First Fist to Make Contact When We Dap
ご存じシカゴ出身のラッパーにしてRuby YachtコレクティブのボスR.A.P. Ferreiraの新作は日本人プロデューサーFumitake Tamuraとのジョイント・アルバム。田村氏は2019年にもYUNGMORPHEUSとの共作『Mazal』をLeaving Recordsからリリースするなど国内外で活躍するミュージシャンであるが、今回のコラボレーションに至ったきっかけは、Ferreiraが自ら運営するレコードショップSoulfolks Records & Tapesを昨年5月にナッシュビルに移転オープンさせたことが少なからず関係していると思われる。商材(学研のトイ・レコードメーカー)を仕入れるために昨年4月に日本を訪れたFerreiraは、東京と大阪でイベントに出演しており、そこで田村氏と共演していたのだった。日本のBボーイやBガールそしてDJといった音楽を中心としたコミュニティのありようにも感銘を受けたというFerreira。Soulfolksでは頻繁に参加無料のイベントを開催し、ヒップホップ・カルチャーのハブとしてナッシュビルの街に受け入れられているようである。以上、Soulfolks Recordsの勝手な宣伝でした。


RADICAL KITTEN - Uppercat
フランスはトゥールーズの"queer and feminist rrriot punk band" RADICAL KITTENの2nd。Crass, Au Paris, Bikini Killの遺伝子を引き継いでアナーコ・パンクとフェミニスト・パンクを実践するクールなmeow!


Reverse Baptism - Street Business
ペンシルベニアのノイズ・レーベルNo Rent Recordsの創設者Jason Crumerがかつて組んでいたパワー・エレクトロニクス・トリオReverse Baptismの2011年作が同レーベルから再リリース。これ傑作だった。ノイズ・ミュージックが好きだと言うと、「どういう気分のときにノイズ聴くの?」と問われることがあるのだが、この素朴な問いは「ノイズとは何か(音楽なのか)」「ノイズを能動的に聴取するという行為に妥当性はあるか」という、ノイズ・ミュージックというジャンル自体が孕む根源的な矛盾に至らざるを得ない。逆説的に、ノイズを聴取するのに相応しい環境について考えてみると、おそらくそんなものは存在しない。なぜならば、ノイズとは「否定形によって表されるもの(受け入れられない音、音楽でないもの、正当でないもの、メッセージや意味でないもの)であり、否定的な意味に規定されたもの」(ポール・ヘガティ『ノイズ/ミュージック』より)なのだから。ノイズを能動的に聴取するという行為自体そもそも不当なのである。いつだったか北村紗依さんが「Zoomでノイズミュージックに関する学会発表をすると、音楽を流してもノイズが全部カットされてしまう」とツイートしていたように、それは一義的に邪魔なものであり、排除の対象なのだ。しかし、ノイズ・キャンセリング機能がノイズを拒むのとおなじように、ノイズ・ミュージックのほうもまた我々を拒んでいる。理解を拒み、調和に抵抗し、あわよくば支配を目論んでいる。ここで最初の「どういう気分のときにノイズ聴くの?」という問いに戻れば、それは拒絶されながら共に拒絶し、抵抗されながら共に抵抗するという行為である。


Roy Montgomery & Friends - Broken Heart Surgery
The Pin Group, Dadamahといったバンドで80年代から活動するNZアンダーグラウンドのレジェンドRoy Montgomeryの新作が意外にもヨーテボリのDiscreet Musicから。ギタリストとしての印象が強い彼だが、近年はゲスト・ボーカルを迎えたり、ときには自身で歌ったりする、いわば"4AD系ドリームポップ"路線の作品も多く、本アルバムはその方向の新たな傑作。おなじみのコラボレーターEmma Johnston、NZのアンビエント・シンガーAlicia Merz a.k.a. Birds Of Passage、Montgomeryと同じくクライストチャーチのインディーシーンでThe Terminalsのボーカルとして活動したStephen Cogle、そしてSquidのヒット・シングル"Narrator"に参加し、昨年AD93からシングル"Dogs"もリリースしたUKのエクスペリメンタル・アーティストMartha Skye Murphy(作詞も担当)など、"Friends"の顔ぶれも見逃せない。ところで、Montgomeryが1996年にkrankyからリリースしたソロ・デビュー作『Temple IV』が3月に初めてLPで再発されるのだが、ディスクユニオンはちゃんとこういう商品を取り扱ってください!扱うように言っときます!


Taku Sugimoto - Since 2016
日本を代表する実験音楽家・即興ギタリスト杉本拓氏の新作がAndrew Weathersの運営する米実験レーベルFull Spectrum Recordsから。タイトル通り2016年から2022年にかけてのベスト盤的内容。酒酔い映画の傑作である黒川幸則『VILLAGE ON THE VILLAGE』での歌唱シーンが印象深い佐伯美波(同監督の『にわのすなば』、堀禎一『夏の娘たち~ひめごと~』にも出演)とのプロジェクトSongsによる歌モノが中心となっていて、これが大変素晴らしい(発見)。歌モノといってもLoren Connors & Kath Bloomのようなメロディーと伴奏が形成するフォーク・ソングとは異なる、一音一音のミニマルなコミュニケーション実験としての声とギター。こうしてこの文章を書いてて、聴き直してて、気が付いたら限定100枚のアナログ盤オーダーしてしまっていたし、正直に言うと、ひとつ前のRoy Montgomeryも文章書いてて、聴き直してて、気が付いたらアナログ盤オーダーしていたので、セルフ物欲促進効果がヤバい。


They Hate Change - Wish You Were Here...
フロリダのヒップホップ・デュオThey Hate Changeの新作EP。Deathbomb ArcからJagjaguwarに移籍してリリースした2022年の『Finally, New』はダンス・ビートが印象的な好盤だったが、本作では初めて外部のプロデューサーにトラックを委託。2022年にWarpからデビューしたWu-lu, マンチェスターのIDMプロデューサー96 Back, 同郷フロリダのフットワーク・プロデューサーDJ Orange Julius, Wilma ArcherとのユニットWilma Vritraでアブストラクト・ラップの傑作『Grotto』をリリースしているMC/プロデューサーVritra (from Odd Future)という顔ぶれ。They Hate Changeというユニット名そのままに、トラックメイカーが変わっても彼らのスタイルは変わらず寧ろ強化されている。96 Back prod.の"Wallabies & Weejuns"とか最高です。


Various Artists - European Primitive Guitar (1974​-​1987)
イースト・ロンドンのネット・ラジオ局NTS Radioがキュレーションするコンピ・シリーズの第5弾。これまでも南アフリカのアマピアノ、タンザニアのシンゲリ、90s ダーク・アンビエント~ダンジョン・シンセといったエッジの効いたジャンルを取り上げてきたが、今回はヨーロッパにおけるプリミティブ・フォークをフィーチャー。その道のパイオニアであるジョン・フェイヒィに影響を受けた、あるいは独自にそこへ到達したギタリストの楽曲をLP2枚にたっぷり収録。こういった音楽を今の時代に聴くとアナクロなものに思えるが、フェイヒィやRobbie Basho, Leo Kottke, Peter Walkerらが活躍した60年代には間違いなく前衛であったのだ。Numero GroupのWayfaring Strangersシリーズなど、アメリカにおけるプリミティブ・フォークにフォーカスした企画盤は存在していたものの、ヨーロッパのものとなると今まで見落とされがちだったので、これは本当に素晴らしい仕事!勉強になります!もちろんアナログ盤買いました!


When 2 - Here
このブログではおなじみのレーベルHausu MountainやOrange Milkでリリースを重ねるRXM RealityことMike Meeganの新たなプロジェクトWhen 2の1stアルバムは、サンプルを細かく刻んだクレイジーなプランダーフォニック。Hausu Mountainの立ち上げ人Max Allison a.k.a. MukqsがキュレーションするレーベルBlorpus Editionsから。Keith Rankinによるアートワークも毎回かっこいいです!


zakè - Lapis
インディアナポリスのアンビエント・レーベルPast Inside the Presentのオーナーzakèが、UKの新興レーベルquiet detailsからリリースした新作。ループ・ベースのオーソドックスなメロディック・アンビエントで文句のつけようもございません。昨年ベルギーのアンビエント作家't Geruisを取り上げたときにquiet detailsについても触れたように思いますが、音楽はもちろんのこと統一感のあるアートワークがいつ眺めても素敵なレーベルです。


1月編は以上です!1月といったら1年の最初の月です。1月編を書いてしまったら、2月、3月、4月、n月…と続けていかなければいけない雰囲気が出るじゃないですか。なので、ちょっと逡巡していたら2月ももう終わりかけていましたよね。昨年はひと月分書くのにだいたい10~12日間くらいかかってましたよ(まあ、怠けながらちびちび書いていたからなのだが)。たしかに情報過多だったと言えばそれは言い過ぎではないでしょう。出来るだけ気になることは調べて、その5~6割くらいを文章にしたためていたと思うんですが、それでもこのブログのリンクを開いた途端にみんな「長え(なげえ)んだよ」「画像とBandcampの埋め込み重ーし(おめーし)」って萎えていたと思うんです。その反省を活かして、今年はサクッとね、パスッとね、持続可能な心持ちでやっていきたい(ここで実はサクッのあとに続く擬態語を「スコッ」や「マキッ」やその他諸々のどれにするかで小一時間悩んでいる)。今回は5日間くらいで書けましたね。もうね、チョイとしか調べない。言葉が見つからなかったらそれでいい。元々どうせ誰も読んでいないのだから。ここまで読んで気が付いたとは思いますが、基本的に僕の文体は気持ちが悪い。それでは最後に恒例の最近読んで良かった本コーナーです!

【最近読んで良かった本コーナー】
・佐々木敦「ニッポンの思想 増補新版」(ちくま文庫)
・トマス・ネーゲル、訳・永井均「新装版 コウモリであるとはどのようなことか」(勁草書房)
・稲葉振一郎「社会倫理学講義」(有斐閣アルマ)
・マウリツィオ・ラッツァラート、訳・杉村昌昭「耐え難き現在に革命を! マイノリティと諸階級が世界を変える」(法政大学出版局)
・岡真理「記憶/物語」(岩波書店)
・「現代思想 vol.52-2 パレスチナから問う」(青土社)

読書会やイベント、デモのお誘いもお待ちしております!