2024年2月編です!
The American Analog Set - New Drifters
今月もNUMERO再発から始まってしまった!1995年にテキサス州オースティンで結成されたスロウコア・バンドThe American Analog Setが地元レーベルEmperor Jonesからリリースした初期3作に未発表曲を加えた5LPのボックス・セット。メインのソングライターであるAndrew Kennyの祖父母の家にお手製のスタジオを構え、当然のようにデビュー作から一貫してセルフ・プロデュースで制作されていて、アンダーグラウンドがオーバーグラウンド=音楽産業に引っ張りあげられていくこの時代にしてはあまりにもリラックスしすぎている。そして彼らがギャラクシー500やスペースメン3の熱心なリスナーだったろうことは想像に難くない。1st『The Fun of Watching Fireworks』は当時からステレオラブとも比較されて所謂"スペース・ロック"という括られ方をされたようだが、続く2nd『From Our Living Room to Yours』においてより一層スローにミニマルに邁進しているのが素晴らしい。ホントにいいバンドです。ちなみに去年18年ぶりの新作『For Forever』で復活しています。
70年代から活動するニューエイジ巨匠Ariel Kalmaと、昨年の9月編でアルバム『In Electric Time』を取り上げたLAのモジュラーシンセ奏者Jeremiah Chiu、ヴィオラ奏者Marta Sofia Honerによるコラボ作。後者2名は2022年に『Recordings from the Åland Islands』でデュオとして作品を発表しており、それを聴いたKalmaがBBCのラジオ番組Late Junctionでのコラボレーション企画の相手に2人を指名したのが始まりなのだという。3名それぞれの即興演奏を基にしたスピリチュアル・ジャズ~アンビエント・コラージュ。その中には、1970年代に電子音楽/コンクレートの聖地INA-GRMで技師をしていた頃のKalmaが録音したアーカイブ素材も含まれている。
ニューヨークのヴァイオリン奏者Connor ArmbrusterがペンシルベニアのDear Life Recordsからリリースした新作。歪ませた電子ヴァイオリンのループ・ドローンを基調にしながら、ノイズやヘヴィ・ロックさらにはメタル・ギターといった意外なテクスチャーを非常にエモーショナルに混ぜ込んでいる。"Night biking"での泣きの高音とかマジでルー・リードかよってかんじだ。
昨年もさんざん取り上げたベルリン在住bod [包家巷]の新作。1月の来日ツアー行きたかったな…。
Chris Pitsiokos - Irrational Rhythms and Shifting Poles
ニューヨークの前衛サックス奏者Chris Pitsiokosによるアルトサックスと4チャンネルのエレクトロニクスを用いた「無理数(irrational number)によって生成されるリズムと、相反する極性(polarity)のオーディオ信号を別々のスピーカーで再生する、という2つのアイデアからなるコンセプト」の電子音響フリージャズ作品。JazzTokyoに剛田武氏によるレビューが載っていたので是非そちらを参照していただきたい。なにやらアカデミックなかんじがしてしまうが、ノイズ・ミュージック、ミニマル・ミュージック、即興音楽として全然超刺激的なのでオススメです。
昨年のYear End Listに『Februar + Folgendes』を選出したChemiefasewerkことChristian Schiefnerが自身のカセット・レーベルFaltからリリースした新作テープ。シドニーにあるギャラリーSydney Non Objectiveのサイト上で2022年に公開されていた"Dezember"と昨年セルフ・リリースしていた"Oh Trouble"を収録。フィールド・レコーディングやオブジェクト、電子ノイズ、楽器による静謐なコラージュ/ドローン。
ご存じDavid Grubbs先生(Bastro, Gastr del Sol)とMeteor Infant名義でSSW活動をするシドニーのミュージシャンLiam Keenanの2名によるギター・インプロビゼーション。Lawrence EnglishのRoom40から。エフェクトによってエレキ・ギターをシンセのパルスのように変換する"Gemini Cluster"の後半部が出色。
80sジャングル・ポップの美しきリバイバリストDucks Ltd.の新作。古き良きFlying Nun~Sarahサウンドを2024年の今ここまで馬鹿正直に追求している、その一点だけでもこの上なく素晴らしく、かけがえがない。本当に大好きなバンドです。Brooklyn VeganとFlood Magazineで彼らが好きな曲を挙げているので確実にチェックお願いします。
本ブログではすっかりおなじみエジンバラのカセット・レーベルMolt Fluidから、実験デュオOishiの一員でもあるZheng HaoとJoseph Khanからなる2人組ユニットecmのデビュー作。アブストラクトな即興モジュラー・セッション"if you smile, i smile"もいいが、ツマミとケーブルをエレキ・ギターに持ち替えてお届けするB面のローファイ・エクスペリメンタル・ロックもなんかいい。結局オレらは"Here Comes The Warm Jets"が好きなんだ。
昨年3月に99歳で亡くなったエチオピアの修道女エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルーの新たな発掘音源集。この方の生涯についてはTurnに掲載された柴崎祐二さんによる追悼記事を読んでいただくとしまして、Mississippi Recordsがここ数年来行ってきた素晴らしいリイシュー・プロジェクトの中でも本作が際立っているのは何よりも初めてのボーカル・アルバムであるという点だ。1977~1985年にかけて自宅でカセット・テープに録音された極私的な歌の中で彼女が語るのは、彼女自身が"The Homeless Wanderer"であるという経験そのことに他ならない。同時に今"故郷"や"祖国"について考えるとき、パレスチナの人々のことを思わずにはいられないだろう。
サンフランシスコのPaisley Shirt RecordsからCindyのメンバーでもあるKarina GillとMike Ramosのローファイ/ドリームポップ・デュオFlowertownの4枚目。RamosはApril Magazine, Tony Jayでも活動しており、これらのバンドの音には2人の強力な個性が刻印されている。どのバンドのどの曲から聴いたっていい。どれもそんなに違わない。僕にはこのことが大変好ましいのだ。本作にはシド・バレットの"No Good Trying"のカバーが収録されているが、これも完璧にFlowertown節にアレンジされている。この調子でカバーアルバムとか作ったら面白いだろうな。
NYCのパンク・バンドThe Folliesのデビュー作がオハイオ州シンシナティの間違いないパンク・レーベルFeel Itから。歌心のあるパブ・ロック・スタイルで、個人的にはTed Leo and The Pharmacistsなんかを思い出す。ボーカル&ギターEvan Radiganとリード・ギターMichael LiebmanはVanityというバンドでも活動。ベース&ボーカルのJess Poplawskiは現L.O.T.I.O.N. Multinational CorporationのAlexander Heirとダークなゴス・バンドSurvivalを組んでいたようだ。新しいバンドのデビュー作とは言ってもメンバー各々様々なバンドで活動していて10年くらいのキャリアがある、というDIYパンクあるある。
ブラジルはサンパウロ出身のアーティストVeridiana Sanchezによるソロ・プロジェクト。2020年にヴェイパーウェーヴ・レーベルDream Catalogueからゴシックなダーク・アンビエント・ポップ作『A Lung Full Of Flowers』でデビュー。2022年にはウェスト・バージニアのCrash Symbolsから2nd『The Glass Labyrinth』をリリース(この作品もDream Catalogueの共同設立者t e l e p a t h テレパシー能力者がマスタリングを担当)。そして3作目となる本作は地元ブラジルの実験レーベルMunicipal K7から(このレーベルのリリースはどれも面白いので今すぐBandcampページでフォローすべし!)。ドリーム・ポップ、アンビエント・フォーク、ニューエイジ、グリッチ、あるいはブラジリアン・ファンク、さらにBandcampページのタグに含まれている"baroque"など多様な要素が乱反射する、掴みどころのないキメラ状のレフトフィールド・ポップ。これ不思議と何度もリピートしてしまう。同じブラジルのアーティストBabe, Terrorの作品に感銘を受けた方やスペインのMarina Herlopが好きな方におすすめです。
Harry Gorski-Brown - Durt Dronemaker After Dreamboats
バグパイプ・ファンのみなさまお待たせしました。本ブログでは昨年の4月編で取り上げたJacques Puech『Gravir / Canon』以来のバグパイプもの。グラスゴーのミュージシャンHarry Gorski-Brownが地元レーベルGLARCからリリースしたデビュー作。演奏されているのは全てスコットランドのトラディショナルな楽曲で、当然バグパイプのドローン音はアルバムの中心に鎮座しているが、そこには同時にGorski-Brown自身の歌声があり、さらにはドローンを強化するシンセやノイズも現れてくる。アイルランドのJohn Francis FlynnやニューカッスルのRichard Dawsonが行ってきた土着フォーク・ミュージックの脱構築・再解釈の新たな実践者だ。
エクアドルにルーツを持つ米国のミュージシャンRoberto Carlos Langeの新作。ドラマーMatt CrumとのROMやScott Herren(Prefuse 73)の別プロジェクトSavath & Savalasへの参加等20年近いキャリアを持つ彼だが、Helado Negroとして注目を浴びたのはやはりRVNG Intl.移籍以降だろう。その後新たに契約した4ADからはこれが2作目。かつて"We are Young, Latin and Proud"と歌っていたようにラテン・アメリカのフォークやファンクに根ざしながら、大学で学んだという実験音楽・電子音楽からのリファレンスも多く、本作ではダンサブルなポップスと実験的エレクトロニクスの折衷的スタイルがさらに押し進められている。1曲目"LFO (Lupe Finds Oliveros)"はフェンダー社のアンプ配線技師Lupe Lopezとディープ・リスニングの提唱者Pauline Oliverosという2人の女性へのトリビュートだし、"Out There"や"Flores"といった楽曲では心地よいシンセ・アンビエントが展開されている。
ロサンゼルス在住のサウンド・アーティスト。2020年に起こったカリフォルニア地域の大規模森林火災で被害を受けた森や砂漠でのフィールド・レコーディングとテープ・ループをコラージュした実験作品。本作の重要なモチーフとなっているのは風の音だ。焼け朽ちた木に吹き付ける風、砂漠に放置された脱線車両の中を吹き抜ける風、強風を受けた廃屋が激しく軋む音…。消耗していくテープがループするアンビエント/ドローンが崩壊のイメージを喚起する。
タイトル通り、駐車場録音作品。"Parking La Villette 1"は2007年パリのラ・ヴィレット公園の駐車場で行われたサックス奏者Jean-Luc Guionnetとヴィオラ奏者Dan Warburtonによる即興演奏。フランスのEric La CasaとメルボルンのPhilip Samartzisが録音者として立ち会っている。"Parking 2"は2021年パンデミックのピーク時にGuionnet & CasaとSamartizがそれぞれパリとメルボルンで別々に録音した素材のモンタージュ(?)なのだろうか。駐車場(あるいはロックダウン下の無人都市の駐車場)というイレギュラーな制御不能空間における音の運動をとらえたユニークなドキュメントとなっている。
ギターとドラムからなるUKブリストルの"Post-math, not-not-jazz"デュオJORTSのライブ録音。Storm & StressやU.S. Mapleといったシカゴ周辺の90年代USマス・ロックorノイズ・ロックの香りがする。
スコットランドのミュージシャンAlan Davidsonによるソロ・プロジェクトKitchen Cynicsと"haunted folk"デュオThe Hare And The Moonで活動したGrey Malkinが2020年から不定期にリリースしていたジョイント・シングルのコンピレーション。歌のモチーフはもちろん幽霊や超自然現象についてである。ある土地に伝わる幽霊伝説やアルジャーノン・ブラックウッドの怪奇小説、ジャック・クレイトンが監督した古典的ホラー映画『回転』などからインスピレーションを受けたセピア色のダーク&ゴシックなフォーク・バラードが10曲。コンセプトからして素晴らしい。
実験レーベルzappakを主宰する東京のサウンド・アーティストLeo Okagawaの新作が北京のAloe Recordsから。音源ではフィールド・レコーディングを用いた作品も多く、昨年Molf Fluidからリリースされた『Druhé Město』はフィールド・レコーディングとエレクトロニクスのコラージュであり、Ftarriからリリースされた『just another day』はカットアップ手法で編集された純フィールド・レコーディングであったが、ライブでのソロ・パフォーマンス録音である本作は即興による純エレクトロニクス作品。さまざまにニュアンスを変化させながら持続するノイズは、ノイズでありながらむしろ場に対して調和的にすら感じられる。"Nanahari"の冒頭では劣化したCDが発する異音を取り入れているという。一度取り込んだだけで二度と開けることのないCDいっぱい持ってるけど、劣化してんだろうなー…。
昨年11月編でも紹介しました80年代アセンズのヘンテコ・バンドLimbo Districtのニュー7inchです!約2年の活動期間に20曲ほどを録音しているというので今後もリリースされていくでしょう。今月また3曲入り7inch『Have You Seen Margo? b/w Funhouse + New Ground』が出ています!
2022年のデビュー作『In Free Fall』に続くThrill Jockeyからの2枚目。出生地であるエルサレムで幼いころからクラシックの専門教育を受けていたというShenfeldだが、ベルリン芸術大学に入学すると実験音楽や即興、機材に夢中になり、パンクバンドでギターも弾いていたのだという。本作も前作同様にドローン・シンセのハーモニーを中心とした美しいアルバムだ。ポルトガルのヴィジュアル・アーティストPedro Maiaとの共同制作プロセスの中で録音された大理石採掘場でのフィールド・レコーディングも使用されており、"Tehom"や"Sedek"といった楽曲ではインダストリアル風味の反響音が聴かれる。その採掘場で撮影しMaiaがディレクションしたMVも公開中。
英国のギタリスト/実験音楽家Mike CooperがおなじみRoom40からリリースした新作は、2012年に亡くなったフリー・サックス奏者Lol Coxhillへのトリビュート。ソフト・マシーンのケヴィン・エアーズ、ザ・ダムド、フレッド・フリス、あるいは日本の突然段ボールと共演し、Derek BaileyのCompanyや英国アヴァンギャルド・スーパーグループ49 Americansに参加するなど、70年代から多岐に渡って活動しているCoxhillだが、Cooperとは1982年にドラマーRoger Turnerと共にThe Recedentsを結成し長く共に活動していた。本作にはCooperがCoxhillと関わりのあったソプラノ・サックス奏者11人とそれぞれ共演したサックス×エレクトロニクスのインプロ・セッション11曲が収録されている。
90年代にSteve Albiniとタッグを組んでMatadorやTouch & Goから傑作を次々リリースしていたインディー・ロック・バンドSilkwormをご存じか?2005年にドラマーのMichael Dahlquistが自殺を企図した自動車事故に巻き込まれて亡くなってしまいバンドは解散。中心メンバーのAndy CohenとTim Midyettは新たなバンドBottomless Pitを結成し、2014年の活動休止までに3枚のアルバムをリリースした。その後Midyettが始めたプロジェクトがこのMint Mileなのだ。バンドは2015年から18年にかけてEP3枚を発表し、Midyettのドゥーム・メタル・バンドSun O)))への参加も挟みつつ、2020年に1stフル『Ambertron』をリリース。本作はそれ以来4年ぶりの2ndである。アタイはSilkwormのことが特別に好きだし、Midyettが2002年にひっそりThree Lobedからリリースしたソロの弾き語りEP『It Goes Like This』も大好きなので、Mint Mileもだーいすき。ちなみにドラムのJeff PanallはSongs: OhiaことJason Molinaの代表作『Magnolia Electric Co.』でも叩いている男である。Midyettの歌はもちろん最高だし、6分から7分の長尺曲でじっくり聴かせるバンドのジャムも◎。ラストのスローなアメリカーナ・バラード"I Hope It's Different"ではシンガーソングライターNina Nastasiaがボーカルを聴かせてくれる(SilkwormはかつてNastasiaの楽曲"That's All There Is"をカバーしている)。では最後に個人的Silkwormおすすめアルバム3選を発表します。
・『Firewater』(1996) Youtube Matadorデビュー作。Andy Cohenのギターを堪能するならこれ。
・『Lifestyle』(2000) Bandcamp おそらくこれがバンドの全キャリアを通しての代表作。Facesの名曲"Ooh La La"のカバーとかホント最高。
・『Italian Platinum』(2002) Bandcamp 本作における陰の主役はBedheadやThe New Yearでスロウコアの歴史にその名を刻むMatt Kadaneの鍵盤である。
Nate Scheible - or valleys and
米アンビエント作家Nate Scheibleが地元ワシントンD.C.に新たに立ち上がった新レーベルOutside Timeからリリースした新作テープ。エレクトロニクスやピアノによるアンビエント("small and horseless")、ビニールをくしゃくしゃする音("the silver shore")、小規模のホーン・アンサンブル("stray")、くだらない会話録音("missississippi")といった様々な要素をわずか17分間に詰め込んだ大変ユニークな実験作です。
カナダのアンビエント作家Nick Schofieldの新作。2021年作『Glass Gallery』は完全ソロで構築した素晴らしいシンセ・アンビエントだったが、今回は自身のピアノの即興演奏を基にヴァイオリン、クラリネット、ベース、ボーカルのアコースティック・アンサンブルとしてスケール・アップ。そこへさらにシンセがきらびやかなアクセントを加えている。
ノルウェーのビートメイカーOl' Burger Beatsの新作は全編74BPM縛りのスローなジャジー・ヒップホップ集。lojii, Lil B, Pink Siifu, billy woods, YUNGMORPHEUS, Quelle Chris, Gabe Nandez, Fly AnakinとゲストMCの顔ぶれも最高。
PariahことArthur CayzerとBlawanことJamie Roberts、デュオでKarennとしても活動するUK出身DJ2名によるエクストリーム・エレクトロニック・スラッジ・プロジェクトの2nd。正直PariahもBlawanもKarennも趣味の範囲外なんだが、ヘヴィなシンセとデス系ボーカルでスラッジ・メタルごっこしているこのPersherは最高だと思う。なんでも二人は敬虔なパンク/メタルのヘッズなのだとか。ぜひこの調子で人を踊らせないくらいエクストリームで̪̪シットな音楽を作ってほしい。オレは踊りたくないんだ!
今年1月に90際で亡くなったドローン・ミュージックの大家Phill Niblock御大のPosthumousリリース。"BILIANA"はブルガリア出身のヴァイオリン奏者Biliana Voutchkovaのために2023年に作曲されたヴァイオリンとヴォーカリゼーションによるドローン作品。"EXPLORATORY, RHINE VERSION, LOOKING FOR DANIEL"は20のパートからなる複雑なアンサンブル作品で、ここではオランダのフェスティバルで演奏された9名の弦楽アンサンブルによるパフォーマンスが収録されている。2021年には銀座メゾンエルメスで行われた展覧会の企画で東京の声楽アンサンブルVox humanaが24声ヴァージョンを録音していたらしいので、編成は自由なものと思われる。これからNiblock聴いてみたいよ~という方は、その名も『Young Person’s Guide to Phill Niblock』というアルバムがあるので素直にそちらから聴いてみてください。ジム・オルークのMoikaiからリリースされた『G2,44+/x2』は、Rafael ToralやKevin Drumm, Alan Licht, Thurston Moore, Lee Renaldoといった錚々たる顔ぶれによるギター・ドローン作品。あるいはロンドンのレーベルTouchからリリースされた一連の長大なTouchシリーズも。基本的にはどれも大きな音量での再生が推奨されています。かつてNiblockはこう書き記した。"You should play the music very loud. If the neighbors don't complain, it's probably not loud enough."いつでも胸に留めておきたい格言です。
そのジム・オルークさん主催レーベルMoikaiが20年以上ぶりに新たな作品を世に送り出した。ポルトガルの実験音楽家Rafael Toralの最新作『Spectral Evolution』である。Toralといえば1994年のデビュー作『Sound Mind Sound Body』と翌年の『Wave Field』がギター・ドローンの名作として語り継がれているわけだが、2000年代中盤からはギターを脇に置き、自身が"post-free jazz electronic music"と呼ぶ"Space Program"を開始。近年はSpace Quartetとしてフリー・ジャズとエレクトロニクスの融合を志向するグループ活動をしていた。2021年にSpace Quartetに終止符を打ち、本作でついにエレキ・ギターに回帰。しかも鳥ジャケ。昨年mappaがシンセサイザーによる鳥の鳴き真似コンピ『Synthetic Bird Music』を出したとき、私は「今、鳥が熱い」と適当なことを言ったのだが、実際熱いのかもしれない。楽曲中でもまさに"Synthetic Bird Music"が結構な頻度で繰り広げられている。この鳥の鳴き声の正体はテルミンのアンテナを用いたフィードバックで、"Space Program"でも使用していたらしいので、Toral的には結構前から鳥は熱かったということになる。12のパートからなる47分のシームレスな長尺トラックとしてまとめあげられた本作は、Toralによればジャズの典型的なコード進行である「リズム・チェンジ」やデューク・エリントンのスタンダード「A列車で行こう」など、1930年代のジャズのコード進行を極端に抽象化した形で参照しているのだという。というわけで、今後は「ドローン、鳥、ジャズ」この3つが来ます(断言)!言い忘れてたけど、このアルバムは傑作です!
ところで人類史上常にホットな存在といえばJesusだろう。昨年10月にリリースされたLINGUA IGNOTA改めThe Reverend Kristin Michael Hayterの『SAVED!』は暴力とミソジニーのサバイバーであるHayterが、改めて神との関係を探求した狂気の賛美歌集であった。本作『SAVED! The Index』は、その傑作『SAVED!』のために録音された未発表曲のコレクション。Diamanda GalásやJohnny Cashも歌った"WERE YOU THERE WHEN THEY CRUCIFIED MY LORD"や、Gavin Bryarsのヴァージョンも有名な"JESUS' BLOOD NEVER FAILED ME YET"など、ここでもHayterの迫真の歌唱は凄みを感じさせる。『SAVED!』のラスト曲"HOW CAN I KEEP FROM SINGING"で強烈なインパクトを残したグロッソラリアが"TONGUES (EXTENDED)"として拡張再収録されているのも嬉しい。
セリーヌ・ディオンをサンプリングした『Once Upon A Time』、ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーをトリビュートした『Fade Into You』などで俗なメロドラマを研究するヴェイパー/アンビエント作家Romanceがバレンタインデーに合わせて「キューピッドの矢で傷を負った全ての人へ」向けてリリースした𝓔𝓷𝓭𝓵𝓮𝓼𝓼 𝓛𝓸𝓿𝓮...。2024年エンドレス・ラブ部門優勝間違いなし。
ほら、言ったそばから鳥!と言ってもアメリカの詩人ウォーレス・スティーヴンスの同名の詩からの頂きである。各トラック・タイトルも全部で13ある詩の節それぞれから取られている。Roslyn Steerはアイルランドのコーク在住のマルチ奏者。ハーモニウム、コントラバス、電子ドラム、ギター、シンセ、スピリチュアルなボーカルが織り成すアシッド&ゴシックな不定形のエクスペリメンタル・フォーク。
NYCアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンのラッパーYLとSTARKER、そしてビートメイカーZoomoの3人からなるユニットRRRの新作。とはいえZoomoのビートは4曲止まりなので、実質的にはYL&STARKERのユニットLo.Ceasarってことになるのかもしれない。Zoomoの他にJUNIE.やNo Face、最近Chester WatsonとジョイントEP『winter mirage』をリリースしていた日本のill sugiといった馴染み深いプロデューサーがクレジットされているが、今回印象に残ったのはLook Damien!とDrivebyの2人。覚えて帰ってください!
2022年にMIKEが主催する10kから『Salimata Presents - OUCH』でアルバムデビューしていたブルックリンのラッパーSALIMATAがLAのFada Recordsからリリースした2nd。本作でも4曲をプロデュースしているフランスのVelvetian Skyが昨年Fadaから出したEP『Family』にもPink SiifuやAhwlee, lojiiと共にフィーチャーされ、更にはB. Cool-Aid(Pink Siifu & Ahwlee)のアルバムにも参加するなど、昨年来東から西へライムを飛ばしている。"Dishes"の澱みない三連フロウとかかっこいい。
テキサス男Craig Clouse率いる珍奇なアヴァンギャルド・プロジェクト。2004年の活動開始以来ハイペースで様々な種類のSHITを世に放ち続けている。本作は単に"Joy"と名付けられた1~3分程度のチープな電子ビートとノイズの無秩序な断片の博覧会である。そこには初期電子音楽やインダストリアル、IDM、00年代USノイズのエレメントがまぶされ、徹底的に無機質で、"JOY"というタイトルはまるでアイロニー。だが、この人を食ったようなアンチ・エモーションな態度がある種の人間にとってはJOYに反転してしまうのだ。
2023年1月に水道橋Ftarriで行われた増渕顕史と諸根陽介のデュオ演奏の録音がzappakからリリース。諸根氏がファンクションジェネレータで生成する高周波の音信号やホワイトノイズの上で増渕氏がアコースティック・ギターを爪弾く。相乗的というよりは相補的で、何か理想的なコミュニケーションのあり方のようなものが提示されているような、そんな感覚を受ける。
UKバーミンガムのMC/プロデューサー、そしてハードコア・パンク・バンドSPEWのボーカル/ギターでもあるTony Bontanaが亡き母親に捧げた新作。Tonyが立ち上げたEverything is Perfect Recordsに所属するDan Oddyseeやoghost, Spruceといった盟友たちによるボーカル・サンプルを多用したソウルフルでサイケデリックなビートは抜群だし、UbiquiyがフィーチャーされたオルタナティブR&Bなトラック"Pools Of Wax"でのTony自身が手掛けたアンビエント系ビートにも瞠目させられる。彼のそうした複雑性・実験性は、アウトロ的に収録されているアトモスフェリックなギター・アンビエント"Reach Out"で更に強く印象付けられる。今年聴いたヒップホップ・アルバムの中でもトップクラスに好きです。Tony Bontanaの名前だけでも覚えて帰ってくれ!
タイトル通りフルートのために作曲されフルートによって演奏される音楽なのだが、1曲目"ceòl meadhonach"を再生して耳に飛び込んでくるのは、我々がフルートと聞いてイメージする音色とは全く異なる激しいドローン音と不協和音である。スコットランドのゲール語で「中間の音楽」を意味する"ceòl meadhonach"は、バグパイプ音楽で用いられるCeol Mor="big music"とCeol Beag="little music"というカテゴリーの間に位置づけられた「行進やダンスに適さない」類の音楽のことらしい。OlenckiとCocksはそれを転用し、フルートによる表現を拡張させる。一方"SLUB"は振動するメディアとしてフルートを捉え直したようなフィジカル性の強い楽曲。Olenckiは2020年の『SOLO WORKS』などで予てからトロンボーンやトランペットでこうした管楽ノイズを演奏しており、Cocksにも実験的なソロ・フルート作品『field anatomies』がある。ハイリー・レコメンド!
僕がいつも心の中で正座しながら聴いている名曲"どうして" (『スロー・イン』(2020)収録)の中で「謎の雰囲気担当大臣 わたし いくらでもふざけてみせますよ」と歌っていた柴田聡子は、本作リリースにあたってのインタビューでそうした衒いや「面白くありたい」の強迫観念からの解放について度々語っている。
・「面白くいなければ……!みたいな状態で人と付き合っていると、自分の言いたいこととか思っていることが分からなくなっていって、自分がどこにいるのかすらわからないし、それがいろんな辛さを招いていた感じがするんですよね。」(『ユリイカ』インタビューより)
・「<おもしろい曲>を作ろうとすると、自分が本当にやりたいことから離れていき、詰めが甘くなるときがあったんです。いまは自分が作りたい曲を作って、書きたい歌詞を書いているので、メロディーに歌詞が乗らなくても歌詞を変えたりはしない。<絶対歌う!>っていう根性で歌ってます。」(Mikikiインタビューより)
それと同時に近年はビヨンセ、安室奈美恵、アリアナ・グランデといったメジャーど真ん中のDIVAへの愛とリスペクトを真っ直ぐ表明することも厭わない。自分の好きなものを好きなように表現し言いたいことをそのまま言った結果が、ネオソウル的なアプローチと自由なフロウだとするならば、本作で起こった変化は何の違和感もなく腑に落ちるのである。ちなみに2019年に7インチオンリーでリリースされたDUBFORCEプロデュースの安室奈美恵 ”Baby Don't Cry”のDUBカバーが昨年YouTubeにアップされていたので聴けるうちに聴いてくれ!(この7インチはだいぶプレミア化している)
わーい書き終わった!今月は以上です!最後は恒例の最近読んで良かった本を紹介するコーナー、通称「最近読んで良かった本コーナー」です。
【最近読んで良かった本コーナー】
・朱喜哲「100分de名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯」(NHK出版)
もはや100分de名著を後追いで観るくらいでしかU-NEXTを使っていないのだが、このローティー回は良かったです。朱さんの新刊『人類の会話のための哲学 ローティと21世紀のプラグマティズム』もよはく舎から発売中。
・吉岡実「夏の宴」(青土社)
横浜に行ったときに伊勢佐木町の古本屋で買った詩集。箱入りの変型縦長で表紙に描かれた西脇順三郎氏によるイラストも可愛らしい。冒頭に置かれた一篇「楽園」で「私はそれを引用する 他人の言葉でも引用されたものは すでに黄金化す」と宣言しているように、本書は吉岡が引用詩を実践していた時期のもの。普段ほとんど詩とか読まないし、むかーしに引用詩を作る以前の彼の詩集を買って読んだときには悲しいかなハマれなかったのだが、引用大好き!引用せずには生きられない!僕には、この詩集がよく馴染んだ気がした。
・世良田波波「恋とか夢とかてんてんてん (1)」(マガジンハウス)
マガジンハウスが運営するweb漫画サイトSHUROで連載されている作品。青林工藝舎の雑誌アックス出身の方です。ストーリーは20代後半女性(低所得)の痛い恋愛。話はともかくとして、僕は世良田さんの描く夜の街の風景がとても好きなんだ。ちなみに本作の舞台は東京の高円寺。もしかしたら知っている風景も出てくるかもね。僕はひとつもピンと来なかったが。
・アミア・スリニヴァサン「セックスする権利」(勁草書房)
「まえがき」でスリニヴァサンは「(一部の問題を除いては)入り組んでいて難しいことを単純化して簡単なものにしたくないので、どちらともつかない立場をとっている」「フェミニズムは、(中略)政治は居心地のいい場所である、といったファンタジーに甘んじていてはならない」と書いている。実際にエッセイの中では過去のさまざまなフェミニストの言説を参照しながら試行を繰り返していく。著者のこうした姿勢は主にインターセクショナリティ(交差性)の概念に根差しており、それは常にある種の居心地の悪さを呼び起こすものである。しかしこうした「不快と葛藤のなかにとどまろう」とする慎重な態度こそ、僕自身もそうありたいと願う態度なのだ。
ですってよ!それではまた次回があれば…