NEW MUSIC TROLL - APR

琴線に触れた新譜を羅列する企画"NEW MUSIC TROLL" 4月編です!

Alaska & Steel Tipped Dove - The Structural Dynamics of Flow
Backwoodz Studioz(billy woods. Armand Hammer)やRuby Yacht(R.A.P. Ferreira f.k.a. Milo, s.al)周辺のラッパーにビートを提供してきたNYのプロデューサーSteel Tipped Doveと、00s アンダーグラウンド・ヒップホップの名盤『The Cold Vein』(Prod. El-P)で知られるCannibal Oxを擁するNYのコレクティブAtoms Familyのメンバーであるベテラン・ラッパーAlaskaとのジョイント作品。Steelは今年すでにNosaj from New Kingdomとの共作『House of Disorder』もあるし、また今月にも新しいプロジェクトがリリース予定だとか(追記:リリースされました!→https://fusedarrow.bandcamp.com/album/the-trumpets-obviously-been-drinking)。プロデューサー・オブ・ザ・イヤー待ったなし!

Benefits - Nails
ノース・イースト・イングランドはティーズサイドのポリティカル・ノイズ・パンクスBenefits。パンデミック下の2020年ごろから、時事問題に即時反応した政治的楽曲をBandcampやYouTubeで公開していたが、この度Geoff Barrow(Portishead)が運営するInvada Recordsよりついにアルバム・デビュー。歌詞のテーマは反愛国主義や反排外主義、つまり現在の英国の政治状況に対する怒りと絶望である。フロントマンのKingsley Hallがファンを公言するSleaford Modsからの影響は音楽性やアティテュードに強く見られるが、そこにModsのようなユーモアは見られない。マジなのだ。
バンドのオフィシャルTシャツのフロントには"LEFTY WOKE SHITE"の文字(画像の着用モデルはボーカルのHall氏本人です)。日本に置き換えるなら「意識高い・クソ・パヨク」だろうか。残念ながらソールドしているので、みなさんもパヨクTシャツ作っておいてください!ネトウヨの方は「差別大好き・クソ・ウヨ」Tシャツ作っておいてください!

Bill Direen/Bilderine - Split Seconds
83年にFlying Nunからアルバム『Beatin Hearts』でデビューしたNZアンダーグラウンドのミュージシャンBill DireenのBilderine名義での2ndが、1stと同じくネブラスカのシンガーソングライターSimon Joynerが立ち上げたレーベルGrapefruitsからリイシュー。ポストパンクというよりは、60sガレージ/サイケ色の強いロック・サウンド。Tall Dwarfs, The Bats, The Terminalsなど後にOZシーンで活躍するバンドのメンバーも参加。そのあたりのKiwi Rockが好きな方はマストです!

Bill Orcutt - Jump On It
90年代にはカルト・ノイズ・バンドHarry Pussyで活動。その解散後、ブランクを経てソロ・ギタリストとしてリリースを重ねるBill Orcuttの最新作。アコースティック作品は13年の傑作『A History Of Every One』(もしくは14年のレーベル企画盤『VDSQ - Solo Acoustic Volume Ten』)以来約10年ぶり。ミニマリズムに力点を置いた前作『Music For Four Guitars』からの連続性も感じられるが、基本はDerek Baileyであり、Loren Connorsであり、Robbie Bashoであり、Guitar Soliなのではないかと思われる。ギターを弾き鳴らすOrcuttの息遣いが比喩ではなく聞こえてくる、その近しさが良い。天然のリバーブもまた美しい。

Buddie - Agitator
バンクーバーのインディーロックバンド2nd。真っ当に90~00s オルタナ/インディーの影響を受けた、まあこれといって変哲もない音なのだが、不思議とこういうのが刺さるときもあるのだ。歌詞は結構政治的で、ミドルテンポのパワーポップ"Game of Global Consequence"では10年代のオキュパイ運動から連なる、いわゆるジェネレーション・レフト的な感覚が直に歌われている。

Cindy - Why Not Now
April Magazineなどと共にサンフランシスコ独特のインディーシーンを形成するCindyの4作目。やはりGalaxe 500, Mazzy Starあたりを想起せずにはおれないドリーム・ポップ~スロウコアであるからして、好きに決まっているのである。18年にセルフリリースされた1st『Cindy』(近年稀にみる猫ジャケ)もこのタイミングでLPリプレス。

defprez - It's Always A Time Like This
シカゴのラッパー兼高校教師Adam Levin a.k.a. Defceeとメリーランド出身のCRASHprez, プロデューサーknowsthetimeのユニットdefprezの新作。両MCの真に迫った辛辣でコンシャスなリリックをじっくり噛み締めたい。
"Impossible is my realistic. I wrote tracks in stone sap. Asking why I play the sad rapper role. I don’t act." ("Cold Wax")
"Thought we found the bottom, but the lows gettin lower." ("Inheritance")
"Another day, another risk. Underpaid with double shifts. Take what I can get, even if it’s an ugly bliss." ("Endless") 
"Ain’t no justice for the slain, just the prisons we enjoy. We productive in the flame, we persistent to the ploy. Your indifference is a toy." ("Wake")うーん、現実辛すぎ!そしてアルバムタイトルは「いつもこんなかんじ」。やりきれないですね!(非正規雇用のワープア30歳より)

Donna Candy - Blooming
ボーカル、ベース、ドラムという最低限の編成からなるマルセイユの三人組デビュー作。ヘヴィな演奏にエフェクト過剰なボーカルが転げまわるビザールな混沌ノイズ・ロック。

dragonchild - dragonchild
ボストンのエチオ・ジャズ・グループDebo Bandを率いたDanny Mekonnenによる新プロジェクトのデビュー作。エチオピアのレジェンド・ミュージシャンHailu MergiaYezinna Negashのサンプリングや、エレクトロニクス、フィールド・レコーディングを用いたコンテンポラリー・ジャズの傑作。claire rousayが参加した長尺ドローン"Meditation (Reprise)"も素晴らしい。片面プレス4LPのフィジカル版では、4枚同時再生が可能なのだという。友達がいる人はやってみよう!

Emahoy Tsege Mariam Gebru - Jerusalem
こちらもエチオピア。今年99歳で亡くなった修道女/ピアニストのエマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルーのアーカイブ音源集。マイク・ミルズの傑作『カモン カモン』でも彼女の曲が使われていましたね。

Entidad Animada - Pruebas De Existencia
メキシコのエクスペリメンタル・レーベルUmor Rexより。アルゼンチンの電子音楽家Entidad Animadaの作品。StereolabSpacemen 3、90sシューゲイザーに影響を受けたというメロディアスなアンビエント。昨年発見したブラジルのレーベルMunicipal K7もそうだが、南米のエクスペリメンタル・シーン気になります。

Extestines - Stang
素晴らしい実験レーベルHausu Mountainを運営するMax Allison(Mukqs, Good Willsmith)がキュレーションするBlorpus Editionsからのリリース。収録曲全てがStingの代表曲"Desert Rose"をサンプリングして作られているという偏執系コラージュ・ノイズ作品。

FACS - Still Life In Decay
90年代にはポスト・ハードコア・バンド90 Day Men、00年代後半からはSonic YouthのSteve Shellyも在籍したDisappearsで活動したシカゴのミュージシャンBrian Caseの最新プロジェクトFACSの5作目。ヘヴィなベースラインと耽美なギターフレーズの反復がカタルティックに展開する"Slogun"、アルバムを締めくくる長尺の"Still Life In Decay", "New Flag"など、孤高のアートパンク。

Fire-Toolz - I am upset because I see something that is not there
シカゴのエクスペリメンタル・アーティストAngel Marcloidのメイン・プロジェクト最新作。Fire-Toolzの音楽性ほど簡潔に形容しにくいものもなかなかないと思うが、MarcloidのWikipediaページからの引用すれば、"which blends different genres such as vaporwave, IDM, jazz fusion, ambient, extreme metal, prog, industrial, new-age, screamo, and noise, among others."であり、だいたいそのようなものだと言える。80s ジャズ・フュージョンのヴェイパー的なノスタルジアと、グラインドコアのブラストビートと、ブラック・メタル/スクリーモなボーカルとが高密度に共存する唯一無二のスタイル。彼女自身はその出自をノイズ・シーンであると語っていたが、もはやヴェイパーウェイバー、メタラー、プログレッシブなクラブ音楽好き、エモ・キッズなど、そのファン・コミュニティはジャンルを超えて広がっていると言う。ドレス、パズル、サンダルなど幅広いグッズ展開も面白い。

Fly Anakin - Skinemaxxx (Side A)
自身が立ち上げたリッチモンドのヒップホップ・コレクティブMutant Academy所属のビートメーカーFoiseyとのジョイント作。東海岸なトラックの上でオフビートに爆ぜるAnakinのハイトーンなフロウがやっぱり超良い。

Gabe 'Nandez - Pangea
国連関係の仕事をしていた父に連れられて青年期までをハイチ、タンザニア、エルサレムなど転々と過ごし、母語はフランス語という少し変わった経歴を持つNYベースのMC。billy woodsのインスタント・クラシック『Aethiopes』にも客演。いかにも育ちがよさそうだが、ハイチのスラムで暮らす少年たちの姿を目撃することの罪悪感、兄の事故死など、不安定な境遇の中で13歳のころからドラッグやアルコールに手を染めたといい、その経験は"Transactions"でも語られている。ブルックリンのプロデューサーTony Seltzer(Wiki, Mike, Princess Nokia, Sneaks)が手掛けたヒプノティックなブーンバップ・ビートの上でNandezがハスキーなバリトンでロウにまくしたてる。

Giuseppe Ielasi - Down On Darkened Meetings
ミラノのベテラン・アーティストGiuseppe Ielasiの最新作はOren AmbarchiのBlack Truffleより。FenneszやLoren Connorsを思わせる、エレキギターによる実験作品。

Hayden - Are We Good
90年代から活動するカナダのSSW、8年ぶりの新作。代表作『Everything I Long For』はよく中古屋でも見かけるし、デビュー当時は宅録ローファイ・フォークの括りで日本でもそこそこ人気があって来日公演も行われたというが、この最新作も傑作なのでリアルタイムリスナーの中年の人聴いてください!Aaron Dessner, Matt Berninger(The National)、Feistが参加。リード曲"On A Beach"のMVにはみんな大好きスティーヴ・ブシェミが出演。

Jacques Puech - Gravir / Canon
フランスの実験音楽コレクティブLa Nòviaの一員Jacques Puech。オーベルニュ地方に伝わるバグパイプの一種であるカブレットによる即興作品。5本のカブレットが複雑に絡み合う多層ドローンのM2 "Canon"が素晴らしい。

Jana Horn - The Window Is The Dream
テキサス出身シャーロッツビルを拠点にするSSWの2nd。ヴァージニアの大学院で芸術修士課程に在籍し、学生たちにフィクション・ライティングを教えたり、論文を書いたりしながら制作されたという。素朴でありつつも趣向を凝らしたバンド・アレンジとHornのあいまいなメロディーとデッドパンな歌声が不思議なエモーションを呼び起こす。

King Cobra - Blunt Wraps & Cobra Coils
アメリカのノイズ・レーベルdeathbed tapesより。King Cobra JFSことJoshua Fay Saundersによるヒップ・ホップ・アルバム。King Cobra JFSとは何者か。ワイオミング州キャスパーに暮らすSexy Goth Bad Boyである。
まあ、YouTuberである。2011年からYouTubeでVlogの投稿を開始し、現在もライブ配信などでフード・レビューをしたり、質問に答えたり、煙草を吸ったりしている。理由はわからないが、一部に熱量の高いファンが存在(エクストリームな中年を面白がってるとしか思えないのだが)。ラッパーのDanny Brownも自身のPodcastで彼を(小バカにしながら)紹介していた。今回のアルバムではライバルYouTuberであるCyrax、自身の切り抜き動画をアップロードするチャンネルBite Size、さらには全米で頻発するマス・シューティングへの非難など、彼が溜め込んだ怒りが炸裂。タイトル曲ではDanny Brownの名前も叫ばれていたが、何を言っているのかはよくわからない。一応彼もミュージシャンではあるが、アウトサイダー・ミュージック的な感触は拭えない。「deathbedの新作か~、聴いてみよう。うんうん、なかなか良いじゃんか。」と思って調べてみたらこんなかんじでした。発表終わり。

kœnig - 1 Above Minus Underground
オーストリアのドラマー/作曲家/ラッパーLukas KönigがKING VISON ULTRAこと
GENG PTPが運営するNYのレーベルPurple Tape Pedigreeよりリリースした新作。ノイズ・ユニットMOPCUTとしても活動する彼だが、今作ではNappy Nina, Moor MotherSensationalDälek, Guilty Simpsonといったラッパーや、Victoria Shen, Rojin Sharafi, Elvin Brandhiといったサウンド・アーティストをゲストに迎えたエクスペリメンタル・ヒップホップを披露。 プログレッシブなジャズ・レーベルInternational Anthemから作品をリリースするトランペット奏者Aquiles Navarroに、大友良英との共演作品もあるサキソフォニストChris Pitsiokosというフリージャズ畑のミュージシャンも召集している。

Lisa/Liza - Breaking and Mending
シカゴの素晴らしいDIYレーベルOrindal(Dear Nora, Wednesday, Robert Stillman, Karima Walker, Gia Margaret, Claire Cronin)の古参アーティストLisa/Lizaの5th。Judee Sillの名曲"The Kiss"をオマージュしたタイトル曲、20年に亡くなったインフルエンシャルなフォーク歌手John Prineの名をそのまま冠した"John Prine"など、美しいインディ・フォーク作品。

Martyna Basta - Slowly Forgetting Barely Remembering
スロバキアのアンビエント・レーベルWarm Winters Ltd.より、ポーランドのアーティストMartyna Bastaの新作。ASMR的なボーカルやフィールド・レコーディングのサンプル、そしてツィターやギターの響きが心地よさと不気味さの間を漂うアンビエント作。claire rousay参加。

Natural Information Society - Since Time Is Gravity
The Rootsの初期ベーシストであり、Town & Countyなどシカゴ音響派のポスト・ロック・シーンやフリージャズのフィールドで活躍したJoshua Abramsが率いる前衛ジャズ・グループの新作。Evan Parkerと共演したライブ盤『descension (Out of Our Constrictions)』も素晴らしかったが、今回は10名以上のミュージシャンを集めてスタジオ録音されている。日本製のヴィンテージ・ドラムマシンAce Tone Rhythm Aceも用いつつ、トライバルなスピリチュアル・ジャズが展開する濃密なアルバム。

NEW MEXICAN STARGAZERS - RETURN 2 WHITE SANDS ARCADE
@ecnereferのLo-Fi/New Age/VaporwaveプロジェクトNEW MEXICAN STARGAZERSの新作。"(enter)"に始まり"BACKDOOR"に終わる、仮想空間内のゲームセンターを案内するような一作。過去には"LIVE AT WHITE SANDS ARCADE"という作品もリリースしているが、WHITE SANDS ARCADEが実在する場所なのかは不明…。

North Americans - Long Cool World
Hayden PedigoMatt Kivel, Meg Duffy(Hand Habits)の別プロジェクトyes/and, CFCFなどをリリースするDriftless Recordings主宰Patrick McDermottによるアンビエント・フォーク・デュオの最新作。Jack WhiteのThird Manより。

Nourished By Time - Erotic Probiotic 2
ボルチモア出身ロンドン在住、Yaejiの最新作『With A Hammer』にもゲスト参加していたDIYシンガーソングライターのデビュー作。ボルチモアにある両親の実家の地下室で制作されたという80s likeなエレクトロ・ファンク/シンセポップ。

OG Aborigines - The Man with the X​-​Ray Eyes
ラッパーRapswell & Bobby NobleとビートメーカーSQからなるNYCのヒップホップ・グループPENPALSのサイド・プロジェクトOG Aborigines(Rapswell & SQ)の新作。『X線の眼を持つ男』というタイトルからもわかるように、全編なぜか"KING OF B MOVIE"ことロジャー・コーマンへのトリビュートになっている。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『デス・レース2000年』『白昼の幻想』『ガス!』『忍者と悪女』、コーマン監督作品のタイトルがそのまま曲名になっており高まる。もちろん映画本編の音声もサンプリング。3月に新作をリリースしたプロデューサーSpectacular Diagnosticsが手掛けたアートワークも◎。

Proc Fiskal - RT Hon EP
Hyperdub所属スコットランドのプロデューサーProc Fiskalの最新EP。自身とパートナーの声をサンプリングしたボーカル・チョップを軸にした、エクスペリメンタルなベース・ミュージック。

Rắn Cạp Đuôi Collective - *1
ハノイのMona Evieと並んで一部で盛り上がりを見せるベトナムのエクスペリメンタル・シーン(実際シーンってものがあるのかはわからないが)の筆頭、ホーチミンを拠点とするアート・コレクティブRắn Cạp Đuôi(意: 蛇のしっぽ)。その名を知らしめた21年作『Ngủ Ng​à​y Ngay Ng​à​y T​ậ​n Thế』に続く最新作。IDM、ドラムンベース、シューゲイザー、ノイズ、アンビエント等を横断しつつ、メロディーにもしっかり心を掴まれる。

Ribbons - Dora
おなじみコペンハーゲンの実験レーベルPosh Isolation主催Christian Stadsgaard(Damien Dubrovnik, Vanity Productions)とポーランドのアーティストStefan Węgłowskiによる新ユニットRibbonsのデビュー・アルバム。グリッチ/コラージュで構成されるダーク・アンビエント。

Romance - Fade Into You
2月にリリースされたDean Hurleyとの『River Of Dreams』も記憶に新しいUKのアンビエント作家Romanceの新作。メロドラマへの固執は相変わらず、今回はドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの傑作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(フランソワ・オゾンによるリメイク『苦い涙』が間もなく公開される)にインスピレーションを受けて制作されたという。セリーヌ・ディオンのサンプリングにしても、やっぱり目の付け所が素晴らしい。『ペトラ~』本編で非常に印象深いイルム・ヘルマンのワンショットをそのままアートワークに使用している。レコードで買った!

Sandy Ewen/Jason Nazary - A Beaded Gesture
ブルックリンを拠点に活動する前衛ギタリストSandy Ewenと、2月にSaint Abdullahとの共演作『Evicted In The Morning』をリリースしたドラマーJason Nazaryのデュオ作品。ニューヨーク・キングストンのカセット・レーベルNoticeより。Ewenのプリペアド・ギターとNazaryのフリーなドラムによるスリリングなインプロビゼーション録音。

Snowy - lipreader
メルボルンのミュージシャンLiam Halliwellを中心に結成されたインディー・ポップ・バンドSnowy (f.k.a. Snowy Band)の新作。オーストラリアと聞いて安易にイメージするジャングルなかんじとは違い、Dean Wareham(Galaxie 500, Luna)を連想させる"Sorry I Missed You"など、むしろサンフランシスコのCindyやApril Magazineに近いスロー&ウィスパーなグッド・ミュージック。

Terry - Call Me Terry
Total Control, Primo!のメンバーで結成されたメルボルンのTerry、5年ぶりの新作。Snowyとは打って変わって、冒頭からいかにもOZインディーなローファイ・サウンド。個性的なユニゾン・ボーカルも相変わらず。しかし、すっとぼけた印象とは裏腹に歌詞の内容は非常に政治的で、アルバム・ジャケットの写真と密集したキャプションはそれを読み解くヒントとなっている。"Balconies"に付け加えられているのは、メルボルン生まれのメディア王ルパート・マードックが会長を務めるニューズ・コープ社の写真。マードックといえば、最近ドミニオン訴訟でめでたく敗訴したアメリカの極右放送FOXニュースの会長でもある。女性の人工妊娠中絶の権利を認めた"ロー対ウェイド判決"の原告ノーマ・マコービーが使用していた仮名をそのまま曲名に冠したM8 ”Jane Roe”は、コーラスで"baby, baby, baby, it's your choice, you choose"と歌われるプロチョイス・ソングである。とぼけたフリして注意深いリスニングが求められるアルバムだ。直接関係ないが、インタビューによればメンバーのAl Montfortの別バンドDick Diverが新アルバムを準備中だという。Dick Diver大好きなので楽しみ!

THX1312 - Auditions For Patron Saint ov Cop Suicide
REALICIDEとして活動してきたRobert Inhumanのハードコア・デジタル・ガバ・ノイズ・パンク・プロジェクトTHX1312がDeathbomb Arcからリリースした新作。このプロジェクトのテーマはただひとつ、"Anti-Police"(!)である。プランダーフォニックス、カットアップの手法を用いて、ひたすら反警察を唱え続ける素晴らしい作品です!

Tim Hecker - No Highs
「現在流行している胡散臭い企業アンビエントの氾濫に対する不安の狼煙」とプレスリリースで説明されているように、これは耳心地の良い音楽ではない。アルバム全体で鳴り続ける信号のように明滅するシンセサイザーのパターンは、ときにそのペースを撹乱させる。Colin Stetsonのサックスはときに意図的にボリュームを絞られ、ついに霧消してしまったかと思えば、幽霊のように別の場所に現れる。ジャケットに写るのは、ぼんやりと逆さに浮かぶグレーの都市。俗流アンビエントを否定するアンビエント。

Washer - Improved Means To Deteriorated Ends
メンバーそれぞれブルックリン、フィラデルフィア在住のローファイ・デュオWasherの最新作。2014年にブルックリンのインディー・レーベルExploding In SoundからBig Upsとのスプリットでデビュー。2016年には1stフル、翌年には2ndをリリース。2人だけで演奏されるミニマルでキャッチーなローファイ・ガレージ・ポップで当時結構好きだったのだが、2020年に計画されていたというツアーと新作は例によってパンデミックでキャンセル。リモートで曲作るとかそんな器用なこと彼らにはできなかったのか、随分と計画が後ろ倒しになって6年(!)振りの新作リリースとなった。「待ってた!」ってほどでもなく、「まだやってたんだ!」というかんじであるが、聴いてみたら何も変わってなくてやっぱり好きだった。僕も変わってなかった。

Wednesday - Rat Saw God
ノース・カロライナのインディー・ロック・バンドWednesdayのDead Oceans移籍一作目。僕はむしろギタリストJack Lendermanのソロ・プロジェクトMJ Lendermanから先にハマったくちであり(21年の傑作『Ghost Of Your Guitar Solo』が4月にアナログ化された!)、なのでスローなM4 "Formula One"でフロントに立つKarly HartzmanとLendermanとのデュエットが始まった瞬間がかなり高まる。とはいえ、本作の感情的ピークは先行シングルとしてリリースされた2曲目"Bull Believer"の素晴らしいラスト3分間にすでに置かれているのだが。"Formula One"の一番最後のラインでは、リチャード・ブローティガンの詩の一節"Love’s not the way to treat a friend."が引用されている。実はHartzmanがブローティガンを引用するのはこれが初めてではない。2ndアルバムのタイトル『I Was Trying to Describe You to Someone』、これもブローティガンの詩の引用であり、アルバムのラストには"Revenge of the Lawn"(『芝生の復讐』)という曲まで用意されている。ブレイク作となった3rd『Twin Plagues』の収録曲"Toothache"では、再び『芝生の復讐』収録の短編『1/3 1/3 1/3』の一節"Toothache sky is ‘bout to rain"が引用される。もっといえば、同作収録"How Can You Live If You Can't Love How Can You If You Do"の曲名はジェームズ・ボールドウィンの長編小説『もう一つの国』にある台詞の引用である。ちなみに『もう一つの国』は僕の生涯ベスト小説のひとつでもあるのである。というか、僕もブローティガンは好きなのである。というわけで、Hartzmanの書く詞は、小説やゲーム("Bull Believer"におけるモータル・コンバット)など、他の創作物の直接的なリファレンスに満ちており、これは僕の好きな傾向なのだ。例えば、映画を引用しまくるイギリスのギター・ポップ・バンドComet GainのソングライターDavid Christianもそう。誰かの何かを参照することなしに自己表現ができない永遠ワナビーである僕は、そういう表現が好きなのだ。そんなComet Gainのレアトラック集『The Misfit Jukebox』は6月2日リリース!乞うご期待!

XV - On The Creekbeds On The Thrones
ミシガンの3人組アート・パンク・バンド2作目。ポストパンク/ノー・ウェーヴ、The Fallや中期Half Japaneseに似た雰囲気も感じさせるが、女性3人組という意味では3月編で紹介したOlimpia SplendidやNYのPalbertaを想起する。プロデュースはミシガンDIYシーンの重鎮Fred Thomas(Chore, Lovesick, Saturday Looks Good To Me)。XVのメンバー3人ともThomasとは長い友人・バンドメイトであるようだ。Claire CiroccoはThomasとのデュオ作品『No Groove』を出しているし、Emily RollはThomasとThe Ice Creamsというバンドを組んでいるし、Shelley SalantはThomasがドラムを叩くガレージ・バンドTyvekのメンバー。Fred Thomas、まじミシガンの顔役。プレスリリースに載っているSalantの言葉が良い。“I don’t understand what Claire or Emily are doing, but it works when we play together.”

Xylouris White - The Forest in Me
ギリシャはクレタ島のリュート奏者George XylourisとDirty ThreeのドラマーJim WhiteによるデュオXylouris Whiteの5作目。21年にリリースされたBill Orcutt & Chris Crsano『Made Out Of Sound』が、パンデミック無くして生まれ得なかった傑作であったように、本作もまた世界的な隔離施策の影響下、リモートで作られている。遠く離れた地の音と音を橋渡ししたのは、このデュオのアルバム全てでプロデュースを担当してきたGuy Picciotto (Fugazi)だ。フリージャズやトラディショナル・フォークと同時に、どこか90年代ポスト・ロックの香りも漂っている傑作インスト。

YUNGMORPHEUS - From Whence It Came
LAのラッパーYungmorpheusの最新プロジェクト。サンプル・ベースで東も西も行き来するようなブーン・バップ中心のアンダーグラウンド系ビートが良い。Ohbliv (Armand Hammer, MIKE, al. Divino, ), Graymatter (Maxo, Conway The Machine), JUNIE. (Medhane, Akai Solo), Shungu等、10名以上のプロデューサーを招きながらも統一感のある全19曲。Jimetta Roseのソウルフルな歌声が印象的な“Where It Goes”, Fly Anakinが飛び道具的なフロウを披露する“Cassava Bread”, Blu&MadlibのコラボレーターMEDが客演する"What You Won't Do", B.Cool-Aidの片割れAhwleeが参加したG-Funk調の“For The Evening”, ハープ奏者Marry Lattimoreをフィーチャーした“Shattered Glass”などバラエティに富んだゲスト陣。

Shizuka - Heavenly Persona
人形作家の三浦静香を中心に、裸のラリーズ/不失者のギタリスト三浦真樹らで結成されたバンド静香の1994年唯一作『天空のペルソナ』が再発された!灰野敬二ハイ・ライズWhite Heaven高柳昌行三上寛ハレルヤズなど、日本のアンダーグラウンドな音楽シーンを牽引したP.S.F.レコードのカタログを復刻する毎度おなじみLAのBlack Editonsより。もしも戸川純がHope Sandovalだったら…みたいなかんじのサイケデリック&ゴシック・ドリームポップで素晴らしい。

じゃあ今月は以上です!