38KEA - 10,000 Roach
リッチモンドのラッパー/ビート・メーカー。 昨年の『Keeper』は意外なギターソング集だったが、本作はBig Up Menace X, Jak3といったおなじみのコラボレーターも参加した本道アブストラクト・ヒップホップ。"The Proverbial They"では盟友LAMPGOD(a.k.a. LORETTA ABERDEEN, Bryant Canelo)共々痛烈にTikTokやGAFAMといったテック企業を攻撃し、"That Celebrate That"ではプラトン、ヘラクレイトス、エピクロスといった古代ギリシャの哲学者の名を持ち出して犬儒派ディオゲネスでオチをつけるなど、リリックも鋭い。終盤のボイス・サンプルを用いた素晴らしいインスト"The Groovy Decline"のセルフ・ライナーで38は"世界中のグレゴール"に"I hear you"と呼び掛けているが、タイトルやアートワークのRoach(ゴキブリ)は、カフカ『変身』を念頭に置いたものなのかもしれない。
Parquet CourtsのフロントマンAndrew Savageのソロ2ndがRouth Tradeから。テキサスに生まれたSavageがTeenage Cool Kids, Fergus & Geronimoを経て結成したParquet Courtsは10年代ニューヨークを代表する重要なバンドのひとつ、というか僕が10年代に最も入れあげていたバンドのひとつである。そんな彼は現在生活拠点をパリに移している(といってもツアーで欧米を飛び回っているようだ)。ニューヨークのアーティストとして、彼は常々ジェントリフィケーションや資本主義、暴力について歌っていたのであり、それを移住の理由として仄めかすようなインタビューも見かけたが、それを踏まえると本作はさながらニューヨークへの別れのメッセージだ。ニューヨーク時代に近所に住んでいたホームレスについて歌った"David's Dead"は、曲調は陽気なものの詞にその感傷が最も表れている。録音が行われたのは英国ブリストル。PJ Harveyとの仕事で知られるJohn Parishをプロデューサーに迎え、Cate Le BonやドラマーDylan Hadley(White Fence, Kamikaze Palm Tree)、carolineのヴァイオリン奏者Magdalena McLean、そして先月紹介したModern NatureのJack Cooperが参加。フォークを基調にした普段のバンドでは聴けないダウンビートなアレンジは、ジャケットの色味も相まってRed KrayolaのMayo Thompsonのソロ名盤『Corky's Debt to His Father』も彷彿とさせる。パリに移住ってParquet Courtsどうなるの!と思ったけど、「そのうち必ず何かやる」らしいのでご安心を!
パリ在住のミュージシャン/映像作家Niamké DésiréによるプロジェクトAho SsanがNicolas Jarrが主催するOther Peopleからリリースした新作。ケニア出身のアーティストKMRUとコラボレーションした『Limen』も記憶に新しいが、Désiréも同様アフリカ・コートジボワールにルーツを持つ移民である。ドゥルーズ&ガタリ『千のプラトー』から採られた"Rhizomes"(加えて作家エドゥアール・グリッサンの影響もあるのだという)というタイトルが示すように、本作には前述のNicolas JarrやKMRUをはじめとして数多くのアーティストが参加。ケニア出身の実験作家Nyokabi Kariũki、英エクスペリメンタル・ラッパーBlackhaine、英サウンド・アーティストRichie Culver、本ブログでも取り上げたベトナムのコレクティブRắn Cạp Đuôi、LAのラップ・グループclipping.、INA GRMのサウンドディレクターでもあるKassel Jaeger、イラン出身のデュオ9T Antiope、そしてInternational AnthemからのリリースでおなじみMoor MotherとAngel Bat Dawidなどなど。地下茎のように張り巡らされた濃密なコレクティブ・アート作品になっている。
amani - LIVE @ CAFE_ERZULIE - 7.6.19
PTP主催KING VISION ULTRA a.k.a. Gengとの『An Unknown Infinite』で名を馳せたNYCのラッパー/プロデューサーamaniのライブ盤。自身も鍵盤を演奏しながらの生バンド編成によるジャジー・ヒップホップで超クール。本作は2019年の録音だが、この時期amaniはラップよりもむしろ鍵盤やドラムの演奏に入れ込んでいたのだという。当時影響を受けたと語るのはFlying LotusとEsperanza Spalding。それを受けて2021年のセルフ・プロデュースによるソロ作『A CONSTANT CONDENSATION』を聴きなおすとなるほど腑に落ちる。こちらも傑作なので聴いてくれ!
90年代から活動するパリのスロウコア・バンドAcetate Zeroの中心人物Stéphane Recrosioがastatine名義で2011~12年にかけてリリースしたEPの曲群をコンパイルしたアルバム。元々CD-Rとして超少数限定流通していたが、この度Bandcampで公開された。全編ベッドルーム系ローファイ好きにはたまらない音。
カリフォルニアのエモ・バンドの2nd。2018年のデビュー盤『what people call low self-esteem is really just seeing yourself the way that other people see you』を愛聴していた身としては、5年のブランクはずいぶんと長く感じられたが、フロント・パーソンShannon Taylorのボーカルもバンド・サウンドも数段厚みを増した超正統エモ・アルバムで嬉しくなっちゃった。
Courtney Barnett/Kurt Vile - Different Now/This Time of Night
5年前、Courtney BarnettとKurt VileがAmoeba Musicの名物企画"What's In My Bag?"にそろって出演したとき、Barnettが「昨日の夜一緒にこれ歌ったよね」と言ってChastity Beltの3rdアルバム『I Used To Spend So Much Time Alone』をセレクトし、VileがJulia Shapiroの物真似をしながら"Different Now"を口ずさむという素晴らしいシーンがあったのを覚えているだろうか。後にVileはChastity Beltのメンバー全員を迎えて"Chazzy Don't Mind"という曲を作るくらい、このバンドにインスパイアされたのである。僕にとってもChastity Beltは特別なバンドだ。そして今回BarnettとVileがChastity Beltをトリビュートした7インチをリリース。うーん、非常に感慨深い。そして"Different Now"ホントに名曲!それではChastity Beltの近況。8月にはデビュー作『No Regret』が10周年記念で再発。ボーカルJuliaは8月にLisa Prank, TacocatのメンバーとのスーパーグループWho Is She?としてアルバム『Goddess Energy』をリリース。ベースのAnnieは現在大学院に通っており、今年乳房の切除手術を受けたことを報告。ドラムのGretchenは3人組バンドMistiesとしても活動中で今年にはツアーも敢行。ギターのLydiaはハワイに行ったりロンドンに行ったりしてた。で、この記事を書いている合間にChastity Beltとしての新作『Live Lough Love』が来年3月リリース決定!先行シングル"Hollow"が公開中。みんなしっかり予約しよう!
シカゴのベテランSSW、Damien Juradoの新作。90年代後半からSub Pop、Secretly Canadian、Mama Birdといったインディー系レーベルを渡り歩いてきた彼だが、2021年からは自主レーベルMaraqopa Recordsを立ち上げて完全DIY体制で作品を量産している。本作は3月リリースの前作『Sometimes You Hurt The Ones You Hate』に続く今年2枚目のアルバムで、Maraqopaでは通算4作目。さらに今月頭にはすでに5作目となる『Passing the Giraffes』をリリース済。レーベル立ち上げ時点のインタビューで「アルバム7枚分の曲のストックがある」と堂々語っていたが、こうしたマイペース(ハイペース)な活動ができるのも長年にわたって培われてきた確固たるファンベースがあってこそ。数百枚という単位で少量プレスされるアナログ盤はほぼ即完状態だ。さて本作を聴けば誰しもが『Saint Bartlett』(2010)から『Visions of Us on the Land』(2016)まで続く、故Richard SwiftとJuradoとの蜜月時代を思い起こすことだろう。ソロ・ミュージシャンであり、同時に数多くのアーティストに信頼されるプロデューサーであったSwiftの死は、その後のJuradoに常にまとわりついていたが、本作を貫くJurado史上最も冒険的というか激・珍妙なヴィンテージ・ポップス調の"Mad"なアレンジおよびプロダクションには、Swiftの亡霊がはっきりと感じてとれる。この路線は前述の最新作でも継続されている。マジで一聴の価値あり。
パナマ出身シカゴ拠点のジャズ・ドラマーDaniel Villarrealのリーダー作。ギターにJeff Parker、 ベースにAnna Butterssを迎えて作り上げた昨年のデビュー作『Panamá 77』と同時期のセッションから抽出された姉妹篇的内容。2020年秋のロックダウン期間中にInternational Anthem共同設立者Scottie McNieceの自宅裏庭(通称:Chicali Outpost)で、ソーシャル・ディスタンスをとって録音されたという即興主体のラテン~アフロ・ジャズ・ファンクでカコイー。
ロードアイランドのスラッジ・メタル・デュオThe Bodyのロン毛の方ことLee BufordとSteven Vallotによるプロジェクトのフルレングス・デビュー作。ユニットの結成自体は、二人が地元プロビデンスにある倉庫のようなDIYスペースで共同生活をしていたという2008年頃に遡る(VallotはThe Bodyのブレイク作『All the Waters of the Earth Turn to Blood』にもボーカルで参加)。この長い潜伏期間中、BufordがThe Bodyでharsh&experimentalなヘヴィネスを追求してきたことは周知のとおりであり、もちろん本作もその期待を裏切らない。爆撃のような低音とのど飴を口に放り投げてあげたくなるHellなボーカルを荘厳に装飾するリチュアリスティックなシンセ・サウンドのハーモニーがそれでも美しい。"I and Thou", "Be Glad"といった曲がもたらすドゥームな安心感に浸っていたい。
NYCのDIYシーンで活動するPro-Queerなレイヴ・パンク・プロジェクトDeli Girlsの新作。Danny OrlowskiとTommi Kellyのデュオとしてリリースした2019年の『I Don't Know How to Be Happy』、それに続く『BOSS』が激マジに強烈だったが、その後Kellyが脱退。本作は、Orlowskiとも関わりの深いレイヴ・クルーMelting Pointの一員Dani RevとHatechildがサポート・メンバーに加わってから最初のアルバムだ。SWAN MEAT, MURDERPACT, AKAFAË, そしてHausu MountainでのリリースでおなじみRMX Realiyといったゲストが各曲に参加しており、ある意味ではMelting Pointというパーティーのショーケース的なムードも漂っている。にしてもBPM高くて置いてかれそうになるが。年初にはOrlowskiが参加しているグループNu Jazzのアルバム『Vol. I』もリリースされており、こちらではジャズ+エレクトロニクス+Deli Girlsテンションのボーカルという大変ユニークなクロスオーバーが試みられている。合わせてチェックされたし!
ニュージャージー出身のソングライターJoe Taylor Sutkowskiを中心とする“エモ・フォーク”・バンド。2019年のデビュー作はブルックリンのポストパンク・バンドModel/ActrizのドラマーRuben Radlauerとのデュオとして制作されたが、本作はベースとドラムを迎えたトリオ編成で2020年に録音されたもの。2021年にはアルバム『Of Wisdom & Folly』を自身の名義で発表している。スパークルホースやエリオット・スミス、レナード・コーエン等に強くインスパイアされたというダークな内省インディー。
eahwee_ - Bop Dowser: Gospel Hike pt 1&2
今年4月にデビュー・フルレングス『Life Force』をリリースしたロンドンの純ビートメーカーeahweeが、米ニュージャージー在住ラッパー/プロデューサーbrainorchestraが展開する“Proglodyte”Seriesにインスパイアされた“Bop Dowser” Seriesをスタート。「ゴスペル・ループで始まる、さまざまなジャンルを探求する(フリー)シリーズ」とのこと。10月にリリースされたpt1も2も大変楽しい。この先にも期待!
ラ・モンテ・ヤング、マリアン・ザジーラに師事したスウェーデンのドローン作家Ellen Arkbroの2021年自主リリース作が再構成されて正規再発。Arkbroといえば、昨年Thrill JockyからリリースされたJohan Gradenとのまさかのボーカル作『I get along without you very well』が大傑作であったが、本作は教会のオルガンを用いたハードコア・ミニマル・ドローン。微細な音程の揺らぎや倍音に意識を向けるとホントに没入できます。
フィラデルフィアのギタリストEmily Robbの2nd。ファズやフィードバック・ノイズを用いたヘヴィ・サイケなアヴァン・ロック・グルーヴが秋山徹次のブギーやヴェルヴェッツを連想させる傑作ギター・インスト。
ニュージャージーのインディ・ロック・ヒーローThe Feeliesが2018年秋に敢行した全曲Velvet Undergroundカバーのコンサートが音源化。フィーリーズのメンバーにとってヴェルヴェッツ/ルー・リードは永遠のアイドルである(数年前にGalaxie 500のトリビュート企画"20-20-20"があったとき、Glenn Mercerはむしろヴェルヴェッツをトリビュートしていたことを思い出そう)。1988年の傑作3rd『Only Life』のラストで『The Velvet Underground』収録のクラシック"What Goes On"をハイ・スピードでカバーしており、それがきっかけでその年の暮れにはリード本人とステージで共演している。近年、その模様を収めたブートレグも出まわっていたようだ(音源あり)。翌年、リードは改めてコンサートの前座にフィーリーズを招き、このニュージャージーのバンドについて「ヴェルヴェッツを理解している唯一のバンドだ」と称賛したという。本作は"Sundy Morning"(1stの1曲目)→"Who Loves Sun"(4thの1曲目)で幕を開け、年代・アルバムを問わずヴェルヴェッツのクラシック(ほとんど全曲クラシックなのだが)を演奏していく。プロト・パンクの名曲"White Light/White Heat"も完全にフィーリーズ節に。この曲での熱いギター・プレイはライブ中盤のハイライトだ。"All Tomorrow's Parties", "After Hours"では、ニコとモーリン・タッカーに代わってベースのBrenda Sauterがボーカルを取るが、これも実に良い味わい。フィーリーズ・ファンにもヴェルヴェッツ・ファンにも全力でおススメ!
一方こちらはジョージア州アセンズのエクスペリメンタル・メタル・バンドHarvey Milkによる、同郷の偉大なバンドR.E.M.の名盤『Reckoning』完全再現ライブ音源。演奏が行われたのは1993年の4月1日エイプリル・フール。会場には噂を聞き付けたマイケル・スタイプ本人もやってきていたのだという。94年にアルバム『My Love Is Higher Than Your Assessment Of What My Love Could Be』でレコード・デビューするHarvey Milkのヘヴィな音楽性からすると、R.E.M.を演奏するのはジョークのようにも思えるが、いやいや本人たちはリスペクトを持ってかなり忠実にカバーしているのである(彼らは傑作2nd『Courtesy and Good Will Towards Men』でも、Leonard Cohenの名曲"One of Us Cannot Be Wrong"を忠実にカバーしているのだが、ここでのCreston Spiersのボーカル・パフォーマンスはホントにホントにホントにホントに素晴らしい!)。この貴重な録音は、Sleater-Kinneyのメイン・ボーカリストCorin Tuckerの夫で映像監督Lance Bangs(あの素晴らしいThe Shins "New Slang"やPavement "Carrot Rope"等のMVを監督している!)がもたらしたものだという。ありがとう。初期R.E.M.は最高。ありがとう。
近年はアリ・アスター『ミッドサマー』やドラマ版『スノーピアサー』、D.C.ヒーロー映画『ブルービートル』等の劇伴仕事が多かったBobby Krlicが、The Haxan Cloak名義では10年ぶりとなる新曲を発表。激インダストリアルな攻撃的ビート(そしてもちろん不穏!)に驚愕。
Zach RowdenとのユニットTongue Depressorでもおなじみの実験音楽家Henry Birdseyの新作。通常、ハーモニカは吸う・吐くというそれぞれの動作に対応したリードが交互に配列されているらしいのだが、あるときBirdseyは掃除中に誤ってそのリードプレートをひっくり返してしまう。その結果、一方向の空気の流れのみによって通常では不可能な和音を生み出すことができる改造ハーモニカが誕生したのだった。本作は、その改造ハーモニカによるドローン。耳馴染みの良いビブラートがときにブルージーな印象を呼び起こしつつも、しかしポピュラー・ジャンルからは完全に逸脱したハーモニカの音色が堪能できる傑作。
NYCラッパーHester Valentineのデビュー作が先鋭ヒップホップ・レーベルWATKK(We Are The Karma Kids)より。ベルギーのプロデューサーOutside Houseによるドラムレスの悪夢系カオス・ビートがかなりキている。ミックス&マスタリングはBilly WoodsのBackwoodz Studiozでの仕事等でいつも大忙しなsteel tipped doveが担当。激推し!
Liz Harris(Grouper)とのユニットVisitorや、モダン・クラシカル・アンビエント・デュオGolden RetrieverとのユニットDreamboatなどで活動、近年ではJefre Cantu-Redesmaとの傑作共演盤『You Can See Your Own Way Out』も素晴らしかった、現Grailsメンバーでもあるパキスタン出身のアーティストIlyas Ahmedの最新ソロ。Grouper『Ruins』やLoren Connorsが好きな方に勧めたいアトモスフィックな荒涼系ギター・アンビエント。
偉大な有色人種のアーティストたちの名を曲名に冠した名盤『Legacy! Legacy!』以来、4年ぶりの新作。ソウル、R&Bに留まらずアコースティックなフォーク・バラードやインディー・ポップ調のアレンジも聴かせているが、シンガーである以前に詩人であったWoodsは本作で随所にスポークン・ワードも散りばめており、新作『Romantic Piano』が評判のGia Margaretをフィーチャーした"I Miss All My Exes"(元カレ全員恋しい)とかホント良いですワ。Turn掲載の塚田桂子さんによるロング・インタビュー「水が元の場所に戻ろうとするように、本来の自分に戻るジャミーラ・ウッズの旅」は、素晴らしいサブ・テキストになっているので是非読むべし。
メルボルンのベッドルーム・ポップ・アーティストの6作目。2015年にOrchid Tapesからリリースされたデビュー作『asdfasdf』を聴いて以来、僕はdeyが作り出す音楽の、エモーションが歪に美しく最大化する瞬間のカタルシスにとらわれている。それは"unkillable"でも、"real love"でも、カナダのノイズ・ポップ・デュオBlack Dressesの片割れDevi McCallionとのコラボレーション作『Magic Fire Brain』でもそうだったのだが、本作は特にそれが過剰で素晴らしい。タイトル曲"never falter hero girl"(現在放送中のアニメ『ひろがるスカイ !プリキュア』にインスパイアされたのだという)はそのピークである。リリースに先立ったStereogumのインタビューで、deyはチープな合成サウンドに対する愛を語りながら「何千ドルも費やさなくても美しいものが作れることを自分自身に証明したい」「本当は高価な機材なんて必要ないってことを皆に示したい」と発言していて大変感銘を受けました。アーティストjemi galeが手掛けたカオスでカラフルなカバーアートも音にベリ・マッチしてます。
デビュー作『Only』はたしかにエクスペリメンタルR&Bという形容も頷ける内容であったが、それ以後のKleinはHip HopやR&Bといったポップ・ミュージックやブラック・カルチャーに彼女なりに目配せしながら、その実はサウンド・コラージュやノイズ、クラシカル・ピアノ、アンビエントによる不明瞭化・抽象化・断片化を行ってきたのであり、90分を超える大作となっている本作でも"DJ drop", "say black power and mean it", "no weapon shall form against me"とトラックのタイトルで我々を惑わし、そして不可解に魅了する。
モントリオールのシンガーソングライターElizabeth Powellによるソロ・プロジェクト。Justin Vernon(Bon Iver)がプロデュースした2008年のデビュー作『Some Are Lakes』以来、ずっとSaddle Creek所属。American Football『LP3』での客演で声を聴いたことがある方も多いだろう。2017年作『Life After Youth』なんかはAlvvays好きにも勧めたいインディー・ロックの好盤である。しかし本作では、ギターよりもむしろ煌びやかなキーボードが推進力になっている。アコースティック・ギターやクラリネットをフィーチャーした穏やかなインスト曲も散りばめられ、全体に静謐な印象。"I want a love I don’t recognize."と繰り返す"Rainbow Protection"は中盤のハイライトで、Powellのボーカルは今まで以上にメロウに響く。
ご存じJenny HvalとHåvard Voldenによるノルウェーの"ダンス・ポップ"デュオLost Girlsの通算3作目。このプロジェクトといえば、これまで10分を超えるプログレッシブなアヴァン・ポップが特徴的であったのだが、本作は3~4分台の通常のポップ・ソングのフォーマットに沿った楽曲が多くを占めている。ポストパンク的なギターリフが印象的な先行シングル"Ruins"や、これもインディー・ロックじみたギターの音がリピートされる"June 1996"など、これまでになくキャッチーなアレンジを聴かせる楽曲と、"World on Fire", "Jeg Slutter Meg Selv", あくまでも10分を超えない"Sea White"といった従来のLost Girls的なヒプノティックでフリーフォームなスロー・トランスを行き来しながら、Hvalは伸びやかに歌い続ける。
昨年Father/Daughterからリリースした1st『Hyaline』、そしてRachika Nayarの傑作『Heaven Come Crashing』への客演で強い印象を残したUSオークランドのシンガーソングライターMaria BCのSacred Bones移籍1作目。Cocteau TwinsやGrouperからの影響は本人も認めているところだが、Nayarとの共同作業は本作に強いインスピレーションを与えたのだといい、例えばそれはシンセの導入や“Lacuna”におけるグリッチーなエフェクト等から見てとれる。単なるアンビエント・フォークとは一線を画する、不気味でいて美しいボーカル・アルバムだ。
昨年のPANデビュー作『Pripyat』が評判を呼んだバルセロナの"エレクトロニック"・アーティストMarina Herlopの通算4作目。2019年夏に制作した前作がリリースに至るまでの約2年の空白期間に作られた楽曲が収められている。元々彼女は幼少期にピアノを少し習い、大学でジャーナリズムを学んだあとで音楽院に進学、そこで改めて3年間音楽に没頭したというクラシックのピアニストであり、2016年のデビュー作『Nanook』は純ピアノ&ヴォーカル作品であった。2018年の『Babasha』においてシンセの導入を試みた際にDAWソフトAbleton Liveを触り始め、『Pripyat』の制作にあたってDTMを猛勉強したのだという。そういうわけで本作も、前作の延長上にある。Herlopによれば、前作と比べて「より要素を少なく」「構造をより良くしようと努めた」と言うが、そう聞くと確かに形式はシャープに、メロディーはキャッチーになり、アヴァン・ポップとしての完成度は増しているように感じられる。そしてカタルーニャ語の歌詞はまるで異世界の言葉のように響いている。
俺たちのパンク・ゴッドSuicideのキーボーディストMartin Revが残したカセット・デモ音源がドイツの再発レーベルBureau Bから登場。時代がSuicideに追いついて久しい今現在、故Alan Vegaのカリスマティックなパフォーマンスの背後にRevがいたことを決して忘れてはならないと思わせる素晴らしいアーカイブ・コレクションだ。同時に皆さんには、彼が初めて本格的にヴォーカルに取り組んだ1996年のソロ4th『See me Ridin'』が傑作であることもお伝えしておきたいと思います。
7月編でアルバム『For Sure』を紹介したっけか?シンガポールのラッパー/ビートメーカー/写真家Mary Sueの最新作はロンドンのプロデューサーpsychedelic ensemble.とのタッグ。二人は元々全く面識がなく、制作のプロセスもほとんどテキストによるやりとりで行われ、アルバムが完成に近づくまで直接話したこともなかったというから驚きだ。psychedelic ensembleが語るには、Sueが送って来る詞は「落書きだらけのノート」のようであり、その混沌は、飯村隆彦『あいうえおん六面相』やエド・エムシュウィラー『Crossings and Meetings』といった自身の好む短編の実験映画を思わせるもので、そうした連想が本作の奇怪なプロダクションのアイデアの基になったのだという。リリースに合わせて公開されたSue制作のMVもアンダーグランド・シネマ感あって良い。
ANGEL-HOを通じてChino Amobiが主催したNONのコンピレーション『NON Worldwide Compilation』にYves TumorやNkisiと共に参加、その後Halcyon VeilやHyperdubからアルバムをリリースしてきたフィラデルフィア出身のアンダーグラウンドR&BシンガーMhysaの最新作。本作もこれまでと同様、Mhysaと共にパフォーマンス・デュオSCRAAATCHで活動するlawd knowsがバックアップ。"Chelsea Gurls", "YONCÉ"(もちろんビヨンセへのトリビュートだ)といったラップ曲や、存分に生のボーカルを聴かせる"All Night"など、サウス系のビートを主体に、これまでで最もストレートにHIP HOP/R&Bにアプローチしている。
Wiki, The Alchemistとの『Faith Is A Rock』リリースから3週間で届いたソロ作。活動初期とは比べ物にならない声の力強さはもちろん、dj blackpowerとしてのビートメイキングがマジで最高。ネオソウル・シンガーLiv.eとサウス・ロンドンのサックス奏者/プロデューサーVennaが参加し、初めて生演奏を取り入れた"U think Maybe?"は間違いなくベスト・トラックのひとつ。その他にも、インディー・ロック・バンドCrumbのLila Ramaniによるアンビエントなウィスパー・ボーカルをフィーチャーした非ラップ曲"should be!"や、ロンドンのシンガーソングライターmark william lewisが参加するクローザー"Let's Have a Ball"、 アルケミストがバックアップした傑作『The Great Escape』も記憶に新しいLarry Juneとの"Golden Hour"など、バラエティに富んだ意外性のあるキャスティングも楽しい。本作のフィジカル盤にボーナス・ディスクとして付属しているdj blackpower名義の『Dr. Grabba』もリリースされているが、こちらは完全にクラブ対応のエレクトロニック作品で驚き。Tisakorean "Backseat"のドラムンベースREMIXとかめっちゃいい。
シカゴのジャズ・ドラマーMike Reedのリーダー作はWe JazzとAstral Spiritの共同リリース。彼が集めた演奏メンバーは、Joshua Abrams率いるNatural Information Societyのコルネット奏者Ben LaMar Gay、ポエトリー・ファンク・バンドD-Settlementを従えてミュージシャンとしても活動する1959年生まれのアフリカ系詩人Marvin Tate、そしてエクスペリメンタル・ロック・トリオBitchin Bajasのメンバー3名という地元シカゴのアーティスト計5人。Tateのスポークン・ワードが強烈な印象を与える、コズミック・ポエトリー・ジャズ・フュージョンの傑作だ。「分離主義者の集い」という一見シニカルなタイトルがつけられた本作は、2015年にニューヨーク・タイムスに掲載されたニュース・エッセイ“The Lonely Death of George Bell”(ニューヨークのアパートの散らかった一室で、腐臭が漂うまで誰にも気づかれないまま亡くなっていた72歳の独居男性についての記事)のサウンドトラックとして構想され、孤独をテーマにした三部作の一作目に位置付けられている。
昨年bud tapesからデビュー・アルバム『And I Wait』をリリースしたピッツバーグのSSW、Mila Moonの2ndがボストンのCandlepin Recordsから。Fog Lakeやwaveform*のことが好きなそこのアンタにオススメしたいスロウコア風味のベッドルーム・ローファイ。
そんなアタシが最近注目しているメルボルンのアンビエント・レーベルDaisartの最新リリースは、2002年から2011年まで活動していたインディー・ポップ・バンドThe Motifsのコンピレーション。全然知らないバンドだったけど、ネオアコや初期Dear Noraが好きでたまらないそこのアンタには是非とも聴いてほしいスモールなTwee Popで素晴らしい。マスタリングは何故かRecital主宰Sean McCannが担当。
Nídia - 95 MINDJERES
8月編でアルバム『DJs Di Guetto』を紹介したリスボンの先鋭ダンス・レーベルPríncipeの看板アーティストNídiaの3作目。タイトルの"95 MINDJERES"は彼女のルーツであるギニアビサウのクレオール語で「95人の女性」を意味する。本作はポルトガルの植民地であったギニアビサウで1960~70年代にかけて独立のために戦った政治・軍事組織ギニア・カーボベルデ独立アフリカ党(通称PAIGC)の95人の女性闘士への賛歌である。西アフリカ由来のユニークなリズムと反復するシンセのメロディーが織り成す削ぎ落されたグルーヴが絶品。
何きっかけで知ったのかまるで思い出せないのだが、テネシー州マーフリーズボロで活動するアーティストFrank Baughによるソロ・プロジェクト。2008年頃からSparkling Wide Pressure名義で長らく活動していたようだが、2021年から新たにNight Sky Bodyを名乗っている。基本はディストーションの効いたシューゲ調のギター・エクスペリメンタルだが、中にはMark Kozelekっぽいアシッド・フォークなヴォーカル曲も。昼寝してて良い夢見て目覚めたらこのアルバムが流れていたことがあったので一応選出。
Mr. Kingなる謎の人物が制作するポッドキャスト“Northwoods Sleep Baseball”がUKレーベルWorried Songsよりアルバムとしてリリース。この番組は“ウソ”の野球試合を、試合開始から終了まで約2時間、野球解説者Wally McCarthy氏(もちろん架空の人物)がラジオ実況風にお送りする“baseball radio ASMR”であり、明確に入眠用として構想されている。先月取り上げたAki Onda『Transmissions From The Radio Midnight』でもラジオと眠りの関係について考えさせられたが、イマジネーションだけででっち上げられた本作もその意識を共有している。そのデタラメぶりは、Bandcampページに転載されているニューヨーカーの記事でも名前が挙げられているフィリップ・ロスの傑作小説『素晴らしいアメリカ野球』を思い出さずにはいられない(1回の表、先発ピッチャーはヒロキ・ノモ)。合間に挟まれるウソ・ラジオCMも粋。眠れない夜にどうぞ。
ペルー首都リマ在住のアンビエント作家ojeras de damita(自称"just a girl who loves memories")が2020年に自主リリースしていたデビュー作がウクライナ・キーウのヴェイパーウェイヴ・レーベルNaughty Nightからカセット再発。1曲目を一瞬でも聴けばわかってしまうことだが、本作およびその後の彼女の作品はLeyland Kirby a.k.a. The Caretakerが作り上げた記憶喪失の音楽から直接的にインスパイアされている。なぜチリなのか。それは、かつて『Memories Overlooked: A Tribute to The Caretaker』という長大なトリビュート・アルバムをリリースしたヴェイパー・テープ・レーベルNO PROBLEMA TAPESの存在が大きいと思われるが、これは憶測の域を出ない。ちなみにNO PROBLEMAも本作のカセットを11月に限定リリースしている。
ポートランドの素晴らしいアンビエント・レーベルMoon Glyphを運営するSteve Rosboroughのソロ・プロジェクトOmni Gardensの最新作。虫の声や鳥のさえずり、波の音、あるいは“Plant Shop”における人の会話・物音などといったフィールド・レコーディングも印象的な安らぎのシンセ・アンビエント/ニューエイジ。もちろん傑作。
R.A.P. Ferreira率いるRuby Yachtに所属するマサチューセッツのノンバイナリー・ラッパーと、名ビートメーカーKenny Segalのコラボ作。Pink NavelことDevin Baileyは、高校時代にはエモ・バンドHandwritingのボーカルを担当するバンドマンだったが、Ferreiraとの出会い、そしてYouTubeからの影響によってヒップホップMCに転身。現在26歳のBaileyがその鼻にかかった甲高い声でラップするのは、アニメ、ゲーム、ミーム、YouTuberといったオンライン・オタク・カルチャーについてである。「遊び心の捉え方」と題された本作では、ひたすらゲームについて歌っている。例えば、"Present Vendor"では『ゼルダの伝説』に出てくる行商人テリーについて延々とラップ。Segalも、billy woodsとの『Maps』のそれとは趣向を変え、まさに遊び心のある楽しげなビートを提供。グッド・バイブスなコラボレーションだ。
ジョージア州のトランス・ラッパーquinnの最新ミックステープ。前作はイントロとアウトロに吉田美奈子をサンプリングしていたが、今回ブックエンドとして引用されているのはAir Supply "All Out of Love"。その他にもMercury Rev "Holes", Sade "Lovers Rock", Soccer Mummy "Cool"など、時代やジャンルを問わないネタのセレクト。
Kristin Hayterがかつての名前Lingua Ignotaを捨て去ると発表したのは昨年11月。カトリックの家庭に育った彼女のルーツであるゴスペルとエクストリーム・メタル、ゴス・インダストリアルを融合させたジャンル超越的なLingua Ignotaというプロジェクトは、ドメスティック・バイオレンスのサバイバーであることを公にするHayter自身が晒されてきた暴力やミソジニーに対する復讐のプロジェクトであった。前作にあたる『SINNER GET READY』リリース後の2021年12月、Hayterはノイズ・ロック・バンドDaughtersのフロントマンで元パートナーのAlexis Marshallから受けた精神的・性的虐待行為を告発し(Marshallは行為を否定したが、レーベルSargent Houseはこの男との契約を解除した)、アルバムがMarshallとの関係に基づくものだとも示唆した(「罪人よ、準備せよ!」)。HayterはLingua Ignotaにおいて、こうした過去のトラウマと向き合い続けることに限界を感じ、「健康で幸せな生活」を求めてこのプロジェクトを終わらせた。一時期は無神論者であったというHayterの音楽はこれまでも宗教的モチーフに満ちており、Lingua Ignotaの場合それは痛みや怒りに根差したものだったが、自らを「牧師」と称した新しい名義Reverend Kristin Michael Hayterにおいて、彼女は癒しに向けて再び神との関係を見出だそうと葛藤し、神を信じることがなぜ救いになりうるのかを探求する。本作に収録された楽曲の半分は既存の讃美歌やフォーク・ソング、ブルースであり、ピアノやギターを用いたシンプルなアレンジで歌われる。そして本作の中心にあるのはその歌声だ。アルバム最後の曲“How Can I Keep From Singing”における彼女の歌唱は特に強烈で、ダニエル・ジョンストンの“Careless Soul”も思い出されるが、バックで囁かれる理解不能なグロソラリア=異言がゴーストのように蠢き続けている。彼女と共同プロデューサーのSeth Manchesterは、曲をテープに録り、そのテープを物理的に傷付けることで古い録音物の質感を再現した。Hayterはインタビューで、「この作品の一部は狂気とエンライトメントの間に関わっており」、「正気ではなかったかもしれない」けれど、Lingua Ignotaを終えることで「多くのことを変えることができ、幸せになれた」と語っている。トラウマからの脱却と癒しのプロセスが生々しく記録された傑作。
Saint Abdullah & Eomac - Chasing Stateless
ジャズ・ドラマーJason Nazaryとのコラボレーション作『Evicted In The Morning』を2月編で紹介したイラン出身ブルックリン在住の兄弟デュオSaint Abdullahが、昨年Nicolas Jarr主催のOther Peopleからリリースした『Patience Of A Traitor』、7月のEP『A Vow Not To Read』に続いてアイルランドのプロデューサーEomacとタッグを組みPlanet Muから新作を発表。今回も中東的メロディー/パーカッションのサンプリングは随所に散りばめられているが、これまでの作品に見られたIDM/Downtempoっぽいアプローチがアグレッシブなインダストリアル・ビートに拡張されており、個人的には最高点をたたき出している。そんな中でこそピアノの優しいメロディーが印象的なIDM調の"Sunday Painter"のような楽曲が強い印象を与えたりする。
旧ソ連に生まれ、アメリカで育ち、現在はベルリンを拠点に活動する電子音楽家Andrew Peklerが新たにSG名義でJan Jelinekが主催するFaiticheからリリースした新作。普段のPeklerとは異なる、エレキ・ギターによる美しいミニマル・アンビエント。“Rain Suite”と題されたSide Bでは、雨のフィールド・レコーディングを活かして物憂げなムードを引き立てる。本作のマスタリングをしているイタリアの実験音楽家Giuseppe Ielasiも今年Black Truffleから即興ギターアンビエント作『Down On Darkened Meetings』を発表したが(本ブログ4月編で紹介)、そんなPeklerとIelasiが共演する2013年作『Holiday for Sampler』が7月に配信リリースされたので、そちらも聴いてくれ!
The Shadow Ring - City Lights/Put the Music In Its Coffin
Blank Formsで長らく予告されていた伝説のエクスペリメンタル・バンドThe Shadow Ringのカタログ復刻がついに始動。この恐れ知らずなDIYバンドの前身であるThe Cat & Bells Clubのリイシューについても6月編で取り上げたが、この初期2作品もまた楽器の演奏経験のない2人のアマチュア・"アーティスト"による実験のプロセスであり、10年という活動期間の間に変化を遂げていくThe Shadow Ringの第一期にあたる"フォーク"期のすべてである(その変化を感じるには以前も紹介したと思うが『Life Review (1993-2003)』が有用である)。今後も数年をかけてLP再発、キャリアを包括するCDボックス、500ページを超える書籍等のプロジェクトが進行中だという。コンプ目指して頑張ろう。
NYからLAに移住したJasper Marsalis a.k.a. Slauson Malone改めSlauson Malone 1が本人たっての希望で名門Warpと契約し、最新アルバムをリリース。ジャズ&ヒップホップ・コレクティブStanding On The Cornerの一員として、あるいはMedhaneをはじめとする周辺のラッパーにビートを提供するプロデューサーとしてミュージシャンのキャリアをスタートさせたMarsalisは、グループ脱退以降そのスタイルをメキメキと進化させ、ジャンルや形式に囚われない異端の作曲家、マルチ・インストゥルメンタリスト、ボーカリストへと変貌した(同時に歴としたファイン・アーティストでもある)。完成に5年を費やしたという本作ではアヴァン・フォーク、サウンド・コラージュ、アンビエント、インディ・ポップ、ジャズ、ダブといった数多のジャンルを横断する一口に形容しがたいアブストラクトな音を作り上げているが、その着想のヒントになりそうなのは、2019年にClash Magazineの企画で彼が制作したSunday Mixだろう。本作の中盤における唐突なJoe Meek “I Hear a New World”カバーに驚かされたリスナーも多いだろうが、原曲はSunday Mixにセレクトされている。他にもJ Dilla, Arthur Russell, The Upsetters, Weldon Irvine, Melvin Van Peebles、そして実の父親であるWynton Marsalisといった伝説的アーティストから、Yves Tumor, Klein, Quasimoto(Madlib), Death Grips, Micachuといった現行アーティストまでが幅広く選ばれている。プレスやインタビューで明かされているように、キューブリック映画における仕事で有名な初期電子音楽家でありトランスジェンダーの第一人者でもあるウェンディ・カルロスからは、音楽以外の面においても影響を認めている。ラテン語で「更に高く」という意味を持つという“EXCELSIOR”という言葉は、彼が10年以上暮らしたニューヨーク州の標語でもあり、変化し続けるMarsalisの在り方にふさわしい。が、元々のタイトルは“Decades of A New World, Notes on Erasure"(新世界の数十年、抹消に関する覚書)であったという。この覚書/メモ書きというニュアンスは、たしかにこれまでの彼の音楽にもふさわしい。
現代アメリカを代表する実験音楽家William Basinskiと、彼のスタジオ・アシスタントでもある電子音楽家Preston Wendel a.k.a. Shania Taintによるエレクトロニック・ラウンジ・ジャズ・ファンク・ユニットSparkle Divisionの2nd。今回から三人目のメンバーとして80年代からサウンド・エンジニアとして活躍し、Discogsによれば安室奈美恵や華原朋美のリミックス仕事なんかもしているGary Thomas Wrightも参加。60年代後半のハリウッドで開かれたサイケデリック・パーティーをテーマにしたコンセプト・アルバムだという本作。映画音楽やライブラリー・ミュージックを思わせるイージー・リスニングあり、電子ドローンを背景にBasinskiがサックスを吹き鳴らすアンビエント・ジャズあり、ドラムン・ベースあり。Basinkiの本分であるテープ・ループ作品ももちろん好きだが、僕はSparkle Divisionも相当に好きである。前作『To Feel Embraced』も傑作なので聴いてくれ!
ルイジアナ州のポストパンク・デュオ。前作『Spllit Sides』に続いてLPはシンシナティの素晴らしいパンク・レーベルFeel Itからリリース。1年半にわたるホーム・レコーディングの末に完成したという本作は、切れのあるギターリフとタイトなリズムで引っ張るポストパンク・グルーヴに則りつつ、不協和音やペースチェンジで捻りを利かせたフリーフォームのアイデアが詰め込まれている。個人的にはシド・バレットがいた頃のピンク・フロイドをも彷彿とさせる。
Thinking Fellers Union Local 282 - These Things Remain Unassigned (singles, compilation tracks, rarities & unreleased recordings)
90s USインディー界屈指のLo-fiカルト・バンドThinking Fellers Union Local 282のシングル、コンピ収録曲、未発表曲をコンパイルした取って置きのレアトラック集。昨年、最高傑作との呼び声も高い94年作『Strangers From The Universe』及び93年の10インチEP『Admonishing The Bishops』を復刻したTFUL282のカタログ再発のために設立されたポートランドのレーベルBulbous Monocleから!1986年にサンフランシスコで結成され、自主制作のLP2枚をリリースしたあと名門Matadorと契約し、そこそこの評価を得、そこそこの人気を博し、一部に信奉者を生み出した(95年にはこの年代にありがちな日本限定企画盤としてベスト盤『TFUL282』が発売されているが、ライナーノーツを寄せているのがZENI GEVAの田畑満と山本精一である)。その信奉者の代表は、自身がキュレーションするAll Tomorrow's PartiesでTFUL282の再結成を実現させたAnimal Collectiveであり、TFUL282のブートTシャツを作って販売していたRyley Walkerであり、2019年にアルバム『I Am Easy to Find』収録の楽曲"Not In Kansas"の中でTFUL282の名曲"Noble Experiment"を見事にサンプリングしてみせたThe Nationalであろう。余談はこのくらいにして本コンピの内容に話を移そう。ジャンクな香り漂う90年のシングル"2x4s"、レーベル・サンプラーでしか聴くことの出来なかったという陽気で不条理なローファイ・ポップ"Strange Mail"、The Residents - "The Electrocutioner"の素晴らしくチープなカバーと序盤から聴きどころの連続だが、やはり映画好きとしてはモリコーネ・リスペクトを強く感じる"Selection from A Fist Full Of Dollars- Ennio Morricone"を推したい。映画ネタは終盤にもうひとつ、クシシュトフ・コメダが作曲した『ローズマリーの赤ちゃん』のテーマ曲も。中盤以降の悪夢的なノイズ・アレンジにポランスキー・リスペクトを感じる。そして奇跡の姉妹バンドThe Shaggsが残した名曲"Who Are Parents"の厳かなカバーも実に感動的だ。ディスコグラフィーの隙間に散逸したTFUL282のこうした楽曲群を新鮮な気持ちで聴くことができることの喜びを噛み締めよう。
8月編でアルバム『Crazy Trip』を取り上げたカリフォルニアのプロデューサーTomu DJが7曲入のEPをセルフ・リリース。今回はクラブ・トラックではなく浮遊感のあるシンセの音色を基調にしたエレクトロニカ/アンビエントがメイン。レゲトン風ビートが主役の"Planted"や、アコースティック・ギターによるインスト・バラード"Bamboo Garden"等、コンセプチュアルな振れ幅も感じさせる美しい小品です。
WednesdayやIndigo De Souzaといった同郷のアーティストたちとの関わりも深いノース・カロライナの4人組インディー・ロック・バンド。2019年のデビュー作『Not An Exit』以来4年ぶりの2ndがDouble Double Whammyから。DDWがこのように比較的ヘヴィなギター・バンドを迎え入れたのが意外だが、WednesdayのKarly Hartzmanがレーベルに推薦したのだという(ちなみにバンド結成後2度目のショーはDDWの創設者Mike CaridiとDave Bentonが当時組んでいたLVL UPのOAだったそうだ)。ポストパンク~グランジ~スラッカー・ロック~シューゲイザー~ポストロック~スロウコアを咀嚼した90sライクなアレンジに、自身の双極性障害を反映したボーカルTravis Harringtonの歌詞。個人的ベスト・トラック"Clover"でボソッとつぶやかれる"I can show up to my own life, but I don’t have to be present"(自分の人生に顔を出すことはできるけど、立ち会う必要はない)という一節には、Pavementの名曲"Shady Lane"で一番泣きたくなる"You've been chosen as an extra in the movie adaptation of the sequel to your life"(あなたはあなたの人生の続編の映画化脚本のエキストラに選ばれました!)という名ラインを思い出す。
ニューヨーク大学でラ・モンテ・ヤングやマリアン・ザジーラらに現代音楽を学び、RecitalやUnseen Worldsからクラシカルなピアノ作品をリリースした後にヒップ・ホップのプロデューサーに転身した異色の経歴の持ち主MVWことMichael Vincent Wallerと、これまでも彼のビートでラップを披露してきたシカゴのラッパーValeeのジョイント・アルバム。サティやドビュッシーの影響を受けた(???)Wallerのトラップ・ビートとValeeのオリジナルなフロウの相性はもちろん◎。Zelooperz, Tony Shhnow, Pink Siifuらが客演。
ロンドンのレーベルThe state51 Conspiracyからリリースされたインド産電子音楽のアーカイブ音源集。アーメダバードにある国立大学National Institute of Design内に1969年に設立された国内初の電子音楽スタジオでの録音がコンパイルされている。モーグのモジュラー・システムとテープマシンをセットアップしワークショップを開くなど、アメリカの現代音楽家David Tudorがその創設に大きく貢献し、本作に収録されている多くの楽曲の監修もしたとされる。そしてアルバムにはTudorがNIDで録音した作品も含まれている。個人的なフェイバリットはNIDの教員であったS.C. Sharma氏による"Dance Music"と題された曲群だ。キックのような低音が刻むリズムはまるでダブ・テクノの萌芽を聴くようである。当時19歳の学生であったJinraj Joshipura氏による、『2001年宇宙の旅』を参照したと思われる"Space Liner 2001"は、SF的未来の想像力が刻印されたユニークな作品。Sharma氏と同じくNIDの教員であったI.S. Mathur氏の"Once I Played a Tanpura"はインドの弦楽器タンプーラを用いたと思われるエレクトリック・ノイズ・ドローン。Atul Desai氏による"Recordings for Osaka Expo 70"も、タブラと木管楽器のフィールドレコーディングを用いてインド的なるものとモーグ・サウンドの融合を目論んだエッセンシャルなトラックだ。一見なにやらアカデミックな録音物と思われるかもしれないが、実際聴いてみると遊び心に溢れた作品であった。
世界各地のフォーク・ミュージックをアーカイブするロンドンの素晴らしいレーベルDeath Is Not The Endから、1920年代のガーナ南部で発祥したハイライフの一種であるパーム・ワイン・ミュージックのコンピレーションが登場。ツーフィンガー奏法で鳴らされるポルトガル製のギターと地元の打楽器を融合させたポップ・ミュージック。パーム・ワインという陽気なネーミングは、船乗りや湾岸労働者がバーに集まり、ヤシ酒を飲み交わしながら演奏を聴いていたことに由来する。本シリーズはPt. IIIまで予定されている模様。
昨年、謎のオランダ人デュオVOICE ACTORが作り上げた全109曲入り4時間以上に及ぶ長大なアルバム『Sent from my Telephone』は、ベルギーのレーベルSTROOM.tvからリリースされるや一部の音楽オタクの間で大いに話題となった。アンビエント・バラード、プランダーフォニック、トリップ・ホップ、エクスペリメンタルR&B、ローファイ・フォーク、スポークンワード等を束ねて詰め込み、1曲目から109曲目までをタイトルのアルファベット順にそっけなく並べた無遠慮な怪作…(ある者はこれを「iPhone世代のための『69 Love Songs』」だと言った)。そこから抜粋された13曲に新曲3曲を追加してLP1枚に収めたのがこの『Fake Sleep』なのです!全46分!うーん、ちょうどいい(僕はすべてのアルバムは40分以内に、すべての映画は100分以内に収めるべきだと思っているが…)。こうして一貫性を持ってキュレーションされたものを聴くと、HTRKやTirzah, Mica Levi, Joanne Robertson, Dean Blunt等との共鳴が際立ってくる。でも僕はこう言いたい。暇人は『Sent from my Telephone』を聴きなさい!(シャッフルで)
"dark dungeon music"に特化したドイツのアンダーグラウンド・テープ・レーベルEisenfellの最新作。同レーベルからAkabxs, Totengruftなど数々の名義で作品をリリースするGruftiなる人物による新たなプロジェクト。dark dungeon music=dungeon synthについては6月編で取り上げた『Dungeon Rap: The Evolution』で一瞬触れたかもしれないが、ノルウェーのブラック・メタルから派生した、ダーク・アンビエントのニッチなジャンルを指す(dungeon synthがmemphis rapと融合したのがdungeon rapである)。Gruftiが"Rural Ambient Minimalism"(農村地域のアンビエント・ミニマリズム)と称する本作は、「自然の影響を受けた即興の短い習作」と説明されているように、直接的にブラック・メタル的なゴスの世界観が打ち出されているわけではないが、スピっている感はあり、後発のdungeon synthに見られるゲーム・ミュージック的な感触も含んでいる。
というわけで今月は以上!
最近読んだ元気が出る本
・平山亜佐子『問題の女 本荘幽蘭伝』(https://www.heibonsha.co.jp/book/b557934.html)
「肝心の本荘幽蘭本人はといえば、実は何も成していない。何の功績もないのである。(中略)では、何も成していない人の人生は見るに値しないのであろうか。いや、そんなはずはない。何も成していない人の評伝があってもいいではないか。」(あとがきより抜粋)
・ポール・ラファルグ『怠ける権利』