NEW MUSIC TROLL - SEP

では早速スタート!

Adam Badí Donoval - Sometimes Life Is Hard And So We Should Help Each Other
"Tender music"をコンセプトに掲げるスロバキアの素敵アンビエント・レーベルWarm Winters Ltd.を主宰するAdam Badi Donovalが、昨年ロンドンのThe Trilogy Tapesからリリースしたカセット作。今回新たにリマスターされて伊・ボローニャのMaple Death Recordsからヴァイナル・リイシュー。生楽器~歌声~フィールド・レコーディングを組み合わせたアンビエント/ドローン室内楽で素晴らしい。Warm Wintersから作品をリリースしているAdela MedeMartyna Basta, Tomáš Niesnerに加えて、先日CHINABOTから新作を発表したマルチ奏者Jon Davies a.k.a. Kepla等も参加している。昨年のリリース・タイミングで聴き逃していたのが謎!


Aki Onda - Transmissions From The Radio Midnight
長年ニューヨークで活動し、かのマイケル・スノウ(『波長』『中央地帯』etc...)や、『メカスの映画日記』読者にはおなじみのケン・ジェイコブス(『Blonde Cobra』『Little Stabs at Happiness』etc...)、そしてアラン・リクトにローレン・コナーズといったNYアンダーグラウンドの大物たちとも共演しているサウンド・アーティスト恩田晃(現在は水戸市在住)の最新作。2008年から10年間、世界各地を回りながらソニーのカセット・レコーダーに撮りためたラジオ放送音源のハイライト。電波に乗ったどこのものともはっきり知れない言語が、混信や受信障害といった紛れもない"ノイズ"を伴って捕獲されている。「ラジオをザッピングしながら眠ってしまい、夢の中でラジオの音が流れ続けることがよくあった」と恩田氏がプレスリリースに記しているのだが、これはマジでそうなのである。僕も眠りにつくときはラジオかYouTube、言い換えれば"人間が何かを話している声"を流しっぱなしにしていることが多く、微睡みの中に生島ヒロシor森本毅郎の声が侵入してきて目が覚めることが幾度となくあったのだ(TBSラジオリスナーが激しく頷く)。本作で聴かれるのは、日本語話者の僕にとってはほとんど理解不可能な言語であり、意味のない声であり、ノイズと渾然一体となった音である。


Alabaster DePlume - Come With Fierce Grace
英サックス奏者/詩人Alabaster DePlumeの新作は、昨年のアルバム『Gold』制作時に行われた、ロンドン・ジャズ・シーンのハブと言われるトータル・リフレッシュメント・センターにおけるトータル17時間に及ぶ即興セッションから新たに抽出された姉妹篇。DePlume自身を含めたヴォーカルが数多くフィーチャーされていた前作と対照的に、今作はよりパーカッシブなインストゥルメンタルが中心となっているが、その中でもMomoko Gill & MettaShibaが参加したヴォーカル曲"Did You Know"は美しい。


Alan Courtis & David Grubbs - Braintrust Of Fiends And Werewolves
アルゼンチンの実験サイケデリック・バンドReynolsの中心人物で、山本精一、秋山徹次、河端一、Pauline Oliveros等ともコラボレーションしているギタリストAlan Courtisと、Squirrel Bait, Bastro, Gastr del Solでポスト・ハードコア~ポスト・ロック・シーンに偉大な軌跡を残し、現在はアカデミシャンとして大学で教鞭を執る(著書の邦訳としては『レコードは風景をだいなしにする ジョン・ケージと録音物たち』がある)David Grubbsの初共演作が、Ryley Walkerの運営するhusky pants recordsより。ブルックリンのスタジオで行われたギター2本による一晩のインプロ・セッション。


Anjimile - The King
2020年にFather/Daughterからリリースしたデビュー作『Giver Taker』が素晴らしかったシンガーソングライターAnjimileの4AD移籍後初フルレングス。前作と同様、スフィアン・スティーヴンスを愛する彼の歌声とアコースティック・ギターを中心に据えていながら、売れっ子プロデューサーShawn Everett(Alabama Shakes, Big Thief, Perfume Genius, Belle and Sebastian, etc)やSam Gendel、James Krivchenia(Big Thief)といったミュージシャンたちの協力も得、サウンドのスケールは非常に大きく感じられる。前作で歌われていたジェンダー・アイデンティティ、家族との関係、アルコール依存といった黒人トランス・パーソンとしての自身の経験は、本作では明確なプロテストへと接続され、白人警官のジョージ・フロイド殺害事件を受けて作られたという先行シングル"Animal"では、"I heard Bluе Lives Matter From a white liberal, Piece of shit I couldn't stand at all."と直接的に怒りが表明されている。


Armand Hammer - We Buy Diabetic Test Strips
Kenny Segalとのタッグ作『Maps』を5月にリリースしたばかりのBilly WoodsとELUCIDによるMCコンビArmand Hammerの新作。アルバムとしてはThe Alchemistと組んだ『Haram』以来2年半ぶりだ。多彩なプロデューサー陣の中でも全15曲中最も多い4曲を手掛けるJPEG"インスタグラムは現存する最もゴミアプリ"MAFIAの久々のProd.起用は大きなトピックだが、PreservationやEl-Pといった大物たちの非常に"らしい"仕事や、 Shabaka Hutchings(Sons of Kemet, The Comet Is Coming)、Hisham Bharoocha(Black Dice, Kill Alters)といったミュージシャンが参加した生バンドによるビートなど、全体的に見てもAH史上最もコラボレーティブな一作となっている。MF DOOMのラップを冒頭にサンプリングしたSteel Tipped Dove Prod.の"Y'all Can't Stand Right Here", デュオの長年の共同作業者Willie Green Prod.の"Empire BLVD"の2曲に登場するフィメール・ラッパーJunglepussy(去年グッチーズ・フリースクールが配給していた映画『サポート・ザ・ガールズ』に出演しているらしい)を筆頭に、Pink Siifu, Moor Mother, Curly Castroといった客演陣も盤石。最高傑作かも。


The Binary Marketing Show - Dancing With Shadows
6月編で取り上げたcop funeralことJoshua Tabbiaが運営するDIYレーベルAlready Dead Tapesより、00年結成ポートランドのローファイ~エクスペリメンタル・ポップ・デュオThe Binary Marketing Showの最新作。昨年再リリースされていた07年の『Destruction of Your Own Creation』も聴いてみると、なるほどかつてのフリーク・フォーク・ムーブメントの流れを汲んだプロジェクトらしい。本作ではKaitlyn Aurelia Smith的なアンビエント~ニューエイジ・ポップも消化しつつ、ゲストMCを迎えたラップ・ミュージックなんかもやっている。00年代以降のUSインディー史の裏街道をほとんど誰にも知られず行進し続ける、なんとも興味深い存在としてマークしておこう。


Blind Equation - Death Awaits
シカゴのエモーショナル・サイバーグラインド・バンドの新作。サイバーグラインドとは、まあ読んで字のごとくグラインドコアとコンピューター・ミュージックをクロスオーバーさせたサブジャンルで、別名MIDIgrindとも呼ばれるらしい。このBlind Equationはグラインドコア/スクリーモのマナーに、8bitシンセを用いたチップチューン、あるいはHexD~Hyperpopの感性をミックスさせている。HexD(あるいはHex/Surge)に関しては、そのハブとなったインターネット・レーベルDismiss Yourself(6月編でthank godを紹介した際にも軽く触れた)を取り上げたBandcamp Dailyの記事を和訳されている方がいらしたので、そちらを参照されたい。M7"killing me"に参加しているRat Jesuは、Dismiss Yourselfのサブレーベルcareから21年にHexDを代表するアルバム『Emo Girl Ex Machina』をリリースしているアーティストであり、本作とHexDシーンとの関わりを裏付けている。おそらくこれがサイバーグラインドの最先端。


Blod - Ondskans Frö
おなじみスウェーデンはヨーテボリのローファイ・フォーク・プロジェクトBlodの最新セルフ・リリース作品。いつだって素晴らしい。「悪の力がついに人間と自然を掌握した地球最後の日」がテーマだというが、相変わらず非常に牧歌的で素朴である。こんなふうに世界は終わるのか。


Blue Dolphin - Robert's Lafitte
地元で最も古いゲイバーの店名にちなんで命名されたというテキサスのパンク・バンド。本作は、結成の2016年から数年間にリリースされた自主カセットの音源に未発表を追加したアーカイブ盤。かつてSacred Bonesで数枚のアルバムを出していたInstituteのドラマーBarry Elkanickが参加しているのが目を引く(ちなみにInstituteは今月に新しいラインナップで新作『Ragdoll Dance』を発表)。Meat Puppetsを彷彿とさせるカウパンク調のおどけた曲やら、ザクザクドタドタやかましいビザールなポストパンク・チューンやらを収録。しっかり最大瞬間風速かましてふんわりフェードアウトしていく、DIY/アンダーグラウンドの鑑のような短命バンドの記録。


BRORLAB - Working Out In Heaven
ベルギーの3人組エレクトロ・パンク・バンド。新録のEPに1st EPをカップリングしたLa Vida Es Un Musからのデビュー盤。ローテクな打ち込みドラム、歪んだギター、そしてパンキッシュな女声ボーカルで突進する、人を食ったような軽装のDIYパンク。バンドやるならこういうのがやりたい。


Cassandra Miller - Traveller Song / Thanksong
カナダ出身の現代音楽家Cassandra Millerが、独自のプロセスでシチリアに伝わるフォーク・ソング、およびベートーヴェンの弦楽四重奏曲を再演した作品。“Traveller Song”では、まずMillerが原曲を聴きながら、そのメロディーを歌いなぞる。演奏者は、ときに過剰にオーバーダビングされたMillerの不安定な耳コピボーカル音源を基に、伴奏をつけていく。“Thanksong”では、各パートの旋律をMillerがそれぞれにボーカルとして起こし、演奏者はその音源を楽譜代わりに聴きながら、個別に自パートを録音する。慎重に、探り探り模倣された各トラックはミックスされ、それに合わせてソプラノが「できる限りのゆっくり静かに」歌を乗せる。そこには厳格さと躊躇いのあいだの美しい揺らぎが記録されている。ギャヴィン・ブライヤーズがホームレスの歌う讃美歌をオーケストレーションした“Jesus' Blood Never Failed Me Yet”を思い出したり。


Chaz Knapp, Cy Werner, Chaz Prymek - microfolk
マルチ奏者Chaz Knapp、フォーク・デュオMagic Tuber Stringbandの一員Cy Werner、Patrick ShiroishiやM. Sageと共にFuubutsushiとして活動するフィンガースタイルのギタリストChaz Prymek(a.k.a. Lake Mary)の3名によるインプロ・フォーク・アルバム。オクラホマのささやかなフォーク・レーベルScissor Tailより。全体は3部構成になっており、1部はミズーリで行われたKnappとPrymekのセッション、2部はアーカンソーで行われたKnappとWernerのセッション、そして最後はKnappが二人の演奏から作成したテープループにPrymekが追加録音を施した変則的な3人でのセッションとなっている。録音は夏のあいだに山や洞窟などの屋外で、アコースティック楽器によって行われ、自然の環境音も重要な要素になっている。特にセミめちゃ鳴いてる。Scissor TailはかつてBruce Langhorneによるピーター・フォンダ監督作『さすらいのカウボーイ』のサウンドトラックの画期的な再発を手掛けたが(映画自体ももちろん名作である)、本作はそのLanghorneや、あるいは熱心な環境活動家ギタリストDaniel Bachmanの近作も想起させる。本年屈指の傑作です。


CLONING - Squirters
NYCのノイズパンク・バンドWhite SunsのメンバーDana Matthiessenによるソロ・プロジェクト。Hausu MountainのMax Allisonが運営するBlorpus Editionsから。正体不明のテクスチャー系ノイズ・コラージュ。もちろんイヤホン推奨。


Colleen - Le jour et la nuit du réel
フランスのアンビエント・シンガーColleenの最新作。17年の『A flame my love, a frequency』以降、古典的な弦楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバから離れてアンビエント・ポップを届けてきた彼女が、本作では歌も取り除き、これまでのエレクトロニックなアプローチはそのままに元来の完全インストゥルメンタルに回帰。モーグ・シンセと2つのディレイ・エフェクター(Roland RE-201 Space Echo, Moogerfooger Analog Delay)のみで作り上げられた7つの組曲から成る、これまでで最も実験的な作品になっている。


Connie Cunningham and the Creeps - Going, Going, Going Gone - The Rare Recordings of Connie Cunningham and The Creeps, Vol. 1
00年代後半にElvis Perkinsのバンドメンバーとしてキャリアをスタートさせ、以後は自身のバンドDiamond Dovesを結成したり、Kevin MorbyWaxahatcheeの作品にパーカッションとして参加したり、知らず知らずにそのプレイを耳にしていたドラマー/エンジニアのNick Kinseyによるソロ・プロジェクト。Connie Cunninghamというペルソナを作り上げて奏でるのはアナクロなヴィンテージ・ポップ。過剰なリヴァーヴはやはりフィル・スペクターやジョー・ミークを思わせる。


Decuma - feeding the world serpent
3月編でアルバム『let's play pretend!』を紹介したデトロイトの作家/ミュージシャン/アウトロー実存主義者Decumaの新作は、94分にも及ぶ"世界の終わりについてのコンセプト・アルバム"。Decuma自身は本作を"アルバムのふりをした映画"と位置付ける。たしかに映画音楽を思わせるクラシカルなオーケストラ・サンプルは随所に取り入れられ、レフト・フィールドなアブストラクト・ヒップホップと奇妙に融合している。Decumaはインスタグラムのポストで本作に影響を与えた10枚のアルバムを公開しており、そこにはDeath Grips, billy woods, Injury Reserve(改めBy Storm), Standing on the Cornerといった現行アンダーグランド・ヒップホップのトップランナーの名や、兼ねてから影響を公言するcoin locker kid、Travis ScottやBjörkといったビッグ・ネーム、さらにはblack midiやXiu Xiuといった実験的なロック・バンドの名前が連ねられている。カバーアートやCDのラベル面に描かれるウロボロスは円環の象徴であり、本作においてそれは絶滅と来るべき新たな文明を示唆しているわけだが、ナンシー・フレイザーが著書『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(原題:Cannnibal Capitalism=共喰い資本主義)において、資本主義を自らを食らう怪物ウロボロスに喩えたことも思い出される。リリックにそのウロボロスが登場するM15"faux ubermensch, in a sea of dead soldiers."は、Travis Scottよろしくビート・スイッチを繰り返す変則的な大曲となっている。そのラストヴァースでDecumaはマシンガンのようなフロウでこう歌う(翻訳:DeepL翻訳)。
"The truth is, despair is easy
(本当は、絶望は簡単だ)
Drown so you don’t have to fight to breathe
(溺れれば息をするのも苦にならない)
But you had that choice too, why couldn’t you pick me?
(あなたにもその選択はできたのに、なぜ私を選べなかったの?)
And so I yell to the breeze, remember me when I leave, please yearn in my absence, tell my story to the trees
(だから私は風に叫ぶ、私が去ったら私を思い出して、私の不在を悼んでください、私の物語を木々に伝えてください)
And let the trees tell that story down to the soil, and the soil to the bees"
(そして木々にはその物語を土に伝えさせ、土は蜜蜂に伝えるのだ)
ここで円環のイメージの中に、死と再生を媒介する声という物語が立ち上がる。アルバムのラストを飾るスポークンワードの楽曲"THE WORLD SERPENT"の締めくくりはこうだ。
we are going to tell them what we were told before we died.
“I love you. I love you.
Now, before, and forever, I love you."
壮大なスケールをぶち上げる本作は、最終的には、自分自身を大きな物語の一部に組み込むことで死の恐怖を克服しようとする試みであったように思われるのだった。


Deeper - Careful
こういう「5点満点で3.5点!」みたいなかんじのポストパンク・リバイバル系のバンドはたしかに巷にゴロゴロ存在していそうだし、僕自身も「うん、まあ好きだけど、そういうの、もういいっす」てなかんじなのだが、このシカゴの4人組Deeperは、僕の心のやらかい場所を震えさせる。オリジナル・ギタリストMike Clawsonの脱退と死が影を落としていた前作『Auto-Pain』よりも、更に衒いがなくて、ポジティブで、全てが好ましい。オープナー"Build a Bridge"でボーカリストNic Gohlはこう歌う。"Ominous music, no, it won’t let you down. It’s the right kind of rhythm!" なんか00年代初めのダンス・パンク(死語)みたいだな。


Eartheater - Powders
2015年、Hausu Mountainから2枚のレコード『Metalepsis』『RIP Chrysalis』でソロ・デビューしたEartheaterを、当時存在した依然として何にも代えがたい先鋭カルチャー・レビュー・サイトTiny Mix Tapesで知った僕は、特異なダーク・フォーク・シンガーとしての彼女と、実験的なエレクトロニック・アーティストとしての彼女との狭間に取り残された。18年のPANデビュー作『IRISIRI』(ele-kingの年間チャートで1位に選ばれた)は、その苦心をさらに深める内容であった。しかし、19年に外部のプロデューサーを招いて制作されたミックステープ『Trinity』と翌年の『Phoenix: Flames Are Dew Upon My Skin』において、彼女のスタンスは明確に歌モノへと移行していったのであり、そして本作『Powders』(計画されている二部作の一枚目となる)で、ついにEartheaterはアヴァン・ポップ・シンガーとして調和を生み出してしまった。なので、今までのアルバムで一番好きです。


Everyone Asked About You - Paper Airplanes, Paper Hearts
5月編で唯一のフル・レングス『Let's Be Enemies』を取り上げた男女混声90's エモ・バンドEveryone Asked About Youの完全ディスコグラフィーがNumeroから満を持してリリース。うん、最高!


Fog Lake - b-sides (vol 1)
5月編で最新作『midnight society』を取り上げたベッドルーム・ローファイ・ポップ・プロジェクトFog LakeのB-sideコンピレーションが満を持してセルフ・リリース。うん、最高!(構文の使いまわしでお届けしました)


Gabe Nandez - H. T. III
4月編で8曲入りのプロジェクト『Pangea』を取り上げた、一風変わった経歴を持つNYCのMC Gabe 'Nandezの最新作。個人的には本作が現状最高傑作だと確信する。なんでも、彼がメキシコの砂漠で経験したペヨーテによるサイケデリック体験にインスピレーションを受けて作られたアルバムらしい。AJ SuedeやYour Old Droogへのビート提供でおなじみイスラエル出身のArgovが全曲プロデュース。彼が生み出すサンプル・ベースのスイートなビートの功績が大きい。仏語ラップを披露する盟友Ze Nkoma Mpaga Ni Ngokoや、若き天才Chester Watsonの客演も◎。


INSANE URGE - My America
テキサスの新興パンク・レーベルStuccoから昨年デビューしたハードコア・パンク・バンドの最新作。ハードコア史における『My America』といえば、80's ボストン・ハードコアのレジェンドThe Fu'sの反動愛国的な2ndが悪名高く君臨している。本作もかのアメリカ国歌のメロディーで賑やかにスタートするのだが、もちろんそれはデッド・ケネディーズ風のアイロニーだ。全9曲トータル10分20秒、とにかく早い80's パンクのマナー。こういうの久々に聴いたけど、やっぱ良いな。


Irreversible Entanglements - Protect Your Light
Moor MotherことCamae Ayewa擁するフリージャズ・グループIrreversible Entanglementsが名門Impulse!からリリースした最新作。ジャズのレコード盤に触れたことがある中古レコ屋勤務経験者にとって名前だけは馴染み深いRudy Van Gelderのスタジオで録音されたというから、ジャズ作品としてはメイン・ストリーム中のメイン・ストリームということになる。僕がこのポエトリー・リーディング×フリージャズのスタイルに惹かれるのは、ブラック・カルチャーの偉人アミリ・バラカ(a.k.a. リロイ・ジョーンズ)の影響が大きい。ニューヨーク・アート・カルテットと共演した"Black Dada Nihilismus"や、David Murray, Steve McCallを従えたアルバム『New Music - New Poetry』は何度聴いても感動してしまうわけだが、このグループももちろんバラカのジャズ・ポエトリーを念頭に置いている。そしてAyewaはアミリ・バラカの、トニ・モリスンの、マヤ・アンジェロウの仕事を継承する者である。


J Foerster / N Kramer - Habitat II
ベルリン在住のパーカッショニストJoda Foersterとアンビエント作家Niklas Kramerのコラボレーション作品。イタリアの建築家エットレ・ソットサスからインスピレーションを受けた、各曲が想像上の建物の一室を表現するというコンセプトのシリーズ『Habitat』の第二弾である。建築とかデザインとか僕はそういうものに関してまるで無知なので誰か教えてクレメンスなのだが、音楽としては非常にベリグッド・アンビエントです。


Jefre Cantu-Ledesma - Severed Belonging
GrouperことLiz Harrisが発行するZINE『PRESENCE』の第2号発売に合わせて、Jefre Cantu-Ledesmaが特別に制作した約1時間の長尺作品。寝つきが悪い方におすすめの入眠アンビエントである。ZINEはGrouperのBandcampページから購入可能。もしくは5ドルでPDF版もダウンロードできます。


Jeremiah Chiu - In Electric Time
ロサンゼルス在住のシンセ奏者Jeremiah ChiuがInternational Anthemからリリースしたソロ作品。ハイランドパークにあるヴィンテージ・シンセサイザー・ミュージアムで2日間のうちに録音し、もう2日間のうちに編集して完成させたという。作曲はすべて即興で行われている。公開されているMVでは、Chiuが実際に様々な機材を操りながら作曲していくプロセスが垣間見えるが、なるほどツマミをいじったり、ケーブルを差したり抜いたり、鍵盤を押したり離したりして音を鳴らしているんだなということがわかる。リズムトラックだけで構成された"Rhythm Serge"がお気に入り。


Kath Bloom - Finally (2023 Edition)
米フォークシンガーKath Bloomの2005年に発売された編集盤『Finally』がリイシュー。活動初期のLoren Connorsとのデュオ作品はもちろん一生の宝物だが、なんつってもリチャード・リンクレイター監督作『ビフォア・サンライズ』において、代表曲"Come Here"が流れるシーンのことを語らねばならない。そのシーンにおいてジュリー・デルピーとイーサン・ホークがやってのけている外眼筋と表情筋と首の筋肉を使った演技は、ほとんど麻薬的と言ってもいい魅力を放っている(まあこの映画は基本的に全編ヤバいと思うが)。と同時に、音楽が人間の感情に訴えかけるパワーを強烈に証明するシーンでもあるのだ。今回の再発アートワークは、映画に登場した架空のレコードジャケットを再現したものであり、『ビフォア・サンライズ』マニアの皆さんにとっても重要なコレクター・アイテムとなるだろう。新たに追加された1987年のデモ音源は、"I Was Wondering", "Give It Slow", "Window"といったBloomの往年の名曲のバンド・アレンジとなっていて、これも聴き逃せない。


Kris Gruda - Kris Gruda Plays for You
Bill OrcuttのレーベルPalilalia Recordsより、ノース・カロライナ州在住の前衛ギタリストKris Grudaによる一風変わったレコードが突如登場。本作に収録されているのは2020~21年、ロックダウン中にGrudaが勤め先の工場のシフト休憩中に車の中で録音した音源である。さらに言えば、彼がInstagram(@krisgruda)に投稿した動画のレコード化である。アコースティック・ギターによる短い即興演奏をはじめとして、ジョン・コルトレーンやオーネット・コールマン、セロニアス・モンク、サン・ラーのギター・カバー、単なるVlog的な話し声(「大統領を落選させよう!」)、ボイス・パーカッション、カーラジオから流れる宣教師の説教、通り過ぎるサイレンの音など、狭い車内からインターネットの海へ放たれた動画から抽出された音声データを基にして本作は作られている。このユニークな試みは、レコード産業そのものに対するアンチテーゼなのか、あるいはSNS社会に対するおちょくりなのか、まったく奇妙な作品である。


Lewsberg - Out And About
オランダ・ロッテルダムの4人組。ProtomartyrのボーカリストJon Caseyが最近のお気に入りバンドとして挙げていたので聴いてみた。うむ、ヴェルヴェッツ~ジョナサン・リッチマン~フィーリーズ~ギャラクシー500の系譜!そこにK RecordsやOZインディー(君はTwerpsを覚えているか?)のTweeな感覚がまぶされたドリーミー&アンニュイ系ポストパンクでセンスありすぎる。フィーリーズで思い出したけど、フィーリーズのベーシストBrenda Sauterが90年代に組んでいたWild Carnationってバンドのアルバム『Tricycle』が今年になって再発されていて初めて聴いたんだが、すごいよかったよ!Yung Wu, The Trypes, Speed the Plough, Wake Ooloo等、ニュージャージーに広がるフィーリーズ・ユニバースのバンド群は当たり前だけど全部最高です。ちなみにフィーリーズのヴェルヴェッツ・カバー・ライブ盤『Some Kinda Love』も先日リリースされたばかり!当然最高!以上、フィーリーズ情報をお伝えしました。


Loraine James - Gentle Confrontation
北ロンドンのIDMプロデューサーLoraine Jamesの新作。Whatever The Weather名義でのアンビエント・アルバム、Julius Eastmanへのトリビュート『Building Something Beautiful For Me』という2つのプロジェクトを経た本作で、Jamesはその柔らかなアンビエンスと本文とも言えるギザついたビートを自在に織り交ぜながら内省に沈んでいく。1曲目のタイトル曲とそれに続くリード・シングル"2003"で披露されるJamesの歌声が、これがオープンかつパーソナルな作品であることをすでに仄めかす。”Glitch The System (Glitch Bitch 2)”は、2019年のHyperdubデビュー作『For You And I』で鮮烈なオープニングを飾った"Glitch Bitch"の続編と位置付けられているが、ここでもJamesのボーカルは以前よりずっと鮮明だ。Clashのインタビューで「時間が経つにつれて、エレクトロニック・ミュージックが冷たく無感情であるというような考えを捨ててきた」と語っていたように、Jamesの音楽はますます感情的になっている。もはや自分の声を隠さないのも、アルバムのアートワークに自身のセルフ・ポートレートを使用しているのも、そういった考えに基づいているのだろう。同時に、本作には多彩なゲスト・ミュージシャンも参加している。アメリカのアンダーグランド・ヒップホップ・シーンとも関わりの深いインディーR&BシンガーkeiyaA、アリゾナのラップ・グループInjury Reserve改めBy StormのMCであるRiTchie、"I DM U"で凄まじいドラミングを聴かせるのはblack midiのドラマーMorgan Simpsonだ。さらにPANからリリースしたアルバム『Pripyat』が評判を呼んだスペインのMarina Herlop、Vegyn主宰PLZ Make It RuinsからデビューしたシンガーGeorge Rileyなど。米国サウス・カロライナのネオソウル・シンガーContourは、ラストを飾るIDMバラード"Saying Goodbye"で、本作に素晴らしい余韻を残している。というわけで傑作です。


Madison Greenstone - Resonance Studies in Ecstatic Consciousness
NYCの現代音楽アンサンブルTakに所属するクラリネット奏者がRelative Pitchからリリースした初ソロ作品。Bbクラリネット一本による人力吹奏ドローン。というか、クラリネットで複数の音階を同時に出せることも知らなかった(重音奏法というらしい)。重音のパターンを様々に実験する全11曲すべてが刺激的。「息継ぎいつしてるんだ?」とも思ったが、口内に溜めた息を吐き出しながら鼻から空気を入れることによって無限に音を出し続けるテクニックを循環呼吸というらしい(クラリネットYouTuberの動画を観た)。シンプルに超絶。


Maria Elena Silva - Dulce
シカゴのシンガーソングライターMaria Elena Silvaの2nd作。注目すべきは、参加したスタジオ・ミュージシャンの面子だ。ギターのマーク・リボーとパーカッションのスティーヴン・ホッジス、この二人と言えば!それは!そう!トム・ウェイツの1985年の大名盤『レイン・ドッグ』に参加していた二人である!なんと今回がその時以来の共演なのだという。プロデュース及びミックスを担当したのは、Sufjan SteavensのレーベルAsthmatic KittyからPsychic Temple(昨年リリースしたイーノ『Music For Airports』の再演アルバムも忘れ難い)としてリリースを重ねてきたギタリストChris Schlarb。Jeff Parkerとも関わりが深いようで、同様にSchlarbが手掛けたSilvaの前作『Eros』には彼も参加している。これらの偉大なミュージシャンを、ときに抑制的にときに熱っぽく従えるSilvaの歌(英語とスペイン語を使い分けている)も素晴らしい。主要メディアであまり取り上げられてないが、アート・ポップの傑作だ。


Maxo - Debbie's Son
2月の『Even God Has a Sense of Humor』から7か月のスパンで届いた新作。大手Def Jamとの契約を解消し、個人レーベルSMILEFORMEからのリリースとなっている。本作についてMaxoはステートメントで、「自身の最も純粋な姿に戻ろうとする試み」であると述べ、ジャジー&アブストラクトなプロダクションはそのままに、シームレスに変化するリズムに乗って自身を明らかにしようとラップする。盟友Lastnamedavid, Roper Williams, The Alchemist, Alexander Spit, Beat Butchaなど多彩なプロデューサーを起用しているが、中でもPink SiifuB. Cool-Aidとしても活動するAwhleeが手掛けた“Boomerang”のビートが最高。

Mike, Wiki & The Alchemist - Faith Is A Rock
昨年、3曲入りEP『One More』で予告された三者のコラボレーションがついに。Larry Juneとの『The Great Escape』、Earl Sweatshirtとの『Voir Dire』と今年もプロデュース・ワークのリリースに事欠かないアルケミストが、クラシックなソウルのサンプル・ループでMIkEとWiki、二人のアンダーグラウンド詩人をバックアップ。両者のマイク・パス、普通に熱い。ベスト・トラックはWikiのヴァースが冴え渡る“Bledsoe”。ボブ・ディランのインタビュー音声サンプリングが"Just with my pen, my presence."という力強いラインと響き合う。


Modern Nature - No Fixed Point In Space
Mazes, Ultimate Paintingといったバンドでインディー・ロック・アクトとして活動してきたJack CooperによるプロジェクトModern Natureの3rd。後期Talk TalkあるいはMark Hollisのソロ、さらにポストSlintの重要バンドThe For Carnationのバイブスを受け継ぎながら、インプロ室内楽的なアプローチも取り入れたポスト・ロック~チェンバー・フォークの傑作。オーストラリアのフリージャズ重鎮The Necksの鍵盤奏者Chris Abrahamsや、長年のコラボレーターでもあるサックス奏者Jeff Tobias、そして伝説的ジャズ・シンガーJulie Tippettsなど強力な参加ミュージシャンにも注目。


Mukqs - Stonewasher
Natalie Chami(a.k.a. TALsounds), Doug KaplanとのユニットGood Willsmithの一員Max Allisonのソロ・プロジェクトMukqsが久々に自身が主催するHausu Mountainに帰還。お得意のグリッチ・アンビエント・ノイズ・コラージュで電子トリップ。オーバーダブなしのシングル・テイクで作り上げられている。


Parish / Potter - On and Off
ジョージア州のエクスペリメンタル・レーベルNULLZØNEより、レーベル主催でThe Electric Natureとしても活動する実験音楽家Michael Potterと前衛ギタリストShane Parishとの即興ドローン/アンビエント作品。エレキ・ギターとアコースティック・ギター、それぞれをフィーチャーした2曲を収録。特にトラディショナルなフォークの旋律とギター・ドローンが融合する"Here and There"が素晴らしい。


Piotr Kurek - Smartwoods
3月にリリースした風変わりなオートチューン実験作『Peach Blossom』が素晴らしかったワルシャワのミュージシャンPiotr Kurekの新作。前作とはガラッと異なり、ハープやクラリネット、フルート、コントラバスといったアコースティック楽器をメインに、Kurekのプログラミングが奇妙なアクセントを加えるモダン・アンビエント・ジャズ・アンサンブル作品。


Pot Valiant - Never Return
90年代のマイナーなインディーロック/パンクを掘り起こすNumeroの素晴らしい仕事はまだまだ続く。今回は90年代にカリフォルニアで活動したオルタナ・バンドPot Valiantの唯一のフル・アルバム『Transaudio』に、シングルやコンピ収録曲を追加収録した完全ディスコグラフィー。エモ~スロウコア~シューゲイズをカバーしながらラウド&クワイエットを操るスタイルは、個人的には同時代のポスト・ハードコア・バンドSeamと非常に近いものを感じる。前身バンドVagrantsの楽曲も収録。


Raphael Rogiński - Tal​à​n
ポーランドのギタリストRaphael Rogińskiが地元の独立レーベルInstant Classicから発売したソロ・アルバム。プリミティブな米国ブルースや実験音楽、ジャズ、ユダヤの伝統音楽などをルーツに、これまでバッハジョン・コルトレーン、アフリカ音楽を独自解釈した作品をリリースしてきた彼が今回インスピレーションの源泉としたのは、ヨーロッパとアジアをつなぐ内陸海である黒海なのだという。ギター1本で奏でられる霊的ブルースからは、Rogińskiの指使いが間近に聴こえるような臨場感が伝わってくる。



Real Bad Man x Blu  - Bad News
Boldy JamesPink Siifu, Kool Keithとのコラボレーションなど音楽活動も活発なデザイナーAdam Weissman(元Stussyディレクター)率いるLAのプロダクション・コレクティブReal Bad Man。今回のお相手はExileとのデュオBlu & Exileでおなじみのベテラン・ラッパーBlu!クラシカルな西海岸ブーン・バップ全8曲。


Renret - Nothing Will Endure
ペンシルベニアの実験レーベルNo Rentより、ミシガンのアンビエント/ノイズ作家Renretのデビュー作。不穏なボイス・サンプルに始まり、時折不協和音に揺らめくニューエイジ調のシンセのレイヤー・ドローンに、加工ボーカルの乱暴なハーシュ・ノイズが突然乱入する"Heat Rising From The Pavement Which Shattered My Adolescence"(私の青春を打ち砕いた舗道に立ち上る熱)が素晴らしい。B面では、そのノイズが取り除かれた代わりに、女性の意味不明なボイス・サンプルが使用され、不協和音アンビエントの違ったバリエーションを提示している。


The Replacements - Tim (Let It Bleed Edition)
ミネアポリスが生んだ世界最高の負け犬バンドThe Replacements(通称MATS)のメジャーデビュー作であり最高傑作『Tim』のデラックス・エディション!今回の再発の目玉は、なんといってもTalking HeadsやRamonesを手掛けたプロデューサー/エンジニアEd Stasiumによる新しいミックスである。トミー・ラモーンことTommy Erdelyiが手掛けた85年のオリジナル・ミックスは、ボーカルやドラムに施されたデジタル・リヴァーブや各楽器の音が不鮮明にモノラルに埋没していたことから、バンドメンバーや一部のファンから長年失敗だと見なされてきた(僕は全然気にすることなく、リプレイスメンツさいこう最高サイコー!と聴いていたのだが…)。今回の新たなミックスでは、オリジナル・マスター・テープからオミットされていた音源なども追加され、Bob Stinsonのギター、Tommy Stinsonのベース、Chris Marsのドラム、どれもが鮮明に蘇っている。特に『Tim』発表後、精神不調からバンドを脱退し95年に早逝してしまうBobのリード・ギターは今までにない輝きを放っており、古いミックスに慣れている者にも驚きを与えるだろう。未発表を含むAlex Chilton(彼はバンドにとっての指標である)プロデュースのセッション音源、86年のコンサート録音など追加マテリアルも充実。14年に亡くなったErdelyiによるオリジナル・ミックスも新たにリマスターされている。当時『Tim』はそれなりの成功を収めたものの、ただスピーカーを延々と映し続けるアンチMTVなミュージック・ビデオや、泥酔状態でサタデー・ナイト・ライブに出演して出禁処分を食らうなど、彼ら自身のアンビバレントな振る舞いによって、本来到達できたはずのスタジアム・バンドの地位を得られなかったマッツだが、それが故にマッツのファンはどこまでもこのバンドを愛しているのである。前作『Let It Be』も次作『Pleased To Meet Me』ももちろん名盤!みんな今すぐ聴いてくれ!


Roper Williams - Infinite Victory Loop
ニュージャージーのプロデューサーRoper Williamsの最新作。ソウルやゴスペルをソースにした得意のローファイなサンプル・ループのセンスは今回も素晴らしい。Williamsのもとに集ったAKAI SOLO, Fatboi Sharif,  YL, Pootieなどおなじみの個性派MCのマイク・リレーも必聴!ベスト・トラックは渋グルーヴィーなホーンのループの上で4MCがマイクを繋ぐ"Palace"。


Sarah Mary Chadwick - Messages To God
ニュージーランド出身メルボルンを拠点に活動するシンガーソングライターSarah Mary Chadwickの8作目。これまでのキャリアを通して彼女が歌うのは、ひたすら悲しみや痛みについてであり、うちひしがれ、ときに怒り、歌の中で苦悶し続けている。前作『Me And Ennui Are Friends, Baby』においても、彼女のドラマチックで容赦のないボーカル・パフォーマンスは簡素なアレンジ(多くはピアノによる弾き語りが中心)を押し退けて、幾度も胸を衝いた。そのスタイルは初期Perfume Geniusを彷彿とさせるが、多少アレンジに広がりを持たせた本作でもその自罰的傾向は相変わらずだ。

"And sometimes I just wanna feel bad and drink wine all alone
(嫌な気分に浸って、ひとりでワインが飲みたくなることもあるし)
And sometimes I just wanna rehash every time I've been wronged
(許せない扱いを受けたこと全部を蒸し返したくなるし)
Sometimes I wanna clench my fists Leave red crescent moons in my palms
(手のひらに赤い三日月が残るくらい拳を握りしめたくなるし)
Sometimes I wanna relive the past and reflect on it's harm"
(昔を思い出して、その傷を確かめたくなる)
- "Sometimes I Just Wanna Feel Bad"

“Only bad memories last
(イヤな思い出だけが残って)
The nice one's fade so fast”
(良いのはあっという間に消えてしまう)
- “Only Bad Memories Last”

"I'm just trying to move my life Away from strife and into love
(争いから遠ざかって愛の中に飛び込もうとしている)
But I'm messed up I want the painful stuff"
(でも私はメチャクチャで、痛みを求めてしまう)
- “Someone Else's Baby”

こうしてChadwickは人生に常に悲しみを見出だし、歌うことで自らに呪いをかけ続けるのである。彼女がハッピーな歌を歌う日は来るのだろうか。とはいえ本当に好きなシンガーです。


Sparklehorse - Bird Machine
Mark Linkousがライフルで自分の胸を撃ち抜いたのは2010年3月6日(彼と親交の深かった車椅子のシンガーソングライターVic Chesnuttがオーバードーズで死んでから3ヶ月も経っていなかった)。死後13年を経て、彼の最後の作品がリリースされた。Steve Albiniのサポートを受けて録音が行われたのは2009年の秋頃とされている。その音源はMarkの弟Mattとその妻Melissa(二人はSparklehorseの一員として活動していた時期もある)に託された後、Markが残したホーム・レコーディングのアーカイブやメモ(次作のタイトルやトラックリストまで残されていた)を基に慎重にミックス・追加録音を施された(本作に収録されている全14曲のうちAlbiniとのセッションを基に完成されたものは9曲)。2015年にPitchforkが掲載したMarkについての素晴らしい評伝記事『The Sad and Beautiful World of Sparklehorse’s Mark Linkous』において、本作の不可能性が言及されていたことを考えれば、このリリースは奇跡的だろう。そして、それが紛れもなくSparklehorseのレコードとして聴こえるのなら尚更である。実際、このアルバムを聴いていると『Good Morning Spider』を、『It's a Wonderful Life』を、『Vivadixiesubmarinetransmissionplot』を思い出す。Linkousの詞には幽霊のモチーフが多く登場するが、彼の死以降には彼の声そのものが霊感を帯び、聴く者を捉えている。"Oh, where were you, my kind ghosts, When I needed you?"("Kind Ghosts")という残された者の問いかけは、むしろ僕等の発する嘆きであり、本作はそれに対する応答として届けられたように思えるのだ。


Umeko Ando - Upopo Sanke
アイヌの音楽家・安東ウメ子の遺作『ウポポ・サンケ』が、前作にあたる『イフンケ』に続いてドイツのレーベルPingipungよりアナログ・リイシュー。これ普通に素晴らしいフォーク・グルーヴ。本作をプロデュースしたトンコリ奏者OKI氏は昨年イギリスのレーベルからコンピレーション『Tonkori in the moonlight』をリリースしており、そこにも安東との楽曲が収録されている。先住民族つながりでいうと、台湾のブヌン族とECMからのリリースでおなじみのチェロ奏者David Darlingがコラボレーションした『Mudanin Kata』も長年の愛聴盤である。こちらもアナログ化希望!


Weston Olencki / Anna Webber - Several
前述のMadison Greenstone『Resonance Studies in Ecstatic Consciousness』でミックス及びマスタリングも担当しているベルリン在住のエンジニア兼超絶トロンボーン奏者Weston Olenckiとブルックリン在住のサックス&フルート奏者Anna Webberによるデュオ作。"cooks (unlimited)"に顕著だが、楽器で鳴らすことができる様々な音を活用してテキスチャーを追求するアヴァンギャルド・インプロ。


Whitney K - Vivi!
21年の『Two Years』、昨年の『Hard To Be A God』とMaple Death Recordsから愛らしいヴィンテージ・ロック・アルバムをリリースしてきたカナダの由緒正しいロックンロール信奉者Whitney Kのライブ・アルバム。ヴェルヴェッツ~モダン・ラヴァーズ~NYパンク~フィーリーズ、あるいはレナード・コーエンも連想させる。名曲"Song For A Friend"のエレクトリック・アレンジが熱い。


yeule - softscars
2年前、『Serotonin II』のREMIX EP『Serotonin X』リリースタイミングでMetal Magazineに掲載されたインタビューの冒頭で"My name is Nat Ćmiel, I like to be perceived as non-binary or not perceived physically at all. Sometimes, I like existing just as a concept or an enigma."と語っているように、Ćmielがオンライン上で繰り広げるセルフ・プロデュースは常にボディ・ホラー的で草薙素子的なイメージ(最近のメイクは深海魚を意識しているらしい)を伴っている。ジェンダー・アイデンティティの不安や摂食障害などがもたらした肉体そのものに対する忌避と、ダナ・ハラウェイの有名な『サイボーグ宣言』に則った自身のサイボーグ化との関連をインタビューなどでも仄めかしているが(Ćmielはロンドンの大学でポスト・ヒューマンの分野を研究していたという)、本作はそうした"肉体を持っ(てしまっ)たサイボーグ"としてのユニークな独白に満ちている。
"You're never alone. I'm inside your phone", "Call me a sicko or psycho, A.I. or friend." - "software update"
"Don't you feel so pure When you don't have a body anymore?" - "​bloodbunny"
"Android blood tastes, oh, so sweet. I love to play, play, play pretend. Human body, human friends." - "cyber meat"
サウンド的にはiPod Shuffleで聴いていたというスマパンやピクシーズといった90年代オルタナやアヴリル・ラヴィーン、マイ・ケミカル・ロマンスといった(当時はダサいと思っていた)00年代ポップ・パンクからの影響を冗談めかして語っている。岩井俊二『花とアリス』のサウンドトラック曲"fish in the pool"をカバーしていることからも、デジタル・ネイティブ世代の00年代ノスタルジア感覚が伝わってくる。ちなみにĆmielの腕には伊藤潤二の富江や丸尾末広のみどりちゃん、戸川純のタトゥーが入っているらしい。僕も村田藤吉(画・根本敬)のタトゥーとか入れようかな。


Zoltan Fecso - Other Air
メルボルンのアンビエント作家Zoltan Fecsoが地元レーベルOxtail Recordingsからリリースしたカセット作。フィールド・レコーディングとエレクトロニクスをシームレスに融合させた素晴らしいネイチャー・アンビエント。

zzzahara - Tender
Idris Vicuña(Eyedress)とのユニットSimps、Stones ThrowのエンジニアCollin Davisとのポストパンク・ユニットU.S. Velvetでも活動する、フィリピンとメキシコをルーツに持つクィア・シンガーソングライターzzzaharaことZahara Jaimeのソロ2ndがロンドンのLexから。80s ニューウェーヴ/ネオ・サイケデリア~ジャングリー・ポップ然としたギターリフ&高いテンションをキープするドラム(マシン)のリズム、フックの聴いたボーカルがグルグル回転してなんだか癖になる。"I don't know how to love"と繰り返すリード・シングル"idk how to luv"が特にお気に入り。Jaimeがゴスメイクで登場するMVも大変良いです。


さて、今月はPocopen(ex-さかな)と麓健一の対バンライブを観に行ったし、先日もHovvdyの来日公演を観に行ったりした。そのオープニング・アクトが青葉市子だったのだが、よく彼女のライブに行っていた高校生のとき以来12年ぶりくらいに生で演奏する姿を観たのでなんだか懐かしかった。前者のイベント「ポコペンとフモケン」のオープニング・アクトとしてバンド編成で演奏をしていた宅録アーティストShinnosuke Sugataも良い発見であった。1曲目に歌っていた「竹林君」が登場する曲が忘れがたい。柴田聡子の名曲『ゆべし先輩』以来の「それ誰」案件である。詳細をご存じの方はご連絡ください。

最近読んだ元気が出る本
トム・ルッソ『働かない 「怠けもの」と呼ばれた人たち』(青土社)
木庭顕『誰のために法は生まれた』(朝日出版社)

それではまた来世!