NEW MUSIC TROLL - MAY

 

Abdur Razzaq & Rafiyq - Night Of Power (Laylatu'l Qadri)
オリジナル盤はウン十万クラスであろう1983年のオブスキュアな宅録スピリチュアル・ジャズ作品がカナダのSéance Centreから再発。4月編で取り上げたJoshua Abrams率いるNatural Information Societyの新譜でもドラムマシンがさりげなく活躍していたが、エレピ+ミニモーグ+スポークン・ワーズというシンプルな編成の本作では、より一層独特なムードを印象付ける。


Ben Vida w/ Yarn/Wire and Nina Dante - The Beat My Head Hit
Joshua Abramsと共にTown And Countryで活動していたBen Vida、NYのピアノ&パーカッション・カルテットYarn/WireのRussell GreenbergとLaura Barger、室内楽奏者・歌手Nina Danteによるモダン・クラシカル作品。シンプルなピアノの旋律と4者のユニゾンによる"メタ・ボイス"のミニマルなアンサンブルが非常に耳心地良い。静謐なボーカル・アンビエント。Shelter Pressから。


Bill Orcutt - The Anxiety of Symmetry
4月編でアコースティック作品『Jump On It』を取り上げた前衛ギタリストBill Orcuttが早くも新作をリリース。といっても、ギター・アルバムではない。2020年の『PURE GENIUS』、2021年の『A MECHANICAL JOEY』に連なる、数字をカウントする声のサンプリング&ループによる"counting album"の第3弾だ。執拗に機械信号的なリズムを突き詰めた前2作ももちろん傑作ではあったが、今回はそこにハーモニーが加わっており、また新たなリスニング体験をさせてくれる。最高です。


Billy Woods x Kenny Segal - Maps
NYCアンダーグラウンドHIP HOPを牽引するBackwoodz Studiozのボスbilly woodsの2023年最新作は、2019年の傑作『Hiding Places』以来となるKenny Segalとのタッグ。Future IslandsのVo. Samuel T. Herringが参加したジャジーな先行シングル"FaceTime"やダブル・ベースが唸る"Blue Smoke"、温かなギターのフレーズを基調にした"Softlanding"や"NYC Tapwater"など、21年発表のグッド・ヴァイブスなビートテープ『INDOORS』で聴かれたようなSegalらしいビートはもちろんお気に入り。はたまたAphex Twinをサンプルした"Babylon by Bus"やIDMなアンビエント系ビートの"Baby Steps"なども良い。woods自身が"post-pandemic album"と説明するように、リリックにはツアー・ミュージシャンとしての旅の経験が直に反映されている。「サウンドチェックはしない。楽屋は明るすぎるから使わない。」("Soundcheck")、「Uberに300ドルかかった」("Baby Steps")といった実際的な愚痴や、社会や自分自身に関する洞察がアイロニーとユーモアたっぷりに開陳されていくが、旅を終えてやっとこさホームに帰ってくるラスト2曲がまた素晴らしい。愛猫を膝に抱き、お香を焚いてリラックスしながら、ふと「このすべてが本当に必要なのだろうか」と自問し("NYC Tapwater")、ジャングルジムで遊ぶ我が子の姿をみて、自分があとどのくらい生きられるのだろうかと考える("As The Crow Flies")。ロード・ムービーの静謐なエンディング。Backwoodz Studiozの20年の歩みをまとめたPitchforkの記事が勉強になりました。


bod [包家巷] - Music for Film01
Year001でのリリースもある、ベルリン在住のチャイニーズ・アメリカンbodことNicholas Zhuが、カルチャーブログ/メール・マガジン"angelicism01 滲み出るエロス(@is_this_are)"による実験ドキュメンタリー(?)映画『Film01』別名『i love you so much forever for one last time』のために書き下ろしたアンビエント・サウンドトラック。そのangelicism01 滲み出るエロスについてはよくわかっていないのだが、インターネット・ミームのデータベースKnow Your Memeによれば、Anti-Trumpをきっかけに登場したオルタナ左翼的な何某であろうと思われる。YouTubeチャンネルにアップロードされている映像作品としては『VIBE SHIFT (2021)』。昨年にもbodとのコラボレーション『Music Made by Other People』が公開されている。全21曲の同名アルバムはこちら。映画も気にはなるが、ひとまず非常に好みのアンビエント・ミュージックであります。


Brent Cordero, Peter Kerlin - A Sublime Madness
テキサスのフリー・ジャズ・レーベルAstral Spiritsより、Sacred Bones所属のサイケ・バンドPsychic IllsのキーボーディストBrent Corderoとアヴァン・ジャズ・カルテットSunwatchersのベーシストPeter Kerlinによるコラボレーション作品。Cass McCombsやSteve Gunn, Manata Roberts, Mette Rasmussen(1月編で参加作品『Crying In Space』を取り上げた)などと共演してきたロック~ジャズを横断するマルチなドラマーRyan Sawyerもメインで参加。Yo La TengoやDavid Grubbsのアルバムにも参加しているベテラン・サックス&フルート奏者Daniel Carter、今年Anti-からリーダー作品をリリースしたJames Brandon Lewis、Anthony Braxton SeptetのヴァイオリニストJessica Pavoneらをゲストに、ブラック・アクティヴィズムへのトリビュートを含むスピリチュアル・ジャズ全5曲。


Califone - Villagers
Red Red Meat, Ugly CasanovaのTim Rutili率いるエクスペリメンタル・フォーク・グループCalifoneの最新作。Califoneはいつでも素晴らしいので全作聴いてほしいんだが、今作で特筆しておきたいのはLAのシンガーソングライターMax Knouseが全面参加している点だ。シカゴ音響とも関わりの深いサポート・ギタリストMichael Krassner(Boxhead Ensemble)がRutiliに紹介したのだという。彼のソロ作品も素晴らしいので聴いてみてくれよな。過去に"Karen Black forgets the words"と歌ったRutiliが”skunkish"においてロバート・アルトマン『ギャンブラー(McCabe and Mrs. Miller)』に言及するのは至って自然に思えるが、Aquarium Drunkardでのインタビューでは、『The Naked』や『脱出おひとり島』といったTVのリアリティーショーにも影響を受けたと冗談半分に語っていた。本当かよ。


Canaan Amber - CA
Dusterのオリジナル・メンバーCanaan Amberがバンド活動休止中の2010年にリリースしていた5曲入りソロEPがデモ等追加で再リリース。インスト曲も多いが、Dusterが湛えるSadなかんじがスコッと抜けたようなファジー・ポップ集。関係ないけど、YouTube上にはDusterのギター・チュートリアル動画やカバー動画が数多く存在していることを知った。中には15万くらい再生されているものもあり、ここ1~2年で公開されているものもかなり多い。僕レコード店勤務なんですが、たしかにDuster関連は入荷すれば意外なほど売れていく。こういった再発見は非常に喜ばしいことです。


Chuck Strangers - The Boys and Girls EP
Joey Bada$$率いるPro Era所属のプロデューサー/ラッパーChuck Strangersの10曲入り新作EP。Pink Siifu, Fly Anakin, MIKE, YUNGMORPHEUSなどのリリースをしてきたLex Recordsから。18年の『Consumers Park』と聴き比べると、なるほど彼のモードの変化がよくわかる。Pink Siifu & Fly Anakin, Navy Blueがfeat.参加。


Cisco Swank - More Better
Luke TitusとのコラボEP『Some Things Take Time』で名をあげたブルックリンのシンガー/プロデューサー/マルチ奏者Cisco SwankことFrancisco Hayeのソロ・デビュー作。いかにもグラスパー以降のネオソウル/ヒップホップといったかんじ。ジャズ・トランぺッターAmbrose Akinmusire参加の"You"とか素晴らしいす。


Dean Johnson - Nothing for Me Please
シアトルのローカル・シーンで活躍してきたというフォーク・シンガーDean Johnsonのデビュー作。2021年に公開された"True Love"のパフォーマンス動画は15万回も再生されているし、アメリカーナ・ファンの間ではすでに名の知れた存在だったのかもしれない。アルバム自体は2018年に録音されており、5年越しのリリースということになる。素朴で美しいラブソング・バラード集。


Death Trap - Televisions
2022年にセルフ・リリースされていたアルバムが、おなじみミズーリのミッドウェスト・エモ専門レーベルHoneysuckleから正式リリース。何の変哲もないベッドルーム・ローファイ・サッド・ボーイ・ロックといってしまえばその通りなのだが、何の変哲もないベッドルーム・ローファイ・サッド・ボーイ・ロック好きだろうが。bedbugyour arms are my cocoonDead Sullivanが好きでたまらないそこの君!そう、君だよ君、君は聴いてくれ。


Diego Caicedo - Ascendit In Inferno
コロンビア出身バルセロナ在住の実験ギタリストDiego Caicedoが同じくバルセロナの新興レーベルSchool of the Artsからリリースした作品。アコースティック・ギターによる不協和音の即興演奏とエレキ・ギターによる灰野敬二みたいなバイオレント・ノイズが交互に襲来する全6曲。


ELWD - MONOCHROME
UKのビートメーカーELWDが多数のMCをゲストに迎えて制作したラップ・アルバム。VRITRA, YUNGMORPHEUS, AKAI SOLO, ObijuanArchibald Slim, NAPPYNAPPA (model home)といった名の知れたメンバーが集合。NYCアンダーグラウンド感たっぷりのアブストラクト・ヒップホップ。


Everyone Asked About You - Let's Be Enemies
90年代後半に短期間活動したアーカンソーの4ピース・バンドEveryone Asked About Youの編集盤が、エモの掘り起こしに力を注ぐNumero Groupより再リリース。まあCap'n Jazz直系のミッドウェスト・エモなのだが、男女混声というのがやっぱり強い。エモ・マナーに沿った男声とは対照的に、なんだか超然としてTweeなムードすら醸す女性ボーカルが良い。


Fog Lake - midnight society
カナダのベッドルーム・ローファイ・プロジェクトFog Lakeのセルフ・リリース新作。10年代の宅録インディー・シーンを牽引したOrchid Tapesに登場したころと何も変わらず、未だに"did i waste your time like i wasted mine?"とか、そんなようなこと歌ってて大丈夫か?と思わないこともないんだが、いやいや人はなかなか変われるものではないですよ(切実)。やっぱり僕はこういう音楽に幾分か心を救われる。


GLAAS - Cruel Heart, Cold Summer
UKのパンク・レーベルStatic Shockより、昨年の1st LPに続いてベルリンのアナーコ・パンクスGLAASが4曲EPをリリース。クレジットをよくよく見ると、ちゃっかりギタリストが変わっているが。アダルトなサックスの音色が響き渡る、ダウンテンポでドープなタイトル曲はNo Trendをも彷彿とさせる。


Greg Mendez - Greg Mendez
2006年頃からMyspace上で曲を公開するなどDIYに活動してきたフィラデルフィアのシンガーソングライターGreg Mendezのセルフ・タイトル作。10代からオピオイド中毒に苦しみ、グラフィック・デザイナーを目指して大学に進学したものの奨学金を使い果たしてドロップ・アウト。就職もうまくいかず、3~4年間ほとんどホームレスのような状態でヘロイン、コカイン、アルコール漬けのボロボロな生活をしていたのだという。NYでの更生生活中に作られた2分足らずのポップ・ソング"Maria"は、自分の過去を他人に語ることの不安と、ふと襲ってくる薬物依存の悪魔的囁きを歌った、アルバム中でも傑出した楽曲だ。Phil Elverum(The Microphones)やElliott Smith、初期The Mountain Goatsからの影響は強そう。


Hannah Jadagu - Aperture
iPhone7で録音した21年のEPでSub Popからデビューした宅録SSW、Hannah Jadaguの1stフル。Soccer MommyやBeabadoobeeを連想するベッドルーム・オルタナを基調にしつつも、"Admit it"や本作のハイライト"Warning Sign"でのインディーR&B的アプローチが素晴らしい。


Horse Jumper of Love - Heartbreak Rules
ボストンの3人組スロウコア・バンド。昨年のアルバム『Natural Part』から1年足らずで新曲8曲を含む新作をリリース。といっても、これらはフロントマンDimitri GiannopoulosとエンジニアのBradford Kriegerの2人が、5日間の山籠もりキャンプ中にカジュアルに録音した楽曲たちである。Giannopoulosのソング・ライティングは相変わらず素晴らしいが、本編ラストの"Singing by the Sink"や、前作収録の名曲"I Poured Sugar in Your Shoes"の弾き語りver、The Smashing Pumpkins "Luna"のカバーといったエクストラ・トラックにはパンデミック下における開放的な雰囲気が特に感じられて良い。


Jam City - Jam City Presents EFM
クラバーの間では2012年のデビュー作『Classical Curves』がガラージの名盤として名高いUKのプロデューサーJam Cityの最新作。クラブ音楽がよくわからない私は、2018年に今は亡き反体制音楽ブログTiny Mix TapesがSoundcloud上のMIX『EARTHLY 000』を取り上げていて知ったクチで、20年の『Pillowland』もアシッド&ドリーミーなエレクトロ/ディスコ・ポップとして気に入っていたわけなのだが、本作もその甘いポップ路線。M3. "Do It"は巨乳ポルノ界の大家ラス・メイヤー監督の歴史的名作『ファスター・プシィキャット・キル・キル』のトゥラ・サターナのセリフ"I Never Try Anything. I Just Do It."を引用した大変クールな楽曲となっている。


Jay Worthy & Roc Marciano - Nothing Bigger Than the Program
NYアンダーグラウンドのレジェンドRoc Marcianoとバンクーバー出身のMC Jay Worthyのジョイント作。MarciはMCとしても抜群だが、やはりビートメーカーとしても傑出した存在であることを確認。


Joni Void - Everyday Is The Song
カナダのサウンド・コラージュ・アーティストJoni Voidの最新3rd。既存曲のサンプルや、ウォークマンで録った音素材の断片をベースに、それらをモンタージュして作り上げられた私的サウンド・アート作品。牧歌的な都市の風景が脳内に捏造されるような、恍惚としたリスニング体験であった。素晴らしい。M4. "Non-Locality"では山本精一 & Phewの"幸福のすみか"(主に精一のギター)を、M7. "In-Between Moments"では実験映画作家マヤ・デレンのスピーチをサンプリングするなど、クレジットを眺めるだけでも興味を惹かれる。ちなみにアートワークは湯浅政明!


Jozef Dumoulin - This Body, This Life
ベルギーのジャズ・ピアニストJozef Dumoulinが仏実験レーベルCartonからリリースした新作。フェンダー・ローズの即興演奏を軸に、シンセサイザーやエレクトロニクス、マシン・ビート、ボイス・サンプル、ノイズ、フィールド録音等を取り入れたエクスペリメンタル・ジャズ。たまたまCartonのBandcampページをフォローしていて初めて知った人だったが、2016年には灰野敬二との共演作品もあった。


k2dj - stay inside
アンビエント作家Ben Bondyの変名プロジェクト。more eaze参加の1曲目だけが例外的で、残りの5曲はBondyのアンビエント・トラックに、強力にオートチューン加工されたような曖昧なボーカルが乗せられる。アコースティック・ギターの優しいフレーズがループする6曲目"Starty"では、不明瞭だったボーカルの輪郭がいよいよあらわになる。これがBondyの声なのか、誰の声なのかはわからないが、この最後の曲がすごく良いのだ。claire rousay + more eaze『an afternoon whine』やkatie deyの初期作品なんかが好きだった方には是非聴いていただきたいと思います。


Klamm & Pelikán - Metal
Jan KlammとPatrik Pelikánからなるプラハの即興ノイズ・ユニットKlamm & Pelikánが地元の実験レーベルStoned To Deathからリリースしたライブ録音作品。Klammが設立したレーベルKLaNGundKRaCHを拠点に、2008年ごろからノイズ・グループRUiNUとしても活動してきたという両者。ギター、アルト・サックス、テープ・ループ、加工ボーカル等による細切れのノイズがひっきりなしに迫り来る、お耳の恋人的アルバムです!


Ky - Power Is The Pharmacy
モントリオールのアンダーグラウンド・シーンで活動するミュージシャンKy Brooks(ex-Lungbutter)のソロ作品。4人で行われたシンセ、エレクトロニクスの即興セッションを元に、総勢10名以上のミュージシャンが主にリモートでそこに肉付けを施し、Ky自身が"10000000万年"かけてミックスしたという、本人曰くコラージュに近いプロセスで制作されたアルバム。共犯者の中には、エクストリーム・メタル・バンドBIG|BRAVEのギタリストMathieu Ballや、『Glass Gallery』(2021)が素晴らしかったアンビエント・シンセ奏者Nick Schofield等、馴染みのある名前も見受けられる。ニューエイジ・アンビエント、コールド・ウェーブ、スラッジ・メタル、ノイズ、Diamanda Galasなどの要素が複雑に絡み合い、たしかにジャンル不確定なコラージュ感があり、刺激的だ。Schofieldの浮遊するモーグシンセとオートチューン・ボーカルを中心に比較的シンプルに構成されるM2. "All The Sad And Loving People"は2021年に亡くなったLungbutterのドラマーJoni Sadlerに捧げられている。


Laptop Funeral - something blue
ブルックリンのDIYアーティストLaptop Funeralが、自動車事故によるPTSDの治療過程で制作した自己セラピー的なベッドルーム・ポップ集。事故からの立ち直りアルバムといえば、Man ForeverことドラマーJohn Colpittsの2022年作品『Music from the Accident』が思い出されるのだが、まあそれは置いておいて、音楽的に連想したのはシカゴのインディー・フォーク・レーベルOrindalから2021年にリリースされたタトゥー・アーティストJill Whitの『time is being』だ。全体にアンビエントなムードが漂っている。


Loraine James - 2013-2015
昨年はJulius Eastmanオマージュの『Building Something Beautiful For Me』、Whatever The Weather名義でのアンビエント/IDM作のリリース、そして初来日と、話題が絶えなかったLoraine James。すでに9月リリースの新作『Gentle Confrontation』がアナウンスされているが、それに先駆けというか、たぶん気まぐれに、2013年~15年に制作された初期音源集がBandcampで数日間フリーで公開されていたのだった。もちろん僕はすかさずダウンロードしたわけなのだが、ページ削除後、誰かがYouTubeにまるっとアップロードしておりました(James本人も気がついて「見逃していた方はこちらでどうぞ」的なツイートをしていた)。ハイライトはやはりラストのビヨンセRemixだろう。聴き逃した方、どうぞ!


Lucy Liyou - Dog Dreams (개꿈)
サンフランシスコ在住コリアン・アメリカンのアーティストLucy Liyouの新作がシカゴの実験レーベルAmerican Dreamsより。同レーベルはLiyouの20年作『Welfare』と21年作『Practice』を合わせた2LPの編集盤『Welfare / Practice』のリリースも行っている。これまでのLiyouのサウンドといえば、ピアノとシンセ・アンビエント、フィールド・レコーディング、ASMR的な声の使用、そして中心にはテキスト/詩を読み上げる機械音声があったのだが、今作では自らの歌声にフォーカスをし、カタルシスをすら託している。歌うことについて、Liyouはインタビューで、その瞬間への即時的な反応として歌わなければならない/歌いたいと感じたら歌う、と話していた。それが“Please don't let me go.”(“Fold The Horse”)という言葉の地点で起こったということなのか。Romanceがそれを対象化しながら追究するロマン主義を、自身の身体やジェンダー・アイデンティティ、瞬間瞬間の潜在的な心の動きに即して表現しているようでもある。2曲目“April in Paris”の終盤Liyouは“I can be everything. A son, A daughter, Spring.” と語る。本当に美しい作品だと思います。

mHz - Proof Of Identity
イラン出身のサウンド・アーティストmHZことMo H. Zareeiの新作テープ。TVやラジオで流れていた「伝統的なイラン音楽」をサンプルに再構成されたパターン・ベースのエレクトロニック作品。"身元証明"というタイトルと、本人のステートメントが興味深い。「パフォーマティブなリベラリズム」が「恩着せがましいパターナリズムによって他者性をエキゾチックなもの」にし、「過度な"多様性と包括"」の元に「排他的行為」が為される場合があり、「脱植民地化自体が植民地化されてきた」のだという。なかなか難しいが、「リベラルのパターナリズム」は、なんか分かるよ!その上で本作では、彼自身「影響を受けたとも興味深いとも感じたことがない」オリエンタルな音楽を分解・再構築し、聴者の西洋的なバイアスを攪乱する。


Midwife & Vyva Melinkolya - Orbweaving
MidwifeVyva Melinkolya、2組のシューゲイズ・アクトによる納得のコラボレーション作。2019年に知り合った二人はすぐさま意気投合。毎週オンラインで通話するほど親密な関係になり、Midwifeの前作『Luminol』でのコラボレーションを経て、ニューメキシコの砂漠にある彼女の自宅兼スタジオで共にセッションをしながら本作を作りあげていった。レコーディングの合間、二人は蛇や蜘蛛をさがして一緒に夜の砂漠を歩き、自然から多くのインスピレーションを得たのだという。このコラボレーションがいかに自然に育まれていったかがよくわかる、とても良いエピソード。


Miss Espana - Niebla Mental
マドリードの女性三人組。UKパンク・レーベルLA VIDA ES UN MUSからのデビュー作。ポストパンクを基調にベースとドラムでシンプルに進行しながら、ストレンジなシンセの音がハイテンションなアクセントを加えるシンセ・パンク。スペイン語で歌われる歌詞は攻撃的で、例えば“Lirio Blanco”(=白いユリ)では「ユリを摘まないでください 私の白いユリ 今、それは壊れたユリです 今、私はあなたを殺しに行きます」(もちろんGoogle翻訳)と歌われる。次の“Daga de Dama”(=女のダガー)では、狂気のレディ・ダガーで「あなた」の肉を簡単に突き刺せる、と宣告する。ヒステリックで退廃的な怒りのパンク!


Moni Jitchell - Unreal
グラスゴーの2人組ノイズコア・バンド、1stフル。身も蓋もないことを言えば、バンド名が素晴らしい。かつてRUN DMTとかいうふざけた名前のアーティスト(現Drugdealer)が"SPRUCE BRINGSTEEN"とかいうふざけた曲(いい曲)を歌っていたことがあったが、僕はこういう類の言葉遊びが大好き。古くは「ジャイケル・マクソン」「モリリン・マンロー」「けつだいらまん(松平健)」「しりもんいち(森進一)」、近年では「ゴツゴツのアハン!」とかも含まれるんだろうけど、やっぱり人名で遊ぶのが一番おもしろい。で、Moni Jitchellは、ボーカル/ドラム+12弦ギターというバンドとしては最小限の編成(ライブはドラムセットなしのようだ)。プレスの言葉を引用すれば、"Twelve strings. Two amps. Two people. One mic."。そこから生みだされるカオティックなノイズ・ロック/マスコア・サウンド。かっこいいです。


P.E. - NOPE Tapes Vol. 2
2月編で取り上げた『NOPE Tapes Vol. 1』の続編。今回も全編インプロビゼーションによるインダストリアル&トライバル・ノイズ。SuicideやThrobbing Gristleといった先達へのリスペクトが感じられます。

quinn - interstate 185
ジョージア在住、現在18歳のラッパー/プロデューサーquinn、今年2作目のミックステープ。僕が彼女の音楽を聴き始めたのは、彼女がいわゆる“hyperpop”シーンから退いて、ヒップホップにアプローチし始めた2021年の『drive-by lullabies』からである。その転換において、最も強くインスパイアされたと公言するのは、Slauson MaloneことJasper Marsalis、および彼がかつて所属していたNYのジャズ~ヒップホップ・コレクティブStanding On The Cornerの名盤『Red Burns』である。昨年のセルフタイトル作(傑作)は、Marsalisの助言を多く受けながら制作されたそうだ。で本作、いきなりイントロ(+アウトロでも)で吉田美奈子「扉の冬」をサンプリング。dj blackpowerdroppedmilkがこの曲をサンプリングしていたのも記憶に新しいが、やっぱりキャラメル・ママがすごいのか。本編は基本的にはUzi, Carti系のビート&フロウ。今年に入ってからの作品は、昨年までよりも現行のヒップホップ・シーンに接近しているような印象だ。まだ18歳、末恐ろしい。

Roger 3000 - Reste Envie
ブリュッセルのミュージシャンRoger 3000ことJulien Meertの1stフル。ヒプノティックなニューエイジ系フォークで、11曲中7曲はインスト。あとの4曲はフランス語で歌われている。これまでにも20年のEP『Fiftine』やLawrence le Douxとの共作シングル『Chou Chou』など、細々としたリリースがあるが、どれもすごく良い。可愛らしいアートワークは画家でもある彼自身が手掛けている。


Roxy Gordon - Crazy Horse Never Died
1945年生まれのアメリカの作家/詩人/マルチメディア・アーティスト/ネイティブ・アメリカン活動家/ミュージシャンRoxy Gordonの1988年作がParadise Of Bachelorsより再発。スポークン・スタイルのアウトサイダー・カントリーで非常にユニークなのだが、特に3曲目"Living Life as a Living Target"でのジョン・カーペンターのようなシンセの響きには虚を突かれる。そこでは、迫害されながらもサバイブする人間の生をプレーリー・ドッグのそれに例えながら称えている。ほかの曲でも、そういった収奪や暴力といったテーマが物語られる。PoBは今後もGordonの作品のリリースを計画しているようだ。余談だが、Gordonは僕の大好きなテキサスのフォークシンガーTownes Van Zandtと親しかったらしいです。


Ryan Pollie - The Fridge 2
1月編で取り上げました『The Fridge』の第2弾。今作も30分程度のエクスペリメンタル・フィルムのサウンドトラックを兼ねたライブ・アンビエント作品。映像も結構良いです。


Seán Barna - An Evening at Macri Park
ブルックリンにあるゲイバーMacri Parkを舞台に、クィア・コミュニティのナイト・ライフを物語るコンセプト・アルバム。曲を聴きながら、70年代のルー・リードを思い出すかもしれない。実際、"Sleeping with Strangers"では歌詞の中にルー・リードが登場する。"I think about Lou Reed and his album Berlin. And then I think about how Lou Reed treated His Trans girlfriend." 75年のアルバム『Coney Island Baby』に結実するリードとトランス女性の恋人レイチェル・ハンフリーズの関係は有名だが、ここでBarnaはリードの"クィアネス"を称揚するような言説に対する批判を念頭に、90年にエイズ病院で亡くなったハンフリーズに思いを馳せている。


Stuck - Freak Frequency
シカゴの4人組Stuckの2nd。マナーに沿ったポストパンクのグルーヴに乗せて、Qアノンの悲惨、不条理な社会システムへの皮肉交じりの怒り、愛することの恐ろしさといったテーマをエネルギッシュにぶちまけていく。ゆったりしたオープニングのリフから鮮やかに加速してギター、ボーカル、コーラスがユニゾンするクロージング・トラック"Do Not Reply"で大団円。最高です。


Symposium Musicum - Symposium Musicum
スロバキアの実験レーベルmappaより、国内のロマ人コミュニティで行われたフィールド・レコーディングを元に構築されたサウンド・コラージュ作品で、民族誌ドキュメンタリー×サウンド・アートの大胆な実践。M2 "Simultan Camps"では、M1 "Takt"から連続する現地の住民の話し声が、突如として不自然なノイズに覆われ、それまでの風景が映画的に激変する。その後、再び村の自然や人々の生活音にフォーカスしつつ、M6 "Attention"での激しいポリリズムが、子供たちが落ち葉で遊ぶ破裂音を記録したM7 "Kavka"に繋げられるなど、奇天烈なポスト・プロダクションがすごく面白い。傑作!


The Pigeons - Bird Brain Gang
鳩をメイン・テーマに据えたサイケデリック・ポストパンク・アルバムが爆誕。メンバーはラモーンズよろしく全員Pigeonという名字を名乗っているが、バンドの首謀者Phil PigeonはPhil MFU(サイケ・ポップ・バンドVanishing Twinのメンバー)であることが全然普通に明らかにされている。序盤のハイライト"Amanda Fielding"は、LSD研究者として有名なアマンダ・フィールディングの鳩との恋愛関係を、鳩ポッポ視点で歌ったラブソングだ。その後の"Pigeon Rock"では、60年代に始まったとされる鳩とロックン・ロールの関係が、サイケなシンセ・パンク・サウンドをバックに解説されている。まあ全部ジョークみたいなもんだが、鳥類が好きなそこのキミ(無)、間違いなく聴いてくれ。


The Split Bell Chime - The Split Bell Chime
Dean Spunt(No Age)が主催するレーベルPost Present Mediumより、WandおよびBehaviorのメンバーが結成した新バンドThe Split Bell Chimeのデビュー作。Wandのソフト・サイケとは打って変わって、The Dead Cを彷彿とさせるヘヴィな即興ノイズ・ロック全5曲。


Various Artists - Canto A Lo Divino
埋もれた良質なフォーク・ミュージックを発掘するMississippi Recordsより、チリに伝わる25弦ギタロンで奏でられる宗教民謡Canto A Lo Divinoをフィーチャーしたコンピレーションがリリース。25弦ギタロンという一風変わった楽器の持つ催眠的なムードと、農民たちのフォークロアな旋律に魅了される。


Wolf Eyes - Dreams In Splattered Lines
年初のコンピレーション『Difficult Messages』に続く、結成25周年を迎えたデトロイトのノイズ番長Wolf Eyesの新作。不安感を呼び起こす電子ノイズや自作楽器の粘ついた音色、撹乱するビートなどが蠢く2~3分の短い楽曲群。グロテスク&ホラーな悪夢のサウンドトラック。


今月は以上!東映映画『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』主題歌「りんどばーぐスペシャル」(荒木一郎ver.)でお別れです。R.I.P. 中島貞夫!